4話
マオがマホ研に来てから数日が経った。
マオはマホ研にあった古いアニメを順番に見ている。やはりお気に入りはハイファンタジーもののようだ。ここにはアニメしかないが、今度レンタルビデオショップにでも行って、洋画のハイファンタジーものでも借りて来てやろう。
一方、葵先輩ともうひとりの先輩である川谷大地さん。通称ダイちゃんは、もう一つのモニターで格闘ゲーム『ファンタジックソード』をやっている。
葵先輩は美少女好きで、アニメでもゲームでも美少女がたくさん出てくる物が好きだが、ダイちゃん先輩は、カッコイイ物が好きで、特にゲームなんかで男らしいキャラなんかが好きだ。
今やっている『ファンタジックソード』も中世ヨーロッパをイメージしたファンタジーものの格ゲーで、西洋騎士や魔法使いなんかが出てくるのだが、葵先輩は少女の魔法使いを使用し、ダイちゃん先輩は最近DLCで配信された侍キャラを使用している。
「ダイちゃん、ぜんぜん攻撃通らねぇんだけど」
「ダメだよ、弾キャラはもっと弾撃って牽制しないと」
「でもそのキャラ弾抜けしてくんじゃん」
なんかそんな話しをしながら、楽しそうにやっている。
マオの方も、ノートにペンを走らせながら「なるほど、魔法が使えないエリアを作って敵軍の魔法部隊を誘い込むという作戦もあるのか」とか、ブツブツつぶやいている。
去年は三回生のサークルメンバーがいなかったので、四回生の先輩が卒業してしまってから、マホ研のメンツは、この4人ということになる。
そんな俺以外の三人の後ろ姿を見つめながら、俺もお気に入りのラノベを読んだりして大学での放課後を満喫する。
だがそこで、一つの違和感に気がついた。
そういえば、去年もこんな感じで先輩たちがアニメ見たりゲームやったりしている後ろ姿を見ていたが、去年と違うところがある。それは、、、
先輩がもう少し俺に絡んでくれたことだ!
去年は卒業してしまった先輩たちもそうだが、葵先輩やダイちゃん先輩も俺に話しかけて来てくれた。オススメのマンガやアニメを紹介してくれたり、有名RPGのナンバリングの新作が出ると、歴代作品の説明をホワイトボード使ってしてくれたり。
今年はそれがないのだ。
じゃあなぜ葵先輩やダイちゃん先輩はマオに絡まないのか。
嫌いなのか。
それは断じてない。
マホ研に来てからとても嬉しそうだったし。
そもそもお互い自己紹介程度でほとんど話しをしていないのだから、お互いを知らない状態で嫌いになりようがない。
それに葵先輩は美少女好きだ。なんなら今も黒服の魔法少女を使っている。ならなぜ話しかけないのか。
そういうことか。
三人は緊張しているんだ。
俺がこのサークルに入って1年しかいないが、先輩に女性のメンバーはいなかった。だから、先輩たちは女性メンバーとどう絡んでいいのかわからないのか。
マオも異世界に来て、異世界人との絡み方をわからないでいるのかもしれない。
といっても、俺自身もよくわかっていないのも確かだ。
マースフィードにいた時で、女性と会話したのは、母親と祖母、あとメイドくらいだ。そもそもメイドとは会話ですらない。こちらがお願いしたことを「はい」と言って聞いてくれるくらいなものだ。
こっちの世界でもエルダさんくらいとしか会話してない。そういや、大学内でも女性と会話することなんてなかったな。
やばい、そう思うと女性との会話ってどうすりゃいいんだ。
「葵先輩、葵先輩」
「おう、どうした晴人よ」
ゲームをしながら応えてくれる。やはりゲーム画面では、葵先輩が圧倒的に負けている。完全にダイちゃん先輩の新キャラのコンボの練習台だ。
「もう少し、マオと絡んだ方がいいんですかね」
「そうか? 本人もアニメ見て楽しそうだし、いいんじゃないか?」
「せっかく新入生も入ったことですし、一応サークルなんですから、みんなで何かやったほうがいい気もするんですが」
「みんなでねぇ、、、」
葵先輩が少し悩む。そこにスキが生まれ、ダイちゃん先輩の華麗なコンボが入り勝負が決する。
「じゃあさ。新入生歓迎会でもするか」
「歓迎会か。そうですね。すごくサークルっぽいですね」
いい案だ。さすがは葵先輩。ダイちゃん先輩も「いいよぉ」と同意してくれている。
それならみんなの仲も深まるだろう。飲み二ケーションというやつだ。
「では自分が店探して予約しますね」
スマホを開いて、良さげな店を探す。個室とかより賑やかな場所なんかの方がいいだろう。
「というわけだマオ。これからみんなで居酒屋行こう」
するとマオからとんでもないセリフが返ってきた。
「今、いいとこだからやだ」
そして部屋の中が氷ついた。