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ヲタサーの姫は魔王さま  作者: オシボリ
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3話

「お帰りなさい。夕飯出来てるわよ」

 玄関を開けると、奥から女性の声が聞こえた。

 カチャカチャという音が、玄関からすぐの扉の奥から聞こえる。その扉を開けると、熱気と美味しそうな料理の匂いが顔に押し寄せる。

 目の前には大きな厨房とカウンター。その奥にはテーブルがいくつかならび、数人のサラリーマンが食事をしている。

 そうここが俺の家。マースフィードの国王である父が用意してくれた、この世界での俺の家だ。

「ただいまエルダさん」

「お帰りなさい晴人」

 エルダは大きな中華鍋を振るいながらそう応えた。

 

 俺がまだ幼い子供の頃、その頃から俺はこちらの世界に行きたいと言っていたらしい。祖父は「何事も経験だ」と賛成してくれたが、それを不安に思った父は、先行してこちらの世界で暮らし、こちらの生活に慣れることで、俺がこちらの世界に来たときにサポートできる人を用意することにした。そこに名乗りをあげたのがエルダさんだ。

 エルダさんの母は、マースフィードで食堂兼宿屋を経営し、祖父が魔王討伐の旅に出た時に、食事の世話や旅の仲間を紹介したりと非常に貢献してくれた人物だ。

 娘のエルダさんも、そんな母親に憧れ、子供の頃から料理の修行をしていたらしい。そして、新しい世界で料理人をしたい、また我々王家の力になりたいと名乗り出てくれたのだ。

 今では、こちらの世界で見たこともない料理が食べられると人気の食堂となり、大繁盛している。俺のサポートをするどころか、休みの日は店を手伝わされるくらいだ。まぁそこで得たバイト代で美少女フィギアを買えるから、割と率先して手伝っている。

知ってた? 親の金で買うフィギアより、自分で稼いだお金で買うフィギアの方が可愛く感じるんだ。


「ところでエルダさん。これは、、、」

 一緒に家に入ってきたマオを指差す。

「お帰りなさい、エグゼローザちゃん」

「うむ」

 マオはそう言って少し頭を下げると、階段を上がっていった。

「エルダさん知ってたんですか? 俺聞いてないですよ」

「言ってなかったかしら。国王様からは聞いていたけど」

「すみませーん」

 新しく入ってきたお客さんが声をかけてくる。

「はーい、今いきまーす。ごめんね晴人。今、立て込んでるから」

 今炒めていた中華鍋の中身を皿に盛り付けると、お客さんのところに持っていき、さっき声をかけてきたお客さんの方へ注文を取りに行く。

 俺もそんなに手伝えないんだからバイト雇えばいいのにって思うが、もうちょっと忙しくなるまで一人で頑張ると言っている。母はもっと頑張っていた。私も負けてられないとのことだ。

 厨房との扉をそっと閉じると、俺も階段を上がる。2階には部屋が4つもある。エルダさんが母親に憧れて、食堂兼宿屋をやろうとした結果らしい。実際に、初めはそうしていたらしいが、俺が一緒に住むようになってから、俺に危険がおよぶ可能性があると、やめてしまった。だから俺の部屋以外は空き部屋のはずだが、その一つからマオが当たり前のようにでてくる。しかも先程までの全身黒づくめから、胸にトロールをユルくしたような絵のプリントされたパーカーにモコモコしたズボン姿に着替えている。完全な部屋着モードだ。

「そんな服持ってたの?」

「エルダが用意してくれた。そんなことより飯だ晴人よ」

 そう言うとマオはまた階段を下りていく。

 というか「飯だ」って、1日しかいないのに馴染み過ぎじゃないかこの世界に。そう思いながら俺も部屋にカバンを置くと、階段をおり、先ほどの食堂とは逆側の扉を開ける。

 テーブルには、ラップのかけられた料理があり、その向かいでマオが黙々と食事をとっている。

 俺も、椅子につくとラップをとる。

 豚と野菜の炒め物だ。マースフィードでは、ポーウィルという家畜の肉をよく使うがそれを豚肉に変えた料理だ。なのでこの世界の他の食堂での豚肉と野菜の炒め物と多少感覚が違う。エルダさんは、マースフィードの料理法を使って、こちらの世界の食材を調理するので、独創的でとても人気がある。

俺も、城で食べていた宮廷料理とも違い、味付けがしっかりしていて食べ堪えがあり、すごく気に入っている。

 俺も早速食べ始める。

「美味いな」

「そうだな」

 そう応えながら箸をすすめる。

 マオも箸を使っているが、多少もたついている。

「そのマースフィードだっけ? そこにも箸はあったのか?」

「ないよ。しかしこちらに来ると決めたとき、食事はこの二本の木の棒を使うと聞いたからな。練習したのだ。どうだ? 上手いだろう?」

「あぁ」

 ぜんぜん上手くはないが、とりあえずそう答えておく。

「食事の時に、木の棒を二本使うから、この国の名はニホンというのか?」

「違うよ」

「そうなのか」

 マオは、何が面白いのか、ケラケラと笑っている。笑いのツボがわからん。

「この世界には、いくつもの国がある。でも食事で箸を使う国はあまりない。食文化も住まいもマースフィードに似た国は他にもたくさんある。それなのになぜこの国を選んだんだ?」

「それには、少し話が長くなるがな」

そう前置きして、マオは話し始めた。

「先程も言ったが、マースフィードで私は魔王なのだ。というか正確には元魔王の孫だな」

 マオは魔王の孫なのか。勇者の孫である自分。少し親近感が沸いた。

「私の祖父は魔王だった。マースフィードではなかなかの権力者だったのだ。しかし、争いがあり祖父は打倒された。我が産まれる前の話だ。それから我ら一族に権力はなくなり、ひっそりと暮らしていた」

 やはり魔王の子供が逃げ延びていたのだ。祖父や父はそれを知っていたのか。

「しかしそれは苦ではなかった。産まれた時からそういう生活をしていたからな。そういうものだと思っていた。祖父を打倒した者にも恨みなどはなかった。むしろ興味が沸いた。なぜならマースフィードとは違う世界から来た青年だというではないか。強大な力も魔力も有していた祖父が、争っていた人間どもの軍隊をいくつも返り討ちにした祖父を、その異世界から来た青年と数人の協力者のみで倒したのだ。興味が沸くだろう。どんな世界なのか、毎日そればかり考えながら暮らしていた。そして従者の一人にこちらに来る方法を探らせていたら、それを知る者を見つけてきてくれたのだ」

 なんか一緒だなと思った。俺もずっとこの世界のことが気になってた。ずっと来たかったのだ。マースフィードの人々が長年ずっと憎しみ争ってきた魔族の親玉である魔王の孫と俺が同じ考えを抱きながら育ってきていたのだと思うと、なにか感じるものがある。

「それから、こちらの世界についていろいろ勉強した。言語も文化も少しは覚えたつもりだ。大学の入学試験はかなり難しく、苦労したがな」

「魔王の孫なんて人が、この世界での暮らしが、こんな狭い家で良かったのか?」

「はじめは驚いたが、こちらの世界には何のつてもないからな。贅沢はいわない。こちらにこれただけでも奇跡みたいなものなのだ。それに従者も連れてこれないとのことだったのでな。一人でいるよりマシであろう」

 まぁ俺も、まさか魔王の孫と一緒に暮らすことになるとは思わなかったよ。

 そんなことを思っているうちに、見るとマオは食事を食べ終えたところだった。

「うむ。今日はいろいろあって疲れた。もう休むとするよ」

 そう言って立ち上がる。

 俺も何か疲れたよ。

「明日からも、よろしく頼む晴人よ」

「あぁ、よろしく」

 なんだかこれから大変な生活がはじまりそうだ。

 マオがリビングから出ていこうとしたとき、ちょうどエルダが入ってきた。

「もう食べ終わっちゃったの? ちょうどお客さんが落ち着いたから、様子見にきたんだけど。エグゼローザちゃん、お口にはあった?」

「うむ、美味しかったぞエルダ。あと、これからは私のことをエグゼローザではなく、マオと呼んでくれ」

「マオ、、、ちゃん?」

「そう、その呼び名、気に入ったのだ」

 そう笑顔で言うと、マオは自室へと戻っていった。


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