第三十九篇 そして……
「2人を見送ってすぐで悪いんだが……。龍をどうするか決めないと」
シェイは暴れなくなった龍をどうするか聞いた。
「どうするも何も、本来は」
熊沢が言う前にシェイが
「そうなんだよ。龍が暴れていたから、倒そうとしたんだが……。今は落ち着いているんだよな。多分、内部の変化が原因だろうな」
拍子抜けしたかもしれない。ただ、街は何ヵ所か荒らされているものの、今の龍に責任はない。
「推測でしかないけど、フロールの言う結界を壊したことで、キメラも消滅したってことだろうな」
とシェイは考える。
「ねぇ? この龍と友達になってもいいかな?」
フロールが突然そんなことを言いはじめた。
「そんな大きな龍を……」
シェイは呆れたように言うが、最後まで言いきらなかった。そんなフロールを見て、熊沢があやふやな質問をする。
「イオ君、あの龍ってどうすれば?」
「正直、どうすることもできないっていうのが正しい答えかもしれませんが、あの子なら、龍を救えるかもしれません」
イオはフロールのもとへ行き、封石を託す。
「この龍にはまだ記憶がありません。いわば、赤ん坊です。龍を友達とするなら、この封石を龍に近づけてみてください」
シェイはそれを聞いて、自分の持っていた呪詛石をフロールに渡す。
「俺が持ってる呪詛石はもう魔力が無い。でも、何かの力にはなるかもしれない……。一応、フロールの付けてる首飾りが呪詛石の効果を打ち消すから、心配するな」
フロールは2つの石を持ち、龍に近づく。すると、石が光ってペンダントとなった。
「それ、大きさ的に大丈夫なんですか?」
熊沢の余計な一言。シェイは熊沢を睨み付けた。
「今日から友達だよ」
フロールが龍に触れると、ペンダントがまた光って、龍も光となり姿が変わる。眩しさに、目を閉じて開いたときには、小さな可愛らしい龍がペンダントをつけて、そこにいた。大きさは60センチといったところか。愛くるしい姿となった。
その可愛らしい姿となった龍に、フロールは
「よろしくね、レドラン」
一同、フロールが聞き捨てならないことを言ったような気がした。
「えっと、その子の名前ですか?」
熊沢が確認をすると、フロールは
「うん! 国王様と龍でレドラン」
「ペットじゃないんだけどね……」
イオも困惑。シェイは冷静に
「まぁ、名前よりもこれからそのミニドラゴンと友達で居続けることを約束しておく方がいいな」
「うん! レドラン、約束だよ。ずっと友達でいようね」
ミニドラゴンと約束を交わした。
ロートン国のウィンターウィーク。通称、W.W.などと言われる冬の大型連休。8日間が昨日を最後に終わった。荒れた天気が続いたけれど休みが明けると、雲ひとつない晴天だ。
大型連休が明けた今日はどこもかしこも人が大勢いる。フラワーショップ・紅は、様々な理由で花を買う人で賑わっていた。隣の熊沢書店はさらに繁盛しているようだ。
「これを2丁目の緑色の屋根に住んでるグラフィーさんに届けてくれるかな?」
店長のラオは、フロールとレドランにおつかいを頼む。ラオは昨日人間の姿に戻った。ラオの夢は、幻の花を自分の目で見ることであった。先日、それをフロールとレドランが叶えた。
熊沢の兄弟は依然として熊の姿である。それぞれの夢が叶うときが来れば、いつか人間に戻るだろう。
イオはウィンターウィーク中に雪が一時的におさまったときを逃さず、旅立った。
そして……
「ラオさん、おつかいの帰りにシェイ君の手伝いに行ってもいい?」
「構いませんが、……。いえ、いってらっしゃい」
ラオは今日ぐらいフロールの好きなようにさせてあげようと思った。花を見つけてきてくれたお礼も込めて。
フロールの母親は相変わらず無愛想な表情でレジを担当していた。しかし、客の対応は別だ。さすがにパートとして働いているから、それ相応にてきぱきとしている。
ところで、狼にさらわれた祖母はというと、フロールが発見して帰ってきた。さらわれたと言うより、祭りに誘われたらしいが、何の祭りかはわからなかった。しかし、後日聞くと葡萄狩り大会だとか……。それ、どこかで聞いた気がする。
フロールは2丁目に花を配達したあと、シェイがいる靴屋を訪れた。シェイは今日、靴屋ディーラをオープンさせたのだ。ただ、店長は……
「シェイ君、手伝いに来たよ」
フロールが店に入ると、お客が大勢いた。シェイはフロールを見て、
「早速なんだけど店長のところに行って、この靴の26センチのヤツを取ってきてくれないか?」
「分かった。行こう、レドラン」
店の奥に行くと、フロールは
「エキュル店長ー?」
店長を探す。そう、店長は栗鼠山だ。さすがにシェイが経営するということはできないので、熊沢の兄とラオ、そして栗鼠山が協力してくれた。
フロールが持つシェイの記憶はまだ十分集まっていない。記憶を消す方法があるならば、復活させる方法もあるはずである。母親の妹、ブルハとクリアントが当時かけた魔法について話してくれた。魔法は″これから会う最も信頼できる"親族ではない人"との記憶を定期的に封印されること″であった。記憶を失う魔法は無いとのことだ。それを知った熊沢は、あの魔法の呪文の本を一通り読み探して、回顧魔法を見つけた。これは、昔の記憶に浸り、懐かしむ魔法である。熊沢は、無理矢理買わされた、魔法の呪文の本、これに書かれていた回顧魔法ならば、過去の記憶を旅する、つまり封印を自分で解けるかもしれないとして、フロールに話した。フロールは理由を全て理解できなかったが、回顧魔法を使った。そして、少しずつだがシェイとの記憶が封印から解き放たれる。
魔法には効果継続期限が存在する。フロールにかけられた記憶の封印は、もうすぐ期限が切れて記憶の封印魔法の効果が消滅する。罰と言っても、幼いという理由もあり軽いようだった。
魔法の効果が切れて、記憶が全て戻ったら、フロールとシェイの仲はさらに深まるだろう。
フロール達のストーリーはまだ始まったばかりである。
THE END...
”ラオは昨日人間の姿に戻った。ラオの夢は、幻の花を自分の目で見ることであった。先日、それをフロールとレドランが叶えた。”この部分について、特別編として今後、掲載予定です。ナンバリングするかどうかは調整中ですが、『路地裏の圏外』螢・志乃篇の第三部までに、掲載したいな。
『紅頭巾』シリーズは、もう少しだけ続きます。新しい仲間、レドランとともに……




