12話
「コスプレ衣装を作る!?」
突然何を言い出すかと思ったが、マオの目は本気のようだ。
家の1階のリビング。
エルダさんの用意してくれた夕食、大皿に乗ったエビの香草焼きを二人で突く。
「いや、出来たのでいいだろ。今は出来のいいのが売ってるし」
「葵殿が言っていたのだ。コスプレは愛だと。ただそのものを着るのでは、それはただの服だと。愛を持って着るからコスプレなのだと」
葵先輩はまた何を言っているんだ。というかあの人、コスプレしたことないだろ。
「私は魔王だからな。愛というものがよくわからん。それを知る一番の方法は衣装を自作することらしい。魔法で作ったのでは意味がないのだ」
先日の夏コミで会った山田尚子もとい魔王エリスと、次のコスプレイベントでどちらが人気を集めるのか、勝負することになったのだ。
どのように勝敗を決めるのかよくわからんが、とりあえず両者ともかなりやる気なのだ。
とりあえずイベントは、来月行われるコスプレイベントをエリスからメールで指定された。
メールの文面がめちゃめちゃ普通の女の子で、女の子とのメール交換とかほとんどしたことのない者としては、かなり緊張するというかなんかこそばゆい。
おそらく彼女も、コスプレをしていない時は普通の女の子なのだろう。
ただ、問題はマオの方だ。コスプレ衣装を作るなんて、素人ができるとは思えない。お店で適当に買ってきてそれでいいだろうくらいに思っていたのだが、自分で作ると言い出すとは。
「でもどうするんだよ。作ったことないだろ?」
「だから晴人に聞いている。私はマースフィードの人間。しかも魔族だからな。魔族は魔力で装衣を作るからな。服を作るというのがよくわからん。葵殿やダイちゃん殿もわからんというからな」
「そんなこと言われてもな」
「じゃあ、ゲイルさんに聞いてみたら?」
声のする方を見たら、エルダさんの姿があった。
「エルダよ。今日も美味いぞ」
「ありがと、マオちゃん」
「いいんですか? お店の方は」
「今少し落ち着いたから休憩。でももうすぐ閉店だから、今日はこんなもんかな」
「じゃあ、後片付け手伝いますよ」
「うん、よろしく」
「ところでゲイルとは誰だ」
「晴人君のおじいさんの昔の知り合いで服を作る職人さんよ」
そう、ゲイルさんは服を作る職人さんだ。それどころの話ではない。俺の祖父が魔王討伐の旅をしていた時に知り合った伝説の機織り職人だ。とある廃城に住み着く巨大な蛾のようなモンスター、ガリウドの幼虫が出す糸が、剣も通さなければ火も通さないと、祖父に取りに行かせ、それで絹のドレスを作ったとか。それは祖父の旅の仲間でエルフの女性シルフィーユが愛用し、魔王城では岩をも溶かすというドラゴンのブレスからも身を守ったとか、そんな伝説が残っている。
ちなみに、エルフは精霊を使って服を仕立てて着ることが多く、モンスターの糸を使って人間が織った服を着ることはほとんどないらしい。それからもそのドレスがいかにすごいものだったのかということがわかる。
「しかし、祖父の話しでは、ゲイルさんは祖父が出会った時点ですでに高齢だったとか。まだご存命なんでしょうか」
「それもそうよね。カーウェンさんに聞いてみたら? 彼なら知っているでしょう」
「そうですね。わかりました」
「ん? なんかよくわからんが、凄腕の服を作れる職人を知っているのか?」
「うん。まぁちょっと調べてみるよ」
しかし、そんな伝説の機織り職人が、果たしてコスプレ衣装作りに協力してくれるのか、甚だ疑問ではあるのだが。
間違えて12話を飛ばし、13話を投稿していたので修正。




