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緒方賢史郎



『空間断絶ダークデスサイズ!!』


「ふはははははっ!!我、遅ればせながら参上!!」



「オタケン!!」

「賢史郎君!!」

「オタケン!遅いのよ!!」

「緒方!待ってたぞ!!」

「オタケン!おいしいところで出やがって!!」



「何者だ!!貴様!!」



「我は!数多な術を極めし大魔導師にして!6人目の勇者オタケンこと、オガタ・ケンシロウとは我の事だ!!魔族の王を騙る大悪党!!シノーゲルガー!!貴殿に明日は無い!!」



「勇者が一人増えたところで!!この圧倒的有利は覆すことはできんわ!!」



「ふはははははっ!!なぜ、我が今迄出てこなかったと思う?……こういう事よ!!」



「なに!?……まさか、貴様ーーーー!!」



「ふははははははっ!!貴殿の敗北は既に決定事項!!大人しく我らの裁きの鉄槌を受けるがよい!!」



「ぐあーーーーー!!貴様!!貴様なんぞに!!」



…………

………




季節は春、昼下がりの5限目。

温かみのある日差しに、肌を撫でるようなそよ風、そして授業は古文、誰もが睡魔と戦いながらも、必死に目を開け授業に取り組んでいたが……その中で周りの目を気にせずに、教科書の上からうつ伏せて、だらしなく涎を垂らしながら堂々と寝る生徒が一人。

「緒方!!おい緒方!!授業中に寝る奴があるか!!」

年は30中頃の古文教師高見は、こめかみを引きつらせながら、その生徒の前に立ち、声を張り上げる。


「……はっ!!敵襲であるか!?」

生徒はその声に、がばっと起き、地味な眼鏡を素早く装着させ、キョロキョロと周囲を見渡す。


「何寝ぼけてる。敵襲ってなんだ?お前は武士か何かか?今は昔と古文の授業を行ってるが、今は21世紀だぞ。しかも堂々と寝やがって」

高見は呆れた表情でその生徒を見下ろす。


「ん?おお、高見教諭殿、これはこれは」


「これはこれはじゃない!お前は!!……まあいい、お前は後で図書館準備室の整理な。ペナルティだから絶対来いよな」


「ふむ。あいわかった」


「お前……反省してないだろ?神経が図太いと言うか、大物と言うか」


「いやはや」

生徒は愛想笑いをしながら頭を掻く。


「おーい。褒めてないぞー」



そんな二人のやり取りに、教室中から小さな笑いが漏れ続けていた。





放課後、2年C組

あの五限目古文の時間に堂々と居眠りしていたあの生徒の元に次々と男子生徒達が声をかける。


「オタケン、あの紹介してもらったアニメ超面白かったわ」

「ふむ。某監督は外れは作ろうはずもなし、しかも今回の新作は得意なファンタジー系なのだ」


「オタケン、マンガありがとな。またなんか貸してくれよ」

「ふむ。外伝もある故、明日にでも持ってこよう」


「オタケン、今度カラオケ行こうぜ!」

「週明けならば放課後同行できよう」


オタケンと呼ばれる、この独特なしゃべり方と、誰に対しても堂々とした態度にと、強烈な個性を発する眼鏡生徒。

自らを根っからのアニメ・マンガオタクと称する変わり者。

本名は緒方賢史郎、ついたあだ名はオタクで名前のオガタケンシロウを文字ってオタケン。

しかし、何故か彼の周りには人が集まってくる変な魅力がある。

クラスでも人気者なのだ。……主に男子に。






「ふははははっ!我、遅ればせながら参上!」

とある部室の扉を勢いよく開け高笑いと共に独特の挨拶をするオタケンこと緒方賢史郎。

高見教諭の図書室準備室でのペナルティを終えこの部室にやってきたのだ。


「部長乙」

「オタケンうっす」

「オタケン先輩こんちーす」

「緒方先輩こんにちは」

「こ、こんにちは」

「緒方おそいぞ」


部員は皆、マンガや本を読んだり、パソコンをいじったり、絵を描いたり、プラモを作ったりとそれぞれに何かをしながら挨拶を返す。


ここはサブカルチャー研究会。

オタケンを頂点とした、自他共に明言するいろんな分野のおたく共の集まり。

現在部員は3年生男子が1人、2年生男子が3人、女子が1人。1年生男子2人、女子3人合計11人が在籍する歴とした生徒会公認の部活なのだ。


昨年オタケンが同好会から発足させ、今年の2月に部に昇格。新入生5人も集め現在に至る。

活動はサブカルチャーに関するものであればなんでもだが、賢史郎は生徒会に部として公認させるために、様々なコンクールや大会に出場したのだ。

その中でも特に功績が大きかったのは、新聞社主催のコラム最優秀賞。

賢史郎自らが大の大人に混じってこの賞を獲得している。

題名は「原作マンガとアニメとの人気度の相関性」という。いかにもオタクな題目ではあったが、実際のデータを元に理路整然と書かれた大人顔負けの内容だった。

さらに、部員からも、某おもちゃメーカー主催のプラモコンクール準優勝。某雑誌社のWEB四コマ漫画佳作などなど……

これらの実績をひっさげ生徒会に交渉し、部として認可させたのだ。



「申し訳ない。高見教諭の手伝いをしていてな、遅くなった」

賢史郎は部長席に座りながら皆に軽く詫びを入れる。


「緒方またペナルティか?高見先生に完全に目をつけられてるよな」

唯一の3年生石田一誠はプラモの磨き工程の手を止め、あきれ顔で賢史郎に言う。


「でも、オタケンと高見先生って仲良さげじゃない?実は図書館準備室の手伝いとか言って二人っきりでフフフフッ腐腐腐腐っ」

一見真面目そうなこの2年の女子小畑みのりはこんな怪しげなことを言ってしまう。

お分かりだろうが、彼女は所謂世間一般で言う腐女子である。


「みのり先輩……よだれ出てますよ」

「みのりん先輩。流石にそれはないない。大体部長と高見先生って誰に需要があるのよ」

1年生女子加納里香と岸田塔子はそんなみのりに突っ込みを入れる。

加納里香はWEB小説制作に、岸田塔子はマンガ大好き少女だ。



「みのり先輩!緒方先輩はそんなことしません!」

顔を真っ赤にして抗議する色白で大人締めの小柄な少女は、普段はおどおどしてるが、この時ばかりは声を大にする。1年生女子の相田志乃だ。


「ごめんって、シノンちゃん……でもさー。男二人であの狭い準備室でって、怪しいと思わない?

高見先生って意外とダンディだし、オタケンはそのまんまオタクだけど、ダンディ×オタクってありそうじゃない?」

みのりは後輩の頭を撫でながら、怪しい笑みでそんなことを言う。


「思いません!」

相田志乃は賢史郎に憧れとほのかな恋心を抱いていた。

相田志乃は他の部員と異なり、オタク気質ではない。オタケンに憧れこの部に入ったのだ。

1年前、怪しげな男二人に絡まれていた所をオタケンに助けられたのだ。

かっこよく助けに入った賢史郎は何時もの堂々として口調で挑発し、敵意をこちらに向けさせるまではよかった。

しかしそのまま、男二人にいい様に殴る蹴るのサンドバックにされたのだった。

志乃から通報を受けた警察が駆け付け、男二人は取り押さえられる。

賢史郎も警察に職務質問等で厄介になるがすぐ釈放。

カッコいいとは決して言えないが、絡まれていた志乃を誰もが見て見ぬふりをし素通りする中、唯一助けに入ったのが賢史郎だったのだ。

その恩情が何時しか憧れとほのかな恋心に……




そして、部活動が終わりに近づく。

「同胞たちよ、日報を書くように。本日おのおのが決めたテーマに沿って、どれだけ充実した時間を過ごせたかを克明にな」


「オタケンさー、いつも思うんだけど、俺らの活動にこれいる?」

2年生男子のぽっちゃりした体格の田川大地はめんどくさそうに、日報と書かれた1枚の書類を手にし賢史郎に聞く。


「うむ。記録とは大事なものだ。人間の記憶は薄れゆくが、こうして記録することで、後世に伝えることができる。時に自らを振り返る材料となり、目的意識を再認識してくれる。さらにこれが存在する事でこの部が歴とした部活であることを生徒会に証明できるのだ」


「まあ、俺らが学校でも好きなことが出来るんだ。これぐらいどうってことないだろ田川?」

田川の友人で同じく2年生男子のひょろりとした体格の中川風太は田川を説得する。


皆が提出した日報を頷きながら確認していく賢史郎。

「ふむ。皆は充実した放課後を過ごせたようだな。……報告である。同胞達よ来月はサブカルチャー研究会恒例のアニメ研究月間である。今回の題目は世界的有名アニメであり、原作マンガの『セブンボール』である。海外各国で単行本、アニメと配信されている誰もが知るタイトルである。そこでだ。同胞たちよ。気になるであろう?」

賢史郎は含み笑いをしながらこんなことを部員に聞く。


「『セブンボール』か結構好きなんのよねアレ」

「部長、気になるって、何をですか?」

それに答えたのは1年の岸田塔子と加納里香である。


「うむ。各国であの皆が知ってるキャラクターがなんと呼ばれているかをだな……アニメやマンガの主人公や主要キャラクターは国によって名前を親しみやすいよう改変されている。シ〇ィーハン〇ターの冴羽〇然り、ポケッ〇モンス〇ーのさ〇し然りだ。冴羽〇はフランスではニッキーラルソン。さ〇しは英語圏ではアッシュとな。なかなか乙なものではないか。その国々によってキャラのイメージが名で表されているのだ。

そこでだ。今回の課題は『セブンボール』の主要キャラについて、各国で呼ばれてる名前を一覧表にし、さらに各国の呼び名についてのコメントやその名のエピソードを面白おかしく書き表すのだ。うまく行けば某編集社に売り込みが出来、我が部の慢性的な資金難が解消されるのだ。これぞ一挙両得!我が部の知の探究と資金が両方得られるのだ!ふはははははっ!!」

賢史郎は今回の課題を眼鏡を煌めかせながら滔々と語り、最後には自分に酔ったかのように高笑いをし出す始末。


「はぁ、毎度毎度なんてことを思いつくのかしら、まあ、面白いからいいんだけどね」

「緒方先輩、流石です」

2年の小畑みのりは半分呆れと半分感心と言ったような表情を浮かべ、1年の相田志乃は尊敬のまなざしを賢史郎に送っていた。


賢史郎は部活終了の合図をし、皆を教室から送り出した後、部室のカギを職員室に帰しに行く。

渡り廊下でふと立ち止まり、赤く染まり沈みゆく太陽を見据えてなにやら黄昏ていた。


「この平穏な日常が続けばよいのだが……」


オタケン

いや、緒方賢史郎は1年半前、異世界から帰還した人間であった。

異世界に飛ばされ戻ってきた人間が全世界に百人単位で確認されていた。

彼ら異世界帰還者(Another world returnee)はリターナーと呼ばれる。

賢史郎はそのうちの一人だった。




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