7話
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
店の扉を開けると、メイド服姿の女性たちが一斉にそう言った。
「何が、お嬢様だ。私は魔王だぞ。それにここは私の家ではない」
「マオ、そういうコンセプトのお店なんだ。自分がここの主人になったような体験をできるっていう、、、」
「それはそれは申し訳ございません。魔王さまでしたか。お帰りなさいませ魔王さま。こちらへ。ここが我が家のように、どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さいませ」
「うむ、そうか」
そう促され、マオは店内へと入っていく。
店員さんの対応力すげぇ。
「では、ご主人様、魔王さま。何になさいますか?」
メイドはそう言ってメニューを持ってきた。
マオはよくわかっていないので、適当にソフトドリンクを頼む。
「ここの主人は、客人を招くのが趣味なのか。随分多くの客人を招いているのだな。しかし主人の姿が見えぬが。それに晴人のことを主人と呼ぶし、おかしな場所だ」
「だから、そういうコンセプトの店なんだって。まぁもういいけど」
メイド喫茶というのは初めて入ったが、店員がメイド服を着たってだけで普通の喫茶店と変わらないな、と感じる。聞いた話では、メイドとミニゲームを行ったりする店もあるらしいが。
祖父もこういったところに通っていたのだろうか。今ではマースフィードの城内で、本物のメイドと暮らしているわけだが。
「お待たせしましたご主人様、魔王さま」
メイドがやたらカラフルなジュースの入ったグラスを二つテーブルに置く。
「ですが魔王さま。こちらまだ完成ではないのです。美味しくなる魔法をかける必要があるのです」
「なんと美味しくなる魔法か。そなたは魔法使いなのか。なぜメイドなぞやっておる」
「マオ、だからそういうのは、、、」
「いえ、私は美味しくなる魔法しか使えませんので、メイドとしてしか働けないのです」
俺の言葉を遮るかのように、メイドがマオの言葉に乗っかる。先ほどからここのメイドさんたちは、返しが上手い。もしかしたら、こういった質問に慣れっこなのかもしれない。
「そうか、そなたも大変だな。しかし美味しくなる魔法なぞ、私も聞いたこともないからな。そんな魔法を使えるということ、自信に持って良いと思うぞ」
「ありがとうございます、魔王さま。ではご一緒にお願いします」
「何、一緒にせんといかんのか。私は使えぬが、魔力補助をせんといかんということか。かなり高度の魔法のようだな」
「では行きます。美味しくなーれ、萌え萌えビーム! はい、出来上がりました」
「なんと、何も魔力を感じなかったし、この飲み物にも変化を感じられなかったが」
そう言いながらストローに口をつけるマオ。
「うむ。少し甘い気もするが美味しいぞ」
「その甘さは、私の愛でございます」
「そうか、こんなふらっと訪れた客に愛を持つことができる。そなたは立派なメイドになれるであろう。他にも何か魔法は使えるのか?」
「ホットケーキに美味しくなる魔法の絵を描く事ができますが」
「魔法の絵? 魔法陣か。しかも描くことでホットケーキが美味しくなるということは、召喚系の魔法陣ではなく、能力付加系統の魔法陣ということか。昔、剣や鎧に魔法陣を描くことで、その能力を高めて挑んできた勇者もいたそうだが」
結局マオはそのホットケーキも頼む。
メイドはホットケーキを持ってくるとチョコレートソースでネコの絵を描いた。
「これはまた素晴らしい。本当に絵のような魔法陣だな。本当にこの世界は不思議で面白い」
そう喜びながらホットケーキを頬張る。
「ご主人様も何かいかがですか?」
「いや、俺はいいです」
「なんだ? 晴人は食べないのか? 腹でも痛いのか?」
痛いのは腹じゃなくて、財布だよ。
メイド喫茶は思ってた以上に高い。手痛い出費だ。
城にいたメイド達には、いろいろと生活の世話をしてもらっていたが、このくらいの金がかかっていたのだろうか。そう思うと自分で出来ることは自分でやってメイドを減らすということも考える必要があるのか。しかしそうすれば城で雇っているメイドの生活はどうなる?
そんなことを考えていたら、ホットケーキをすっかり食べ終わったマオは「美味しかったまた来る」とか言って店を出ていこうとしたので、慌てて二人分の代金を支払って店を後にした。
「良いところだったな。また来よう、晴人よ」
「まぁ良いところだったな。でもあまり気はやすまらなかったけど。あとマオ、割り勘だからな。後で払えよ」
「割り勘? なんだそれは」
そんなことを話しながら、二人で葵先輩とダイちゃん先輩の下へと向かった。