6話
駅を出ると、高いビルが乱立し、そこかしこにアニメの絵が描かれているのが視界に入る。
「おぉ、ここがウワサに聞くアキバか」
とりあえず「そうだな」と応えておく。今日もマオのテンションは高めだ。
今日は土曜日。大学は休みだ。
昨日、葵先輩がマオに「アキバにいってみないか」と誘ったのだ。
「ここは聖地らしいからな。魔王である私からしたら、滅ぼすべき場所なのかもしれないが、葵殿の勧めだからな。今日は大人しく楽しもうと思う」
「ぜひそうしてくれ」
本当に切に願う。
「ところで葵先輩はどこにいるんだろう」
秋葉原駅前で待ち合わせのはずなのだが。先輩を待たせてはいけないと、待ち合わせの時間より少し早く着くよう出かけたのだが、向かっている途中で、先に着いたと葵先輩からメールがきていたのだ。
だからどこかにいるはずなのだが。
「やあ二人とも、おはよう」
そう言ってこちらに近づいてきたのはダイちゃん先輩だった。
「おはようございます。ダイちゃん先輩も来られてたんですね」
「葵に呼ばれてね」
「ところで、その葵先輩は?」
「アイツな。さっきまで一緒にいたんだが、アニメのイベントがそこではじまったとかで、そっちの方に行ってしまったよ。それを伝えるためにここで待ってたんだが。どうする? 君らも行くか?」
「ダイちゃん殿、それは魔法ものか?」
「いや違うよ。普通の学園ものだったはずだ。女の子が歌ったり踊ったりするやつだったはず」
「そうか、ならいい」
「いいのかよ!」
思わずつっこんでしまう。
「ホント、マオちゃんは魔法が好きだね。俺はアイツが心配だから様子を見に行ってくるけど。じゃあ二人は適当に時間つぶしといてよ。イベント終わったら連絡するからメシでも食おう」
そう言ってダイちゃん先輩は行ってしまった。
「どうすんだよマオ。行っちゃったじゃん。時間潰せって言われてもなぁ」
「まぁそう言うな晴人よ。適当に歩いていれば何かあるだろう。何せここは聖地なのだろう? 神の一人や二人いるだろ」
いや、いないだろ。ここはそんなところじゃない。
もしかしたら、ごくごく限られたコミュニティで〇〇神とか呼ばれている人はいるかもしれないが。
「おぉ晴人、見てみろ。メイドがいるぞ」
メイドは知ってるんだ。そうか、マースフィードにもメイドくらいはいたか。
「メイド喫茶はいかがですかぁ」
「のうそこのメイド。どこに仕えているものだ? 屋敷を離れてこんなところにいていいのか?」
「私はここ、メイドインファンタジーのものですよ。よろしければ、ご案内しますよ?」
「案内するとは、そなたの仕えている主人の屋敷に向かうということか?」
「違うよマオ。彼女たちは本物のメイドじゃない。飲食店の従業員なんだ。ただ店のコンセプトとしてメイドの格好をしているんだよ」
「違いますよぉ。私たちは本物のメイドですよ」
「ほら、本物のメイドと言っているではないか」
「あぁ、話しをややこしくする」
「まあよい。面白そうだ。このような聖地に居を構える御仁。きっとこちらの世界の高名な者なのだろう。案内してくれるというのだ。行ってみようではないか」
「では、お二人さまごあんなーい」
そうして俺たちは、雑居ビルの細い階段へと促された。
聖地に住む高名な人物が雑居ビルの二階に住んでるわけないよな。でもまぁ時間が潰せればそれでいいか。そう思いながらメイドの後について行った。