24話
「お久しぶりね」
現れたのは山田尚子こと魔王エリスだ。今日もまた以前とは違うコスプレをしている。おそらく何かのゲームのキャラなのだろうが、俺も最近ついていけなくなってきた。
「あぁエリスか。ひさしぶり。今日のコスプレも似合ってるよ」
「まぁありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
エリスにも、冬コミに参加することはメールしていたので、ねぎらいに来てくれたのだろう。
「コスプレ撮影はいいのか?」
「一旦休憩。流石にずっとは疲れるしね。それに寒いし」
「まぁ海風がね。それに今回も露出多いし」
「その辺は気合よ」
エリスの今回の衣装も露出多めだ。夏コミの時も日焼けが大変そうだったが、冬コミは冬コミで寒そうだ。そういうところはコスプレも大変だと思う。
「ところでお宅の魔王さまはどうしたのよ」
「どっかで休んでるよ。ギリギリまで頑張ってたんだ。しかも昨日まで緊張であまり寝てないらしい」
「あっそ。貧弱な魔王さまね」
呆れた様子のエリスだが、どこか寂しそうだ。
「ところでさ、晴人」
「なに?」
「私たちって、コミケでしか会わないじゃない?」
「そうだな」
「だからその、、、もう少し別の機会にも、、、」
「晴人さまぁぁぁ」
「どうしたんだリナ、血相変えて」
突然、リナが走り込んでくる。
「あらあなたは以前の偽魔王」
「あなたは何か剣を振り回していた、晴人の知人とか友人とか」
「そんなことより晴人様」
「そんなこと、、、って」
不機嫌そうなエリスには気にせず話を続けるリナ。
「幼い少女に、ふしだらな行為をする書籍を描いている不届き者どもに、説教をしてまわっていたのですが」
「何やってんだよリナ、、、」
「そんな中、見つけてしまったんです。男性同士で、その、ふしだらな行為をする書籍を!」
「あぁBLね」
「あんなものが許されるというのですか!」
「いいんじゃない? 考え方や趣味嗜好は人それぞれだし。所詮は、マンガの中だけだし(いや現実にもあるけど)」
「なるほど。マンガの中ならなんでもあり。そういうものなのですね。わかりました。私はもっと世の中について知る必要があるようです。もう少し、その、そういった考え方について勉強して参りたいと思います」
そう言って、また駆け出すリナ。
「あぶないから走るなよリナ」
「変わった子ね彼女。今どきBLくらいで」
「彼女の家は、えーと、なんていうか昔ながらのお堅い家で、道場みたいなのもやってて。最近なんだよ、こういうのに触れるのは」
「そうなの」
「ところで、さっきの話し。なんだっけ」
「いや、いいわ。またメールする。一冊ちょうだいその本」
そう言って千円札を差し出す。
「いいって、あげるよ」
「いいの。彼女に借りを作りたくないのよ」
そう言って、強引に千円札を渡すと、マオのマンガを一冊受け取って帰っていった。
「あれ、さっきのエリスちゃん?」
「葵先輩、おかえりなさい。どうでした?」
「おうありがと。戦利品がっぽりよ」
先程まで、お目当ての同人誌を探しに行っていた葵先輩は、両手に大きな髪袋を下げている。ずっしり重そうだ。背中のリュックもパンパンである。
「そういやマオちゃんは、まだ帰ってこないのかい?」
「そうなんですよね。どこで油売ってんだか」
「店番替わってやるから、探してこいよ」
「そうですね。ありがとうございます」
そして、俺はブースを離れ、マオを探しに会場中を回った。
だが、マオの姿はどこにもなかった。
そして、別の人物がそこに現れた。
「カーウェン先生」
「お久しぶりですラインハルト様」
「先生の黒マント。ここでは違和感ないですね」
「外は寒いですからね。防寒にもなってちょうどいいですよ」
「ところで、先生がいらしたということは、何かあったんですか?」
「察しがいいですね。流石は勇者の血といったところでしょうか」
「いいから、そういうの。俺、今少しイラついてるんだ。用があるなら早くしてくれないか?」
「マースフィードへお戻り下さい」
「まだ帰らないと言っただろ」
「魔王軍が挙兵しました」
「それはホントか!?」
「えぇ。それに、率いている者は、魔王の孫と名乗っているそうです」
「なんだと! 魔王の孫? そんなバカな」
「お戻りいただけますか?」
「あぁ、当たり前だ」
そして俺は、約二年ぶりにマースフィードに戻ることにした。
「お久しぶりね」




