美穂 16才
美穂の不登校から早いもので8年が過ぎた。
恵子との一対一の義務教育も順調に終わり、普通に受験をすれば、千葉県で一番の進学校にも受かるほどの実力を身に付けていた。
学歴社会で育った私は、かなり口惜しい気もしたが、みなぎる闘争心を抑えて、予定通り今度は専業主婦の勉強に取りかかることにした。
私は恵子と美穂を呼んで今後の話をした。
『義務教育お疲れさまでした。これで美穂は、国が定めた、国民が生きるにあたって必要になるであろう必要最小限の学力を身に付けたことになります。
この義務教育は、学校での人間関係も含めての話ではあるけれども、まあそこは置いておいて、美穂はもう世間に何も恥じることはないと思う。
そこいらの大人よりも、美穂は十分賢いと思うから、そこはもう自信を持っていいと思う。』
美穂も恵子も嬉しそうに聞いている。
『そして義務教育も無事終わり、今日からは生きるための訓練をしたいと思う。
人は働いて生きて行かなくてはいけない。これは誰しも同じことである。
自分の飯は自分で稼いで手に入れなければ生きていけないのである。
しかし、美穂は社会に出ることは困難であると思う。これは前から分かっていたことではある。
しかし、だからといって死んでしまうしかないのかと言ったらそうではない。
恵子と同じく、どこかに嫁いで生きていく方法があるのだ。
これは、養ってもらう、食わせて貰うという事ではない。その嫁ぎ先の家と言う会社に就職して、専業主婦と言う従業員となって働くのであり、その対価として給料を貰うのである。
だから、何も恥じることはないし、誰かを頼って生きているわけでもない。
そこで、何処に嫁いでも生きていけるように、家で花嫁修行と言う職業訓練をしたいと思う。』
恵子も美穂も正座をして真剣に聞いている。
『先ずは、炊事洗濯掃除等の家事全般を、恵子の監修の下やってもらう。これは簡単なことではない。美穂が自分でやってみて経験を沢山積むしかないのだ。
次にお父さんの給料を総て美穂に渡す。
これも恵子監修の下で、総て美穂に遣り繰りして貰いたい。』
ここで私は少し厳しめに強く話した。
『美穂、いいかい?世の中金だ。お金が総てなんだよ。人間は醜い生き物なんだ、信じられるのはお金しかないんだ。俺や恵子が死んでも、お前は一人で生きて行かなくてはならないんだ。そんなときには結局信じられるのはお金なんだよ。
美穂、お金を沢山持てと言っている訳ではないんだ。
お金を美穂の支配下に置いて欲しいんだ。
お金を上手く遣り繰りして、お前がお金を制するんだ。
お金に賢くなるんだよ。
貯め方だけを学ぶのではなく、使い方も学ぶんだ。
市役所に行ったり、税金控除をしたり、銀行に行ったり、電気水道ガス、NHKの受信料、食費に携帯代にガソリン代、自動車保険に、車検、固定資産税、火災保険、確定申告、等々、総てを学んで欲しい。
子供手当てに失業手当て、年金に給付金、国の制度も総て使いこなすんだ。』
美穂は少し泣きそうではあったが、恵子も考えは同じだったらしく、うんうんと深く頷いていた。
恵子がそうであるように、美穂にも是非とも銭ゲバになって欲しいと思う。
『私からは以上です。』
私からは特にもう言うこともないので、後はまた頭の賢い恵子に総て任せることにした。




