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魔王さん、倒れていた少女を拾う

なろうで初めて長編を書きます!という気持ちで書いてます。

 俺は「お前、クビ」なんて言われる立場ではないから、朝から憂鬱な気分になることはない。俺からクビにすることはあっても、逆は必ず起こらない。

 なぜなら、俺は魔王だからだ。


 魔族を統べる王、魔王。

 やっていることと言えば、世界を統一しようと企む人間の駆逐だ。

 今は人間優勢な地域が多いが、これからは魔族の時代になるだろう。

 そのための準備は、各地域で、虎視眈々と進んでいる。



「今日はどの国に災厄をもたらそうか。いや、いっそのこと攻め滅ぼすか? そういえば、あの国は最近、部下たちを蹴散らして調子に乗ってるな……今日もやることが多い」


 背伸びをして、顔を洗いながら、独り言をつぶやく。召使いであるサキュバスのフルゥは、そんな独り言には反応することなく、ただ静かにタオルを渡してくれる。


 食堂に行くと、すでに朝食の準備が整えられていた。

 料理長であるデーモンベアーは巨体でありながらも、ちゃんと背筋を伸ばして立っている。鋭い爪も、俺のまえではしっかり隠してくれている。

 長机にはコウモリ肉の炭火焼き、狂化した動物の血で彩られたスープ、巨大スライムの目玉、マンドラゴラをすりつぶして煮込んだスープなどが長机に並べられている。それらの油や水分といったものが、ロウソクの暗い灯を反射している。

 室内、というよりこの魔王城はどこも暗い。

 人間の建物は黄金やら何やら、豪華になればなるほど明るさを確保したがるが、俺には人間のような下衆な欲望はなかった。暗さこそ至高である。


「ではいただくとするか――」


 俺は人間には決して扱えない拳大の特大のナイフとフォークを使い、丸焼きのコウモリを一口で食べる。邪魔くさい骨は噛みちぎるに限る。人間にとってこの朝食の光景は吐き気を催すものかもしれないが、魔族にとってはこれが当たり前の食事だ。


「魔王様、魔王様、失礼しますー」


 ノックの音とともに、小さな容姿の魔族がチョコチョコとこの食堂に入ってきた。蜘蛛のように八本の手足を揃えつつも、人間のように二足で歩く童女・ルトンだ。

 ルトンは輝く水晶をもって、俺のもとへとやってくる。


「魔王様、見て見てー?」

「なんだ騒々しい。俺は食事中だ」

「でも城門に人間がいるよー?」

「城門に人間? ルトン、お前は門番のゴーレムがそいつらを蹂躙する姿を見せたいのか?」

「そうじゃないよー。魔王様、この人間、なんか変なんだよー」

「わかった、ちょっと貸してみろ」


 フォークとナイフは机に置き、口元の汚れをふき取ってから、ルトンが持ってきた水晶を持ち、覗き込んだ。

 確かに、城門の様子を映す水晶から見える人間の様子は変だった。


 魔王城は人間が住める環境ではない。高山の頂上にあり、俺の魔法障壁も発動しているので、年中極寒で吹雪いている。魔族にやられるよりも、寒さや滑落で死ぬ人間の方が多いぐらいだ。


 そんな最悪な環境のなか、水晶から見える人間は倒れている一人だけだった。他に仲間はいない。無謀な人間の行為だと思えばそれまでだ。

 しかしながら、その人間はあまりにも軽装だった。素足な上に、薄い布を着ているだけで、村にいる人間のようにみすぼらしい。武器の類も、もちろんない。

 かろうじて見える顔立ちから、その人間が若い女……というより、少女であることも分かる。大人の人間よりも一回り小さい。

 無謀な冒険をしている人間とはあまり思えなかった。

 その上、信じられないことに、この軽装の少女は生きている。かすかに口元を動かし、呼吸をしているように見える。

 どうして生きていられるのか分からない。


「確かに変だな」

「でしょーどうするー? 魔王様、殺す? ゴーレムで潰す? それとも、私が食べる?」


 ルトンは口を大きく開き、裂けた口から長い舌をベロリと出す。人一人ぐらいなら丸呑みできそうな大きさだ。

 しかし俺は、頭をなでて、そんなルトンを制した。


「いや、ちょっと見てくる」

「うん? 殺さないの?」

「あれは人間の少女だ。オークかゴブリンどもにやれば、いいオカズになるだろう」

「オークさんもゴブリンさんも、人間の若い女なら何でもいいもんね」

「そうだ。それに俺は、あの少女の奇妙な状況に少しばかり興味がある。楽しい話ができそうだ」

「楽しい話? そんなことして、どうするのー?」

「俺は魔王だからな。死の恐怖を味あわせて、オモチャにしてやるのさ」

「へえー」


 ルトンは変な笑みを浮かべた。関心なのか、何も考えていないのか、よく分からない子どもらしい笑みだ。口は裂けているが。

 俺は、食堂から立ち去り、ルトンを置いて水晶の示す城門へと向かった。



 静かで暗い魔王城の廊下に、俺の足音だけがカツンカツンと響く。部下である魔族どもの気配はない。担当された地域へとおもむき、人間どもを蹂躙しているのだろう。


 城門を開くと、エントランスに雪が舞い込んできた。寒くはないが、視界が遮断されて煩わしい。かといって、魔法を唱えるのも面倒だった。


 少し歩くと、水晶で見た少女の姿が見えた。

 薄着の少女は、雪原の中で息をひそめて横になっていた。服に雪が積もり、そろそろ埋もれてしまいそうだ。


「もう死んだのか? 人間の命は魔族とちがって脆いものだな」


 俺は独り言をつぶやく。この弱々しい人間と会話をして楽しむことができなくなり、少しだけガッカリした。

 だが、


「ま……まだ、生きてます……」


 倒れていた少女は、動くことなく喋る。


「ど……どなたか分かりませんが、あの……寒くて死にそうです」

「そうか」

「ですので、暖かい場所に、運んでいただければ」

「俺が運ぶのか?」

「お願い……します」


 なぜ魔王である俺が人間を運ばなければならない?

 正直、面倒だったが、せっかく生きているのだから、放置して死なせては面白くない。

 俺は横たわっていた冷たそうな少女を背負い、魔王城へと向かう。


「あ……ありがとうございます。それにしても、なんか……肌、ざらざらですね」

「黙れ。俺の皮膚は人間の薄っぺらい皮膚とはちがう。外骨格にも覆われているからな」

「あれ、人間じゃあないのですか……では、あなたは誰?」

「俺は人間を駆逐する魔族の王、魔王だ」

「そうですか、あなたが魔王なのですね……魔王といえば、私は魔王を討伐に……」


 そこで少女の言葉は途切れた。

 死んだか、と一瞬思ったがぐーぐーと寝息を立てはじめた。

 魔王討伐と言いながら、この軽装という事情は分からないが、とにかく丈夫な女らしい。


 俺はとにかく、すやすや寝るこの少女を魔王城の一室へと運ぶ。

 そして運びながら、俺に恐怖をする少女の顔を想像する。

次の日の夕方~夜に更新します。

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