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家庭教師

森文子から家庭教師の依頼を受けた私は、次の休みの日に、森文子の家を訪ねた。


学歴社会ど真ん中に生きてきた私は、思いもしない家庭教師の話に、眠っていた学歴社会の闘争心を叩き起こされ、やる気にみなぎっていた。

また、森健太くんという一人の人間を、どこまで育てることが出来るのかと云う、自分の力量を試したいという気持ちにも火が着き、燃え上がっていたのであった。


こと、人を育てる事に関しては、私には絶対の自信があった。


私が今まで学んできた技術や経験に自信があったし、私が今まで学んできた技術や経験が、世間でどの程度通用するのか、健太くんを通して試してみたい気持ちもあった。


私が学んだ全ての技術と経験を伝授してやれば、文子も驚くくらいの凄い結果を出せる自信があったのだ。


家に招かれるや否や、私は早速森文子と、今後の家庭教師のプランについて話し合いを始めた。


『では先ず、私の考えている家庭教師の今後のプランについて説明したいと思います。そのために、先ずは森家の世帯主である健二さんを呼んできて欲しいです。』

私はそう言って、健二さんも含めて話し合いを始めた。


『先ず私は、健太くんのプライベートに合わせて家庭教師をします。健太くんの生活リズムに合わせて家庭教師をすると言うことです。

つまり、健太くんの都合の良い時間に合わせて、私が家庭教師に来ます。

また、健太くんの普段のやるべき事に合わせて家庭教師をします。

つまり、学校の授業や宿題の補佐的な勉強をするわけで、新しく教材を使ったりはしません。

次に、文子さんの主婦としての負担も大幅に軽くしたいと思います。健太くんが殆ど一人で何でも出来るように補佐していきたいと思います。』


森家で少し笑顔が出てきた。


私は、このプランが受け入れられそうなことに手応えを感じ、続けて話した。


『先ずは健太くんに、授業で分からないところをノートに書き留めておいて貰います。そして、私が家庭教師の日にまとめて教えたいと思います。

授業が分かるようになれば、自ずと学校も楽しくなると思います。

次に宿題を中心に勉強したいと思います。

今の中学生はやることが多すぎます。私が新しい教材でやることを増やすよりも、一緒になって健太くんのやるべきことを減らしていきたいと思います。』


森家が更に笑顔になった。


『そして、文子さんの負担も減らしていきたいと思います。健太くんが学校の準備を抜かりなく、一人ですることが出来れば、文子さんの負担も軽くなり、お母さんの心と体の健康も良くなると思います。


つまり大まかにまとめると、

①健太くんの私生活を尊重します。

②授業を大切にします。

③宿題を大切にします。

④勉強の仕方を学びます。

⑤お母さんの負担を軽くします。

の5つを柱に家庭教師をするつもりでいます。』


私が大まかに自分の考えてきた家庭教師のプランを説明すると、思いの外森家の反応は良く、特に健二さんは、とても喜んでくれていた。


『松葉くん、ありがとう。とても良いと思うわ。思いの外しっかり考えてきてくれたのね。』

文子が少し涙ぐんでいた。


『う、うん。まあ、プロの家庭教師ではないけれど、国公立大の合格通知なら2、3個ゲットさせる自信はあるよ。それに、英語もペラペラにさせるし、パソコンだって、かなりの腕前になると思うよ。』

私は平然と、それが当たり前かのように話した。


森家は少しポカンとしていた。


『じゃあ、今度は健太くんと打ち合わせしたいんだけど、これも保護者の二人に見てもらいたいし、知っておいて欲しいんだ。』

そう言って私は森家の3人を連れて、健太くんの勉強部屋まで行き、続けて家庭教師の私の考え方を説明した。


『先ずは、さっきも言ったように、授業で分からないところを、この先生が用意した真っ赤なノートにメモして欲しいんだ。学校ではなかなか先生を独り占めするのは大変だろうし、周りの目も気になるだろうから質問しづらいと思う。その点、家庭教師は健太くん一人のためにいるんだから、どしどし質問して欲しい。

次に学校のテストを、単語テストも含めて全て取っておいて欲しい。そして、そのテストで間違った所だけを消ゴムで消して、ノートに解き直そうと思う。

この授業と宿題とテスト直しさえしていれば、健太くんの生活の負担になることもなく、部活も両立しながら、先生と同じ国公立大には必ず受かると思う。あとは、先生の経験から培った勉強法を少しずつ伝授していこうと思う。』


私は、私が考えてきた、この先の家庭教師のやり方についての方針を一通り説明し終えた。

幸い森家は私の考えに賛成してくれ、特に異論もなかった。

そのため、今後この方針で家庭教師をすることが無事決定したのだった。


家庭教師を初めて一ヶ月ほどして、私はもう一つ森家に今後の方針を伝えるために、もう一度、今度は健太くん抜きで会議を開いてもらった。


『家庭教師を初めて一ヶ月が経ちました。お陰さまで、私的には順調に進んでいると思うし、健太くんも、私の家庭教師が新しい負担にはなっていない様子です。ですので、ご両親の反対がなければ、この調子で家庭教師をしていきたいと思います。』


健二さんも文子さんもうんうんと聴いてくれている。


『健太くんの勉強を一ヶ月ほど見ていて、もう一つの方針の提案があります。』

健二さんと文子さんに少し不安の顔色が出てきた。


『それは健太くんのタイプです。

恐らく、このまま家庭教師を続ければ、健太くんは相当優秀な成績を修めると思います。県内一の進学校にも受かるかもしれません。

しかし、私はそれはお薦めしません。

何故なら、健太くんは東大京大タイプでは無いからです。』


二人ともキョトンとしていた。


『このまま成績がグングン良くなれば、恐らく二人には欲が出てくると思います。家の子は天才だと、良い大学に行かせたくなると思います。

しかし、一ヶ月勉強を見てみましたが、健太くんは東大京大タイプではありません。

これは、健太くんに才能が無いと言っているわけではありません。東大京大タイプの人間は、生まれもって、脳に軽い自閉症があるのです。

学歴社会で良くやってしまう過ちに、このタイプを理解できずに、県内屈指の進学校に合格したからと言って、無理して東大京大タイプの教育をして、その子の将来を潰してしまう傾向があります。

確かに東大京大は凄いことですが、気にする程の事ではありません。生まれつきに軽い自閉症があるかないかの、只それだけの違いです。

悪く言えば、才能が一ヶ所に集中しているのです。

問題は、我が子にその軽い自閉症がないのにも関わらず、無理して東大京大タイプの勉強をさせることです。

そのため、健太くんには健太くんのタイプに合った勉強法と進路を考えていきたいと思います。

一ヶ月見てみたところ、健太くんは健常者であり、満遍なくある程度の才能が色んな分野に広がる、一般的な国立県立大学コースのタイプだと思っています。

そのため、健太くんを、天才タイプの勉強をさせるのではなく、一般の健常者タイプの勉強法で教えていきます。

受験に関係の無い、音楽や家庭科、美術等の教科も教えますし、成績も、学年でまあまあ上の方程度になるかもしれません。』


私が、もう一つの、この先の大まかな方針を言い終わると、森家では、今一理解出来ていない様子だった。


しかし、健太くんには無理はさせたくはない様子ではあったため、最終的には私の方針に納得してくれた。


私は人生の全てを大学受験に捧げた、あの二年の浪人生活で培った技術と経験を全て健太くんに伝授すべく、私の技術と経験を総て網羅した、勉強法の虎の巻『勉強マニュアル』を作成し、健太くんに伝授していくことにした。


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