第七篇 ホワイトシャーク
窓の外は一寸先も見えぬ暗闇。夜になったみたです。城内は、城と似合わず、発光ダイオードの電球で点されていました。
「あっ、鮫!」
フロールが窓の外を指差してそう叫んだため、熊沢さんは不審に思い、窓の外を見る前に
「お嬢ちゃん、鮫ですか? 鯉幟とかではなく? あっ、でも鯉幟にしてはunseasonal、季節外れですし……」
しかし、暗闇の豪雪の中、宙を優雅に游いでいるのは、季節外れの鯉幟ではなく、鮫です。
「これは、魂消ましたね……。どこから見ても、あれはシャークですね……」
一瞬、いや、数秒間目が合ったように感じ、
「なんか、嫌な予感がするんですけど……」
「鮫、こっちに来るね」
相対的な2人。慌てる熊沢さんと、天然のフロール。鮫がだんだんと城に迫ってきます。あのBGMが聞こえてきそうです。
「逃げたほうがいいのかな」
「そりゃ、逃走したほうが、身のためでしょ……」
久しぶりの逃走劇が始まる。 Run for the life.
鮫が窓を割り、巨大な体で壁も壊す! 鮫は推定でも、全長が10メートルはあるだろうか。デカすぎ。
「こんなことなら、バイクの修理してたらよかった……」
と、ぼやく熊沢さん。
「魔法でも、知らない構造のものは直せないよ」
フロールの言うとおり、知らないものは魔法を使ってもできないようです。
「自分で直せますよ……。はぁ~」
熊沢のバイクは玄関にほったらかしです。
「Repentance comes too late……. どうにかなりませんか? 後ろのジョーズ……」
と、熊沢さん。英文は、後悔先に立たず。
「でも、正体が解らないし……」
「鮫の正体ですか? あれは、マッコウ──」
「それは、鯨だよね?」
「ツッコミ、ありがとうございます」
この状況に似合わない会話と空気。でも、そんな事でもしないと、気が気じゃない。
「後ろのヤツをフカヒレにでもお願いします」
熊沢さんがオーダーしたが、フロールは
「キャビアの方がいいんじゃない?」
「あれ、蝶鮫の卵を持っていますかねぇ……?」
突き当たりを2人は右折して、階段で上の階へ。階段を上るのが辛い。フロールは、階段を上りきってすぐに後方を向き、呪文を唱える。鮫の下に魔方陣が発生した。
「キャビア♪ フカヒレ♪」
上機嫌な熊沢さん。しかし、鮫は忽然と消えてしまいました。
「あれ?」
どうやら、本物ではなかったようです。
「フカヒレ、どこへ行くー! キャビアよ、何故消えんとす……」
うるうる涙目の熊沢さんは、断ち切るしか術はなかった……。
「厳密には、過去形だよね?」
天然、フロールのツッコミは、どんな鋭利なものよりも心に深く刺さった。
ちなみに、"何故消えんとす"は、"どうして、消えようとするのだ"ということ。確かに、厳密には過去形にしないといけない。いや、問題はそこじゃないですよ。
To be continued…
フロールが、たまに天然なのか頭が良いのか分からないツッコミをしますね。
第四篇の後書きに書いたとおり、受験シーズンネタに含有されるのかな。