第三十一篇 Walking Dictionary
龍を救う方法だが、はっきり言ってどれも無駄と思われる。龍を封石で助けることはできない。なおかつ、龍のままではおとなしくさせるのに膨大な時間を必要とする。打つ手無しなのだ。
「どうすれば……」
焦るのはイオだけでなく、シェイ達もだ。暴れる龍を押さえていられるのも時間の問題だ。
周りは焦っているなか、フロールが気づいた。と言うよりも、閃いたが正しいかもしれない。
「ねぇ? あの龍の中に魔女がいるんだよねぇ?」
熊沢が
「donkeyさんによると、ですけど」
「おい、急だな。驢馬を英語に直す必要あったか? あと馬鹿者とか頑固者っていう意味があるからやめとけ」
シェイがやや怒鳴るようにツッコミを入れた。
「だからassはやめたんですよ!」
「まぁ、それは正解だが……」
assにも一応"ロバ"という意味をもつのだが、どちらかというと、馬鹿者や頑固者という意味のほうが強い。
「ちなみに、雌ロバや雌馬はmareです」
シェイは熊沢へのツッコミをやめたが、フロールが割り込むように、
「あれ? ロバとウマって、どう違うの? ……ポニー?」
……核心から離れすぎです。
「ponyは、背丈が4.8フィート以下の小型種の馬です。俗にいう、子馬ですね」
「ロバがウマについて語ってる……」
熊沢よ、お前も熊が熊について話してただろ。冬眠がどうとか。あと、4.8フィートは146センチ。余談だが、ポニーテールは子馬の尻尾のように垂らす髪型だからとか。
「ウマもロバも哺乳類だよな?」
自分の知識に不安を覚えたシェイが呟くと、
「ウマは哺乳網奇蹄目ウマ亜目の総称です。ロバは哺乳類奇蹄目ウマ科ですね」
「スイマセーン、イッテル イミガー ワーカリマセン」
熊沢の言ってることも珍紛漢紛。
「くまたん、つまりはロバはウマの一種なんだよ」
「お嬢ちゃんは分かったの!?」
置いてきぼりの熊沢だ。
「ロバはアフリカ産の野生のウマから変化したと言われてる動物です。ウマよりも耳が長くて蹄が小さく、尾の先だけ毛が長いんですよ。それと、雄ロバと雌ウマと間の雑種をラバっていいますよ」
(まさか騾馬の説明までとは……。まさに生き字引だな)
「まさに、walking dictionaryですね」
シェイと熊沢の両方の例えが被った。ただ、シェイは口に出してないから、熊沢は知らない。直訳で歩く図書館。豊富な知識を持つ人を生き字引という。
「あと、熊沢さんに残念なお知らせが……」
ロバが言いたくて仕方の無かったこと。
「龍っていうのはですね。角はシカ、頭はラクダ、眼はウサギ、体はヘビ、腹はハマグリ、鱗はコイ、爪はタカ、掌はトラ、耳はウシの様であるとされています。ドラゴンとは翼があるなど異なる点があるんですね。龍はアジアでドラゴンは西洋だから違うんですよ」
「えっ……」
「まぁ、英語にすると一緒なんですけどね」
あの~、そろそろ本題に……
「っで、何の話でした?」
熊沢がフロールに聞くと、フロールは思い出したようで
「龍のおなかに魔女がいるから、魔女が龍を操っているかもって思ったんだけど…どうかな?」
イオが久しぶりに……いや、そんなに時間は経過してはいないのだが、口を開けて
「考えてみたんだけど、結論から言うと龍の体内にいるその魔女を引きずり出さない限り、打つ手無しだと思う」
「それに、魔女を倒すのはロバさんだもんね」
フロールは笑顔で言ったが、シェイ達はその件について複雑な思いでいた。メナードリーが魔女に復讐しない限り、どちらも不老不死である。ただ不老というのにはやや気掛かりだが、不死にかわりはない。
「魔女は不死だから龍に長時間いられるかもしれないけど、俺達は無理だからな…、それをどうするかだが……」
シェイには案はあるが、危険であるため口外しない。一番危ないと思われる、乗り込む案である。
しかし、空気を読まない熊沢は
「ですが、外から龍を苦しめずに中にいる魔女を追い出す方法なんてあるんですか?」
案の定、フロールがテンプレートのようにこう答える。
「外からが駄目なら、内からだよ」
「それは危険だ! 龍に、況してや魔女がいる所にわざわざ出向くなんて無謀だ!」
シェイが却下しようとするも、フロールは純粋に
「メネア君って、かわってるね。少し前に知り合ったばっかりなのに、私のことを心配してくれて」
シェイにとって厳しい言葉が返ってきてしまった……。母親に記憶を消されたのか封印されたのか、それかフロールが自分で記憶を……。本人の同意を得たとしても、記憶を改竄及び削除することは禁忌とされている。そのため、自分で自分の記憶を操作することも禁じられている。
龍が暴れている原因は魔女か。龍が出す救難信号に答えられるのだろうか……
To be continued…
話が脱線しつつも、そろそろ物語も終着へと向かいます。おそらく39話が最終回になるかと。




