第八十三話 偽恋人あるいは恋人マテリアル
いつの間にか、前回更新から年を跨いでいました。
毎度鈍足更新の本作ですが、今年も何卒よろしくお願いいたします。
偽カップル縁結びを発見した僕達であったが、問題はどう偽カップル縁結びへと導くかだ。
「単純に、ナンバーワンカップルコンテストの様なイベントを別枠で開催しては如何でしょう」
「そうだね。同時に幾つイベントを開催しても問題無さそうだし、やってみよう。料理音楽イベントも第二ステージ進出が決まった人達が多いし、暇になった人はそのまま参加してくれるかも」
「上手く誘導すれば、既に集まった人員をそのまま参加させる事が出来そうですね」
「イベントに最も大切な多くの参加者を確保出来れば、縁結びの成功も確定したようなものだよ」
方針は決まった。
「「「御意」」」
そして何故か、方針が決まった時点でナンバーワンカップルコンテストの設営も始まった。
イベント実行委員として働いてくれていた眷属達や親族の皆が凄まじい速度で会場を整えてゆく。
ただ、会場だけで中身はまだ決まっていない。
「う〜ん、どうすれば効率良く縁結びに繋がるくらいの偽カップルになるかな?」
「先程の御二方を視るに、どのようなテーマでも問題無いのではないでしょうか? 勝負の結果ではなく、仲の良さによって勝敗を決めるという方式にすれば、後は皆様が思い思いの仲の良い恋人関係を演じると思われます」
「確かに、仲の良さで勝敗を決めさえすれば、どんなイベント内容でも問題ないかもね。寧ろ、あまり誘導しない方が、自分達の考える中で最も理想的なカップルを演じる筈だから、それぞれにとって最も効果的な最適解の行動をしてくれるかも」
理想の恋人行動とは、自分達が恋人にされたい、もしくはしたい行動に他ならない。
つまりそれは、最も心に響く。
偽りであったものでも心の奥底では真に求めているそれを受け続ければ、縁結び成功間違い無しだ。
「料理対決で決定だね」
「……何故?」
「どんな内容でも良いのなら、それが最もお得だからだよ」
「清々しい程の自分本位ですね。そもそも、現在進行形で料理系イベントを開催し食べ続けているのに、まだ食べるつもりですか……」
「一番の調味料は愛情だとも聞くし、甘酸っぱいデザートは別腹だよ」
「偽物の愛情ですし、マスターに愛が向けられる訳でも無いのですが……。まあ、確かに内容はそこまで関係なさそうなので、その方針にいたしますか」
コアさんも賛成してくれたし、ナンバーワンカップルコンテストの内容はお料理対決で決定だ。
主な内容は料理音楽イベントと同様だし、都合さえ合えば気軽に参加してくれるだろう。
そしてその都合は、イベント運営である僕達がある程度制御可能。
これで、参加者も十分な数が容易に集まる筈だ。
食べられる料理が増えて縁結びも成功、完璧なイベントになるに違いない。
新イベントの告知を行ってから暫く、黄金林檎、パリスの審判シリーズではなく普通の黄金林檎を賞品に選定した直後から、無事多くの参加者達が集まって来てくれた。
そして、僕達の想定通り、集まって来た大部分は偽カップルだ。
正確には今、集まろうと偽カップルをあちらこちらで組んでいる途中だった。
「“イズンの黄金林檎”、単に不老不死や若返りではなく、若さそのものを司る常若の源泉。今度こそ美貌を維持する為に何としてでも手に入れなければ。しかし、カップル限定……」
「女神様! ここは俺にお任せを! 俺と組めばあの黄金林檎は女神様のものに決まったも同然だ!」
「そう聞いて先程は組んだのに敗退しましたが…。まあ、良いでしょう。戦力が必要になった場合、貴方程の肉盾はいないでしょうし」
僕達が偽カップル縁結びを思い付くに到ったイベントで敗退するも、再び偽カップルを組むイタル先輩とセントニコラさん。
尚、敗退理由は適当に選んだデュエット曲のパートを反対に歌ってしまったからである。偽カップルを演じる事に集中して肝心のイベント内容を疎かにしていたらしい。
だが、これは言い換えるとこの二人ですら偽カップルを組むという行為には意識が集中する、本気で演じる事になるという事だ。これが感情まで演技するに至れば、縁を結べたも同然。
やはり、偽カップル縁結びは勝算が高い気がする。
「くっ、黄金林檎は欲しいですが、パートナーなど…」
「良ければ俺が組みましょうか? いつもお世話になっていますから、黄金林檎を取ってプレゼントしますよ」
「彼女がいた事のない貴方にカップルの演技が可能だと? いえですが、〈超演技〉が有ればそれも容易い? いやいや、そもそも引き出しがあるかどうか……、分かりました、組みましょう」
「はい…、よろしくお願いします…」
これは転生担当女神であるアウラレアさんとその勇者マサフミ先輩。
演技力の話とはいえ、カップル適性の話をぐさぐさと言われてマサフミ先輩は落ち込んでいるが、まあ何とかなるだろう。
「妾も黄金林檎欲しい。あれは間違いなく美味。カナタ、献上して」
「分かった。でもこのイベントは一人じゃ出場出来ない。だからユイン、僕と組もう」
「許可する。勝利は絶対に譲らない」
これは美食好きな吸血姫のユイン先輩とそのユイン先輩に血を含めて貢いでいるカナタ先輩。
同じ様に裸体美術部の先輩達は黄金林檎が欲しい女性陣の為に、そう言う口述で全員が出場を決めてゆく。
裸体美術部に関しては、基本的に男性側の好意は本物。
パートナー役の女性さえ本物の好意を抱いてくれれば、きっとすぐに本物のカップルになってくれるだろう。
この縁結びが特に効力を持ちそうだ。
対して、互いに好意を持っていないがこのイベントへの参加を決める人達も結構な数存在していた。
例えば風紀委員。
「裸体美術部がイベントを口実に何をしても不思議ではない。非常に危険だ。この学園の風紀を守る為に介入できる形で監視する必要がある」
「我々もイベントに参加すると言う事ですか?」
「ああ、観客の立場では何かが起きた時に介入出来ない可能性が高い。食材採取のイベント時のように舞台が他世界では、参加してなければ手が出せなくなる。参加者として潜入する事はこの学園の秩序を守る為に必須だ」
「他世界が舞台の場合、その世界へも甚大な迷惑が発生する可能性が有る。アンミール学園の名を汚さぬ為にも、この任務は決して失敗出来ない」
「今回、自体の深刻さ及び監視規模を鑑み、衛兵科や騎士科、生徒会などと全面協力し任務に当たる事となった」
「チーム編成を発表する」
恋愛に発展する感情が皆無だ。
一番強い感情は裸体美術部への怒りと殺意。
そして責任感や正義感。
だが、こういう真面目な人こそ偽カップルを演じて発生した感情にころっと落されてくれるかも知れない。
十分に可能性があると思う。
それに裸体美術部と争い生命の危機に発展したら必死に協力し、パートナーと強い信頼関係が育まれる事だろう。
ある種、偽カップル縁結びにおいて最高の人材かも知れない。
人数も沢山するし、きっと何組ものカップルが誕生する筈だ。
そして参加動機はこういうものに限らない。
裸体美術部と風紀委員会はどちらかと言うと特殊な例だ。
「あの黄金林檎は絶対に高く売れる。その市場価値は大陸中の国家予算にだって匹敵する筈だ。あれを売れば公国の借金を返済して余りある筈だ」
そう言うのは露出教から借金をしたばかりに服まで差し押さえられているハービット先輩。
話を聞いているのはエストロ公国に属する全裸の貴公子達。
このイベントも借金の返済を目指して参加するらしい。
ただ、このイベントの場合参加したければ参加できる訳では無い。
「ですが陛下、参加資格としてカップル限定とあります。我々に恋人や婚約者がいるものは居りませんが?」
貴族ではあるが、いやある種貴族であるからこそハービット先輩達に恋人は存在しないし、だからと言って貴族令嬢を遇するに相応しい交際費なんて捻出出来ないから婚約者もいないようだ。
「仕方がない」
おや? ここで早くも諦めてしまうのか?
貴族の義務を果たすためには羞恥心にすら日々耐え続ける真面目な先輩達だから、偽物の恋人役を人に頼めないのかも知れない。
そんな先輩達だからこそ、是非とも参加して欲しいのだが。
「何人か女装して参加しよう」
……何故そうなった?
訂正しよう、参加してくれなくていい。女装して組んだ偽物カップル縁結びでは縁結びにならないのだから、やる意味が皆無だ。
今度別の縁結びイベントに参加してもらうとしよう。
「それは良い考えですね」
「普段から協力して困難に立ち向かっている我々で組めば、優勝は確実です」
というか普段着も買えないから全裸なのに、どうやって女装するの?
ナニよりぶら下がっているし。
何か、見てみたくなって来た。確実に参加登録で門前払いにされるだろうけれど、素通りさせて参加させる様に言っておこうかな。
尚、よく視てみれば女装や男装して出場しようとする人達はかなりの数いた。
まさか、そんな方法で参加しようとするとは、流石に想定外だ。
まあ、参加登録時に弾かれたら、そこで同じ事を考えている人を発見して男女で組み直す事もあるだろう。
普通に考えたら、このイベントの真の目的が縁結び出なかったら確実に出場資格そのものが停止だが、ここの先輩達なら諦めずに次の手段を模索する筈だ。
そこまで手段を選ばない程に参加したいのであれば、寧ろその先が期待出来る。
ちゃんと組み直してから、是非とも参加して欲しい。
そして、偽物の恋人を探さないでイベントに参加しようと人達は、女装や男装して参加しようと考える先輩達に限らなかった。
「くははっ、初のお披露目が大規模イベントとは舞台に不足無し! 我等が第3美少女開発部の技術の前に、世界は揺れ動く事になるだろう!」
「ですが部長! 人造決戦型美少女兵器β2シリーズは調整が不十分です! 人造魂魄炉の出力は現状全く安定していません! 危険過ぎます!」
「同志パルウェル、どの道最終調整には実地試験が必要だ! それが今回はこのイベントになった、それだけの事だ! 自分の技術を信じろ! 第3美少女開発部総員、β2シリーズを解放しこのイベントに参加せよ!」
何と、クロノテア先輩率いる第3美少女開発部は自分達が作製した人造美少女を彼女としてイベントに参加するらしい。
「第3美少女開発部に遅れを取る訳にはいかない! 第1美少女開発部もこれに参加する!」
「吾輩達、第2美少女開発部も傍観は許されない。直ちに準備せよ」
恐ろしいのが、この方針の人達が一つの団体だけでは無い事だ。
ヴェッシェル先輩とオズバーン先輩により他の美少女開発部も参加する事が決定した。
尚、第1は古くからあるホムンクルス技術による美少女の開発を目指し、第2は新たな人造生命体作製法によるアプローチによって、第3は高魔力により強引に結果を得る魔法技術をメインとして美少女の開発を目指すと言う違いが有るらしい。
もっと大雑把に分類するとそれぞれ錬金術、魔法生命学、魔法工学系の部活だ。
似ているが化学と生命学と物理学くらいには違う。
因みに、第3まででは無い。
もっと多く美少女開発部は存在し、他の離れた場所にいる美少女開発部も同じ様な結論を出していた。
そして、美少女開発部はまだ良い方だ。
一応、造っているのは、目指しているのは美少女だから、完成度によっては全く問題ないとすら言える。
自身がホムンクルスと言う生徒もこのアンミール学園には一人や二人では無いし、完成度によっては歓迎すら出来る事だ。
「少女型ロボット兵器ことりシリーズの初陣時が来たな」
「部長、一番大切な外装がまだなんだけど? 鉄人形だよ?」
「スワーレよ! お前は女性を外見だけで選ぶのか? 違うだろう! ことりちゃんだって同じだ! 見るんじゃない! 感じろ!」
「絶対に門前払いだと思うけどな……」
ロボロボしい内部機関が剥き出しのシルエットだけの人型。
僕も門前払いだと思う。
「魔導頭脳A45b、恋人役を頼む」
『畏まりました。立体プロジェクター搭載ドローンにてサポートいたします』
「A45b、俺のサポートも頼む」
『畏まりました。立体プロジェクター搭載ドローンは予約済みですので、吊り下げ型人形劇機能搭載ドローンと少女人形ドロシアを用いてサポートします』
「クオリティが一気に下がってないか……? と言うか、何で使い途が分からない人形劇機能搭載ドローンがあるのに、プロジェクター搭載ドローンは一機しか無いんだ?」
「まぁまぁ、恋人のいないのに出場出来るようになっただけ良いじゃないですか? A45b、僕の恋人役も頼む」
『畏まりました。予約の空いているハリボテ搭載リフトを用いてサポートします』
「……ハリボテ搭載リフト?」
人工知能に恋人役を任せる、ロボットから機体すらも無くして参加しようとする強者もいた。
いや、剥き出しのロボットを恋人役にするよりはマシなのかも?
世の中、より良いものを選ぶよりも悪いものを選ぶ方が難しいのかも知れない。
「我が嫁、クトゥルゥちゃんTシャツを着れば二人三脚完全体そのもの。優勝はもらったであります」
「余の彫った美女像に優さる恋人は無し。理想のカップルというものを見せてしんぜよう」
「恋人? 俺の恋人は右手だ」
…………明らかにもっと悪い手段を選ぶ人達がいた。
「……どうしよう? そもそも偽カップルを組もうという考えに辿り着かない人達が大勢いるんだけど?」
「私も想定しておりませんでした……。まさか、最も簡単である筈の答えに辿り着かない、いえ何故かそれを突き抜けてしまうとは。ですが、対応としては普通に参加時に弾けば良いのではないでしょうか?」
「でも、参加登録を厳しくすると偽カップルの人達が参加を諦めちゃったりしないかな?」
この偽カップル縁結びの対象は名前通り偽カップルだ。
しかし、イベントの参加資格として提示している対象はカップル。
参加する人達の自らの意思でカップルを演じるからこそ、この縁結びは効力を発揮する。だからルール上は偽カップルに参加資格自体が無い。
つまり、偽カップルと言うのはルールの上では完全に不正。
不正に対する取締を厳しくすれば、運営側が見逃すつもりでも突破は無理だと判断してそもそも参加しようとしなくなってしまう可能性がある。
少なくとも、一度弾かれた人は再度参加しようと挑戦しなくなってしまうだろう。
何故なら、一度弾かれた時点で普通は恋人がいないから不正をしたのだろうと判断される、判断出来てしまう為だ。
偽の恋人を用意して再挑戦しても、偽物だと判断されるのが本来は当然。
恋人になり得ない存在を恋人役にしたところで、縁結び的には何の意味もないが、何故か参加させない様に仕向けたらこのイベントの成功自体が揺らいでしまう。
「なるほど、確かにそうかも知れません。ですが、参加を許可しますと悪影響も考えられるのでは? 明らかに恋人でない存在と参加しても問題ないと理解されては、偽カップルの演技が甘くても問題ないと判断され、偽カップルと呼べないチームが増えてしまうかも知れません。そうなれば、偽カップル縁結びは成立しません」
コアさんの言う通り、偽カップルをまず演じてくれなければ縁結びの効果はおそらく皆無。
本気で演じてくれなければ極めて困る。
「なら、間をとって熱意で判断してみようか。恋人と言い張るには無茶なものを恋人役にするには相当な演技力や熱意が必要な筈。それほどの演技だったら偽カップルの質を下げる事にはならないんじゃ無いかな?」
「場合によっては、偽りであればそこまで演じなければならないのだと、偽カップルの方々に圧力を与える事が出来るかも知れませんね。そうなれば寧ろ与えるのは良き影響。その方針でよろしいかと」
「と言う事で、そんな感じで参加登録を選別出来る?」
僕がそう言うと、サカキとナギが音も無く気配も無く急に現れた。
「お望みのままに」
「我等一同、微力を尽くさせていただきます」
そして再び消え現場に指示に向かう。
これで後は、参加者が出揃うのを待つだけだ。
果たして、無茶な恋人役を用意した人達はどう乗り切ろうとするのか。
かなり気になる。
イベント開始まで時間もある事だし、観察していよう。
「参加登録へようこそ。参加登録は出場選手自身が揃ってカウンターで申請してください。ご本人様がいらっしゃらなければ登録が出来ませんので、揃ってから列にお並びください」
まず参加登録を行うカウンターよりも大分前から何人もの職員でそう呼びかけを行っている。
一箇所だけで説明している訳では無いから、新たに並ぶ人達以外はカップルもしくは偽カップルで並んでいる筈だ。
しかし、何故か一人で並ぶ人達が大勢いる。
「こちらの参加登録はご本人様がいなければ行えないのですが、恋人の方はどちらでしょうか?」
「眼の前にいるでしょう。俺の恋人はここに居ることりちゃんだ」
「ですので、恋人の方はどちらにいらっしゃるのかと? まさか、そちらの鉄人形の事を言っているのでしょうか?」
「鉄人形じゃない! ことりちゃんだ! ことりちゃんは見ての通り女の子だ! 確かにロボットだが心だってちゃんとある!」
『ターゲット補足。勝率推定0.008%。リソースが不足しています。リソースが不足しています。武装及びエネルギーをチャージしてください。武装及びエネルギーをチャージしてください』
「心があるのではなく、ただの戦況を分析している様にしか思えませんが? それに心の有無を無視したとして、あなたはことりちゃんとやらを愛しているのですか? そして、ことりちゃんはあなたを愛しているのですか?」
戦闘用人型ロボットを恋人だと言い張るテラルーレ先輩。
せめて、外装が無い代りにロボット側に恋人を演じる機能ぐらい存在していると思っていたら、戦う為の機能しか搭載されていないらしい。
「勿論だ! ことりちゃんには心も有るし、俺の事を愛してくれている!」
『下がってください。危険です。下がってください。危険です』
「こうして身を挺して俺を俺を守ろうとしている! これが愛じゃなければ何だと言うんだ!」
「恋人だというのなら、今ここでキスして見せてください」
「キ、キス? い、良いだろう!」
何が何でも恋人だというテラルーレ先輩に、係員からの無茶振りが飛ぶ。
それに対してテラルーレ先輩は応じ、唇がことりちゃんのメタリックな口へと近付く。
『味方の接近を確認。エネルギー補給を求めていると判断。補給モードに移行いたします』
「えっ?」
「どうかしましたか?」
「い、いや、問題ない!」
何か、予想外のモードに切り替わったらしい。
ことりちゃんの全身からバチバチとエネルギーのスパークが発生し始める。
恐る恐る顔を近付けるテラルーレ先輩。
ガシッ! 後ろからの不意打ち。
テラルーレ先輩はことりちゃんにハグされる様に引き寄せられた。
「アバビバビババーーッッ!!」
思いっ切り感電するテラルーレ先輩。
ゆっくりと更に高出力の口が近付いて行き接触。
「アビャービババビバビィーーーーーッッ!!」
感電はあまりに激しく、骨が透けて見えそうだ。
まさか、戦闘用ロボットを恋人役にするのがこんなにも命懸けだとは、思いもしなかった。
「…………ブハッ! し、刺激的な、キスだった、ぜ」
「熱意を拝見いたしました。参加登録を受け付けましょう」
「や、やったぁ……」
目的が達成された事を聞いて、テラルーレ先輩は気絶。
後ろに並んでいる第2鉄人研究部の面々は、同じ目に遭うんじゃないかと冷や汗。
他の無茶を通そうと考えていた人達も同じ様な事になるんじゃないかと冷や汗。
予想とは違うことに展開になっているが、熱意や覚悟を周囲に示させると言う目的は初めからほぼ達成された。
それ程の事をしないと参加も出来ないと分かった筈だ。
ついでに、かなり列は並んでいるので、直にテラルーレ先輩の悲劇を見ていた人達ほど、物理的に逃げる道がない。
やり切るしか無いのだ。少なくとも、偽カップルは下手な演技であってもこの段階では参加登録を通過出来るし、ここで逃げられる事は無い。
「これで皆、本気で演技して偽カップルを演じてくれるね」
「……恐怖支配になっている様な気もしますが。まあ、目的達成の為には良い展開だったかも知れませんね」
そして、外装も整っていないロボットでも、熱心に言い張り続ければ恋人として認められるという事も示す事が出来た。
そんな無茶も通るのだから、偽カップルであれば簡単に通るという印象を与える事が出来るし、押し通し続け身をもって示せば何とかなると判断してくれた筈だ。
偽カップルだとバレそうになった参加者は、きっと無理矢理恋人っぽい行動をすれば失格にならない、少なくとも可能性が残されていると判断してくれるだろう。
そうなってくれれば、この偽カップル縁結びの成功確率は成功に確定されたも同然。
そして、無茶な恋人マテリアルを押し通そうとして悲惨な目に遭ったテラルーレ先輩を見て、方針を改める先輩達も現れ始めていた。
同じく無理な恋人マテリアルを持っている人を見つけると、目線や顔芸、ジェスチャーで会話。
纏まるとお互いに恋人マテリアルをぽい。
求めていた偽カップル達が誕生してゆく。
明らかに無茶な恋人マテリアル、一目で分かるものを所持していた人が多かった事から、お互いに簡単に視認でき、身動きは列でし難いので基本的に近場の人達でランダムに組まれていた。
列は知り合い同士で近くに並んでいた事も多いようだったので、結果的には知り合いと全く知らない人同士の偽カップルでちょうど半々くらいだ。
色々な組み合わせがあった方が、おそらく縁結びの成功確率は上がる、そうでなくともどうすれば成功し易くなるのか分かるので、この展開は有り難い。
ただ、知り合いも無茶を通して参加しようとしているのを知っているのならば、何故その人と組まなかったのだろうか。
最初から組んでおけば良かったのに。
後、相手が無茶な事をしようとしていると判断できるって事は、自分が無茶だって理解しているんだよね……?。
それでも挑戦しようとしていたとは、これも英雄の素質と考えて良いのだろうか?
そして問題は、無茶な作戦の末路、まあ目的からしたら成功なんだろうけど、それを見届けても周囲に目も向けず自信満々な人も結構な数いる事だ。
それ、本気で恋人と言い張る事が出来ると思っているのだろうか?
だが、偽カップル縁結びの上ではこう言う強靭な精神力と熱意を見せつけてくれる人は大変に有り難い。
何だかんだ、参加者達は良い感じのバランスで集まってくれたかも知れない。
色々な動機から組まれた在り方の違う偽カップルに、無茶恋人所持の人、そして本物のカップル。
きっと、素晴らしい豊穣な結果となってくれるだろう。
《用語解説》
・イズンの黄金林檎
異世界における北欧神話の神々に永遠の若さを与える黄金林檎、その伝承と同等以上の力を有する黄金林檎。
時を巻き戻す、老いを奪うのでは無く若さを直接与える力を有し、若返りの力を与える宝物としては最高峰とされる。
通常、歳を戻す様な力を有する若返り薬では、1000歳の老人は100年若返っても900歳の老人になるだけであるが、この黄金林檎は1000歳の若者にする事が可能。また歳を戻した場合、若返った直後から再び老化が始まるが、イズンの黄金林檎は若さそのものを与えるので効力が切れるまでは若さを維持出来る。
そのように、あらゆる存在に直接若さを与える事が可能であり、神話通りに神々、そもそも若さが存在しない存在も若くする可能。
尚、不老不死になる訳ではない。最低品質であれば100年の若さが、中程度の品質では1000年の若さが与えられ、若さの力は全盛期を維持する力である為、病や傷が有れば治り若さが続く間はある程度の不死性も付与されるが、完全な不老不死にする力は有さない。
しかし、人にとってはそれでも不老不死と呼べるものであり、神すらも求めるものなので市場価値は一般的な世界の大陸中の国家予算すべてを合わせた価値がある。基本的に世界を統一した世界皇帝くらいにしか手に出来ない。
入手難易度もその価値に相応しい難度を有し、その発生原理は解明されていない。果実であるが樹を発見したという報告例は殆ど無く、樹が発見されても同一文明の間に次の実が成ったという報告は無い。莫大な若さが収束する事で突如発生するとされる。
因みに、アークの栽培したこの黄金林檎は100万年の若さを与える。そして、アークは普通に育てている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
改めまして、今年もよろしくお願いいたします。




