第二十篇 旧魔法
事態が突如として変わったのは、まさに一瞬の出来事であった。
ロバが急ブレーキをかけ、誰かが喋るよりも前に前方が光り輝き、その光は七色、いやそれ以上の色彩が放たれ、誰かが考えるよりも誰かが綺麗だと感じるよりもとても短い時間だったが、それを見た時間は長いように感じられた。不思議な光が次第に弱くなり暗くなりつつ、遂に光が消えたかと思うよりも早く、前方で爆発が起こり、音よりも僅かにリムジンがブレーキによって止まる方が早く、急ブレーキによって、前方に投げ飛ばされる力を感じるよりも前に音が耳に届き、冷静になる前に爆発の煙と炎だけが宙を舞い、誰かが悲鳴をあげたが自分で精一杯であり、気付いた時には、爆発の煙は空高くまで上がっていた。
「な、何が起こったの!?」
テンパるフロールに、
「まさか……」
何かに気付くシェイ、
「ここはどこ? ミーは熊沢……」
意味不明な発言をする熊沢、
「何かが爆発……」
目の前に起きたことを告げるロバ、そして尚も冷静にクルミを割り続ける栗鼠山。
一体、何が起こったのか。
光った、何が? 爆発した、何が? 止まった、リムジンが。
ブレーキで止まるまでに何があったのか、冷静になってから整理を始める。リムジンから降りて、風に当たる。
シェイは龍がいたはずの空を見上げる。
「結論から言うと、龍が爆発した。これで間違いはないな?」
ロバはリムジンの前に立ち、
「これは参りましたね……。ボンネットが不可思議に歪んでます。爆発の影響か何かでしょうか……」
フロールがロバのそばに駆け寄り、周りを見渡して
「道も歪んでるよ~」
それを聞いたシェイや熊沢、栗鼠山も車の前方へと歩む。
リムジンの前方だけでなく、道や地面がまるで渦を巻いたかのように歪んでいた。
シェイがそれを見て呟く。
「魔法か科学か……」
いつもの調子に戻った熊沢が
「scienceよりもmagicの方が現実味があるのでは?」
「魔法と科学は別物。……熊店長がそんな本を読んでたな」
「兄貴も物好きな人で……」
「店長も熊でしょ?」
フロールのツッコミに、熊沢は笑って応えた。フロールは
「さっきの光、綺麗だったよね?」
「It was beautiful.」
熊沢も綺麗だったと言った。フロールが問う。
「アレって、全部繋がってたの?」
「関連性はあるでしょうね」
と熊沢が答えると、シェイが驚いた顔をして
「歪みと光は魔法だけど、爆発は別物だ……」
フロールは当然の疑問であることを聞く。
「どういうこと?」
「魔法であるんだよ。光を放ち、歪む魔法が……。瞬間転送旧魔法」
「キュウ魔法ですか? それって古いって意味ですよねぇ?」
熊沢の問いにシェイは頷き、
「代償が非常に大きい旧魔法だ。厄介なことになったな……」
「Why?」
「考えてみろ。龍が転送されたんだ。分かるだろ?」
「つまり、私達はダンシングさせられたと……」
「囮か……」
シェイは唇を噛み締めた。"踊り"と"囮"、日本語では似ているがシェイは囮と言った。熊沢を完全にスルー。
龍は転送された。どこへ? 答えは、分からない。完全に見失ったのだ。
リムジンはエンジンが駄目になり、使い物にならない。周りに建物は無い。完全に詰んだのだ。
しかし、フロールが
「魔法で龍の位置って探れないの?」
「探れないことはないが、探索魔法規定違反だ。探索系魔法を使える者は、それを代々職業として継いでいる者であり、なおかつ、探索魔術術師技能課題合格者のみ。……でも、確か例外があったな」
シェイが魔法で書物を出そうとすると、ロバが
「探索魔術規定第2項目5箇条、緊急時の例外。探索目標を放置すれば、直ちに甚大な影響が出ると確証できるとき、生命の危機で病院へ一刻を争う緊急搬送が必要なとき。確か、そんな感じの事が書かれていませんでした?」
シェイが書物で確認すると、それに近く、ほぼ正解といっても過言ではない。ちなみに、シェイが最初にディアモスの位置を調べたのは探索魔法ではなく、周知魔法で場所を指定してその付近をリアルタイムの映像として見る魔法だった。
熊沢が感心したように、
「流石は、walking libraryですね」
歩く図書館。ロバことメナードリー・グルミィの知識レベルを侮ってはならないようだ。ちなみに、熊沢が言った"流石"というフレーズには、"流石兄貴の書店で立ち読みしただけはありますね"を意味している。本人に自覚があって言ったかは分からないが。
To be continued…
魔法にも資格が色々? おいそれと魔法を使ってはいけないってことでしょうか。制約と管理が面倒そう……




