第二十四篇 親子喧嘩
フロールは無意識で母親に魔法をかける。しかし、効果は無い。このままだと……
現時点でシェイの魔力の残り具合からみて、龍を救うことはできない。ましてや、フロールに自分の存在を悟られるおそれがある。迷うシェイ。どうにでもなれと魔法を繰り出す直前に、母親の魔法が解けた。
(……フロールの魔法が勝った?)
シェイはその場で起こった一部始終を理解することに多くの時間を要した。
母親が娘の魔法に敗北した。熊沢が沈黙のなか、
「世代交代……。世襲か」
(世襲は受け継ぐことで、意味が違うだろ)
シェイが声には出さずにツッコミを入れた。
母親はフロールに
「自分の娘に魔法で負けるとは……。しかし、まだ弱い! 碌におつかいもできない未熟者にあの龍は倒せやしない」
「おつかいは関係無いでしょ。あれは、くまたんが……」
フロールから熊沢へ飛び火が。熊沢は慌てて、
「私ですか!? 正直に言いますと、アレはお嬢ちゃんのgrandfather[=祖父]が」
「それよりも、龍をいじめないで!!」
「あれ? スルーされた?」
熊沢は置いていかれた。シェイが会話を聞いて、
(熊沢に天然親子では相性が悪いからな……)
親子喧嘩の最中、龍はリムジンへ突進しようとしていた。
龍はリムジンに向かって猪突猛進! 栗鼠山がシェイをリムジンに再び乗せて、ロバが急発進させる!
急ハンドルで右旋回しながら余裕のようにロバは
「相手が違いますから、八つ当たりでしょうか?」
「多分、魔法を使う素振りをしなかったから、勘違いだと思いますよ……」
シェイはこんなときにもクルミを割り続ける栗鼠山に、ある意味脱帽した。比較するのは可哀想だが、熊沢なら十中八九、この状態だとパニックだろう。それに、少し前にいた空間から脱出した魔法は栗鼠山がしたと予想していた。ロバの可能性もあるが、そもそもこの栗鼠山に専属の運転手がついていることに疑問をもった。フロールと熊沢なら、言っても理解できないかもしれない。また、熊沢からの情報、栗鼠山本人からの雰囲気などからでも、栗鼠山の謎が多い。……事態は栗鼠山についてそんなに深く考えられる状況ではない。リムジンを追う龍。いつの間にか、立場が逆転したということだ。
ロバはシェイに問う。
「ひとつ聞きたいのですが……」
「何ですか?」
「あの龍って、火の玉とか吐きますか?」
「吐く……かな?」
初めて情報不足に陥ったシェイだったが、すぐに解決した。龍が口から火の玉を発射。しかもなかなかの大きさで、リムジンに当たれば、乗員たちの命の保証はないだろう。
リムジンは街を爆走。後方から火の玉が迫る。龍はなおも火の玉を吐く。道路の端に停車していた車はみるも無惨に爆発して木っ端微塵となった。
熊沢とフロールは、龍の後方で新たな熊沢のバイクに二人乗りで追尾中。しかし、この豪雪ではバイクとの相性は最悪。路面が凍結し、さらに積雪により一層スリップしやすい環境となっている。急ぎでチェーンなど付ける時間もなく、案の定、バイクは蛇行運転で決して安全とはお世辞にも言えるはずがなく、注意一秒怪我一生どころか即死に繋がるだろう。熊沢に余裕はない。
「くまたん、スリップ注意」
「No problem.ゴールド免許ですからね」
いや、熊沢に余裕はあったようだ。
「聞こえないよ」
この豪雪でスピードもあるなか、熊沢の声はフロールに届かない。
「緊張なう!」
熊沢はバイクをリムジンの右タイヤ痕上で走らせる。ある程度は熊沢のテクニックで、というよりも大方フロールの魔法によってバイクはスリップせずに走行する。
「受験シーズンだからね」
フロールは魔法を少し強化して、豪雪を凌ぐ傘と滑り止めの役割を担う。意外に集中している熊沢は
「また受験シーズン到来ですか。頑張れ受験生!」
と言い、バイクの速度を調整する。
少し走って、フロールは呟いた。
「あの龍って、他にも特技があるのかなぁ?」
「特技……ですか」
熊沢が何かを喋ろうと考えるも、思い付かない。
リムジン車内にて。シェイは栗鼠山に問う。しかし、栗鼠山は喋らないため、同時にロバに問うこととなる。
「単刀直入に訊くと、魔法を使えるのか?」
運転に余裕のなさそうなロバは
「お応えできません」
「メナードリーさん、つまり魔法を使えるか使えないかの2択について、回答すれば不利になると?」
「……すみません。余裕がありませんので」
(……おそらく使えるということか。しかし、なんらかの理由で回答を拒まなければならない……。リスがそれほどの人物であるからなのか……)
To be continued…
栗鼠山さんがますます謎なリスに。さらに、熊沢さんの新たなバイクが登場。
この辺りの展開は、わりと忘れてて、転記するときに読み返してます。




