第十六篇 再出発
シェイが退院したのは、医師の予測よりも遥かに早かった。シェイには、医療に関する知識は無い。だから、医学関係の魔法は使えない。ならば、回復力が高かったからだろうか。いや、結論は1つ。フロールだ。シェイは自ずから魔法を手に入れたが、フロールはほとんど本からの独学で魔法を手に入れている。医療関係を知らなくてもそれらの魔法が使えてもおかしくはない。つまり、フロールがシェイを治したのか。まさか、熊沢の意外な一面が……、とかいうオチはないだろう。
豪雪のなか、西へ進むリムジン。熊沢は爆睡していた。こういった場合、鼾が迷惑になるなどの展開になるだろうが、熊沢は鼾を一切かかなかった。無論、睡眠時無呼吸症候群でもない。
シェイは外を眺め、栗鼠山はクルミを割り、フロールは運転手のロバと話をしていた。
平和だ。そう思えた。西の国では、ディアモスが暴れていると思われるが、今は何もできない。魔法で瞬間移動ができれば、話は別だが、瞬間移動には膨大な魔力を消費し、修得難易度が極めて高い。今のシェイでも不可能。無論、フロールも出来ない。そして、時間を魔法で意図的に動かしたり止めたりすることは、禁忌である。今の彼、彼女らは暢気である。
リムジンは国境に差し掛かった。
それから数時間が経過した。リムジンは止まった。目的地に到着したのだ。しかし、そこは、想像絶する世界だった。ディアモスは複合第二形態キメラになっていた。第二形態キメラは、やや一回り小さくなり、龍のような容貌になっていた。
「ヤツを必ず止める」
シェイは1人で敵の攻撃範囲に突入する! 魔法も短距離のほど、威力も命中率も格段に上がる。
龍は蛇行する。メネアの魔法をものともせず、空を過る。
"のんきなくまさん"は、フロールと見物人として、メネアと龍を目で追う。
「この先に、大都会がある。そんな所に龍が行けば、言わなくても分かるよな?」
シェイは唇を噛み締めた。
「Needless to say,摩天楼は大パニックですよ」
くまは、リムジンに積んだバイクを降ろす。
「燃料はフルにあるし、タイヤのエアーも十分にあります」
くまはバイクのエンジンをかける。
(……By the way,何故に私は平仮名で"くま"なんですか!?)
無論、演出です。
(……無意味なのでは?)
くまの額を汗が流れる。
フロールはリムジンに乗り、くまが乗るバイクの後ろを追う。リムジンを運転するのは、驢馬。助手席には栗鼠山が乗る。
バイクには、くまが運転、メネアが後ろに乗っている。龍を追って、さらに西へ。
シェイは、途中から素になっていたことに気付いた。メネアの芝居どころでは無くなってきていたから、是非に及ばないのも無理無い。龍を追って、熊沢はバイクの速度を徐々に加速させていく。
「久し振りに、アレをやりますか!!」
熊沢のテンションが上がり、ウィリー体勢へ!
「熊、調子に乗るなよ!」
シェイが叫ぶが、熊沢の耳には届かない。
一方、フロール達の乗るリムジンでは、
「運転手さん! あのバイクの後を追ってください!!」
取り敢えずギャグを言ってしまう、熊沢病(?)感染者のフロールはそう叫んだ。
「残念ながら、向こうもこっちも、タクシーではありませんが……」
運転手のロバは、苦笑いをするだけだった……。
To be continued…
明けましておめでとうございます。2020年です。この話から『紅頭巾4』の物語が始まります。
龍を再び追いかけるのですが、いつ追いつくのやら……。『紅頭巾3・4』としては、半分ぐらいなのかな。
今年もよろしくお願いいたします。




