第三十六篇 魔法の併用
外ではいかなる事態になっても対応できるようにスタンバイしていた。
シェイは魔法で結界の壁をさらに強化。龍はさらに暴れて、強度がギリギリだ。足元で何から転がる音がしたかと思えば、地面にクルミが転がっていた。
(リス……?)
何かあったのか。当の本人は喋れないため、クルミで何かを伝えている。考えられるとすれば、ヤバイことになってるとだけは分かる。誰が? 栗鼠山自身がSOSを出すことは稀。そうなると、この状況が切羽詰まっているのか、それかフロールに何かあったとしか考えられない。
「併用禁止だけど已むを得ないだろ。あとから罰則とか止めてくれよ……」
シェイは苦手な察知魔法を結界魔法と平行で行う。元々苦手なのに、片手で集中出来ないとなると、二足の草鞋となるおそれが非常に高い。しかし、躊躇してはいられない。
シェイは察知魔法を唱える。
(龍の内部で何が起こってるんだ……?)
「tail!」
熊沢の叫び声が届くも遅い! シェイが察知魔法の集中が切れて目の前を見ると龍の尻尾が自分に向かってくる!
反応しきれないシェイは思わず目を瞑る!
何かが当たる、決して鈍い音ではない音が聞こえてすぐに、
「あぶねぇ……。大丈夫か? ……あ、いや、大丈夫ですか?」
イオが剱で龍の尻尾を弾いたのだ。
「す、すまない」
シェイはイオのお陰で大丈夫だったが、当たっていればどうなっていたかは定かではないだろう。
(流石に斬るわけにはいかないけど、鱗は固かったな……)
剱の刃が欠けている。
シェイは龍から離れて、再び察知魔法を唱える。苦手な分、鮮明には分からないし正確さにも欠けるが、無いよりはマシか。
(2人発見……。多分、フロールとスミシュさんだろうけど、ここまで判断しにくいとはな……。フロールが動かないのか? 倒れてる? ……もっと正確に判らねぇのかよ!?)
察知魔法は相手の状況を察知するための魔法であり、緊急時に多用される。だが、シェイの察知魔法では得られる情報が足りなさすぎる。
(フロールの身に何かあったとすると、力ずくででも脱出させないと……)
力ずく……。その方法が無かったから、フロールが直接乗り込んだ。
(ヤバイな……。リスクしか残らねぇぞ……)
シェイはフロールが再び立ち上がることを願う。つまり、様子を見るのだ。
「大丈夫!?」
スミシュがフロールの肩に触れると、体温が下がっていることに気づいた。
「早く出ないと」
スミシュがフロールの手を握りしめて、光を目指す。
再び察知魔法を使ったシェイは
「あの龍……、もしかして魔力を吸いとっているんじゃ……」
「魔力を食べているってことですか?」
熊沢はフロールの心配をよりするように…。
「リスの魔力も吸われているなら、説明がつく! 厄介な相手だな……」
イオはシェイに
「手立ては!?」
「速さか力だな……。魔力を吸いとられる前に終わらすか、吸収できる魔力よりも大きな魔力で挑むか…」
どっちみち、スピードは必要だ。あとは、方法だが……
(魔法糸は俺の魔力の残り具合から見ても途中で途切れるかもしれない……。それなら……)
「クマ、釣り竿あるか?」
「フィッシング!?」
熊沢は把握したようで、バイクを加速させて釣具屋へ直行!
「正直、失敗する確率もリスクも大きすぎるんだがな……」
まず龍を抑えること。龍の口を開けたままにしておくこと。釣り糸を真っ直ぐフロール達のもとへ送ること。2人を釣ること。少なくとも、これらに魔力を使うこととなる。釣り糸を送る作業は、察知魔法と操作魔法、指定魔法などを同時に扱う。さらに、龍を抑えるために結界魔法と抑止魔法を使う。ちなみに、抑止魔法は病院などの医療関係で昔は使っていたらしい。
さらに、これらの魔法を倍以上の力にして行わなければ、龍に魔力を吸収されてしまい失敗となる。
そして、栗鼠山とシェイは2人とも魔力がほとんど残っていない。この作戦が1分保てば良い方である。
ありったけの魔力を使って……
To be continued…
『紅頭巾』より、フロールや熊沢、シェイが登場している『路地裏の圏外 ~MOMENT・STARLIGHT~』が最終回を迎えました。螢・志乃篇の第二部完結に合わせて、こちらも更新。
両作品とも、よろしくお願いします。




