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ヲタサーの姫は魔王さま  作者: オシボリ
19/37

19話

夜の歓楽街。

 無骨なコンクリートの壁に、カラフルなネオンが光る。ネオンではなくても、壁の張り紙、路上に置かれた看板、全てがカラフルに描かれている。店のアピール、商品の宣伝というだけでなく、木々や草花などの一切ない、アスファルトとコンクリートのみの、このジャングルをなんとかカラフルに彩ろうとする、住んでいる人々の思いを感じる。

 そんな街の一角。シャッターの降りたビルの前に、小さな椅子とテーブルと人影がある。

 フードを深く被っているので、顔はわからない。性別もわからないが、線の細さから女性のようにも思える。

「すみません」

 俺は恐る恐る声をかけると、その人物は手で椅子を差す。自分の対面に座るよう促している。

 促されるままに座ると、テーブルの向かいに座っているその人物と視線の高さが合い、その顔が少し伺える。とても肌の白い女性だ。

 彼女は何も言わずに、机の上に置かれた紙に、筆を走らせ始めた。そこに描かれたものは、人物像。俺の顔だ。

 お互い無言のまま、彼女の絵はすすむ。

 マオにマンガを描けるようにして欲しいと言われても、そんな方法わかるはずもない。実際、俺も描けないわけだし。

 結局、頼るのはカーウェンだ。宮廷絵師でも紹介してもらえると思ったら、紹介されたのは、繁華街の路地裏に出没する似顔絵師だった。

 彼女の手は進み、真っ白の紙には、徐々に俺の顔が出来上がっていく。もう少しで完成、といったところで、彼女の手が急に止まった。

 そして彼女は俺の顔をマジマジと見つめると、驚き、そして怪訝な表情を見せた。

「あなたはマースフィードの勇者か」

「なぜそれを?」

「私は似顔絵師と合わせて人相占いもしている。それにその魔力の輝き。あなたから感じる光はこちらの世界のモノだが、魔力はマースフィードのモノ。その感じは、かつてマースフィードで魔王を倒した勇者のモノ。しかし、その輝きはすごく小さい。勇者一族のモノか」

 彼女もマースフィード出身者なのか。ってかこちらの世界で生活する向こうの人、多すぎないか?

「何か困っているようだな。興味本位や似顔絵を描いて欲しくて来たわけではないようだ」

「そう頼みごとがあってきた。あなたなら力になってくれると」

「ここまで話せばわかると思うが、私もマースフィード出身者なのだ。そんな私がなぜ、こんな場所で似顔絵師なぞやっていると思う? 私を知る者と関わるのを避けるためだ。わかったら帰ってもらえるか?」

「そこをなんとか。お願いします!」

「勇者の一族という事は王族であろう。王族の方が私のような者に頭を下げるとは、よほど困っているのだろう。そもそも私の見立てでは本当に困っているのは、あなたではない別の誰かのようだ。ならばそのものが私に頼みにくるというのが筋ではないか?」

 その通りだ。正直、マオを連れてくるというのも考えた。しかしそれをしなかったのは、ここはそれほど治安の良い場所ではないと聞いていた。そんな場所にマオを連れてきて何かあったら、と考えてしまったのだ。そう、何か揉め事があってマオが暴れては、相手が無事では済まない。

 しかしこの女性。俺が何も事情を話していないのに、そこまでわかっているなんて。全てを見透かされているようだ。

「でもまぁ、王族の方に頭を下げさせて、それを無下に断るというのも心苦しい。ならば条件をつけましょう。その者に、あなたの似顔絵を描かかせて持ってこさせなさい。その出来栄え如何によって考えよう」

 そう言うと、途中まで描かれた俺の似顔絵を手に取ると、燃え上がり消滅した。


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