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ヲタサーの姫は魔王さま  作者: オシボリ
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15話

マオとエリスの人気対決、という名のただの撮影会が始まって約一時間が経過した。

 それぞれに向けられているカメラの数は、ほぼ同数だ。エリスはかなり人気で、固定ファンもいるようだが、それに負けずの人気を集めるマオもすごい。ゲイルさんとイルナさんの協力の下に作った衣装の効果もあるのかもしれないが。

 エリスを見ると、始めた頃と変わらず涼しい顔だ。彼女はこういうのに慣れているのだろう。また、こういった撮影ではかなり体力を使うから、そのための体力をするレイヤーもいると聞く。もちろんスタイルアップも兼ねて。

 一方のマオの表情は、だんだんと暗くなってきている。まぁはじめら満面の笑顔というわけでもなかったが。それにしてもどこか辛そうだ。魔王であるマオが、一時間そこら立っているだけで体力的に辛くなるということもないだろうが、もしかしたら大量のカメラを向け続けられるということに、精神的に疲れてきているのかもしれない。当然マースフィードにカメラなんてないわけだし。そういえば前回もフラッシュが苦手と言っていた気がする。

 一旦、休憩を入れるか。そう思い、マオの下に近づこうとしたとき、他にマオへと近づく影に気づく。それはマオを取り囲むようにそびえる壁のようなカメコたちをかき分け抜け出ると、疾走と呼ぶに相応しい速度で距離を詰める。

 俺は慌ててマオへと駆け寄るが間に合わない。

 そして煌く一閃。

 その影は、青いドレスに羽の彫刻をあしらった銀の鎧を身に纏う金髪の女性。そして手には鎧と同じく銀色に輝く両刃の剣だ。

 その高速のひと振りはマオが居た場所を横切る。

 そう居た場所。

 マオはそこにはいない。

 後ろから彼女を抱きしめるように引いた男がいた。

「あらあら危ないですね」

「貴様、何者だ! せっかく魔王エグゼローザを討ち取れるチャンスだったものを」

「えっ? なに? 何事?」

 マオは混乱して辺りをキョロキョロしている。

 当然、俺も混乱してるし、周囲のカメコやそれ以外の野次馬たちも騒然としている。

 マオを後ろから抱きしめた男は、Yシャツに黒のスラックス、同じ色のベストを着ている。どこかのホストかバーテンダーのような出で立ちだ。

「お怪我はありませんでしたか? エグゼローザ様」

「ん? なぜ私の名前を? って何だガイロスか」

 えっ? 知り合い? マジで。エグゼローザ様って知り合いいたの?

「お怪我はありませんか? ラインハルト様」

「ん? なんで俺の名前を? って何だカステリーナか」

 って、なんで同じような会話を!?

 そう、この鎧姿の彼女は知り合いだ。かつて祖父が魔王討伐の旅に出た時に、旅を共にした戦士と魔法使いの孫である。

 しかもその才能をまるまる受け継いだため、剣、槍、斧と戦士としての技術は一級品。更に国内随一の魔力を有しており、攻撃魔法から回復魔法、戦闘補助魔法までありとあらゆる魔法を使いこなす、下手すりゃ国内最強の魔法戦士だ。

 更に、俺もこちらに来るまで魔王は倒され、驚異はなくなったと聞いていたのに、彼女は、何かあるかもしれないと、日々尋常じゃない鍛錬を行っていた。おそらく、というかほぼ確実に、俺は彼女には勝てない。

 そんなカステリーナがなんでこっちの世界にいるんだ? しかもマオのことを知っているようだった。

 それにマオを助けたガイロスという男は何なんだ。マオは知っているようだったが。

「カステリーナ。これはいったい、、、どうしたというんだ」

「ラインハルト様。お会いしとうございました。ラインハルト様の側に仕え、お守りするのが我が一族の務め。それが遠いこちらの世界へと行ってしまわれ、しかも聞けば定食屋での下働きにご苦労なされているとか。それは助けに参らねばと」

 あー、カーウェンだな。確かに、エルダさんの定食屋のバイト要員を一人寄こすとか言っていたが、よりによってカステリーナに声かけたのかよ。

「さらに話では、ラインハルト様の側には、ラインハルト様の祖父であらせられるかの勇者様が打倒された魔王の孫がいるとか。それは至急に駆けつけ、排除せねばと馳せ参じた次第にございます」

「あぁ、そうですか。ありがとうございます」

「なんと勿体無きお言葉。というわけで、正式に勅命をお受けしたため、魔王エグゼローザ! 覚悟!」

 いや勅命出してないから。マジ、カステリーナ暴走機関車。

「なるほど、そういうことか。話は聞かせてもらった。つまり定食屋でバイトしているラインハルト君に恋心を寄せ、一緒にバイトすればワンチャンあるかもと思いバイト志望に来た小娘が、先に働いていた我が王、エグゼローザ様の存在が邪魔となり命を狙った。そういうことだな」

 ガイロスとかいうエセホストが、声高らかに発する。が、えっ? そういうことなの? なんか違くない?

「おー、そういうことなのかガイロスよ。流石は我が魔王軍きっての知将。その豊富な知識、明晰な頭脳により、我が祖父が勇者との死闘の際も、側にいて生き延び我が一族を陰ながら支えてくれただけのことはある」

 いや、それ逃げ隠れてただけじゃね? ふとそう思ったが、さすがに口にはできなかった。

「ねぇ見て、あれ人気ヨーチュー員のガイ様よ」

 気が付くと、野次馬の中にいた一部の女性陣から黄色い声援がガイロスへと飛ぶ。

 えっ、ガイロスくん有名人なの? ヨーチュー員って確か、ヨーチューブっていう動画配信サイトで動画投稿を生業としている人たちの通称だろ?

 なんでマースフィードの魔王軍の知将がヨーチュー員やってんだよ。

「さぁ、これから始まるは、人気ヨーチュー員の俺様、ムクロと書いて骸様の動画外スペシャルイベントだ。戦士風コスプレ少女とのバトル、ぜひ見ていってくれ。っと、ここで大騒ぎになっても後々大変だ。そんなシナリオでいいだろカステリーナ殿?」

 ムクロと書いて骸? めっちゃダサい。そんなダサいガイ様が、カステリーナにウインクする。

「よくわからんが、貴様が魔王軍の将で、貴様を倒さんとエグゼローザと戦えぬというのであれば、それでよい。我が前に立ち塞がりし全てのモノを打倒さん」

 そう言うと剣を構えるカステリーナ。

「なんか知らんが、頑張れガイロス。カス子とやらをやっつけろ」

 急にガイロスを応援しだすマオ。ってか、カス子ってあだ名やめない? 流石に可哀想。

 そして、先程までのマオとエリスの人気対決から一転、我が国最強と呼び声高い魔法戦士と、魔王軍の将軍によるマジモンのバトルが始まった。

 ちなみにエリスは、あまりの急展開に、向こうで固まっていた。ちょっと後で行って、一言謝っておくか。俺なにも悪くない気がするけど。

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