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ヲタサーの姫は魔王さま  作者: オシボリ
22/37

22話

 この街一番の繁華街へとやってくる。

 電車の中からかなりの人で、駅を出れば、それこそ祭りさながらだ。

 ミイラ、ゾンビ、吸血鬼と定番キャラのコスプレから、看護師やCA、また有名アニメのキャラクターなど、ハロウィン関係なさそうなのまでいる。

 ちなみに俺は、当然普通の普段着だし、となりのリナは、当然全身銀の鎧を身に付けている。ちなみに長剣は置いてこさせた。流石に長物は法律に引っかかる。

 始め、少し抵抗したリナだったが、お前の実力ならこちらの世界のモンスターなど、素手で大丈夫だ。それにいざとなれば、魔法でなんとかなると言って、説得した。

 電車の中でも、ゾンビのコスプレをした青年に襲いかかろうとするのを止めるのが大変だった。

「街の者がこうやってモンスターの格好をすることで、本当のモンスターに仲間だと認識させて、襲われないようにしているのですね」

「いやちょっと違う。モンスターの格好をすることで、仲間ですというアピールをして、モンスターを喜ばせることで、気を静めているとかって説もある」

「なるほど、興味深いですね」

 そんな話をしながら二人で、街を練り歩く。途中の売店でチュロスとジュースを買う。

「なんか、こうして歩いていると、お祭りに来た若いカップルのようですね」

「えっ?」

「いえ、なんでもないです。そんな晴人様と、そんな、、、」

 急に黙るリナ。

 そう言えば、こうして女の子と二人きりで歩くのは久しぶりだ。

 マオは、あの似顔絵師の下へ行ってからほとんど会っていない。夏休みが終わり、大学が始まってから、講義にはくるようになったが、家には帰ってはこず、それどころかマホ研にも顔を出さない。

「ちゃんとやれているんだろうか」

「えっ? 晴人様、なんですか?」

「いや、なんでもない」

「そうですか。って、あれは!」

 そう言って駆け出すリナ。

 そこには倒れている男性がいた。顔から血を流している。

「大丈夫か。怪我をしているのか? 今、治癒魔法を」

 リナは魔法の詠唱を始める。

「リナ、その人は怪我人ではない」

「いやしかし、頭から血が。意識もない」

「それはペイントだ。そういう化粧だよ。意識がないのは、酔っ払って寝ているからだ」

「本当ですか?」

 リナはそう言いながら、血を指で触り感触を確かめたり、口元に耳を近づけたりする。

「確かにそのようですね。血ではなくこれは塗料。息も落ち着いているし、酒臭い。なんと紛らわしい。これでは、本物の怪我人との見分けがつかない。それにモンスターも。あっ待ってください。魔力を感じます。こっちです晴人様」

 また走り出すリナ。

 魔力? そんなはずは。ハロウィンに本物のモンスターがいるはずがない。そう思いながら、後を追う。

 そこにいたのは見知った顔だった。

「貴様はガイ! こんなところで何をしている!」

 そこには、魔王軍の将軍で、現在ヨーチュー員のガイがいた。相変わらず女の子に囲まれている。

「やぁ、晴人にカス子ではないか。久しぶりだな」

 いつものスーツ姿に、顔を少し爛れさせたようなペイントをしている。ノリもいつもの軽い感じだ。

「何って、せっかくのハロウィンのお祭りだろ? 配信するネタ探しに決まってるじゃん。夏は女の子は、露出が上がるからそれで視聴数稼げるんだけどな。秋になると女の子たちの露出減るからね。でもハロウィンはさ。なぜか露出の多い女の子が増えるらしいからね。稼ぎ時なんだよ」

 露出の高い素人女性をネタにして視聴数稼ぐとか、なんという姑息なやり口。イケメンキャラで女性人気集めるだけでは飽き足らず、男性人気にも手を出し始めたか。

「嘘をつくな。どうせ、異界からのモンスター襲来による混乱に乗じて、貴様も魔王軍を呼び寄せ、この世界を支配するつもりだろ!」

 またリナは、よくわからん勘違いをしている。

「それもいいね。この世界を支配できれば、わざわざ視聴数稼ぎで悩まなくても、この世の富も女もすべて手に入るからね。しかし、ヨーチュー員の中でもトップクラスの私ともなれば、富も女もそれなりに手に入るのさ。モンスターにこの世界襲わせて、女性が危険な目に遭うより、その方が簡単だろ? みんなもそう思うよな。無理やり言う事聞かされて、好きでもない男に従うより、好きになった男と一緒にいたいよな?」

「「「キャー、ガイさまぁ」」」

 なんか、盛り上がってる。よくわからないところで盛り上がってる。

「ちょっとなんなんですかあのセンスのない女」

「そうですガイさま。あの感じの悪い女、知り合いですか?」

「きっと、ガイ様への思いを素直に表現できないのよ」

 なんか、取り巻きの女の子たちが言い始めている。あれはあれで平和でいいのだろうか。

「晴人様、なんか腹立つんでやっちゃっていいですか?」

「ほどほどにな」

 そう言うとリナから食べかけのチュロスとジュースを受け取る。

 リナは両手を構えると、拳の周りが淡く光りだす。

「ちょっと君たち離れてなさい。スパーリングの時間だ」

「えー、あんな女、放っておきましょうよ」

「たまには運動もしないとね。後でマッサージしてくれるかい? ベッドの上で」

「もう、エッチ!」

 女の子たちがガイから離れると、リナとガイ、二人の空間が生まれる。そして、拳と拳のぶつかり合いが始まった。

 警察に見つかったらヤバイな。そうあたりをキョロキョロと見渡していたら、後ろから肩を叩かれた。

 えっ? もう警察が来た? そうビビリながら振り向くと、一人の少女がいた。

「マオ!」

「晴人、ただいま」

「うん、おかえり」

 マオは少し照れくさそうに微笑んだ。


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