10話
「おぉ! ここが聖地か!」
「アキバ行った時もそんなこと行ってたな」
そう、来たのだ。夏といえば夏コミ! 聖地はビッグサイト!
「日本には聖地がたくさんあるのだな」
「まぁそうだな。神様もたくさんいるしな」
「なんと! たくさん神がいるのか。神々の国か。やはりこちらの世界はすごいな。魔王もたくさんいるかな?」
「魔王は聞いたことないかな。昔、魔王を名乗る殿様はいたそうだけどな」
「昔かぁ。会ってみたかったなぁ」
そんな話しをしながら、駅からの道を二人で歩く。
葵先輩がまたテンション上がって「夏コミ行くぞ」って騒いでいたので、マオも感化されて行くことになった。
だが、葵先輩が「欲しい同人誌がある」と早朝から来ているところ、俺やマオはそこまで欲しい同人誌がないため、遅れて到着した。
混雑した人ごみの中、マオを連れてきたら何をしだすかわからない。
ちなみにダイちゃん先輩は今日は来ていない。「興味がない。部屋でゲームしてる方がいい」とのことだ。
「葵先輩どこだろうな」
『到着しました』と葵先輩にメールを送ってみる。
「葵殿はなんと言っている?」
「なんか、欲しい本はあらかた買って、今休憩してるらしい。二人で楽しんでおいでってことだが、特に行くところもないから、とりあえず葵先輩のところに行ってみるか」
「そうだな」
そしてビッグサイトの下までたどり着く。
「見ろ晴人! マースフィードの住人のような姿をした者たちがおるぞ」
「いやマースフィードの住人とか知らないから。ってか、あれはコスプレな」
「コスプレとはなんだ?」
「アニメやゲームのキャラクターの服と同じ物を作って着るんだよ。マホ研で見てたアニメのキャラと同じ格好した人もいるだろ?」
「なるほどな。キャラクターに対する愛の表現というやつか」
どこでそんな言い回し覚えてきたんだ。おそらく葵先輩だろうが。
マオは興味深そうにそれらを見ている。
「ここならマースフィードの服でもいいかもな」
そう言ったとたん、マオの身体から魔力が放出される。その力が彼女の身体を包み始めると強く光りだす。
「ちょちょちょっ、待って、何事!?」
周りがザワつき始めるのに気づき、慌ててマオの身体を隠す。あんまし隠せてないが。
光が収まり、現れたマオの姿は、先ほどとは違ったものとなっていた。
頭からは二本の角が生え、服は禍々しい鎧と黒いローブを合わせたような物を身に纏っている。
「おいおい、何なんだいったい」
「我の姿を見て恐れぬとは、晴人はやはりなかなかの強者よな。これが、マースフィードでの我が姿よ」
「へっ、へぇー、、、」
正直、なんとも言えない。特に怖くはないが。それは、俺の中の勇者の血なのか。
もしかしたら、周りの人はそうでもないのか。そう思い、周りを見渡す。
「おー、すげー」
「なになに? 手品?」
「すごい、カワイイ!」
驚いてはいるようだが、恐れは感じていないようだ。
「おぉ、皆恐れぬのか。やはり、勇者を排出した世界なだけはあるな。それとも聖地の地形効果によるものなのか」
そう言われると、実は俺の祖父はただの凡人だったんじゃないかと、そう思えてしまう。
「ちょっと、あなた達。そこで何してるの!」
見ると、スタッフらしき人がこちらに近づいてきた。
「指定された場所以外でのコスプレは禁止されています!」
「はっ、はい、すみません!」
そう言うと、俺は慌ててマオを連れてその場を離れた。