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再会

もとに戻って魔王さん視点。前々回の昼食後のお話。

アイリちゃんを言葉で攻めた魔王さんが悩む回。

 魔王城の廊下に、隙間風がピュウと音を立てて入ってくる。俺の外骨格は肌寒さなんて感じないが、今は少し寒いと感じた。


 昼食のとき、俺はアイリに聞いた。

 復讐をしたいか、それとも見殺しにするか。二択しかないと迫った。ゲイツとかいうクソ人間を殺すことは俺のなかで確定している。しかしアイリが復讐をするのなら、俺はそれを楽しく見届けようと思った。

 そして、その言葉を俺はすべて口にした。

 魔王らしい発言だと俺はそのとき、とても思った。


 だが、昼食時にやるべき会話ではなかったと、今は後悔している。魔王らしかったと自画自賛したいが、いささか調子に乗りすぎた。




 アイリは食事中、まったくと言っていいほど、喋らなかった。ルトンもデーモンベアーも同じだ。彼らは俺に悲しい顔を送り続けていた。食堂では食器のカンカンという乾いた音ぐらいしか響かなくなった。

 旨いはずの食事が、旨くない。楽しくなってきたと思えた気分が沈んでいく。

 ごちそうさま、と言う各々の声が沈み、アイリたちが皿を洗いはじめると、俺だけが取り残されてしまった。


 俺はアイリを恐怖に陥れたいとずっと考えてきていたが、食事は食事で楽しむべきでもあった。おかげでルトンもデーモンベアーも、あのときは悲しい顔をしてしまっていた。

 アイリがいつの間にか、ほんの数時間で魔族と仲良くなってしまっていたことを、無視しすぎてしまっていたのだ。


 いや、そんなこと、予想もできなかった。

 薄着で追放され死にかけていた少女が、俺に恐怖しない時点で、予想できない事態に突入していたのだ。


 俺を魔王だとようやく自覚してくれたことや、アイリの復讐心の芽生えは嬉しいが、それはそれとして、アイリとの関係を修復せねば、魔王城の空気や魔族全体の士気にも関わるかもしれない。





「魔王様、どうしたのー?」


 廊下でただ突っ立っている俺に、ルトンが声をかけた。いつもの間延びした言葉づかいだが、今日は視線が冷たい。


「人間のことで考えごとをしていたのだ。いや、断じて後悔ではない」

「ふーん。アイリちゃん、お皿洗いしてる時もとても悲しそーだったよ?」

「そうか、悲しそうだったのか。では、そこから恐怖させていけば、あいつを追い出せるな」

「えー、魔王様ってそんなこと、しない方だと思ってたのに。何だかガッカリー」

「そ、そうか。うん、しないぞ。俺はそんなことしない」

「だよねー。やっぱり魔王様はアイリちゃんとちゃんとお話して、仲直りするべきだよー」


 人間と仲直りなど、断じてしたくはないが、このままではダメだということは分かる。話をするべきなのだろう。


「ルトン、ちなみにアイリはどこにいる?」

「寝室だよー?」

「分かった」


 そして俺は廊下を歩き、寝室へとたどり着いた。

 俺は扉をノックする。


「……はい?」


 小さく、元気のないアイリの声だ。


「アイリ、先ほどの料理、旨かったぞ」

「……魔王さんのお口にあってよかったです」


 返事が遅いうえに、声がこもって聞こえにくい。布団にでも潜りこんでいるのかもしれない。

 相当応えているようだな……。


「すまないが、俺はゲイツたち人間を殺すことをやめる気はない。ペルという奴だけは何とかしてやるが、人間との戦いは殺し合いだ。確実な保証まではできない」

「分かってます。魔王さんは魔族、私は人間、その違いぐらい分かってます。ペルのことを考えていただき、ありがとうございます」

「理解が早くて助かる」


 どうやら理解してくれたようだ。


 ……いや、これではダメだ。何も解決していない。

 理解ではなく、アイリとの関係を修復しなければならない。


 俺は寝室の扉の前で悩んだ末、一つの話を出してみた。


「アイリ、あのだな、ルトンたちの意見も踏まえ、魔王城を明るくしようと思う」


 返事はない。

 だが俺は、しどろもどろ、何とか言葉を続ける。


「しかしだ、俺はこの魔王城が特別暗いとも思わん。夜目が効く代わりに太陽の光が明るいということもない。それも丁度いい。俺のこの眼球は捉える光の範囲がとても広いのだろう。いや、つまり俺が言いたいことは、アイリやルトンの言う暗いという感覚が分からんのだ。どうすれば暗くならずに済む?」

「……それはルトンちゃんやデーモンベアーさんに聞けばいいと思いますよ」

「ダメだ。いや、ダメってことはないが、彼らは生まれた頃から魔王城以外の生活様式を知らない。他の魔族も同じだ。魔王城という建物とちがい、土くれの暗闇のほうが好みという魔族の方が多い。つまりは、先ほどの食事もそうだが、人間様式の模倣こそ最良ではないかと俺は思うのだ。俺も知らない訳ではないが、詳しくはない。そのための知恵は今、アイリしか持ち合わせていない」


 なぜ俺は必死に、色々取り繕って、早口になってまで長々と人間に頼み事をしているのだろうか。客観視してみると、おかしく思えてくる。

 魔王なのだから、面倒な人間は殺してしまっても良い。俺こそがルールなのだから、誰も咎めはしない。

 しかし、魔族の今の雰囲気を思うと、こうするしかない。アイリを殺せばどうなるか、想像すらできない。


 ああ、なんて俺はヘタレな魔王なのだろうか。

 残虐非道と言われてきた先代たちに笑われてしまう。


「あの、魔王さん、どうしてそんな神妙な顔になっているのですか?」


 寝室の扉はいつの間にか開かれ、目の前にアイリが現れた。

 俺は少し驚き、廊下の壁に背をつけた。ドンという音がした気がする。


「あの、どうしてそんなに驚く必要があるのですか?」

「お、驚いてなどいない。人間に驚く魔族はこの世にいない」

「そうなんですね、知りませんでした」


 アイリはクスリと笑ってのけた。

 この笑みはバカにされた笑みだと分かってはいたが、俺の心は予想外に穏やかで、ようやく落ち着きを取り戻しはじめた。





「このお城のロウソク、どれもなんで赤じゃなくて紫なのですか?」

「赤は明るいと思ったのだ。それに、この辺の鉱物から作ったロウソクは紫の炎しか出ない」

「じゃあ人間の街で買う必要がありますね」

「待て、魔族が人間の街で物を買うなんていう風習はない。奪うだけだ。やつらの社会に関与したくはない」

「えー……だとすると、人が使うロウソクを一から作る必要があるかもしれませんね」

「アイリはロウソクの製造法を知っているのか?」

「知りませんよ、職人じゃないですから」

「役立たずめ」

「魔王さんこそ、役立たずじゃないですか」


 俺とアイリはいま、ロウソクの暗い灯をジッと見ながら意見を交わしている。

 アイリは魔王城を明るくするために、まず廊下のロウソクから見直すべきだと言っている。俺はそのアイリの意見をとりあえず聞くだけ聞く。実行するかは別として。


「明るさを確保するためには、光ですよ。人の街は灯りが密集しているから明るく見えますが、魔王城の外には何もないので、とにかく中をどうにかするしかないんです」

「では、火を吹く罠を灯の代わりにするか?」

「それは明るいと思いますが、熱くないですか?」

「俺は熱くないが、ルトンはまずいだろうな」

「では却下するしかないじゃないですか」


 アイリは、はあ~とため息をついた。

 俺の目の前でため息をつくその不遜な態度は万死に値する、などと言ってみたくなる状況だったが、そんな言葉は口から出そうにもなかった。


 俺とアイリとの間にある会話、雰囲気、空気、それらは悪いものではなかった。

 仲違いしている時より、心地よい何かがある。


 そして俺はふと思い出す。

 この魔王城を明るくする方法――いや、暗くしている要因を。


「そういえば魔王城を取り囲む吹雪だが、あれは自然現象に加え、俺の魔法障壁も加わっている」

「えっ、そうなのですか?」

「ああ、だから吹雪の勢いを弱くすることはできる。そうすればきっと、明るくなる」

「どうしてそれを先に言ってくれなかったのですか?」

「忘れていたのだ。俺にとってこの程度の魔法障壁は呼吸をすることと同じだからな。俺は寝ていてもこの魔法障壁を消さない。しかし今日は消してみせよう」


 俺は手をかざし、魔王城を包む魔法障壁の魔力をこの手に戻した。

 吹雪による魔法障壁の解除は久しぶりで、今までになかった魔力が少し戻ってくる感覚は思いのほか心地よかった。

 そして明るく、温かい光が、魔王城の窓から入ってきた。


「わあ、すごく明るいじゃないですか! どうして今までやらなかったのですか?」

「侵入者を拒むためだ。もっともアイリのように体力のある人間がやってくれば突破されてしまうが、もう魔法障壁はない。アイリのような体力SSSランクではなくても、入ってこれるだろう。例えば、ゲイツとか」


 俺はあえてアイリの表情を見ず、外だけを眺めて言った。窓の外は雲一つない青空と雪原を包む雲海があった。


「やっぱり殺すんですね」


 アイリの表情を見ると悲しそうだった。顔は穏やかだが、顔色からはどこか諦めの気持ちが透けて見える。


「来たら逃がすわけにはいかない。ただ、会話をしたければすればいい。俺はそれまで何もせん。満足するまで言葉を交わせ」

「いいのですか?」

「ああ。昼食の時の詫びだ。アイリに選択の自由を与えてやろう。ただ、彼らが殺されることには変わりない。俺が殺されることはまずないからな」

「強さに自信があるんですね」

「魔王だからな。本気を出せば山も大地も街も、すぐに消せる」


 この提案が、俺のできる最大限の譲歩であり、反省だ。

 ここでもアイリが気持ち悪さを感じ、下山するのであれば止めない。恐怖するのであれば、してもらっていい。それで魔族の士気が下がるのであれば、安易に人間を入れた俺の失態ということで反省すればいい。


 それだけでいい。



 そんな静寂に包まれているときだった。

 ガタン、と魔王城の大きな扉の開く音が聞こえた。


「魔王様~手土産もって、フルゥ、帰還しました~」


 フルゥの陽気な声が広間に響く。

 俺とアイリはそんなフルゥの元へと歩いていった。「きっとロクな手土産ではない」と俺はアイリに言った。アイリはそれを聞いて少しだけ笑ってみせた。


 しかしそんなアイリの表情は、フルゥの手土産を見て、一瞬にして固まった。


「私、結構探したのよ? アイリを知ってるかって聞いてまわったの。そしたらこの人たちが知ってるって言ったんで、連れてきました」


 陽気に喋るフルゥの後ろ、魔王城の外にいる魔族ビッグ・タートルが口でくわえていた二人分の人影を地面に落とした。

 巨大な亀であるビッグ・タートルは人間を食べない。くわえていたのは、この魔王城にまで連れてくる目的が本当にあったからだろう。

 二人はケガをしているが、はっきりと意識があり、苦痛を訴えていた。


「ペル!」


 アイリは二人の人影のうちの一人を見て言った。

次回はペル視点で、少し前の時間のお話になります。

日曜更新予定。

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