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ヲタサーの姫は魔王さま  作者: オシボリ
17/37

17話

『ヨッヨッヨッ、ヨーチューイ! どーもー、ヨーチュー員の骸でーす』

 軽快な挨拶と共に、骸の動画が始まった。

 骸は、先日コスプレイベント会場でカステリーナと戦ったガイロスだ。

 彼は魔族であり、勇者であった我が祖父が倒した魔王が率いていた魔王軍の将の一人だったらしい。

 そんな彼は、突然こちらの世界へとやってきた魔王の孫であるマオを探すため、やってきたのだが、すぐには見つからず、こちらの世界での生活費を稼ぐため、ヨーチュー員を始めたそうだ。

 今では登録者100万人越えの人気ヨーチュー員らしく、年収もかなりあるそうだ。

 動画は初めて見たが『新商品のお菓子を食べてみた』『新商品のおもちゃで遊んでみた』といったモノが多いようだが、後ろに映っている部屋の様子、後ろに見切れる家具などを見ても高級品ばかりで、かなり稼いでいるのが伺える。

 そして今、マオは彼の下にいる。

 先日のコスプレイベントの闘いの後、彼がマオを連れて帰ると言い出したのだ。

 元々彼がこちらに来た理由が、マオを連れて帰り、自身の側で立派な魔王として育て上げ、マースフィードでの覇権を手にすることだった。しかし、マオはこちらに残りたいという。ならばせめて、自分の側に置いておきたいということだった。

 それにはカステリーナも賛成だった。それもそうだろう。自分が仕える国の王子が、異世界であばら屋に住んでいるだけでも納得出来ないであろうに、さらに同じ場所に敵軍の王の孫が住んでいるのだ。是非にと、マオをガイロスへと差し出した。

 そして今はカステリーナが一緒に住むことになった。今は、定食屋でエルダさんの手伝いをしているはずだ。

 俺は今、マホ研にいる。葵先輩やダイちゃん先輩はいない。一人だ。スマホでヨーチュー員の骸について調べたり、動画を見たりしている。

 側にいて、多少鬱陶しく感じるところもあったマオだが、少しの間だったが、一緒に暮らしていたんだ。それが急にいなくなるとさみしい。

 なんとかマオを連れ戻す手段や口実を考えていたが、なかなか思いつかない。

 むしろガイロスの下にいた方がマオの為なんじゃないかと思う。

 そこへガチャっという扉の開く音と共に、マオが入ってきた。

「来てたのか大学」

「それはそうだろう。ここの学生なのだから」

 そういいながらマオは俺のとなりへと座ってくる。

「ところで何を見ていたのだ? ほうガイの動画を見ているのか。あれは面白いな」

「面白いか? お菓子食べてるだけだぞ」

「面白いだろ。お菓子食べたらお金が貰えるんだぞ? お菓子を食べるにはお金がいるものだろう?」

 そういう意味での面白いか。確かにそうだな。

「ガイのところはどうだ?」

「いいところだぞ? 部屋も広いし、食べ物も言えばなんでも用意してくれるしな。そうだ見てみろ」

 そう言ってカバンから取り出したのはDVDBOXだ。

「葵殿が欲しがっていたアニメのDVDも言えばすぐに買ってくれたよ。流石はおじい様の知将だ。軍を維持するにも金がいる。異世界で生活するにも金がいる。金を稼ぐことが出来るというのは、素晴らしいことだよ」

 そう、笑顔で話すマオの表情に少し苛立ちを覚える。

「そうかよ。よかったな」

 そう言うと俺は、カバンを取り部屋を出た。

 後ろで「何を怒っている?」というマオの声が聞こえた気がしたが、そのまま走って大学を出る。

 出たところで「何やってんだろ俺、、、」

 そう、一言つぶやいた。



「ただいま」

 家に帰ると、カステリーナが顔をだした。

「おかえりなさいませラインハルト様」

 カステリーナは、Gパンに白いTシャツ、エプロン姿だ。彼女の後ろからは賑やかな声が聞こえる。

「忙しそうだな」

「はい。エルダはすごいですね。エルダの料理はこちらですごく人気ですよ」

「知ってるよ」

「そうでしたね。でも、ラインハルト様のご夕食はご用意してありますので、荷物を置いたら降りてきて下さい」

「わかったよ」

 そう言うと、俺は2階に上がり自分の部屋にカバンを置く。

 そして出てくると、マオの部屋の前にくる。

 ノックするが返事はない。当然だ、さっきマホ研にいたんだから。それに彼女はここには帰ってこない。

 扉を開けると、暗い部屋に廊下の明かりが差し込む。彼女が出て行ったママだ。マンガやフィギアなどが本棚に置いてある。ベッドの上にはぬいぐるみと、掛け布団は乱れたままだ。

 そっと扉を閉めると、1階へと降りる。

 リビングにはカステリーナがいて、皿に食事を盛り付けている。

「店の方はいいのか?」

「ええ。それに、ラインハルト様の給仕をしないと。さぁ、椅子に座ってください」

「あぁ」

 椅子に腰掛けると、俺の前に次々と料理が運ばれる。

 五つの皿に、少しづつ料理が盛られている。

「豪華だな」

「そうですか? こちらに来る前に一応料理一式学んできたつもりでしたが、こちらとマースフィードでは食材が違うため、あまり宮廷料理を再現できませんでした。せっかくですので、ラインハルト様には王宮でのお食事を思い出して頂き、楽しんで頂きたかったのですが」

「そっか。ありがとう」

 そういいながら、いつもの箸ではなく、ナイフとフォークで頂く。

 そう言えば、エルダさんの作る夕食は、忙しいのもあってか、大皿に一つでそれをマオと向かい合ってつついたっけな。

 なぜか、子供の頃の王宮でのことより、この間までのマオとの生活を思い出してしまう。

「カステリーナは食べないのか」

 俺の斜め右後ろに立っているカステリーナに声をかける。

「いえ滅相もない。私のような従者がラインハルト様と食事を共にするなど」

「そうか? 俺の祖父ちゃんは、カステリーナのおじい様やおばあ様と冒険の間一緒に食事したんだろ? 今は俺たちは異世界を冒険中なんだ。一緒に食べようぜ」

 一瞬、驚いた顔をするカステリーナだったが、少し考えたあと「わかりました」と俺の向かいへと座った。

 目の前には、俺に出した料理のいくつかを適当にワンプレートにまとめたモノを置いている。

「カステリーナ。お願いがある」

「なんでしょう?」

「明日から、俺もそのワンプレートにしてくれ」

「これをですか? そんなわけには」

「いいんだ。それがいい」

「かっかしこまりました。検討します」

「あと、俺のことは晴人って呼んでくれ。それがこちらの世界での俺の名だ」

「わかりました」

「あと、カステリーナ。君のこともリナって呼んでいいか?」

「えっ? あっ、はい。こちらでの名前ですね。かしこまりました」

 そう言って、俯くカステリーナ。

「どうしたリナ。食べないのか? それともちょっと偉そうに言いすぎたか? 嫌なら嫌と言ってくれ」

「いえ、リナという名がその、、、嬉しくて」

 そう言って少し笑うリナが、とても可愛く見えた。

 そんな時、店の方が少し騒がしくなる。ちゃんとは聞き取れないが、客か誰かが叫んでいるようだ。

 二人で咄嗟に立ち上がる。

「ライン、、、晴人様はこちらに。私が見てまいります」

「いや俺も行こう」

 そう、二人でお店の方に行くと、驚くエルダさんとお客さんたちの注目を集める見知った二つの顔があった。

「マオ! ガイロス!」

「なぜお前たちがここに!」

 そう言ってリナが、どこから取り出したのか剣を構える。

「いや、そうじゃない闘いに来たわけではない!」

「じゃあお食事ですか。でしたらそんなに騒がれなくても」

 エルダさんが困ったようにつぶやく。

「いや、食事でもない。まぁ食事くらいしていってもいいが、お腹もすいてるし」

「じゃあどうしたんだ?」

「実はエグゼローザ様を返しに、というか預けにきたのだ」

「どういう意味だ? 連れて行ったのはお前の方だろう」

「実は、昨日ライブ配信をしていたら、急にエグゼローザ様が見切れてきて、そしたら女と同居してると、女性ファンが激減してしまったのだ。俺のファンの大多数が女性ファンなのだ。このままでは生活できん」

 まさか、そんなことをいいだすとは。

「頼む。エグゼローザ様の食費くらいは出す。だから頼む。以前みたいにエグゼローザ様をこちらで預かってはもらえんか?」

「そんな勝手が許されると、、、」

 そう剣を振り上げるリナを静止すると、俺はマオの下へと向かう。

「いいのかマオ。それで」

「うむ。ガイの用意する食事は出前ばかりでな。しかもエルダの料理より美味しくない。やはりエルダの料理が一番だ」

「そっか。おかえり」

 俺はマオの頭をポンッと叩いた。

「じゃあガイ、食費はいいからここの宣伝をお前のチャンネルでしてくれ」

「それはやめて。これ以上、忙しくなったら私、倒れちゃうわ」

 そう困ったように言うエルダ。まわりのお客さんも「これ以上混んだら通えなくなる」と否定的だ。

「そっか。ならガイ」

「今度はなんだ?」

「お前は用済みだ。飯食って帰れ」

「はい、二名様ごあんなぁーい。ほらリナちゃんお水だして」

 エルダさんは嬉しそうに厨房へと戻っていく。

 そして俺はリビングへと戻ると、夕飯の続きを口へと運んだ。

「たまにはこういうのもいいな。夕飯はエルダさんとリナの交互にしてもらうか」

 そんなことを考えながら。


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