第八篇 アグザンフの最期
虚偽の鮫に追われた結果、ある部屋の前にたどり着きました。鮫が消えた後、フロールはその部屋のドアを見て不思議に思い、迷うこと無くドアを開けると、
「やっぱり、ここ知ってる。ここは……」
「左様、クリズン家のお屋敷で御座います」
突然、廊下にタキシードを着た男性が奥から現れました。
「Who are you?」
熊沢さんが、その男性に、"あなたは誰ですか"と聞くと、
「私は、クリズン家の元執事で、一応ですがこの町の長です。名は、ありません。ですが、フロールお嬢様に頂いた名前、クェーヴァーを今も尚、大切にしております」
「あっ、それは、昔飼ってた犬の名前で……」
フロールがボソッと言ったことが、熊沢さんには聞こえた。
「まぁ、いいじゃないですか」
と、熊沢さんは他人のことのように言いましたが……。
「……って、あれ? 執事さん、今クリズン家って……? 確か、フロール・クリズン……。えっ? えぇーー!? ってことは、ここに住まわれていたんですか!?」
変に敬語になった熊沢さんに、フロールは頷くだけだった。
嘗て、フロールがまだ産まれて間もない頃、この地、アグザンフは賑わっていました。しかし、ある事件以来、川を渡った東側に住民が大移動したのです。ある事件とは……
「……"アグザンフの最期"から、7年。ということは、フロールお嬢様に会うのは、7年ぶりになりますね」
クェーヴァーは、ハンカチで涙を拭う仕草をした。涙は出てないけど。
「アグザンフの最期って……?」
フロールが初めて聞く単語について聞くと、熊沢さんがカンニングペーパーを取り出して、語る。
「7年前、ルディシオンによって、ある1体の巨大な怪物、ディアモスが復活を果たしました。ディアモスはもともと、嘗ての帝国国王のルディシオンが極秘で造っていた生物化学兵器です。その起動装置を破壊し、封印した魔導師が呪われたんです。元々、魔術がコーティングされていたようで……。確証はありませんが、その起動装置の役割を果たそうとしているのが、呪詛石らしいんです」
「石なら、庭にありますよ」
クェーヴァーの発言に、少なくとも1人というより、1頭が硬直したことは言うまでもない……
場所を移動して、中庭なのだが……
「コレって、雪の中、探さなきゃいけないってことですか?」
熊沢さんは、執事に一応確認しましたが、
「石は、確か……、あの辺りですが……」
クェーヴァーが指差した先は、銀世界の真っ只中にうっすらと見えると言えば見え、見えないと言えば見えないギリギリのところに大きな石っぽいものがあるような……。見ているだけでも、寒さを感じ、意識が朦朧としそうです……。霜焼けになりそう……
「……魔法で何とかなりませんか?」
熊沢さんがフロールに聞くと、
「雪は止められないけど、大きな傘で屋根みたいにすることはできると思う……」
この時、熊沢さんはふと思いました。フロールの魔法を使えば、あの橋を楽々渡れたのではないかと。
「Repentance comes too late...」
後悔、先に立たず。
フロールが巨大な傘を出現させ、屋根の役割を果たしますが、積もった雪で移動が難しいです。
なんとか石に近づくと、4メートル以上はあるでしょうか。
「呪詛石……」
考える前に、熊沢さんはフロールにある呪文を伝えます。フロールがその呪文を唱えると、呪詛石が光を放ち、一瞬のうちに小さくなり、色形共に変わってしまいました。
「それが呪詛石、第2の姿"呪われた宝玉の首飾り"です」
熊沢はそこで台詞を止めました。忘却というよりも、知らないからです。それもそのはず。何故なら、殆どが兄から聞いたものでしたが、聞いたことは全て話してしまったから……。
「コレをどうするの?」
フロールの疑問に、熊沢さんは答えることができません。
「それ以上のことは、アンノーン、未だ知らずです……」
熊沢は頬を掻くのみ……
To be continued…
フロールの過去の暮らしぶりが明らかに。まさかのお嬢様でした。熊沢さんが、フロールのことを呼ぶとき、お嬢ちゃんって呼び方をしてましたが、間違いでは無かったようです。