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世界中の人と友達になろう同盟!

作者: 天鳥そら

「俺は世界中の人と友達になるんだ。っていうか親友だから。世界中の人と親友だから」

小学生の男の子が友達相手に力説するのを耳にしました。

この言葉を聞いて生まれた物語です。


「長すぎないか?それに同盟じゃなくてクラブだろ?絶対ダメって言うよ」


僕が文句を言うと、友達の篠塚仁がきょとんとした。小学校も冬休みに入り、クラブにも入らず塾にも通っていない僕と篠塚は僕の家でこたつに入っていた。宿題をするはずが、いつの間にか新しく設立するクラブの相談会になっている。11月に入ったばかりの頃、先生が新しくボランティアクラブを設立すると言っていた。内容はまだ決めていないらしいけど、募金活動とか学校外での清掃活動とかするんだそうだ。友達の篠塚はすっかりその気になっていて、僕にも入れとずっと騒いでる。


「いいじゃないか。どうせなら、世界中の人と友達になれるような活動した方が良いに決まってるじゃないか」


頬を真っ赤にさせて力説する篠塚に僕はため息をついた。


(世界中の人と友達になんかなれるわけない)


やる気になっている篠塚に言う気はなかった。だけど自分まで巻き込まれるのはごめんだ。相談には乗るけどクラブには入らないと何度も断っていた。その日は騒ぐだけ騒いで宿題も進まぬままお開きになった。僕も篠塚も家でクリスマスパーティーを家族とする。その後は普段通りベッドに入って寝るだけだ。クリスマスイブだから、明日の朝には両親からのプレゼントが枕元に置いてあるはずだ。毎年お決まり、毎年恒例のイベントだった。


「世界中の人と友達になるって、サンタさんがいるかどうか議論するくらいバカバカしいよな」


クリスマスパーティーが終わってお風呂に入り、パジャマに着替えてベッドに入ると一人で笑った。ボランティアクラブの人数はそこそこ集まりそうだけど、先生が思うより集まりが悪いみたいだった。小学校高学年になると私立受験するやつも出てくるし、塾に習い事、忙しいのは大人だけじゃない。僕は別に忙しいわけじゃないけれど、クラブに入りたいとは思わない。何度も誘ってくれる篠塚には悪いけどさ。帰宅部が一番だ。

とりとめのないことを考えていると、自然にまぶたが重くなってくる。そう、自分が眠った頃を見計らって両親がプレゼントを置きに来るはずだ。サンタさん。いないのだから仕方ない。胸の奥がきゅっとと痛むのを無視して眠りの世界に足を踏み入れた。


真夜中の変な時間に目が覚めて居心地が悪かった。部屋の中がぼんやりと明るい。冷たい風が頬をなでて思わず飛び起きた。


「なんで、窓、開いてんだよ」


室内にひとつだけある窓が開き、重たいカーテンを揺らしていた。寒いじゃないかとベッドから出てきてカーディガンをはおる。窓のそばに行くと明らかにおかしい。窓が開いてるのも変だけど、外の様子がいつもと違う気がした。ちょっとした好奇心でカーテンをめくると、目の前には一面の銀世界が広がっていた。


「雪?いつの間に積もったわけ?」


遠くに雪をかぶった山々を見て背筋が寒くなった。


「ここどこ?」


僕の住む場所は閑静な住宅街とやらだ。親子で住む人たちが多くて、治安も良く暮らしやすいというのがウリのはずだ。決して大草原で暮らすような自然好きの人間が集まる町じゃない。


右を見ると何かがこちらに近づいてきた。大きな角をもった生き物が真っ赤なそりを引いている。


「そりの調子は良いようだね」


「はい。今夜も万事うまくいくでしょう」


そりの後ろに乗っていたのは赤い衣に身をまとい、白いひげを生やしたおじいさんだった。おじいさんは大きな角を生やした生き物の背をなでて、何かを言いつけるとどこかへ行ってしまった。大きな生き物はそりを引こうとして止まり僕の方へ顔を向けた。つぶらな黒い瞳に見つめられて思わずカーテンの陰に隠れた。一体全体どうなっているのか、ちっともわからなかった。


「おーい。そこの恥ずかしがり屋の子。男の子かい?女の子かい?」


からかうような声に僕はカッとなった。


「僕は女の子じゃない!男だ!勇気って立派な名前があるんだ」


窓をひとまたぎして雪の上に足をおろす。冷たさのあまり飛び上がるかと思ったけど、それほど冷たくなかった。頬をなでる風も冷たいけれど、凍りつくほどじゃない。雪が降って積もっていることを考えると不思議だった。ここは不思議の世界なのかもしれない。


「君は、トナカイだろう?サンタのそりを引く」


「いかにも」


胸を張って応えるトナカイに僕は笑った。走り寄って行くとトナカイは優しい目で僕を見降ろす。先ほどまでここにいたサンタとこのトナカイは一体何をしていたのだろう。


「他のトナカイはどうしたの?君が一人でそりを引くの?」


「そりの調子を見ただけだよ。他のトナカイも後でやって来てみんなでそりを引くのさ」


僕の言葉に丁寧に答えてくれるから嬉しくなった。トナカイが話すこと不思議と気にならなかった。そもそもここは僕の知ってる場所じゃないんだ。


「触っても良い?」


「良いよ」


僕はトナカイの背をなでた。サンタさんが撫でたようにゆっくり撫でる。あたたかくてやわらかい。生き物の感触にほうっと白い息が出る。


「すごい。僕、夢を見てるんだね」


「夢?」


首を傾げたトナカイに僕は笑う。


「だって、本当はサンタなんていないし、しゃべるトナカイもいないもの。空想の生き物だってわかってるんだ」


屈託ない僕の言葉に、トナカイを大きく体を振って大きく胸を張った。


「心外だな。私はこうしてここにいる。君の夢などでは断じてない!」


「ウソだ」


「ウソじゃないさ」


「ウソだよ。だって、毎年プレゼントが枕元にないよ?」


消え入るような僕の声の調子にトナカイがすっと頭を下げて、僕を慰めるように鼻づらで頭をこづく。


「それに、科学だって証明してるじゃないか」


「科学……」


トナカイは頭を上げて空を見ている、つられて見上げると満天の星空が広がっていた。


「君のいう科学は今の科学で全部かい?」


「え?」


トナカイが何を言おうとしているのかよくわからなかった。迷信だと言われていたことを科学は説明してきた。わかって嬉しかったこともあれば残念なこともある。移動は便利になったし海の底にもぐることもできるけど、人魚やドラゴンはいないことが分かってしまった。流れる星は隕石だし、月にウサギは住んじゃいない。


「科学が全て証明するというけれど、証明した先にまだまだ謎は残っているんじゃないのかい?それとも君のいう科学は、もう限界なのだろうか」


トナカイの言いたいことが何となくわかった。ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。


「うん。そうだね。科学はまだまだ解明する謎があると思う」


「その謎が解明された時、我々の世界を君たちは見つけることができるかもしれないな」


僕の頭の中に海の中を進む船が浮かんだ。何百年か前、アメリカ大陸を発見したコロンブス。科学という名の船に乗り新しい世界を拓くかもしれない。


「そうだね。そうだったら良いな」


僕がトナカイを見上げると優しい瞳でうなづいた。その瞳がボランティアクラブの名前を一生懸命考える篠塚の瞳と重なる。


「さて、私はそろそろ仕事があるから失礼するよ」


「世界中の子どもたちにプレゼントを配るの?」


「当り前さ」


僕の家には来るのと言いかけて口をつぐんだ。散々、サンタはいないと言っておいて来てほしいなどズルい気がした。


「こう言ってはなんだが、君の家にもいつも行ってるんだよ」


「でもプレゼントは……」


「ちゃんとあるよ」


トナカイは前を向いてゆっくりと走り始める。しばらくは雪の上を走っていたけど宙に浮き、ぐるりとまわって飛んで行ってしまった。僕はしばらくトナカイに行ってしまった方を眺めてから部屋に戻る。ベッドにもぐりこむとすぐにまぶたが重くなった。


目が覚めると枕元にプレゼントが置いてあった。両親からのプレゼントだ。


「やっぱり、夢じゃないか」


昨夜のトナカイとの会話を思い出してくすりと笑う。ちょっと悲しいけれど仕方がない。科学だってサンタの証明はできないに違いない。軽く頭を振ってベッドから降りようとすると、枕の陰から小さな小箱が転がり落ちた。僕の手の平におさまるサイズ。赤の包み紙に緑のリボン。金色の鈴がついていた。指先でそっと触れると、鈴が小さく震えて音を鳴らしリボンが勝手にほどけはじめた。


「え?え?何?」


するするほどけたリボンが宙を舞い、勝手に蝶々結びをしたと思ったら、緑色の美しい姿になってきらっと光ると消えていく。今度は赤い包み紙がカサカサ音をたて、やっぱりふわりと空中に宙返り。勝手にびりびり破れはじめて、粉雪のように細かくなってきらきら光っていく。残った小箱がぱっかーんと開いて中から天使が飛び出した。


白い翼に金色の輪っかをもつ天使が僕にふんわり笑う。鈴が震えて、りんりん、しゃんしゃん音が鳴る。天使が大きくはばたくと羽がはらはら落ちてきた。その羽が僕の頭の上に落ちてきて言葉が響く。


(愛、信頼、希望、勇気、友情、忍耐)


(君の進む先に幸あらんことを。メリークリスマス)


天使の羽がどんどんどん降ってくる。片手で振り払っていると、鈴がりーーーーーーんと大きく音をたてた。鈴の音が消えるのと羽がすうっと消えるのが同時だった。天使の姿はどこにもない。気がついてみれば、小箱もリボンも包み紙も鈴も消えている。


ゆめみたいだった。


ベッドの上でぼんやりしていると、篠塚の顔が浮かんだ。もしかしたら今日も家に来て、一緒にクラブ名を考えろと騒ぐかもしれない。僕はにやりと笑う。篠塚にこう言ってやるつもりだ。


「世界中の人間じゃなくてさ、世界中の生き物と友達になるならどうだ?それなら僕もクラブに入る」


どんな顔をするだろう。喜ぶだろうか。驚くだろうか。


だって、トナカイは人間じゃないもの。昨夜話したトナカイの赤い鼻を思い出して僕はベッドを飛び降りた。



読んでいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] サンタさんもトナカイもいるって考えたほうが幸せな気分になれますね。 楽しく読ませていただきました!
2023/06/30 20:59 退会済み
管理
[一言] 目に見えないからと言って、存在しないというわけではない。信じる心が何より大事だというのは、その通りだと思います。想像の余地のない世界は、きっとあまりにも無味乾燥であるに違いありません。 そ…
[一言] 本物のサンタさんからのプレゼントは、物ではなく、子供達の幸せな未来への祈りなのですね。 毎年同じものが全ての子供に配られるとして、今年は勇気君にもプレゼントを見れた理由は、トナカイさんと喋れ…
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