13話
そしてやってきたのは、秋葉原にある雑居ビルの一室だった。
「ここにゲイルさんがいるのか?」
カーウェンさんにゲイルさんのことを聞いたら、ここにいると教えられたのだ。まだ生きていたという事にも驚いたが、こちらの世界の、しかも秋葉原にいることにも驚いた。
「とりあえず入ってみよう。いくぞ晴人よ。たのもー」
そうしてマオが扉を開けると、そこには大量のコスプレ衣装があった。壁一面がハンガーラックとなっていて、そこに隙間なく衣装が掛けられているような状態だ。
「いらっしゃいませ。どちら様ですか?」
奥から現れたのは可愛らしい少女だった。
「お客様ですか? こちらでは店舗としては行っていなくてですね、インターネットでの受注販売のみとなっているんですが」
「ゲイルという者はおるか? コスプレ衣装について教えていただきたく参ったのだが」
「こらマオ、言葉使い。すみません、こちらにゲイルさんという方がいると伺ってきたのですが」
「ゲイルは私ですが?」
「えっ? ゲイルさん? いや、私たちが聞いていたのは、ご高齢の男性だと聞いているのですが」
「それなら、うちの祖父ですね。我々は代々ゲイルという名前を受け継ぐことになってますので」
なるほど、そういうことか。職人などによくある世襲制というやつか。
「では、祖父の方はもう、、、」
「いえ、元気ですよ。実家にいます。えーと、説明しづらいんですが、出身が遠い国でして」
いや、生きてんかい! 元気だな。説明しづらいってのは、マースフィードのことなんだろうな。
「では、そなたが今のゲイルという事でよいのだな」
「はいそうですね。ただ、ゲイルというのは男性名で。私はあまりその名が好きではないんですよね。なのでこちらではイルナと名乗っています」
「ではイルナよ。頼みがある。コスプレ衣装の作り方を教えてくれ」
マオの申し出に少し驚くイルナ。しかしその申し出はすぐに断られた。
「すみません。今は受けている注文も多く、人に教えている時間はないのです。それにいきなり入ってきて、どなたかもわからない人に、、、祖父の知り合いの方なのですか」
俺はマオに聞こえないように、自分たちの素性と、これまでの経緯をイルナに話した。
「実は私の祖父が、ゲイルさんに昔お世話になったみたいで。服作りの職人と聞いていたものですから」
「まさかあちらの世界の人が、私以外にもいたなんて。しかも王子様とあの魔王の一族が一緒に、、、」
「マオにはまだ言っていないので」
「そうですか。いろいろと事情があるようですね。ですが、申し訳ありませんがお断りさせてください。本当に仕事が立て込んでいて」
「それでは仕方ありませんね。自分たちのワガママでこちらに迷惑をかける訳にもいかないし。マオ行こう」
「そうか。仕方ないな」
そう言って店を出ようとしたとき、一人の老人が入ってきた。
「またれよ。話は聞かせてもらった」
まるでイルナさんの髪の毛を白くして、ヒゲをつけたような。そんな老人だ。
「おじいちゃん」
「あなたがゲイルさん?」
「うちの孫がとんだ無礼を」
そう言って俺たちに一度頭を下げたゲイルは、イルナの下へ向かう。
「ワシの名を受け継いだ途端、家を飛び出して別の世界へとやってきて。それでも一人で頑張っているのだと信じて、何も言ってこなかったが。まさかあの英雄のお孫さんの願いを断るとは」
「おじいちゃん、なんでここに?」
「かの勇者の孫がワシを頼ろうとしていて、孫の下へと向かったと聞いたのでな。心配で見に来たら、このザマよ」
「でも、おじいちゃん。何よりもお客様を大切にしなさいと言っていたのはおじいちゃんよ」
「頼ってきた時点で、それは客よ」
「そんな、、、」
「というわけで、ソナタか? 服の作り方を教わりたいという娘は」
「うむ。そうだ」
「まさか、あの魔王が服作りとは」
「私が魔王だと知っているのか?」
「まぁウワサでな。ではやるか。やるからには徹底的にやるからな。お前もだぞ孫よ」
「私もですか!? 私、仕事あるんですけど」
「そんなもの、あとでワシが手伝ってやる。そうすればあっという間よ」
そして、マオのコスプレ衣装作りが急遽はじまった。なんか怒涛の展開だったな。というかゲイルさん、すごいパワフル。あの時代の人たちってこんなにパワフルだったんだろうか。そりゃ魔王も倒せる気がする。
「おい、そこの勇者の孫。お前も手伝え」
「俺もですか?」
「当たり前だろう。無理を言ってきたのはソナタらなのだ。できることはなんだってやってもらう」
「はっはい。わかりました」
そして、俺も巻き込まれることになった。いや、最初から巻き込まれてはいたか、、、




