第八十ニ話 世界大戦縁結びあるいは無限の可能性
本作は今日で連載6周年を迎えました。
ここまで続けて来られたのも皆様のおかげです。
とんでもない力を投入して開催したイベント、その真の目的である縁結びは殆ど成功していない。
このままでは、歴史に残る程の大失敗として語り継がれてしまう。
しかし、解決策は今のところ思い付かなかった。
やはり比較的成功している場所からヒントを得て、それを発展させるしか無い。
取り敢えず、被害という形でのコストが大きい大戦系のものは除外して考えよう。
幸い、どこも極限まで追い詰め協力関係に至らせる訳でもなく、色々な採取先を用意している。
そして食材採取だけでなく、この音楽イベントは音楽や料理といった要素、と言うよりもそれがメインのイベントだ。
よく探せばこれらの過程で仲が深まっている人達もいるかも知れない。
「半ば忘れかけていましたが、これって音楽イベントでしたね。確かにそちらの方面でも何かしらの良き変化が既に起きているかも知れません」
「派手なものばかりに気を取られていたから、僕達が視逃していただけな可能性は十分にあるよね」
そもそも、この音楽イベントは縁結びの勝算が高いと考えて開催したのだ。
元々戦闘縁結びを上回る成果を見込んでいる。
つまり、ここで成功さえすれば世界大戦程度の被害くらい何でも無いのだ。多分。
兎も角、僕達は一番大切な本命を忘れていた。
まだまだ希望はある。
様々な音楽イベント会場に目を向ける。
『料理音楽大会』との違いとして、どこも比較的参加者人数が少ない。
そして音楽に自身がある人達が多かった。
アンミール学園生徒の大部分は戦闘力の方に自身があり、また料理という音楽とは異なる要素が含まれている方が総合的に勝算が高いと判断したらしい。
故に、純粋な音楽イベント部門では音楽家など本職の人達の比率が高かった。
しかしそれでも比較的少ないだけであって、立派な音楽イベントと呼べる程の人数が揃っている。
優秀賞品をどういう過程で渡すのか明示していなかった為、この会場だけでも優秀賞品が贈呈される可能性を考えた人達が駄目元で参加しているらしい。
そして観客も分かり易い為か参加者との割合的に多かった。
人数も十分だし、物語の一つや二つ、きっと起きてくれるだろう。
何よりも玄人の域、本物の偶像教徒、じゃなくてアイドルなどもおり、既にファンに好意を抱かれている参加者達も大勢いた。
僕達が何もしなくても、ほんの少しの変化で結ばれる可能性が有りそうだ。
食材採取、戦闘縁結びの何倍も期待出来る。
ちょうど今、アイドル部門の会場では大人気偶像教司祭、アンミール学園芸能科の主席でもある【百輝夜光】エレン先輩がステージに立っていた。
既に会場は大盛り上がり、更にアイドルとしてだけでなく主席、首席ではなく主席の名に相応しい大きな力を持つ先輩だ。
間違いなく英雄と呼ばれる力を持っている。
是非とも結ばれて欲しいし、すぐにでも結ばれてくれそうな先輩だ。
「「「きゃああーー!!」」」
登場しただけで大歓声。
それに対して笑顔でファンに向けて手を振る。
純白と金色の王子様衣装を身に纏っており、本物の王子様よりも王子様っぽい。
そしてマントで身を隠しながら一回転すると、男装王子様に早変わり。
「「「お姉様ぁーー!!」」」
男女問わず大歓声が轟く。
これもエレン先輩の素晴らしき特長の一つ。
エレン先輩はどちらの性別にもなれる。また複数の姿を持っており人格まである程度変わる能力を持つ。
エレン先輩は〈残機〉スキルを極め、遂には死に戻りや転生系の能力までも自力で身に着けた数多の世界を視渡しても規格外の英雄だ。
ただその能力だけでは世界を救うことまでは出来ず、幾つもの挫折を、転生の影響もあるが他の人格が生じる程の挫折を重ねて来たらしい。
しかしその多重人格までも活かせる程までに乗り越えて来た、偉大とすら呼べる先輩だ。
『今日も集まってくれてありがとう! お礼にこの歌を贈ろう! ”ニセモノ王子とは言わせない“』
「「「きゃああーー!!」」」
照明が一気に点灯する。
『君の為ならば 嘘だって吐こう
この想いを偽らない為に
王子様にだって成り切ってみせる
でも愛があれば嘘にはならない 君は本物のお姫様 隣の僕は王子様』
普通なら恥ずかしい歌詞の歌を完璧に歌い熟すエレン先輩。
会場中の好意を欲しいままにする。
縁結びなど必要ない。皆がエレン先輩に夢中だ。
さて、エレン先輩の意中のお相手は?
多くの人の好意を受けているのだから、エレン先輩の想い次第だ。
『皆、今日はありがとう! 愛してるよ!』
「「「きゃあああーー!!」」」
本当に胸を撃ち抜かれたみたいに倒れる人まで続出する始末。
しかし問題が一つ。
エレン先輩は嘘を言っていない。
本心だ。本当にファン全員を愛している。
誰が本命か?
『『我らに御任せを』』
こんな時に仕事が出来る眷属筆頭のサカキとナギ。
然りげ無く、まあ何時も通りのスーツ姿なのだがそれによって運営の人らしさ全開でエレン先輩に近付く。
因みに今回は本当に運営として参加していたので全く違和感を抱かれていない。
「ご苦労様でした」
「今回はご参加、ありがとうございます」
「交通費等、ご参加に要した費用は全額こちらで負担させていただきます」
「ありがとうございます。ですが、衣装などは普段のコンサートで使っているものですし、交通費も転移魔法で来ただけですので大丈夫です」
当たり障りない内容から会話を始めるサカキとナギ。
既に僕達よりもコミュニケーション能力が高い。
「いえ、転移魔法の費用はこちらで負担させていただきます」
「いえいえ、自分で転移魔法を使ったので」
「そう言わずお受け取りください。百万フォンです」
「ひゃ、百万!? 本当に結構ですから!」
「そうですか。失礼いたしました」
コミュニケーション能力が高いと思ったら、常識はまだまだ無いらしい。
とんでもない交通費を提示していた。
交通費名目で支給したら賄賂を疑われる。団体なら兎も角、個人に支払われるものではない。
初めから百万フォン相当のチケット等を渡すのならまだしも、後からの交通費で百万フォンを渡すなど、相手の神経まで疑われてしまう。
「冗談です。ですが、お連れのスタッフ様もいらっしゃいましたら、その方々の必要経費もこちらでお支払いいたします。彼女、彼氏様がいらっしゃいましたら、その方の交通費も支給しますよ」
「ははは、僕は一人で活動していますから大丈夫です。勿論、誰とも付き合っていませんし」
とんでもなく常識がないと思ったら、会話を目的に繋げるためであったらしい。
と思ったら、裏でこっそり百万フォンの入った袋をポケットにしまっていた。
ただの偶然だったらしい。
「またまた、それにエレン様が告白すれば誰でも頷きますよ」
「僕の恋人は仕事ですよ。だから皆の事を愛しているんです」
この言葉に嘘は無い。
プロ意識が高かったようだ。
成る程、本職のアイドルだとこういう部分で縁結びが難しいのかも知れない。
ならば、ファンの方から押して貰えば良いだけだ。
この程度で僕は諦めない。
そう思っていると、僕達の眷属が観客席の方へと向かった。
「ズバリ、エレンさんとお付き合いしたいですか?」
記者風に変装した眷属達がエレン特集を作ると言って、正面からインタビューする。
「まさかそんな! あの御方は誰ものでもないのです! 私が独占するなんてそんな恐れ多い!」
「その通りであります! エレン様は世界の宝! 等しく世界を照らす太陽のような御方なのであります!」
ファンもプロ意識が非常に高いようだ……。
アイドルの縁結び、もしかしたら一番難しいのかも知れない。
多分、お互いを意識させる様な機会を作っても、ただの推しへのドキドキ等に変わってしまう気がする。
「アイドルの方との縁結びは難しそうですね。ですが、本職で無い方も好意を得やすく、縁結びの場としては良いかも知れません」
「だよね。でもそうなると、本職の人達がいる会場では縁結び対象としては本命の素人、もしくはまだプロ意識の薄い新人の人達が見劣りしちゃうかも」
「新人アイドル限定会場、もしくはアイドルオーディション会場の新設が必要かも知れませね」
「なんならいっそ、恋人募集中アイドル限定会場でも開設する?」
「奇抜ですが、勝算は有りそうですね。全部やってみましょう」
「「畏まりました」」
そう話していると、仕事の早い筆頭眷属二人が現れすぐに消え、新たな会場の設営が始まった。
ついでに今の話に出た以外にも幾つか新設。
元々会場自体が巨大過ぎる、空きがあった事もあり新たな会場の開設はすぐに終わった。
アイドルの縁結び上の欠点を廃した音楽イベント、必ずや成功して縁の一つや二つ、強固に結んでくれる事だろう。
結果が楽しみだ。
新たな縁結び方法を考案している間にも食材採取は進み、お題の食材を持って来る人達もちらほらと現れ始めた。
そんな中で物語っぽいものを展開していたのは、意外にも大きな困難に挑んだ人達ではなく、特殊食材を手にした人達だった。
例えば”呪詛味噌“を獲得したブルックス先輩。
呪いにかかって対戦相手の人達を無差別に襲っている。
”呪詛味噌“はソフィア世界において二千年前の大聖者慈仙大師とその神の呪詛により生じた味噌。
獲得するだけなら猛毒の瘴気に包まれアンデットが闊歩する危険地帯を進めば良いだけ、それでも歴代の数多くの周辺国が解放を諦め徐々に領域が拡がっている程の脅威ではあるが、アンミール学園の先輩達にとってはそこまでの難易度ではない。
一番の敵は他の参加者である程度の難易度だ。
しかし食材として以外にも、試練として選んだだけの理由はある。
見つけ獲得しても持ち帰るのが非常に難しいのだ。
豆の中でも魔を滅する伝説級の秘宝”魔滅“、上級悪魔、爵位持ちですら触れるだけで浄化されてしまうという伝説の豆。
それが発酵し生まれたのが”呪詛味噌“だ。魔を滅する秘宝すら腐る程の呪詛がそこには込められている。
触れただけで大聖者慈仙大師とその神の北斗大仙の呪詛、自分達を裏切り魔王軍についた人間に対する恨みに支配される。
今のブルックス先輩は魔王を超える魔王だ。
より人間を恨み、濃縮された呪詛から人間を滅ぼす力すらも与えられた悪鬼羅刹。
元々のブルックス先輩の力と相まって、ここで止めなければソフィア世界を滅ぼすだろう。
「……現世に救済を、穢れに浄化を……」
そう呟きながら手当たり次第に生きている存在、即ち他の先輩達を攻撃し続ける。
全ての攻撃に呪いが込められており、一太刀交えるだけでも生命力を奪われ先輩達はダメージを受けていた。
「やめろ! 正気に戻れ! うぐっ」
「“聖域”! このままでは、一般人の方々まで傷付けてしまいますよ! あなたは弱きを守る遍歴の騎士なんでしょう! あっ、聖域が!?」
「取り敢えず拘束する! “封鎖”! くっ、駄目か!」
浄化魔法も拘束術も容易く破る。
難易度的には、魔王を封印するのと変わらない。
次世代の英雄と呼べる先輩達の力を以ってしても、全員で拘束や封印をしないと止められないだろう。
動きを少し止めるくらいしか現実的ではない。
「心を強く保て! お前は誰よりも強い心を持っている筈だ!」
「騎士詐称の罪でお尋ね者になっても遍歴の騎士に拘り続ける馬鹿が、こんな呪い如きに屈しても良いの!?」
「騎士道精神はどこに行った!? 呪いにお前の在り方が否定されているんだぞ! 悔しくないのか!? 早く起きろ!?」
動きを止める事を断念した先輩達は、ブルックス先輩と交戦しながら、次々と訴えかける。
それぞれの思いをぶつけ心を揺さぶる。
縁結び的に素晴らしい展開だ。
命の危機を共に乗り越える吊り橋効果縁結びよりも、良い展開である。
と思ったら、全く違う展開になった場所もあった。
別の経緯で出来た呪詛味噌の一種、呪詛赤味噌を違う世界で探していた人達は終わりなき戦いに身を投じていたのだ。
「血を捧げよぉ!!」
「馬鹿が、不用意に触るからだ! それが貴様の敗因! 大人しくそれを渡して貰おう! “昇竜撃舞”!」
血に飢えた魔鬼と化したヴィルレイン先輩が放つ血のような刃を受けたロンルー先輩は魔力を先端に集めた棍兼杖を踊る様に回転させ次々と弾く。
棍の先に集められた青い魔力は回転させられる事で龍の様な軌跡を描き、紅い刃を漏らすことなく砕いてゆく。
そしてそのままの勢いで接近してヴィルレイン先輩を叩いた。
「ぐばぁっ!!」
術の効果により物理的にはあり得ない勢いでヴィルレイン先輩は吹き飛ばされる。
「ふん、意識を乗っ取られて弱くなったな。味噌は俺がいただいて行く。ぐっ、なんて強力な呪いだ…」
吹き飛ばすと同時に呪詛味噌を手にしていた。
そして呪いの侵食が始まる。
「“シャイニングパンチ”!!」
「くばゃやぁっ!?」
が、侵食が始まる前に後から来たロズベリィ先輩に殴り飛ばされる。
地面を砕きながら、その先に転がっていたヴィルレイン先輩までも巻き込んで飛ばされた。
「隙きあり。優勝するのは私です。うぐっ…」
「呪い耐性も無いのに分不相応です。大人しく味噌を渡しなさい」
「こんな呪いぐらい……血を寄越せぇ!!」
「正当防衛を主張させていただきます。勝者は私のようです」
うん、心に訴えかける前に、そもそも相手の事を心配していないし、自分の優勝が第一な人ばかりだ……。
そして争いの連鎖が止まらない。
食材を獲得した後に試練が起こる方式だからといって、縁結びが成功したり成功し易くなる訳では無いらしい。
ただ、言い換えればどんな形式のイベントでも縁結びに繋がる可能性があると言う事だ。
人の組み合わせを変えただけでも、同じ状況でも全く違う可能性が広がっている。
これぞ縁結び、と言うべきなのかも知れない。
しかし、何でも縁結びに繋がる可能性が有るからと言って、何もしない訳にはいかない。
そもそも自然に生まれる機会、何もしないでも起こる縁結びでは不十分であるから僕達の手で縁を結ぼうと考えているのだ。
やはり何がより縁結びに繋がるかを見極め、それを縁結びに取り入れ成功確率を上げなくてはならない。
「成功例、どのくらい参考にすれば良いんだろう?」
でも、こうも反対の結果になると、成功例を信じて新しい縁結びを試して良いのかが判断出来ない。
「参加者の方々の性格や関係性を見極めてから場を用意すれば再現性は上がりそうですが、その場合はイベントの公平性という観点に対して問題が生じてしまいますね」
「多くの人達で試すとしても、真反対の争いに発展しているから逆縁結びになっちゃう可能性もあるし、今すぐ試すのは止めといた方が良いかな?」
「そもそも成功例自体が偶然で起きた奇跡に過ぎなかった場合、絶望的な結果に終わってしまいますのでそれが賢明かと。まあ、既に戦闘縁結び等では被害が甚大ですが……」
「もう、世界が揺らぐくらいの影響が出てるから、いっその事開き直るのも手かな?」
五十歩百歩と言うやつである。
余りに大きな失敗の後は、もはや何にも動じずに挑戦できるチャンスであるかも知れない。
細かな失敗なら反省が先に来るし、次に繋げるためにも教訓とするべきであるが、大失敗、それも世界が変わるくらいの失敗は反省したところで出来る事は殆ど無い。
がむしゃらに前に進まなければ、大きな賭けにでも出なければ大失敗の補填は出来ない。
つまり、開き直り突き進む事こそが大失敗を埋め合わせる唯一の手かも知れないのだ。
「……今度は世界大戦どころではなく更地になる世界が出て来ますよ。開き直るれる失敗にも限度があります。独裁者くらいしかこのレベルでは開き直らないと思いますよ? それに失敗した場合は縁結びそのものにも悪影響が出てしまいます。本末転倒です」
「確かに、失敗して仲が悪くなっちゃたら逆効果でしか無いよね」
世界が滅んでもこっそり治しておけば良いが、人の感情や関係性はどうにもならない。
やはり、今はより多くの成功例を見つけて何が成功の秘訣なのか分析すべき時だ。
「……世界の滅亡の方を心配した方が良いと思うのですが?」
「大丈夫だよ。戻すなり創り直すなりしておけば。その世界の人が引き金の一つになって起きたさっきみたいな世界大戦なら、その世界の人達の選んだ道だから修復とかするべきかは迷うけど、本当に滅びたのなら迷わず直せば良いだけだからね」
その世界の人達が選んだ結果であるのならば、例え外部の存在が引き金になったとしてもいつか起こり得たものであるのならば、例え世界大戦であろうとも僕は起こる前の状態にするべきか迷う。
干渉するにしても、アジェンリッヒ帝国での大戦のような干渉が最大限だ。被害者にしか成り得ない一般人の保護くらいしかしない。
世界大戦は世界最大の悲劇だが、世界最大の転換期でもあるからだ。
個人にとっては例え勝者からしても後悔にしか成り得ないかも知れないが、その先も続く人類からすると一概に絶対悪とは言い切れない。必要悪かも知れないのだ。
真に生き残りを賭けたそれは新たな技術を生み出し、そして英雄も生む。また最大の悲劇は人類に教訓を、小さな悲劇も生ませないという決意を与えるだろう。
それがなければ、永遠に小競り合いが続くかも知れない。
世界規模で国々が一堂に会する機会も生まれないかも知れない。
何時までも国々毎にバラバラに動き技術が下手に進歩した状態で停滞すれば、世界の環境は人が住めないまでに破壊し尽くされるかも知れない。
今の惨状に介入して数百万数千万の命を救っても、その先の数百億数千億の命を奪う、そもそも生まれない結果になってしまったら果たしてそれは救済と言えるのだろうか。
勿論、世界大戦そのものが人類に滅びを与える可能性も高いが、その場合は迷う必要は皆無だ。
滅べばその先も無でしかないのだから、救済するという選択肢はそのまま救済にしかならない。
「確かに滅亡まで行ってしまったのならば、寧ろやりやすいかも知れませんね」
「だから、開き直って世界が更地に成るよりも、縁結びへの悪影響が出る方が深刻なんだよ。そして、世界が更地になるのはどちらかと言うと都合が良いんだよ」
「なるほど?」
コアさんも完全にでは無いが納得してくれた。
世界なんかよりも人の心の方が難しいものなのだ。
「という事で、どうせヤるなら派手に」
開き直りこそが大き過ぎる大失敗を埋める最適解、そして突き詰めた先にある更地は寧ろ好都合。
そうなると当然、世界大戦縁結びを超えた世界破壊縁結びこそが最適解。
「「「止め(なさい)(ましょう)(てください)!!」」」
しかし実行してもらおうとしたら、審査委員の皆を含めて、運営を手伝ってくれている近くにいた色々な親族に反対された。
「確かに、縁結び的には良くても、更地にしたら食材に影響が出るかもね」
「「「………………」」」
「……誰一人、食材は気にしていないと思いますよ」
ならば、何故反対されたのか釈然としないが、そこまで言うのなら世界破壊縁結びは止める事にしよう。
おっ、何故か急に料理提出速度が上がった。
どれも美味しい。
「100万点!」
次ステージ進出に相応しい料理も多いし豊穣だ。
不思議とどのチームもまるで儀式のように平伏せながら、まあそういう事が何時も何故か多いが、そんな何時もの比ではなくまるで大邪神を鎮めるかの如く態度で料理を差し出して来るが、兎も角美味しい。
なるほど、無理矢理全ての採集場所で世界大戦からの世界崩壊に導ける訳では無い。
それをやってしまっては採集する食材が限られてしまう。
食材自体に影響が出なくとも、種類が減るのは料理にとって大きな損失。
確かに世界破壊縁結びはヤるべきでは無いだろう。
今は。
一つの案が消えたので、また観察と分析に注視する。
すると、衝撃の光景が視界に入った。
そこはアジェンリッヒ帝国。
大失敗と考えられていた縁結びであったが、何と一組の縁が結ばれていた。
結ばれたのは三年三十二組鍛冶科のハマス先輩、お相手は何とアジェンリッヒ帝国の最高戦力【紅鎌】のエリーン。
「ほう、これが世界大戦縁結びの効果」
「「「違う(います)!!」」」
何故か速攻で否定された。
そこまで声を揃えなくて必死に否定しなくても良いと思うのだが。
「マスター、よく視てください」
コアさんもそう言うので今まで失敗だと思い目を背けていたアジェンリッヒ帝国での視ていなかったその後の部分を視る。
どうやらハマス先輩とエリーンさんは戦ったらしい。
ハマス先輩はエリーンさんと同じく大鎌の使い手であり、かつ薪まで自分で用意する鍛冶師として炎の扱いに長けており、相性が良かったらしい。
そんな中で一対一で戦い続けた様だ。
そして殺し合いから何時しか楽しむ様に技の出し合いになり意気投合。
戦い以外にも相性が良かったらしい。
あっと言う間にお付き合いまでする事になっていた。
ここは三十代後半で焦りに焦っていたエリーンさん、逃がす気は無いようでこの後も行動を共にする様だ。
がっしりハマス先輩と腕を組んでいる。
ついでとばかりに同じ龍の力を有するエリーンさんの大鎌は龍の熟成肉を容易く切り裂き、二人でそれを持っていた。
他の先輩達は一人勝ちさせるものかと二人に襲いかかるが帝国最強たるエリーンさんの、この縁を逃してなるものかと執念で異様にパワーアップした大鎌捌きに蹴散らされ、エリーンさんの部下達も隊長の門出を応援しようと参戦し、誰一人龍の熟成肉には辿り着けない。
そして遂に、二人で転移門からこの会場に龍の熟成肉を持ち帰った。
『ハマス選手! 次ステージ進出決定です! おめでとうございます! この喜びを一番誰に伝えたいですか!?』
「勿論、彼女のエリーンに」
「ダーリンったら」
エリーンさんはハマス先輩に抱き着く。
まさか、こんなに大正解するとは。
最初は大失敗だと思っていたが真逆の結果になった。
縁結び成功した要因としては、単に相性が良かったから。
そしてもう一つ大きな要因はおそらく、エリーンさんが心の底から恋人を求めていたからだ。
「となると、世界大戦は必要無いのかな? いやでも、完全に再現できるか試すには世界大戦が無いと駄目な気も」
「「「要らないと思います!!」」」
「私もそう思います」
「じゃあ、世界大戦縁結びは止めておこうか」
大失敗では無く大成功になったし、開き直って更地にして縁結びをする必要は無い。
ならばリスクが高い世界大戦縁結びは暫く凍結で良いだろう。
「いや〜、良かった良かった」
「そうですね」
「「「本当に良かった(です)」」」
何故か、僕の親族達の方が心の底から言っていた。
そこまで真剣に縁結びに付き合ってくれるとは、実に豊穣な家族である。
皆に喜んで貰う為にも、もっと縁結びを成功させなくては。
もしかしたら他にも失敗だと思った場所で縁結びが進行しているかも知れない。
多くの成功例で皆に喜んで貰いつつ、成功の秘訣、完璧な縁結び方法を研究しよう。
思いを新たにして色々な世界を視渡す。
まず視てみるのは、そもそも相手になる参加者がいない採集場所。
どう考えても縁結びが成功している可能性は無いとは思うが、もしかしたらが有るかも知れない。
奇跡は何処に潜んでいるのか分からないから奇跡なのだ。
一番最初に目に入ったのは裸体美術部のマサフミ先輩。
これもボッチパワーなのか、仲間どころか対戦相手も居ない世界を引き当て食材を探していた。
加えて、採集場所は人類が滅び誰も居ない世界。
採集物は“世界に一つだけの実”。
草木すら絶滅し、魔獣すらも滅びた後の世界、その世界全ての養分を相続したその世界最後の創造物。
世界全てを養分にしても、世界は残り滓でしか無く、ただ唯一無二なだけの実。
世界に一つしか無く、世界を養分にした為に存在がその世界に染まった世界があった唯一の証拠にして、この世に一つしか無い絶対証拠。
ただそれでも唯一無二なだけな木の実。
採集は簡単だ。
何故なら、その実しかその世界には残されていないのだから。
故に、簡単に見つけられるただ一つの実を奪い合って、競い合って欲しかったのだが、どういう確率かやって来たのはマサフミ先輩だけ。
これは、くじ運が良いと評して良いのだろうか?
……いや、視なかった事にしよう。
直視すれば、世界大戦よりも泣けてしまう気がする。
「さ〜て、奇跡的な成功例は有るかな」
「きっと有りますよ。最初はあちらなど如何でしょう」
コアさんも何も視ていないらしい。
改めて最初に視る縁結びが絶対に起こらなそうなのは、“砂漠に一粒の塩”を採集している世界貴族レベット男爵家次期当主のブレンアラシュⅨ先輩。
料理を作るためには砂の惑星規模の範囲の砂漠から塩を見つけ出さなければならず、本来はチームを組む必要があるが、世界貴族の力で人海戦術で何とかしようとしていた。
レベット男爵家はその歴史が約三千万年と、まだまだ新興の世界貴族であるが、世界貴族に相応しい力を有しており、惑星を埋め尽くす程の人員を動員して砂漠から塩を探している。
動員された人の数からすると、世界大戦よりも規模が大きいとすら言えるかも知れない。
しかし、それだけの人々が動員されていても、縁結びに発展しそうな気配は無い。
ブレンアラシュⅨ先輩は絶対的権威として動員された人々の上に立っており、動員された人々は普段は雲の上どころか宇宙の彼方の存在であるブレンアラシュⅨ先輩に直接動員されて動揺しており、他の事を気にしている余裕は無かった。
しかし、失敗にしか見えない中に大成功が眠っていた様に、砂漠の中に一粒の奇跡が見つかるかも知れない。
……と、思ったが、何の縁結び要素も無いまま塩集めが終わった。
もう少し、縁結びが起こりそうな場所を観察しよう。
今度は参加者二人の採取場所だ。
これならば組み合わせの数は一つに収束し成功確率が下がってしまうが、関わり合う密度は最も濃く、縁結びへと繋がる物語を生んでくれるかも知れない。
ちょうど今、密着までしている参加者の男女がいた。
早くも縁結びが成功していそうだ。
採取対象は“ハニードラゴンの蜜”。
ハニードラゴンは蜂のように蜜を集める小型のドラゴン。成人男性程の大きさでドラゴンの中でも単体では弱い種であるが、蜂のように群れる習性を持ち、最低でも五十体以上で群れている為、討伐は非常に困難を極めると言われている魔獣だ。
蜜の存在が巣まで滅多に攻略出来ない為に、ハニードラゴンの存在する多くの世界で知られていない程の討伐難易度を有する。
その蜜を採集しに来た三年のドナード先輩とビビア先輩。
同じクラスとか同じ部活とかでは無く、ここで初めて出会った二人だ。
そんな二人だが、今は肩を寄せ合っていた。
「あんた、男なら出て行きなさいよ!」
「僕が先に入ったんだ! 出て行くのは君だ!」
残念ながら、今の所は仲が深まっている様には思えないが、兎も角、肩を寄せ合っていた。
ハニードラゴンの大群の前に窮地に陥り、偶然見つけた岩の隙間に身を隠していたのだ。
しかしその岩の隙間は狭く、二人共隠れきれておらずその場所を取り合っていた。
早くも周りを取り囲んだハニードラゴン。
火炎弾を次々と岩に放つ。
二人は隙間から結界を張ってみたり、崩れつつある岩を修復してみたりと応戦するが、それも次々と破られてゆく。
遂に二人は岩が保たいないと判断。
肩寄せスタイルから背中合わせ共闘スタイルへと移行する。
「“フレイムガトリング”!!」
ドナード先輩は土属性魔術と火属性魔術を駆使してガトリング砲を構築、弾丸も構築して弾幕を凄まじい速度で放つ。
魔術による爆発で放たれた弾はハニードラゴンの硬い鱗を穿ち更には爆発。
着実にダメージを与えてゆく。
「“デッドライトスラッシュ”!!」
ビビア先輩は不可視のレーザー、深紫外光の高出力レーザーでハニードラゴンを斬ってゆく。
両手の指先から放たれる十のレーザーの前に、次々と数を減らすハニードラゴン。
背中合わせの二人の活躍によってハニードラゴンの山が築かれている。
「コアさん、これを乗り越えてくれればきっと二人は結ばれるよね」
「ええ、きっと結ばれる筈です。肩の寄せ合いから背中合わせの共闘、これで結ばれなければ一体何をやれば結ばれるのかと言うレベルの好状況です」
完璧と言っても良いだろう。
後は待つだけだ。
恋の炎は抑えきれない程に燃え上がるだろう。
本当に燃えているかの様な錯覚を感じる程だ。
本当に燃えている様な…………。
「「…………」」
「救急班、いえ蘇生班急行してください」
「直ちに回収いたします」
本当に、燃えていた。
ハニードラゴンの大群による火炎弾の嵐を受けて、この世からリタイアしていた。
そもそも、いくら良い展開だとしても試練を乗り越えられない場合も有るらしい。
何時も斜め上の行動を起こされるから忘れかけていたが、乗り越えるのが難しい困難な壁を試練と呼ぶのだ。
誰もが乗り越えられる訳ではない、と言うよりも人には届かぬ理不尽だからこそ、神の試練の一言で片付けられる場合もある。
それ程の困難が試練。
僕も当たり前の様に与えていたが、英雄であるとの期待から、与えていたのは普通の人ならば神の試練だと諦める様な壁だ。
ハニードラゴンの巣など歴戦練磨の戦士でも普通は避けて通る。
街道も大きく迂回する必要が出て来るとしても避けて通す、そんな困難がハニードラゴン。
この結果こそが、当然と言えば当然だ。
追い詰めて吊り橋効果的に興味を引き出し、協力関係に導く為の試練であったが、追い詰め過ぎたらしい。
まさか、こんな結果になるとは。
「これは、厳しく鍛え直す必要がありそうですね」
「復活させた後、補習授業を受けさせます」
まあ、乗り越える実力の部分はアンミールお婆ちゃん達に任せよう。
しかし、せっかく縁結び的に最高の状況だったのに縁結びを諦めるのは惜しい。
回収される前に試しにその場で復活させてみる。
もしかしたら、偶々運が悪くて負けてしまっただけかも知れない。
「「ぎぃあぁあっっーーっっ!!」」
駄目だった。
「マスター、いきなり復活しては状況を把握するのに時間が必要がです。戦闘準備をする時間がなければ殺られてしまうだけでしょう」
そう言ってコアさんは二人を復活させると共に、二人の思考を加速させた。
なる程、これならすぐ様状況判断が出来る。
「「あああっっーーいっぎゃあばああっっーー!!」」
二人を武器を構えてほんの少し応戦するも、やはりこんがり逝ってしまった。
「難しいものですね」
「うん、何れ英雄に届くだろう先輩達ならいけるかと思ったんだけど」
実際は逝けてしまった。
「例え誰もが讃える英雄だとしても、対処できる範囲には限度があるのです。しかし、更なる補習が必要そうですね」
まあ確かに、英雄だからといって一人で全てが出来るとは限らない。
脅威を討ち倒す為に相討ちとなった英雄や、仲間の為に散ってしまった英雄達は数え切れない程いる。
寧ろ、死んでから英雄と讃えられる人の方が多いだろう。
「うん? 死後に英雄になるのだとしたら、縁結びが成功しそうな状況で何度も生と死を経験させれば、縁結びが成功して先輩達は英雄にも近く。一石二鳥なのでは?」
「生きている事が英雄の絶対条件では無いとは思いますが、死が必要という訳では無いと思いますよ? まあ、縁結び環境の破棄は惜しいので、試してみるのも良いとは思いますが」
「じゃあ、色々と試してみようか」
「終わったら教えて下さい。補習担当教師に直接回収させに向かわせます」
まずは思考能力を加速させただけでは対応出来ていなかったから、ハニードラゴンの少ない場所で復活させてみよう。
暫しの応戦、死走の敗戦。
駄目だ。
他にも色々と試すがすぐにお亡くなりになってしまう。
「上手くいかないね」
「上手くいきませんね」
「厳しい補習が必要ですね」
「…………二人が逝ってしまっている事自体は問題にしないのでしょうか?」
公平なる審査の為に来てくれた“平等教”の主神にして僕のパパの一人、タナカ=タロウがそう疲れた様な様子で言う。
どう言う意味だろうか? ハニードラゴンに耐えられず簡単に逝ってしまっている事について、ちょうど話していたのに? さっき来たからよく話を聞いていなかったのかな?
試練には失敗してしまっていたが、成功確率が低いと思っていた状況下でも縁結びが成功する可能性を知れた。
可能性は無限大というが、これこそがこの世の真理を表した言葉なのかも知れない。
そして、何が成功に繋がったか分析するには情報が不足しているが、よく観察する事の大切さが改めて実感出来た。
最後まで期待して一つ一つ注視していこう。
泥や石の中にも、いや泥や石の中だからこそ宝石が眠っているのだ。
よくよく視てみると、他にも思いもしなかった場所で縁結びは進行しているのかも知れない。
そう思って期待していなかった会場を注視していると、本当に縁結びが実りそうな会場があった。
それは食材採取場所では無く、このイベント会場の一角。
縁結びの為ではなく、元々仲の良い人達を観察してヒントを得ようと開設したステージ。
『カップル限定デュエットコンクール』だった。
そこに居たのは何と、裸体美術部が部長のイタル先輩と裸体美術部から人類の品性を守る会の会長セントニコラさん。
何故かカップルを装って出場していた。
「女神様、俺達のラブラブ具合を見せつけてやろぜ!」
「若返りと不老の秘薬、“イズンの黄金林檎”を手に入れる為に致し方なくカップルのフリをしているだけです」
優勝賞品が欲しいが為の偽装カップルだったらしい。
アンミール学園の非常に数少ないカップルの人達に参加してもらう為に別途用意した優勝賞品だったが、まさか偽装カップルまでも呼び寄せる効果があったようだ。
二人は傍から見たら本当に付き合っているカップルのような距離感。
本物の恋にも発展しそうな状況だ。
これだけで十分過ぎる程、縁結び効果があるかも知れない。
成る程、恋人を演じさせる様に誘導出来れば、恋人達の中を深める行為を全て行わせる事が出来るのだ。
「コアさん、成功する縁結びの方法って、もしかしたらこれが正解かも」
「今までの縁結びの内の幾つかは、恋人が行う行為の一部を偶然を装い行わせていましたし、それを自主的にしかも常に行わせるこの方法は、完璧かも知れません」
ここに来て、初めて正解を見つけた気がする。
効果が高そうなだけでなく、もし仮に縁が深まらないとしても仲が悪くなったり世界が壊滅したりといった失敗が起こり難く方法だ。
自主的に行っている時点で、多少の事は既に承諾済みだろうから、不仲になる事は少ないだろうし、危機で強制力を持たせる必要もないから世界に被害も無い。
うん、完璧な縁結びだ!!
遂に正解を見つけた!
よし、せっかくだから少し手を加えてみよう。
会場の眷属に指示を出す。
「こちら、お飲み物です。待ち時間の間にどうぞ」
そう控室に眷属が持っていったのはハート型の二口ストローがついたジュース。
恋人飲みをやってもらおう。
「ありがとうございます」
眷属が部屋から出ると、即座にセントニコラさんがジュルと呑み干した。
「ふぅ、ヤらせませんよ」
「まだ偽物だってバレても良いのか!?」
「控室でまで偽装する必要は皆無です。と言うかまだって何ですか? この先も可能性は皆無です」
「またそんな事を言って、ツンデレなんだから」
「“神の腹パン”」
「ぐぶっ!?」
地形が変わる神の一撃を腹に喰らうイタル先輩。
物理と拒絶を受けても心身共にピンピンしているが、縁結びが成功する兆しは無い。
だが、控室でなければ、自然とカップルの行為をしなければいけない様な状況下なら、いつの間にか縁が結ばれる事もある筈。
デュエットを歌うだけの会場なら、多くのカップル行動を誘発させるのは難しいかも知れないが、偽カップルを生み出す方法なら幾らでもある。
そしてより多くのカップルのフリをしなければならない様に誘導する事も幾らでも可能な筈だ。
新しい採集場所の創造を始めていたが、方針が決まった。
偽カップル縁結び。
今度こそ、沢山の縁が結ばれるだろう。
《用語解説》
・呪詛味噌
呪詛により豆が発酵しできる味噌。
発酵を誘発させる呪詛というのは基本的に存在しない為、腐敗や滅びの呪いを浴びた豆より生み出される。
呪詛、呪いは魔術と異なり術者の命や魂、少なくとも思念が含まれているために込めた力の消耗や解呪による呪返しが発生するなど非常に危険な為、味噌を得るために呪詛を使う存在は当然居らず、呪詛に巻き込まれた豆が偶然変化し発生した例しか存在しない。
呪詛を浴びた豆が全て呪詛味噌に変化する訳ではなく、呪詛により完全に崩壊しない特殊な豆、魔や邪を祓う神聖な豆が、そんな神聖な豆により祓いきれ無い強大な呪詛を浴びた場合のみ生じる。
その為、非常に希少。殆どの世界に呪詛は存在し、神聖な豆も存在するが、その発生例は数えられる程しか観測されていない。
味噌と呼ばれているが、味噌状のナニカと表現するのが妥当であり、基本的に食材としては適さない。
理由としては呪詛味噌が得られる呪詛に汚染された環境下では豆の浄化作用と呪詛が釣り合っているが、呪詛の薄い環境に移動させると本来呪詛と聖なる豆は相知れない存在である為に、込められた呪詛が弾かれ流失してしまう。
呪詛に満たされていない存在が接触するだけでもそちらに呪詛が流れる為に、食べる以前に呪詛に汚染される可能性が高い危険物となっている。
また呪詛味噌から呪詛を祓うと、多くの場合豆が土に還ってしまう為、摂取する事により呪詛を祓う効果がある豆が呪詛により発酵し出来た呪詛味噌のみが辛うじて食せる呪詛味噌である。
尚、呪詛と豆とは相殺される為、特に食したら特殊な薬効を得られる等の特殊効果は無い。
ただ、非常に複雑な他の食材には無い味がする。
そして、それが美味かどうかは運次第であり、不味い呪詛味噌である可能性も高い。
誰も進んで得ようとはしない物体である。
・世界に一つだけの実
全てが滅んだ後に、最後の生き残りが木であった場合、世界の残滓を吸収して実るただ一つの実。終わりの果実。
滅び行く世界が命の営みを繋ごうとして、繋ぎ切れなかった最後の終着点。世界が確かにあった唯一の証拠。
世界の全てを相続したと言える果実だが、特殊効果が存在したり極めて美味であったりする訳ではない。
・砂漠に一粒の塩
非常に希少な塩。その正体は岩が砂になる程の環境下で永い年月その力を残し続ける原初の塩、その中でも非常に強い力を秘めたものである。
どの文明、どの世界においても時の経過と共に神秘は喪われる様に、原初にあった創造の力は喪われる。それは神ですら例外では無く、世界に拡散し世界の形を固定化する。
そんな世の理に反する程の、理を超えた力を有する原初の塩こそが、この塩である。
天の沼矛に初めに着いた、地上創造の起点となった一粒の塩のように、世界の起点となる程の力を秘めている。
が、世界の創造と関連が深く、世界を構成する要素としての力が大きい為、普通の塩との区別は全くつかず、実際に触れるまでは存在に気が付く事は出来ない。
また海は拡散力が強く原初の一粒であろうとも時と共に拡散し、他の水のある地でも同様な為、似た砂の多い砂漠にしか基本的には存在しない。
存在するかどうかも定かで無い程、希少な事に加えてこの採取難易度から発見される事は非常に稀。架空の存在と断言して良い程の希少性を有す。
そして、奇跡的に発見したとしても、一粒しか無いので誰も調味料として使おうとは思わ無い秘宝である。
・ハニードラゴン
ランク7の魔獣。ドラゴンの中では最弱のランク7、亜竜であるワイバーンと同程度の脅威とされているが、必ず群れを作る魔獣である為に、実際戦闘になるとランク7を倒せるB級冒険者でも早期に撤退を決断しなければ十中八九屍に変わる程の討伐難度を有する。
単体の強さはランク7であり、同ランクの魔獣と比較し機動力に優れているがパワーは無い。
また翼を除き成人男性程の大きさの為、ワイバーンと同程度の鱗の硬さを有するが、一定以上の力量があれば両断する等の致命傷を与える事が可能。
主な攻撃手段は火炎弾を放つなど魔法によるものが多い。火属性に特化した個体が多いが、種族的に属性が決まっている訳ではないので、他の属性を使う個体もおり注意が必要。
群れる魔獣であり最低でも五十体以上の群れを形成する。
蜂のように女王がいるわけでは無いが、群れで一つの巣を共有しそこで子育てをする為、生存確率が上がっておりこれが五十体以上で群れを形成可能に理由である。
繁殖力は特段高くない。
討伐する場合、基本的に群れごと壊滅させる必要がある。
必要戦力は最低でもB級冒険者パーティーが複数。それも対空戦力が整っていなければ討伐は現実的ではない。
近くにハニードラゴンの巣が発見された場合、街の破棄も真剣に検討される脅威である。少なくとも開拓中の土地付近で発見された場合はその方面への開拓は中止になり、街道は倍の時間が必要でも迂回して造られる。
ハニードラゴンと呼ばれる理由の一つとして、蜂のように群れる以外にも花から蜜を集め子育てに使うという習性を持つ。
しかし小型のドラゴンといっても成人男性程のサイズなので即座に消費される為、巣に蜜が残っている事は滅多にない。
採集可能なほど貯まるのは、大規模な群れで常に多くの子育てが行われる巣のみであり、千体規模以上にならないと蜜は採集出来ない。
よって、採集にはS級冒険者でも躊躇するレベルの難易度を有する。この規模の群れが近隣に出現したら遷都すらも真剣に検討される。最低でもA級冒険者パーティーを複数集められなければ遷都するしか無い。
そんな採集難易度を有するハニードラゴンの蜜であるが、かなり美味であり、滋養強壮に効果的である。免疫で解決可能である一般的な病であれば大抵は完治可能な効果を有する。
しかし、ランク以上の効力を有していても、討伐難易度と釣り合う程の効能は無い。
珍味など、珍しさが強調される類のものである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
改めまして、本作は本日で6周年を迎える事ができました。
ここまで続けて来られたのも皆様のおかげです。
今後ともよろしくお願いいたします。




