第十五篇 雪国緊急病棟24時(後編)
気づいた時は、ベッドの上だった。シェイ、いや、フロールの前ではメネアという偽名を名乗っているから……、メネアは起き上がろうとした。しかし、体にうまく力が入らず、自由に動くことが困難であった。窓の外は、暗闇。部屋のテーブルに置かれた時計を見ると、深夜2時をまわっていた。扉がノックされ、看護師が入ってきた。
「お目覚めですか。医師を呼んできますね」
看護師は点滴の交換にやって来たのだ。残りの量を確認して、看護師は医師を呼びに行った。すれ違うように、熊沢が病室に入ってきた。
「ここは?」
シェイが問うと、熊沢は窓の外を見た後、答える。
「ネージュ大国の緊急医療病棟です。お嬢ちゃんも心配していましたが、大丈夫そうですね」
「すまなかった」
「謝らないで下さい。言うとすれば、お嬢ちゃんにお礼でも」
熊沢は近くに置いてあった椅子に座った。しかし、その椅子の脚が折れ、熊沢は後ろに転げる。
「ジョークか?」
シェイは冷たい目でそう言った。
「残念ながら、マジです」
熊沢は必死に起き上がろうとするが、なかなか体勢を持ち直せない。遂には、ジャックナイフで起きた。
「流石は、元芸人」
「それ、誉めてますか?」
「熊には、それで十分だ」
シェイは苦笑した。が、すぐに
「っで、今、どうなっている?」
「2体のディアモスが融合したみたいです。それで、名前を今決めているところです」
「融合……。事態は深刻か。名前を決めるとかいう悠長な時間などないはずだろ」
シェイが立ち上がろうとすると、医師が部屋に入ってきた。
「大事な話があるのだが、身内の人はいるかね?」
「……いえ、誰もいません」
シェイはそう言った。熊沢は珍しく空気を読み、黙っている。
医師は黙った。そして、口を開けると
「私達が君に施した治療は完璧ではない。別の病院に行ってもらいたい」
そう言った。そして、熊沢が呟いた。
「つまり、インフォームド・チョイスということかな……」
熊沢は発言は誰も聞いておらず、
「俺にはそんな時間、残されていない」
シェイはすぐにでも出発する気だ。
結局、シェイは医師の絶対安静を受け入れた。やむを得ず……
「中途半端な気持ちじゃ、倒せる敵も倒せませんよ」
熊沢は、院内のとあるパフェ店のパフェを食べながらそう言った。このパフェ店、世界展開する有名な店だそうだ。
朝日が窓から差し、フロールが目を覚ました。
「メネアくん大丈夫?」
何色にも混ざらない無色のフロールは、いつものように振る舞う。フロールの振る舞いは、いつもシェイを悩ませていた。シェイは、フロールに何が出来た、何が出来るのだろうかと。答えは出ない。寧ろ、答えを出したくは無かったのかもしれない。ディアモスを倒した後、何をして何が出来るのか。
熊沢は自分がこの姿になったことを自業自得というよりも、願いを叶えてくれた結果だと考えていた。あながち間違いでもないかもしれない。熊沢の願いは、多くの人々を笑わせられる才能がほしいと呪詛石の前で思った。ブラックコメットが更なる飛躍を遂げるには、自分の能力を上げる必要があると考えていたからだろう。
謎であるのが栗鼠山だ。彼、もしかすると彼女かも知れないが、彼ということで話を進める。彼は呪詛石の前で何を願い、何を思ったのだろうか。熊沢でさえ、その願いを知らない。そもそも、栗鼠山は人であった時、どんな人だったのだろうか。少なくとも、熊沢の元相方ではない。
それに、フロールの母親はどこへ姿を眩ませたのだろうか。
ただ一言言えるとしたら、物語は終息へと向かっているということだろうか……
To be continued…
当時『紅頭巾3 ~呪詛石の戦慄~』がこの話で終了。ブログ版に移行し、『紅頭巾4 ~潸然と頬を伝う紅涙~』として、続きが始まりました。このタイミングで2019年が終わり、2020年へ。1月5日までは、引き続き、毎日更新します。来年もよろしくお願いします。




