第十一篇 魔導師の謎
崩落した橋が見えてきました。シェイの魔法により、この付近が豪雪であることをあまり実感していなかったようです。フロールが上空を見て、
「ダイヤモンドダスト、見えないのかなぁ……」
「えっ!? ハウスダスト!?」
……
「あっ、ダイヤモンドダストですか。この天候だと、残念ながら、見られないでしょうね……」
この場の空気までもが凍結してしまったら、間違いなく色んな意味で死んでしまうだでしょう。熊沢はしばらく口を固く閉じました。
「できそうなことはやってみるね……」
フロールは魔法の杖を持ち、見たことない紋章を描きます。
「その呪文はなんですか?」
口は軽かったようでうす。熊沢が問うと、フロールは一言だけ
「ランダム魔法」
「それって、……」
熊沢はそれ以上言わなかった。想像通りなら、何が起こるか分からないから、恐ろしくて簡単には聞けない。魔法が発動すると、対岸に向かって、虹の架け橋ができたのです。
「これがホントのレインボーロード」
「あれ? レインボーブリッジじゃなくて?」
フロールの天然ツッコミに、全てを奪われた熊沢は、何も言えなかった。
ここまでの話をまとめると……。ロートン国のウィンターウィーク。通称、W.W.の大型連休。今年は8日間。大気が一番不安定な時期にW.W.が設けられている。W.W.の2日目にフロールと熊沢は、執事のクェーヴァーに案内され、呪詛石を手に入れた。シェイは、魔術師、フロールの高祖父の霊からフロールのことを託される。呪詛石、呪われた宝玉の首飾りを手に、フロールと熊沢は熊沢書店へと急ぐ。2体のディアモス、複合キメラのナンバー・13は、隣国のアパラザルト共和国にてフリーズ状態。龍のナンバー・16は、このロートン国上空で潜伏中。過去の記憶を喪失しているフロールに、シェイはメネアという偽名を使っている。そして、シェイはNo.16の討伐へと動く。
20年前の館焼失、曾祖父の死の謎──。7年前の事件──。ディアモスの謎──。呪詛石の力とは──。全てが明らかになるとき、新たな決断が要求されることをフロール達はまだ知らない……。
シェイは疑問に思っていた。それは、魔導師の謎について。推測でしかないが、シェイなりの解釈としてはこうだ。昔、帝国国王ルディシオンが開発させた兵器、ディアモスが7年前にフロールの何らかの力かなにかで復活を果たした。遡るとすれば、フロールの曾祖父がディアモスと何らかの関係で焼死したのか? フロールの高祖父の時代、ディアモスが出現したとすれば、ルディシオンもその時に帝国国王として……、単純計算で90年~110年前になる。約1世紀で復活したってことか? いずれにせよディアモスがこの地を襲うのは初めてではない。しかし、1世紀前くらいなら、書物や言い伝えくらいあるはずだ。忘れられたってことか? 呪詛石は一体……。シェイは答えに辿り着きそうにもない……。
熊沢は、熊沢書店のシャッター前にバイクを横付けして止めた。流石だ。積雪というのに、華麗に決めた。
「Hurry up! 兄貴からブツを受け取らないと」
熊沢はフロールを急かすというより、自分に言い聞かせているようだった。
熊沢の大きな手ではシャッターが開かず、悪戦苦闘。
「開けようか?」
フロールは杖をちょっとだけ振り、シャッターを開けた。
「熊!?」
アルバイターが死んだふり。熊沢は
「えっ!? 熊!? どこどこ!?」
と周りを見渡す。
すると、店の奥でゴルフボールを握り、大きく振りかぶって第一投!
「熊はお前だろ!!」
外角高めのスライダーだ! ゴルフボールは熊の右顔面に直撃!!
「イテッ!!」
(>_<)
茶番はフロールが閉じたシャッターと共に、強制的に幕を閉じさせられた。
「馬鹿弟、何しに来た? いや、何を仕出かした!?」
兄は熊沢のもとへ歩み寄る。アルバイターは何事もなかったかのように立ち上がり、書物の整理の作業を再開した。
熊沢は右手で瘤を抑え、床を転がるゴルフボールをちらりと見た後、苦笑いしながら左手で上を指して、
「龍が飛んでます」
と言うと、兄が熊沢を思いっきり殴った! そして、奥から一冊の本を持ってきて熊沢に投げ渡した。
「これ持って、さっさと終わらしてこい」
乱暴に渡された本のタイトルは、"SOMBRE"、闇。だが、その本の裏表紙を見ると"LUMIERE"、光と書かれていた。
W.W.の3日目の日の出……。それは、新年の初日の出でもあった。
シェイの魔法の効果が切れ、再び猛烈な吹雪となった。
To be continued…
今後のスケジュールを確認したところ、かなり話数があったので、予定を大幅に繰り上げて年末年始に一気に更新します。話数があるのに、ストーリーとしての進み具合が遅いという理由もあり……。
年末は『紅頭巾3』最終話まで更新し、元日から『紅頭巾4』に入ります。