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サキュバスとの戦い

シリアス回が続きまくるので、「コメディ」タグから「前半はコメディ」というタグにしました。

すでに物語は後半折り返しからだいぶ進んでるので今さらですが。


そして今回もまた魔王さんではない方の視点。

 ――物語は少しまえに遡る――



「アイリを知っているか」


 最初は山のように見えた巨大な亀の魔族。そいつが低い声で言う。その声の大きさと低さは、私の体を震わる。

 アイリを知っているという事実も、もちろん私を驚かせた。


「知ってるぞ、アイリ。追放したやつと同じ名前だ。下着、すげえんだ、へへ。それがどうかしたか、亀野郎」


 酔いからさめていないオンゾが、笑いながら言う。

 彼は開かずの扉を開くユニークスキルしかない。武器はシーフのような短刀だけ。小動物ならまだしも、獰猛であったり、巨大である魔族には太刀打ちできない。

 旅に出ると開かずの扉には多数遭遇する。そういう時は重宝したスキルだった。だけど今となっては、追放されるべき無能はこいつだったのではないかと思う。色々と遅いけれど。


「まて、オンゾ。あいつは大きい以前に強敵だろう。直接攻撃は弱体魔法をかけてからだ。分かったな?」

「分かりましたよ、メルト先輩」


 ため息をつきながらオンゾは短刀を腰にしまう。

 それを見届けてから、メルトは私とサリュウに指示を出した。


「サリュウはあの亀の防御力を下げろ。ペルは全員の防御力を上げ、俺とゲイツに攻撃倍化の魔法をくれ。強化、弱体化が揃い次第、突撃する」

「了解~」


 と、酔いながらも返事をしたサリュウがまず杖を握り、魔法を唱えた。

 黒い魔方陣から、闇をまとった腕が何本も出てくる。巨大な亀の身体を何周もして、亀の身体にまとわりつく。そして、その闇は亀のなかへと溶け込んでいく。溶け込むことが、魔法成功の合図だ。これで亀の防御力が相当下がったに違いない。弱体化の成功だ。


 次に私は白魔法を唱える。その名の通り、白い魔方陣が地面に精製される。まずはパーティー全員の防御力向上からだ。

 白い魔方陣からは白い光の粒が無数に飛び出す。雪原で白はあまり目に見えるものではないが、とにかく無数の白い光は私たちを覆ってくれた。少し身が引き締まったような感覚になる。成功だ。

 そして前衛職であるオンゾとメルトには、攻撃倍化の魔法を唱える。これは赤い魔方陣が形成され、そこから炎のような物が飛び出した。熱くはない炎は二人の体を包み、攻撃のみの強化を成功させた。


「俺にはないのか?」


 オンゾが私に問いかけてくるが、無視をする。話をしている余裕はなく、また戦力として攻撃倍化をしても意味がない。


「オンゾは前衛である俺たちの後ろで待機。こちらが崩れて立て直す必要が出たら参戦しろ」


 メルトはそんなことを言う。つまり、オンゾが邪魔だという話なのだが、オンゾはこれに「はい」と素直に返事をしただけだった。

 いつものことだ。

 前衛は崩れた試しがない。ゲイツとメルト、そして盾のアイリちゃんがいたからだ。前衛と後衛の間にいる肉の壁でしかない。


 だから、アイリちゃんのいない今、このパーティーがどうなってしまうのか、私には想像ができない。


「スキル、百裂突き!」


 腕を覆うアイアンナックルを装着した武闘家のメルトは飛び上がり、甲羅の上部へたどり着く。そして宙に浮かんだまま、目では追いきれないスピードで甲羅に打撃を与え続けた。

 甲羅は硬く、ヒビすら入らない。

 最初はそう思えた。

 だが、ヒビが一筋できると、そこから広がっていき、甲羅の欠片が飛んでいった。


「ゲイツ、穴があいたぞ。斬り込め!」

「分かった……スキル、鋼鉄斬り!」


 いつの間にかメルトと同じく、甲羅に飛び上がっていたゲイツは、背中にあった両手剣を、甲羅のヒビにめがけて振り下ろした。

 硬い物ほど効果が出る鋼鉄斬りの効果もあって、甲羅のヒビはさらに広がり、大きな破片が宙を舞った。


 どんな硬い敵であっても、二人のこのコンビネーションがあれば、致命的な一撃を食らわすことができる。それがこれまでの戦いだった。

 そして今回も、同じだと思っていた。


 しかし亀は、いくら待っても倒れない。背中を気にしているようだが、苦痛を訴える気配がなかった。

 メルトとゲイツの攻撃がまったく効いていないことは、見ていてすぐに分かった。


 それどころか亀は、私たちを踏みつぶすつもりなのか、こちらへ向かってくる。


「おいおいおいおい、こっち来たよ! 踏まれるよ! メルト先輩たち、何やってるんすか。あーペル~、魔法で何とかしてくれよー」


 オンゾは短刀を構えながら、その場で尻もちをする。背に重い道具袋を背負っているせいで尻もちをしたかと思ったが、そうではなさそうだった。

 ガクガク体を震わせながら、私の見えるところで失禁をする。

 なんであんな大きな荷物を大事そうに背負っているのかわからない。

 けれど、そのまま踏まれてしまえばいい、と私は思った。


 しかし亀は私たちを踏まなかった。近づくだけで何もしてこない。そして甲羅の上にいるはずのゲイツやメルトたちの気配もない。


 時が止まったかのように、辺りは静寂に包まれた。


「な、なにが起こってるのよ」


 サリュウは杖を構えながらそわそわする。

 そんなサリュウを見て、私も怖くなり、辺りを見回した。

 すると、人影が見えた。

 最初はゲイツかメルトかと思ったが、シルエットの時点で分かる。これは女性だ。

 他の冒険者かと思ったが、こんな雪原で遭遇する可能性は皆無に等しい。

 そこまで考え、私はようやく結論に達したのだが、


「アイリを知っている? アイリちゃん。人間に虐げられた、可哀想な女の子なんだけど」


 考えつくより早く、姿を現した。


 そいつは紫の肌をまとい、大きな胸の谷間を見せつけるような服を着た女の魔族だった。

 姿はほとんど人間だ。だけど、人間でないことは、肌、目、頭の角、背の羽根から分かる。

 魔族だ。


「知っているぞ、そいつは俺が裸にしてやった処女だよ!」


 オンゾは短刀を握りしめ、濡れた股間のことなど気にしてないのか、女の魔族のもとへと躊躇なく突撃する。

 しかし首筋に、トンと手で叩かれただけで、オンゾは崩れ落ち、雪原で大の字になって倒れた。

 倒れたことを確認しながら、サキュバスはオンゾの股間を強く踏みつけた。

 オンゾはピクリとも動かない。死んだのかもしれない。


「あと二人か。君たち雑魚だねえー。前衛が崩れたとき、体力のいる盾役がいれば、私はそいつを狙い、少しチャンスが生まれたかもしれないのに、盾役がいなくて残念よねえ」


 女の魔族は私たちをあざ笑う。

 なぜアイリのことを魔族が知っているのか、さっぱり分からないが、それを気にしている場合ではなさそうだ。

 今度は私たちの番なのだ。


「ヒヒッ! エロそうな魔族め。こっちは武闘家と戦士も含め四人だ! 勝った気でいられるのも、今のうちだよ!」


 サリュウは魔法を展開する。黒い魔方陣が女の魔族の足元で光出し、水が噴き出そうとする。極寒での水責め、もしくは水圧で斬りさくつもりなのかもしれない。

 私はいざという時のために、杖を構えながらそれを見守った。


 だけど、水は全然勢いよく出てこなかった。

 それどころか、黒い魔方陣が消えた。


「何やってるの、サリュウさん」


 私がサリュウの顔をみて言う。そしてサリュウの状態異常に気付いた。

 サリュウは顔を赤らめ、身もだえしている。口からは「ダメ」「そこ」「いやあ」「エッチ」などという甘い声が次々と聞こえてくる。


 男性に金を貢ぐ、貢がせる。そして体を使う。使わせる。

 旅の道中でそういったことを繰り返してきたビッチの権化であるサリュウの口から、そういった言葉が出ても不思議ではない。

 だけど今は戦闘中だ。さすがにおかしい。


「サリュウさん、フザけないで、しっかりして」


 私はサリュウの体を揺さぶる。すると、ハッと我にかえったサリュウが、一瞬だけ私を見て顔を赤らめ、それから視線をすぐに女の魔族に合わした。


「ペ、ペル、気を付けて。こいつ、サキュバスよ。おそらく相当上位。ロクでもないものを見せてくるわ」

「ロクでもないもの、とはひどいわ。興奮してたじゃない?」

「うるさい黙れ。死ね!」


 サリュウは杖を構え、サキュバスに向けて突撃する。

 魔法を唱える雰囲気はまったくない。

 では何を?


 サキュバスも少し戸惑ったのか、動きが鈍るなか、サリュウは行動に移った。

 サリュウの握る杖が変形した。

 取っ手の部分が折れ曲がり、そこから別の物が飛び出る。

 それは鋭い刃の先端だった。

 サリュウの持つ杖は仕込み杖だった。

 サキュバスとの距離はもうほとんどない。刃先が心臓に突き刺さる。


「……やった!」


 サリュウは刃先をサキュバスの胸に押しこめるため、地面に足の力を入れる。サキュバスは体をくの字に曲げはじめ、苦しそうに表情を歪めた。


 魔族とちがい、人間はこういった汚い戦法を考えることがある。魔族であるサキュバスが油断したのも無理はない。そもそも魔王討伐を目指すパーティーがやるべき戦法ではない。

 だが、プライドを投げ捨てるこの戦法が、勝敗を決定させた。


「やった、やったわ! ははっ、私、前衛職もいけるんじゃないかな? ねえ、ペル?」


 仕込み杖をもとに戻し、サリュウは私のもとへとやってきた。


「安心するのはまだ早いですよ。まだ亀、生きてますし」

「大丈夫よ、きっとゲイツたちが何とかやって――」


 そこでサリュウの言葉が途切れた。

 一瞬、何が起こったか分からなかった。けれど、サリュウが口から血を吹き出し、赤く染まる腹からは何かが飛び出し、サリュウの後ろに紫色の肌の人影――つまり、サキュバスがいたことで、私は事態をすぐに察した。


「私は魔王の側近、というかメイドよ? そんな簡単に倒せると思ったの?」


 サキュバスはサリュウの体を貫いていた手を引っ込める。そして、何も応えることなく、サリュウは白い雪原に倒れた。白い雪原はすぐに赤く染まっていった。サリュウの血だ。


「ど、どうして……?」


 私が口を震わせて言う。サキュバスは笑いながら言う・


「簡単よ? 私は夢を見せる能力があるの。それは男女両方に通じる淫猥な夢だけじゃなくて、現実的な夢も見せることができる。まあ幻覚よね。あなたたち二人はそれを見たの。私が死ぬ、ありえない幻覚をね」


 あれは幻覚だったのか、と私は自分をまだ疑う。現実と幻覚のちがいが激しいと、いつもこの手の混乱をしてしまう。

 だが、倒すべき敵がサキュバスであることには変わらない。

 私は何か手はないかと、色々考えた。


「ちなみに言っておくと、戦士と武闘家っぽい男。あの二人は幻に夢中になって、隙だらけだったから殺したわよ。男は性欲にすぐ溺れるから困るわよね?」

「そ、そんな……ゲイツとメルトも?」

「確かめる? ビッグ・タートル……あの亀の上で血を流して寝てるわよ」


 私は全身から力が抜け、ひざを雪原につけた。冷たかったが、魔法で温める気にもならない。そんな気力が残っていなかった。

 残っていたのは後悔や諦観といった、死に近い感情しかなかった。


 私は杖を捨て、死を覚悟した。

 クソパーティーのクソみたいな旅に相応しい幕切れだ。


 しかしサキュバスは私を殺そうとはしなかった。

 ただ、こう聞いてきた。


「あなた、もしかしてペルっていう名前だったりする?」

「え、ええ……」


 私は戸惑いながらもそう答える。

 なぜ名前が問われたのか分からない。

 だが、そんな戸惑いを他所に、サキュバスは笑みを浮かべて、私のお腹を一発殴った。


 その一発は強く、体の中からあらゆるものが飛び出しそうなほどの痛みがあった。

 そして私は雪原の上でうずくまり、意識が遠のいていった。


「あそこで粗相した男は、アイリちゃんのために連れていくことにするよ。どうせ、ロクでもない男なんでしょ?」


 意識が途切れていくなか、サキュバスの声が耳に入る。


 オンゾ、生きていたのね、ゴキブリのようなやつね――。




 ――そして現在――




 俺は地面に落ちて、苦痛を訴える二人の顔を見る。男と女。男は股間を手で抑え、痛みを訴えている。フルゥがロクでもないことをしたのだろう。

 一方で女の方はアイリと同じぐらいの少女だ。


「ペル!」


 横にいたアイリが目に涙を浮かべて言って、その少女に近づく。


 そんな様子をフルゥは笑ってみていた。


「フルゥ、これはお前がやったことなのか?」


 俺はフルゥに問いかける。詰問ではなく、日常会話のような口調で言う。


「もちろん、魔王様のためよ。お手を煩わせないために、アイリの話を聞いたあと、昼食を抜け出してこいつらを探したの。二人以外は殺したけど、別にいいでしょ、魔王様?」

視点ころころ変えるのどうだろう、と思いつつも……。

次回、申し訳ないのですが、1週間あく可能性があります。仕事のため。

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