第三十二篇 浮かばぬ案
シェイは黙り込んだ。熊沢はどうすればいいのか分からず、目が泳いでいた。リムジンの後方の窓が開き、クルミが熊沢を目掛けてヒット!
「痛いっ」
リムジンには栗鼠山が乗っている。先にロバが栗鼠山のもとへ近づくと、栗鼠山の隣に丸まって紐でくくられた紙が鎮座していた。
「……何でしょうか?」
紐をほどいて紙を伸ばすと、ロバは
「ウユーブリッジの設計図!?」
その声にクルミが当たった部分を押さえる熊沢が駆けつける。フロールは龍を観察中。イオは案を考え中。シェイは冷静に戻り、外から安全な方法を模索中。
「ロバさん、ウユーブリッジの仕掛けって何だったんですか!?」
熊沢が急かす。ロバは設計図を隈無く見て、
「ウユーブリッジには、異界への架け橋にもなる仕掛けがあるみたいです……」
「異界?」
熊沢は分からないようだが、それを聞いたシェイは
(ヤツを、フロールが作った空間に封印するための、アシストになるってことか……)
もともと龍を封印するためのモノかと考えたが、そんな1点だけのためにわざわざウユーブリッジに仕掛けを施したはずはない。侵略者達がウユーブリッジを渡れば異界に迷い込むという寸法なのか? 理由は分からなくても、もしものときには使える切り札になるかもしれない。
結局、外からの方法を考えるもどれもこれも成功率が低く、一発では無理か。内からならば逆にリスクが上がるとともに、成功率も格段に上がる。
「お手上げだ。方法が浮かばない」
イオが先にギブアップ。シェイはまだ頑張るが、
「……やむを得ない」
遂に白旗を揚げた。
「じゃあ、決定だね」
龍の内から魔女を引きずり出す作戦が決まった。
「そうなると、飛び込む方法と引きずり出す方法、脱出方法、その後のこと、もしものときのことを考える必要がある」
シェイは失敗だけは回避させたいと考えているだけあって、先に決めておきたいのだ。
「魔法で飛び込み、状況を見て引きずり出す案を考えて決行をし、脱出するってことだな」
イオがそう言った。シェイは否定しようとしたが、否定する箇所を見つけられず、沈黙した。
「確かに、魔女がどういう状況にいるのからは外からだと分かんないよね」
フロールは賛同。熊沢がこちら側に戻ってきて
「じゃあ、誰が挑むか。それと、もしものときについて……」
「私が魔法で魔女を連れ出すよ!」
フロールが右手を挙げて応えると、シェイが口を開けるがフロールが先に
「メネア君は、もしものときによろしくね」
シェイは言いたい言葉が溢れてきた。賛否の両方の言葉が入り交じり、何も言えない。何も言えなかった……
そして決まった。もう変更は出来ない。
「ところで、どのようにして魔女に会うんですか?」
熊沢の疑問には、混乱から回復したシェイが答える。
「一番確実な方法は、"魔法の闔"を使うことだな。口から飛び込むなんて無茶なことは避けたい」
「魔法のゲートって、もしかしてどこにでも行くことが出来る扉ですか!?」
熊沢はそれ以上言うな。それ以上言うと…
「狸じゃないか!?」
おいおい……って、フロールのお祖父ちゃん登場。お父さんだけでなく、祖父からも狸と間違えられた。多分、わざとだろうが……。
「だから、私は熊ですってば!! あっいや、熊でもありません! って、あれ? 私を狸呼ばわりするのは、お嬢ちゃんのお父さんだったはずですが……」
元々は人間だった熊沢。少々反論に戸惑ったようだ。
「お祖父ちゃん!?」
フロールがお祖父ちゃんを確認すると、
「あれ? お祖母ちゃんは?」
「それが狼に連れ去られてしまったんじゃよ」
「狼?」
「わしが狼になってしまったばっかりに、その当時から狼達に目をつけられて……。わしが狼のままだった方が、良かったのじゃろうか?」
「じゃあお祖母ちゃんは……」
「大丈夫じゃろ。フロールのお父さんが軽トラで助けに向かったはずじゃ」
フロールとお祖父ちゃんの会話は、一部の者に余計な心配をさせることとなる。
熊沢の心配は……
(確かお父さんの車の運転はお世辞にも上手いとは言えなかったはずですが……。というか、私の疑問はスルーですか!?)
シェイの心配は……
(そう言えば、フロールの父親って海の漁師を辞めて、今は森の猟師だったよな……。狼の方が危ないよな……)
栗鼠山の心配は……
クルミの在庫が底をついたことである。って関係無い。
To be continued…
”魔法の闔”については、次回シェイが説明するのでここでは触れずに、紅頭巾のお祖父さんの登場が久しぶりに登場。呪詛石の強制的な願いが叶って、人間の姿に戻ってます。