第十七篇 無茶な運転
片側3車線だが、例えるなら、北海道やオーストラリアのような直線的な道路が延々と続いている。スピードを出すにはもってこいの場所だ。しかも、この道は特殊で法定速度が定められていない。つまり極端な話、時速1キロ未満で走ろうが、マッハで走ろうが、事故さえしなければOKなのだ。ただ、交通量はそこそこある。大体、出せて時速60~110キロ程度というところだろう。熊沢は現在時速95キロで走行中。熊沢のバイクなら、時速130キロぐらいまで出せるらしいが、環境が悪い。2人乗りの上に、向かい風が吹いている。時速95キロの2人乗り、ウィリー走行。熊沢のテクニックの高さを物語っていた。ウィリー走行を15回程行った後、道は少し右にカーブする。熊沢はバイクの速度を91キロに落とした。黄色のどでかい注意標識が一定間隔で設置され、下部に数字が書かれていた。数字はどんどん減っている。標識は数回直角に曲がる矢印が示されていた。最初は左に直角カーブ、次に右に直角カーブ、そして左に直角カーブ。そして、道路の周りに住宅街や店舗が建ち並ぶ。看板にはいくつかの言語で書かれ、英語ではデンジャラスタウンと書かれいた。直訳すれば、危険な街。元々、この街は内戦が激しく、一時期は国内に及ばず、国外戦まであった。その後は落ち着いたが、街の名前を勝手に決められたことに対して、毎日この国の政府に向かってのデモが起きている。この街では、当分の間、静かに暮らせそうにもない。
「さて、ヘアピンカーブと言うことは、腕の見せどころ……」
熊沢はスピードを上げ、直角カーブに侵入する!
「馬鹿か!?」
シェイはそう叫ぶしか方法はない。魔法を使うには、片手を離さなければならない。そんなことは、今の状況では無理だ。
道は片側3車線から一気に交互通行1車線へと変わった。1本道だ。普通車でもこの道は敬遠して街に入る直前にある丁字路[=T字路]を曲がって、遠回りする。この道を通れば10分だが、遠回りすると40分もかかる。その理由は、街を囲む山々だ。
熊沢のバイクは最初の直角カーブに進入する!
熊沢は体勢を変えてドリフトへ!
シェイは振り落とされないようにすることだけで一杯一杯だ。
次の直角カーブは体勢を逆に変えてドリフト!
「無茶をするな!」
シェイの叫びが聞こえたのか、熊沢はミラーを一瞬見て、
「後ろの方が無茶をやってますよ」
と言った。(後ろ?)とシェイは思い出すと、笑えなかった。まさか……
しかし、そのまさかだった。リムジンが普通車も敬遠する直角カーブを時速60キロで曲がる!
シェイは後ろを見る余裕はない。想像しても、リムジンがあの直角カーブを曲がる光景など描けない。シェイが想像したのは、魔法でリムジンが蛇のようにくねくねと曲がっている様子だが……
「Amazing!」
熊沢はミラー越しで見て喫驚し叫んでいる。
なんと、リムジンは壁を走っている。しかも、縦に立ち横へ走行。フロールの魔法により、リムジンにかかる重力を操作して垂直方向に壁にくっつき、リムジンのタイヤが水平方向へ向いて、まるで壁にくっついた蟹のように走行。ロケットとも例えられるかもしれない。ロケットが横にスライドしているような光景だ。
熊沢はさらに次の直角カーブも体勢を逆に変えてドリフトで通過する!
バイクを大きく傾けると、熊沢の毛がかるく燃える……
「はっ! これが、ファイア・ベアー」
「早く火を消せ!」
シェイは即座に言った。
To be continued…
危険運転はやめましょう。次元が違うけど。