第二篇 呪詛石
翌朝。いつものように太陽が昇り、いつものように今日という日を迎えます。まだ天候は安定しているようです。
フロールは、熊沢書店の中へ。W.W.で休みの今日は、シャッターを閉め、お店の掃除を店長とアルバイターがやっていました。
「くまたんは?」
フロールは店長に聞くと、
「出来損ないの弟なら、店の裏にある小さいガレージで、バイクをいじってるよ」
「ありがとう」
フロールはお礼を言って、そのガレージへ。ガレージは、軽自動車1台さえも止められないような狭さで、熊沢さんは壁に凭れて、バイクをメンテナンスしていました。
フロールに気づいた熊沢は、
「あっ、ちょっと待って下さい。すぐにフィニッシュさせますから」
そう言ってから、5分後、2階のリビングでお茶を飲みながら、話をすることになりました。けれど、熊沢さんは
「兄貴から聞いた話だと、20年前、あの館が火事になって、死者が出たらしいんですよ。兄貴、私には伏せに伏せて、回りくどく言うんで、お嬢ちゃん、兄貴に話を聞いてもらえますか?」
そう言って、数分後、兄を連れてきました。熊沢さんの兄は、フロールを見て、少し考えたあと、静かに口を開き、
「20年前、館で大火事があった。そのとき、君の父方の曾祖父が亡くなったんだ。火事の原因は、未だに不明。曾祖父は、強い魔力を秘めた人だった。曾祖父は、魔導師の頂点に立ったと言われる父と、エリートの魔法使いである母から産まれ、尋常ではない程の魔力の持ち主だった……。曾祖父の魔力が染み付いた石は、呪詛石と呼ばれている。呪詛石は、どんな願いでも叶えることのできる石。しかし、その石に、たった一瞬でも願いが伝わってしまったら、一巻の終わり。その願いが即座に叶えられてしまう。そして、願った本人は、こうなる」
フロールは、熊沢兄の言うことがすぐには理解できず、熊沢さんが
「被害者といっても、過言じゃないでしょうね……」
それを聞いて、フロールは理解し
「人じゃ無くなるってこと?」
フロールの疑問に、熊沢兄はこう答えます。
「呪詛石は、不意に出来てしまった無限の魔力を秘めた石。願った本人は、姿が変わる。例え、どんなに小さな願いであったとしても……」
熊沢さんは右手で数字を示し、
「4つ。それが衢で噂されている、呪詛石のある場所の数です。そのうち、1ヵ所はガセだったみたいです。残りの3ヵ所で、1番近いところは、隣の街。ただ、隣の街との間に流れるワム・ステュクス川に架かる、ウユービッグブリッジは、18年前から閉鎖されてます。そもそも、老朽化で架け替え工事が行われる予定でしたが、已む無く中止となりました」
「えっ? もしかして、呪詛石が原因で!?」
しかし、フロールの考えは当たらず、
「いえ……、単なる国家予算の削減で白紙になっただけですよ」
と、熊沢さんが否定しました。熊沢さんは続けて、
「お嬢ちゃんにはまだ早いように思えますが、一応聞きますね。呪詛石の件、お嬢ちゃんならどうしますか?」
「そんなの……、放っておけないよ。街の皆、どんどんアニマル化してるし……。このままじゃ、この街、動物の街になっちゃうよ!」
「あっ、そっちが心配ですか」
と、熊沢さんが思わず思ったことを口に出しました。すでになった者を戻すとかではなく、みんながなることを心配したようです。合ってはいますが、熊沢さんの考えと違ったようです。
熊沢さんは、決意したフロールを見た後、机の上にあった朝刊が目に入りました。そこには占いが書かれており、熊沢さんの今日の運勢は、"注意、自分の地位が危うい。全力投球で"とのことです。
To be continued…
たった一瞬でも願いが伝わってしまったら、その願いが即座に叶えられてしまう。って本編で言ってますが、即座に叶わない場合は、補助にまわります。
ちなみに、即座に叶う願いって、何でしょうかね。例えば、呪詛石の前で、お金が欲しいって願った(頭の中で思った)としても、お金が降ってくるわけでは無く、本人が宝くじを買うとかして行動したあとに叶うようで、動物の姿で宝くじを買う必要があります。他にも、無体物を願ったらどうなのか。愛が欲しいとか、時間が欲しいとか。たぶん、時間が欲しいって言うと、寿命が延びそうで、叶ってはいるけれど実感はないだろうから難しいね。
さて、次回はいつもの熊沢さんに戻る? 続く。