第一篇 雪降る街
お待たせしました。紅頭巾シリーズ第三弾です。
本作の後半が『黒雲の剱』の第7部と関連するため、進められなかったのですが、今年はかなり進んで第7部が見えてきたので、『紅頭巾3・4』を開始します。
『紅頭巾3・4』も引き続き、よろしくお願いします。
空からは雪が舞い、時々吹く風で踊っているようです。街の屋根は薄らと白くなりつつあります。フロールはいつものように、トレードマークである紅色の頭巾を被り、配達に専念しています。母があの後失踪し、フラワーショップ・紅は、今年の冬よりも厳しい寒さを痛感する窮地に立たされていました。ラオ店長は、いまだにトドの姿で、浴槽の水に浸っています。店長が動けないというのは、経営難どころか、いろいろと問題が起きそうですが……。
隣の熊沢書店では、熊沢さんが、店長である兄にこっぴどく叱られていました。その理由は、熊沢さんが書店の通路にテーブルと椅子を置き、優雅に紅茶を飲んでいたからです。なんで、そんなところで飲んでいるのでしょうか。本に紅茶がかかるとか言う次元じゃないですよ。
「そんなところで紅茶を飲むなんて馬鹿か!? そんな暇があるなら、隣を手伝え!」
店長は熊沢を、文字通り、放り出します。外に追い出された熊沢さんは黙りました。反省しているのでしょうか。熊沢さんの頭に、白い雪が積もります。雪で頭を冷やしているようです。
ダンボールを抱えた人物が、書店前に来ましたが、熊沢さんの棒立ちを見て戸惑い、
「新書が入りましたよ」
でも、熊沢さんは遠くを見つめたまま、黙っています。店長は、熊沢さんにわざと聞こえるように、
「アルバイトは、よく働くやつだよ。お前とは大違いだな」
そう言い残して、アルバイトと一緒に、店の奥へと姿を消しました。熊沢さんは、振り向かずにとぼとぼ歩き、
(Mistakeだったのかなぁ……)
見上げても、雪雲が空を包み込み、ただそこから雪が降ってくるだけだでした。
飛蝗君に会って、熊沢さんの何かが変わったようです。今までの自分を振り返り、迷っていました。自分は、何をすべきなのか……。
熊沢さんがそのままとぼとぼと歩いていると、フロールに出会いました。熊沢さんは、すぐに気持ちを切り替え、
「お嬢ちゃん、手伝いましょうか?」
と、フロールにいつもの調子で尋ねると、
「大丈夫。今日の分は全部終わったから。それに、明日からは休みだしね」
と、笑顔で答えたのでした。
明日からは、ロートン国のウィンターウィークです。通称、W.W.などと言われる冬の大型連休で、今年は8日間です。この地域は、この時期、激しい吹雪に見舞われ、外出など到底できないときがあります。そのため、大気が一番不安定なこの時期に、大型連休のW.W.という制度があるのです。天候に左右されるため、毎年開始の日にちは変動します。とはいえ、おおよその時期は決まっているため、変わっても1週間前後ですが。
フラワーショップ・紅に戻ったフロールは、熊沢さんに手伝って貰いながらシャッターを下ろします。店内の棚には、花が数輪しか残っておらず、W.W.前の売れ残りとしては、平年並みになったようです。
「寂しくありませんか?」
唐突に熊沢さんが聞いたのもの、自分で聞いておきながら、後悔しました。フロールの気持ちを一瞬でも考えなかった自分の失態です。ただ、フロールは素直に答えます。
「淋しいよ……。お父さんは、どこかに行っちゃったお母さんを探しに行ったきりだしさ……。お祖父ちゃんは、野生の狼に拉致されたお祖母ちゃんを助けに行ったし、折角友達になれた飛蝗君もどこかに行っちゃったみたいで……」
(あれ? 何か今、さらりと大変な事を聞いた気が……)
と、熊沢は感じた。祖母は、よく野生の狼達に軟派されていたが、仕舞いには攫われたようです。あなや……。
「お嬢ちゃん、あの……」
と、熊沢さんは言葉にも詰まったようです。言うべきか言わぬべきなのか。
「ねぇ、くまたんなら知ってるのかな? ジュソセキって、知ってる?」
不意を衝かれました。熊沢さんは、暫く何も言えませんでした。迷っていたことを言う前に、先手を取られたようです。呪詛石について、熊沢は酷く悩んでいたのです。
「明日、隣の書店に来て下さい」
そう言って、熊沢はその場を立ち去りました。
(お嬢ちゃんに言うには早すぎる気がするけど……。兄貴から聞いた20年前のことも言うことになるけれど……)
深刻になる熊沢は、この日は一度も笑わせようとしませんでした……
To be continued…
いつもと異なり、少しシリアスな感じで始まってますが、いつも通りの『紅頭巾』になると思いますので、ご心配なく(?)
すでに、”呪詛石”に関しては、前作『紅頭巾2』でシェイと熊沢が話していましたが、一体”呪詛石”とは何なのか。次回に続きます。