29話
いくつかの山や森を抜け、約二日かけて、やっと目的の場所へとやってきた。
小さな集落だ。古びた家々が見える。王都の城下町に比べてかなりみすぼらしく見える。まぁ当然かもしれないが。規模にして、1000人ほどが住んでいるだろうか。
ただ異様なのが、集落はみすぼらしいのに、その周囲を石作りの堅牢な塀へ覆われている。まるで城壁だ。そしてその城門には、門番が一人。
そう、ここは、かつて魔王が打倒され、残された魔族を閉じ込めている、通称魔族村である。もちろん、あの城壁も門番も村を守るためではない。村人を外に出さないための檻と看守だ。
そしてマオが育った場所だ。そしてマオの母親がこの中にいるはずである。そしてリディアの占いでは、ここにマオもいるとのことなのだ。
「少ないですね」
リナがつぶやく。
「何が?」
「衛兵の数です。以前、一度ここに父と訪れたことがあるのですが、その時はもう少し多かった気がします」
「王都の反対側から魔王軍が攻めてきたんだ。そっちに行ったのかもな」
「しかし、それでここが手薄になれば、内外から城壁を破ろうとするものが現れる可能性もあります」
「それくらいは衛兵たちもわかっているはずだ。そのくらいの警戒はしているはず。なので俺たちも慎重に行動しないと、、、とりあえずどうやって入るかだけど、、、」
「それなら」
そうリディアが言うと、何かに語りかけるように言葉を紡ぎ始める。
「精霊魔法ですか? 自然界に住む精霊から力を借り、魔法へと変換する」
イルナの言葉に、リディアはニコッと微笑む。
そして、俺たち4人の姿が消え始めた。
「水の精霊の力を借りて、空気中の水分を利用して光を屈折、姿を消したわ。でも流石は魔族の集落のそばと言ったところかしら。精霊たちの力が弱いわ。あまり長くは持たないかも」
さぁ急ぎましょう、というリディアと共に、城門に向かう。そして衛兵が交代のため、通用口の扉を開けたタイミングで侵入した。
そして、リディアの言葉どおり、入った瞬間に透明化は切れてしまった。俺たち4人は慌てて近くの部屋へと入る。
「都合がいい、更衣室のようだ。制服を拝借しよう」
そして掛けてある制服や鎧を手に取る。
そこで固まっている三人の姿があった。
「どうした? 早くしないと衛兵が来るかもしれない」
「ラインハルト殿下? 私はよろしいのですが、他の二人はどうも、殿下のお側での着替えというものに不慣れなようで。恐れ入りますが、あちらを向いていただけると、、、」
「ご、ごめん!」
リディアの苦い笑みを浮かべならの忠告を受け、慌てて部屋の隅へと移動した。
「申し訳ございません。何分まだ成熟とは程遠い未熟な肌ゆえ、晴人様の前に晒すには未だ失礼かと。晴人様がご所望とあれば、この肌身を捧げることなど、光栄以外の何者でもないのですが」
「いいから早く着替えて」
リナの言葉を遮るように、着替えを急かす。
そして、衣擦れの音だけが静かに聞こえる。
「あのイルナさん。この服キツくて」
「リナさん、大丈夫ですよ。今、調整しますね。リディアさんも少し待ってくださいね。二人とも胸元が豊かですから。羨ましいです。私なんて、ちんちくりんなんで、袖と裾しか調整するとこないのに」
そんなこんなで、なんとか魔族村への潜入は成功した。