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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第4章〈アーク主催イベント〉あるいは〈縁結びイベント〉

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第七十九話 アークの強権あるいはアークの親族の強権

明けまして、おめでとうございます。

今年も、よろしくお願いいたします。

 


 白熱し続けてゆく食材採集。


 しかし流石はアンミール学園、白熱し盛り上がっているのはそこだけでは無かった。


「鰹節採集、チーム裸体美術部が優勢! 難なく灼熱の砂漠を走り抜け、アンデットを薙ぎ倒しております! しかしそのすぐ後を追い掛けるチーム裸体美術部から人類の品性を守る会! どちらが勝ってもおかしくない! 3位以下を大きく離しています! 3位以下のチームは激しく水分を奪われる環境に手こずり、未だ入口付近です!」


 そう頼んでもいないのに勝手に解説してゆく放送部のユーラ先輩。


 その横でも声を張り上げる先輩達。


「ただいまチーム裸体美術部は倍率3倍! 裸体美術部から人類の品性を守る会は倍率1.5倍! 一番人気!」

「大穴はチーム現地人、塩の砂漠の入口で節約の為、塩を採りに来た近所の村のおばちゃん達! 倍率は現在100万倍! これに勝てば大富豪も夢じゃない! さあ賭けた賭けた! 一口1万フォンからだ!」


 勝手に賭けを始めていた。

 商魂たくましいと言うべきか、騒がしいと言うべきか。

 そもそも学校のイベントで賭けは如何なものかと思わなくもないが、これはこれで何か物語の切っ掛けにはなりそうなので止めはしない。


「裸体美術部に5口!」

「近所のおばちゃんに10口!」

「人類の品性を守る会を100口だ!」

「裸体美術部50口!」


 既に大盛況で多くの人達が群がっている。


 加えて各舞台で、また違う団体が仕切る賭けがあちらこちらで開催されており、どこもかしこも賑やかだ。


 やはりこの学園の治安が少し気になるが、勝負をより注視すると言う点では良い事かもしれない。


「……治安を気にすると言うならば、何処かでイベントの為に他所の国を荒らしていた方々と、それを良しとした最早治安云々では表し切れない方がいらっしゃいましたが」

「…………い、色々な屋台とか売店も出ているね。どれも美味しそう。何を食べようか?」

「……そんな事じゃ誤魔化せませんよ」

「えっ、あんなに美味しそうな食べ物の事なのに!?」

「……それで話を逸らせる事が出来るのはおそらくマスターぐらいです」


 まさかこの作戦が通用しないなんて。


「あっ、サカキ、ナギ、取り敢えず会場中の食べ物屋さんから全種類買って来て」

「「畏まりました」」


 呼ぶとすぐさま音も無く後ろに筆頭眷属のサカキとナギが現れ、注文するとすぐに消え、会場中の食べ物屋さんに二人を始めとした眷属達が現れ買い物を始めた。


 どれもこれも美味しそうだ。

 早く食べたい。


「……マスターが元の話を忘れてどうします」

「ん? 何の話をしていたんだっけ?」

「…………もう良いです。それよりも、料理を評価するイベント中に、他の料理を食べて良いのですか?」


 そうだ、食事を待っていたのに他のものを注文してしまった。


「他の料理が食べられなくなる訳でも無いし、全く問題無いよ」

「審査員の在り方としては大問題だと思いますが?」

「審査員の在り方? 何それ美味しいの?」

「…………」



 そう話している内に、会場内の販売の料理が次々と届き出す。


 まずは、イベント会場定番のフランクフルト。


「はむっ……」


 パリッと皮が弾け、中からお肉と肉汁が溢れ出す。

 脂の甘味に合うように計算され尽くした塩味、適度に熟成された深みに臭みを取りつつ肉の香りを引き立てる香り付け。芸術品の様なバランスの良さ。

 それだけの完成度に関わらず使われているのは一般的なオーク肉。塩も香辛料も特殊なものは何一つとして使っていない。

 素材の特性を熟知し、全て引き出した結果にある極致だ。もはやこのフランクフルトはオーク肉を使った料理では無い。フランクフルトとして確立した別物、フランクフルトだ。


「100万点!」


 僕は手元の札を上げる。


「……マスター?」

「「「…………」」」


『初の第二ステージ進出者が決まりました!』


「「「…………」」」


 一拍おいて、疎らな拍手が始まり、やがて会場中が拍手で染まる。


『初めて第二ステージに進出したのは2年9組食品科のマリウス選手です! 一言お願いします!』


 司会進行のゼファエルはマリウス先輩をステージに召喚し、突然の事に驚いているのを気にせずマイクを向けた。


『え、その、そもそも選手じゃ、無いですけど……?』

『はい、こちら選手登録証です。既に登録手続きは済んでいるのでご安心を』

『へ、あの、その……光栄です。だ、第二ステージも、頑張ります』

『ありがとうございました! もう一度マリウス選手に大きな拍手をお願いします!』


 マリウス選手はそもそも選手ては無く、出るつもりも無かった様だが、ゼファエルは見事な笑顔で押し通した。

 見事な司会技術だ。


「……それ、司会技術では無く圧力と言うのでは?」

「司会と言うのは場の流れを制御しなくちゃいけない。引き出すのも止めるのも司会の仕事、他を黙らせる、圧力に感じるような力も時には必要なんだよ」

「つまり、結局のところ圧力をかけたと言う事ですね?」

「……そうとも言うかな」


 コアさんの視線が痛い。

 これも一種の圧力。コアさんには司会の才能が有るのかも知れない。


「そもそも、100万点の札、使わないのでは無かったのですか?」

「そ、それは、手元にあったからつい」

「口で100万点と言っていましたよね。分かった上で上げていましたよね」

「……評価されるべきものをちゃんと評価する。時にはその為にルールを変更してでも評価出来るようにするのが審査員長のお仕事なんだよ。

 それにこのイベントの目的は新たな魅力を発掘し縁結びに繋げる事。主催者として、埋もれてしまう才能を引き出すのは当然の事なんだよ」


 伊達メガネをくいくいしながら理屈を捏ねる。


「……まあ、そう言う事にしておきましょう。新たな才能を発掘出来たのは確かな事ですし」


 咄嗟に紡いだ理屈だったが、思い返すとその収穫は確かに大きい。

 マリウス先輩はイベントの舞台にも立っていなかった、本来なら発掘されなかった才能だ。


 視ると、どうやらイベントに参加しなかったのは純粋に料理に自信が無かったかららしい。


 マリウス先輩が得意とするのは料理と言うよりも食品加工、それこそフランクフルトを作ったり、お肉を熟成させたり、塩漬け肉を作ったりと食材を作る事に長けている。

 直接そのまま口に運ぶ形への調理は今回のようにちょっとした屋台を開く時にしかせず、食材を卸す立場の為に料理の技術の高さもよく知っており、また希少食材を手に入れる難易度を知っていたからイベント参加を断念していたようだ。


 完成品のみならず加点として全てを評価するから是非とも恐れず挑戦して欲しい。

 試合に勝ち負けがあったとしても、挑戦に失敗など有りはしないのだから。

 次に繋げさえすれば挑戦の全ては成功だ。


「もぐもぐむしゃむしゃ、む! 100万点!」

「……また出るの早くないですか?」


 美味しいものが等間隔に並んでいる訳が無いからそう言われても仕方が無い。


『続いて勝ち抜いたのは、チームで出場の3年81組の皆さん! ではお話を聞きましょう! テリア選手! 今のお気持ちは!』


 例の如く、ゼファエルはいつの間にかステージ上に呼び寄せたテリア先輩にマイクを向ける。


『しょ、正直なところ、困惑しています』

『まだ実感が沸かないと言う事ですね。勝ち抜いた決めてはどこにあったと考えていますか?』

『より良い食材を購入する為に始めた屋台でしたが、一つ一つ真心を込めて作ったのが良かったのではないかと』

『心こそが最高の調味料と言う訳ですね?』

『はい、食べてくださる皆さんの笑顔を想像しながら作ることが大切なんだと思います』

『今の気持ちを一番、どなたに伝えたいですか?』

『別働隊として、食材の確保に行って下さったクラスメイトの皆さんに。料理に集中出来たのは皆さんのおかげですから』

『ありがとうございました! 第二ステージも期待しています!』


 ん? 第二ステージも期待している?


 あっ、参加者に本命の料理を待たずして次のステージに進めさせては本命料理が食べられない!

 僕としたことが……。


 こうなれば秘技、強権!


『ごほん、第一ステージの調理も引き続き楽しみにしています』


 ゼファエルのマイクを奪取し、ルールを変更する。


『本命の料理も勝ち抜いたら、第二ステージは二度の料理提出が出来ます。二つとも最後まで勝ち抜き続けたらその数だけ歌うチャンスを獲得出来るので、引き続き頑張ってください』


 そしてマイクをゼファエルに返した。


『審査員長、ありがとうございました!』


 ふう、これで一安心だ。

 もう一品食べられる。


「……もはや清々しいまでの強権ぶりですね」

「せ、せっかく料理を準備してくれていたのに、その本命の料理を止めるのは忍びないから」

「確かに準備していたものを止めるのは悪い気がしますが、それはそもそも勝手に違うところで点数を付けたのが原因です」

「……以後、気を付けます。もぐもぐもしゃもしゃ、おっ、100万点!」

「……止まりませんね」

「だ、だって、美味しから」


 既にルールも変えてしまった以上、僕のやるべき事は料理の正当な評価だ。

 どんな時でも公正に評価していかなければならない。


「コアさんも食べなよ」

「って、それ、カップ麺では無いですか!? しかも既製品のカップ麺ですよね!? 本当に正当な評価をしていますか!?」

「勿論ちゃんと評価しているよ。疑うなら食べてみな」


 確かにこのタイミングでのカップ麺は疑うざるを得ないかも知れない。

 しかし、美味しいのだ。

 このカップ麺はコアさんの言う通り、アンミール学園内で広く売られている一般的なものだ。加えてそれを元に調理した訳でもない。

 だが、味は間違いなく格別。


「どれ、……美味しいですね。それも段違いに」

「でしょう? 何事も実際に試してみなきゃ解らないものなんだよ。ルール変更と同じで」

「それは違います」

「駄目だった?」

「駄目です。そんな事でルール変更は誤魔化せません」


 強権行為は誤魔化せなかったが、何にしろこのカップ麺は誤魔化しようの無い美味しい食べ物。

 どうやってカップ麺をここまでにしたのか、是非とも知りたい。


 コアさんもいつの間にか点数札を上げている。


『お次はなんと、カップ麺で第二ステージ出場を決めたヘルマイヤ選手です!』


 ステージに現れたヘルマイヤ先輩は料理人らしくない姿の人だった。

 片眼鏡を掛け、首からは幾つもの懐中時計に拡大鏡、そして銀糸、いや光沢を消した聖銀糸で編み込まれたローブを身に纏っている。


 料理を作るような雰囲気も無ければ、カップ麺を食べるような雰囲気も無い。


『今回の決めては何処にあったと思いますか?』

『やはり計算され尽くした条件が良かったのでしょう。お湯の温度、時間は勿論、お湯の注ぎ方、水のミネラル調整など、完璧を求めた結果だと思います』


 なる程、どうやら最適条件下で作ったカップ麺だったらしい。


 視ると、ヘルマイヤ先輩は鑑定師。

 分析系の能力に秀でており、カップ麺を徹底分析して最適条件を導き出したらしい。

 まさか、最適解によりここまで味を引き出せるとは、料理も他の技術も無限の可能性を秘めいるようだ。


 尚、当たり前のようにステージ上に喚び出し、インタビューをしているがヘルマイヤ先輩も選手登録はしていない。


『当初は、選手として参加していませんでしたが、何故そこまでの技術を持っていたのに参加を見送ったのですか?』


 もう参加している前提で押し切っているが、今ちょうど参加証を押し付けている最中である。


『普段料理もせずカップ麺くらいしか作らないので、まさか勝ち抜けるとは思ってもいなかったからです。食材採集の方も、鑑定師なので腕には自信がなくて』


 ヘルマイヤ先輩は特に反対することも無く参加証を受け取った。

 どうやら本当は参加したかったが諦めてしまっていたようだ。その才能を見つけ出せて本当に良かった。


『審査員も驚かせた素晴らしい技術をお持ちなので、是非とも自信を持って第二ステージに挑戦してください! 第二ステージも楽しみにしています! ありがとうございました!』



 そうこうしている内に、ちゃんとした競争を繰り広げるイベント参加者達の中からも第二ステージ突破者が現れた。


 真っ先にやって来たのは塩砂漠で鰹節を手に入れて来たこのチーム。


『最初に課題食材を手に入れたのは、チーム節約おばちゃん!』


 ……前言撤回、そもそもイベント参加者じゃない。

 流石にこれは想定の範囲外だ。


 まさかの塩砂漠の塩を採集しに来ていた近所のおばちゃん達が、あろう事か塩砂漠の奥、さらに地中を泳ぐ鰹節丸ごとアンデットを倒し、何故かここまで持ってきたようだ。


 意味が解らない。


 鰹節へと通じる秘密の抜け道でもあったのだろうか?

 いや、特定の場所にいる訳でも無いし、抜け道など殆ど意味が無い筈だ。でもアンデットだから生前の念から自縛していた可能性も?

 そもそも最初から村に採集した鰹節があり、それを持ってきたのか?


 どちらにしろ、鰹節アンデットを手に入れる為には討伐する必要がある。

 鰹節アンデットと呼んでいるが、鰹では無い。鰹節っぽい食材になる魚っぽい魔獣が乾燥したアンデットだ。体長もホホジロザメほどある。と言うよりも鰹よりも鮫に近い魔獣だ。

 そして生前は塩砂漠が出来る前であり、新たな地形が生まれ現在に至るまで塩の中を泳ぎ回っても形を崩さずに存在し続けるアンデットである。その頑丈さも積み上がった力も相応にある。


 英雄が必要なほど強くも無いが、塩の中を泳いでいる、つまり塩の中で戦う必要がある事を考えると、相当厄介な相手だ。

 ドラゴンを一撃で倒すような力があったとしても、これを倒すのは至難の業だろう。


 一体、どうやって鰹節を?


 見逃していた答えをもう一度視てみる。


 日傘を差しながら平然と塩砂漠を歩くおばちゃん達。

 サンバイザーにサングラス、口元を覆う布に手袋と、紫外線対策は完璧だが、特に武装も特殊装備も無く灼熱の極度に水分を奪う塩砂漠を進んでいる。

 警戒心や危機感すらも身につけていない。


 そんな中、突如地中から飛び出すアンデット。

 ミイラと化したカジキの様な魔獣は鋭利な角をおばちゃん達に向け、勢い良く飛びかかる。

 続けて二体三体と囲む様に飛び出す。

 おばちゃん達、絶体絶命。


 しかし倒れたのはミイラカジキの方だった。

 激しく吹き飛ばされ、砂に角を突っ込んで沈黙している。

 ミイラカジキに殆ど外傷は無く、アンデット化の呪いが解けていた。


 いつの間にかおばちゃん達が手にしていたのはハエ叩き。

 うん、多分ハエ叩き。


 それで大きさもカジキ程あるミイラカジキを吹き飛ばし、物理的以外にもアンデット化の念までも吹き飛ばしていた。

 ただでさえハエ叩きをここまで使い熟すのは凄いが、加えてミイラカジキを傷付けずに倒すとは、凄まじい技量としか言いようが無い。


 そしておばちゃん達、すかさずミイラカジキをアイテムボックスに回収。

 一銭も無駄にしないらしい。


 おばちゃん達はその後もただの紫外線対策とハエ叩きで灼熱の乾燥地獄を進んで征く。

 まるでただの散歩をするような気楽さだ。

 お喋りを続けながら、襲いかかるミイラをほとんど見ずに打ち倒し回収。


 そして塩砂漠のおよそ中央まで辿り着くと、敷物を敷いてその上でゆっくりと踊り始めた。

 見せる為の踊りでは無く、健康の為の体操に見える踊りだ。おそらく異世界のヨガに近いものだと思う。


 何故こんな塩砂漠のど真ん中でヨガをと思っていたが、暫くすると塩砂漠全体に変化が訪れた。


 生命がいない場所からも生えて来るようにゆっくりとミイラが現れ始めたのだ。

 アンデットも生前の執念でもあれば規則的な動きをするが、基本的には餌である生気を持つ存在、生命が近か無ければ一斉に動くような事はしない。

 しかも今回現れたミイラ達には上に出ると言う意思が感じられなかった。と言うよりも殆ど動いていない。にも関わらず生えて来るように浮上していた。


 視ると、塩が重くなっていた。

 擬似的に質量が増大していたのだ。


 その変化の源はおばちゃん達。


 踊りの様な動きは儀式だったのだ。

 塩を重くすると言うかなり特集かつ高度な儀式魔法。


 それによって軽いミイラ達が上へと押し出されたのだ。


 しかもそれを、塩砂漠の中央で行う事で、塩砂漠全域でミイラ達が浮上していた。


 その中から鰹節アンデットを素早く見つけると一瞬で移動、ハエ叩きで倒すと手早くアイテムボックスに放り込んだ。


 これが鰹節アンデットを入手するまでに至った流れだ。

 結論、おばちゃん達が滅茶苦茶強く、正攻法で鰹節アンデットをゲットしたらしい。


『今回、何故このイベントに参加を?』


 おっ、ちょうど気になっていた事に対して質問がされた。


『元々は参加するつもりは無く、そもそもイベントの存在自体知らなかったのですが、ちょうど切らしていた鰹節を取りに行ったところ、たまたま再会した恩師からちょうどこの鰹節を探すイベントをしているから参加しないかとお話を受けまして、参加しました』

『皆さん、こちらの卒業生と言う事ですが?』

『こんな偶然で母校のイベントに参加する事になるとは思ってもいませんでした』

『何千年も前の事なのでとても懐かしいです』

『あらやだ、私達の年齢がバレちゃうじゃない』


 なる程、色々な疑問が解けた。

 ここの卒業生ならば、どんなに強くてもおかしく無い。

 そしてそれだけの力があれば、鰹節採集も簡単だ。

 このイベント参加の難易度もぐっと下がる。


『見事な鰹節採集でしたが、普段からやられているのですか?』

『一体手に入れれば相当長持ちするので、百年ぶりくらいですかね』

『あらやだ、年齢がバレるわよ』

『いつ頃から鰹節採集を?』

『私達、この学園では保存食研究部だったんです。その時からあのグハロマハヤ塩砂漠は目をつけていた場所で、色々な魚介の旨味が凝縮する塩が取れるんですよ』

『その塩から作るものは乾物でも漬物でも絶品で、何が旨味の大本なのか調査し見付けたのが始まりです』

『あの塩砂漠の付近には昔から住んでいるのですか?』

『いえ、卒業して保存食作りを本格的に職にしようと決めて、あそこに移り住みました』

『まあ、何千年も昔の事だから昔も昔の事ですけどね』

『だから奥さん、年齢がバレちゃうわよ』

『あらやだ』

『『『あはははははっ!』』』


 何故、アンミール学園の卒業生があの場所にいたかと言う謎の答えは、まさかの初めから鰹節、そして旨味成分が溶け込んだ塩が目当てだったかららしい。

 となると、鰹節と塩を使った絶品料理が出来る筈。

 イベントに参加してくれて良かった。


『この喜びを誰に伝えたいですか?』

『私は夫に』

『あらやだ奥さん、独身じゃない』

『あら、つい願望が』

『『『あはははははっ!』』』

『私は彼氏に』

『奥さんも、彼氏いた事無いでしょう』

『あら、私もつい願望が』

『『『あはははハハっ!』』』

『私は彼氏募集中って世界中の男達に伝えたいわ』

『私も』

『私もよ』

『『『あはハハハハっ!』』』

『え、あ、はい…』


 笑いつつも、徐々に笑いから元気の無くなってゆくおばちゃん達。

 これにはゼファエルも上手く返せない。


『…ペットのりんちゃんです』

『…私はペットのピー助』

『…モアちゃんに』

『『『アハハハハハっ!』』』

『ありがとうございましたっ!!』


 困らせたと理解したおばちゃん達が本当の答えを答えたところで、強引にゼファエルが切り上げた。

 深い闇を見た気がする。


 しかしこれは幸運でもある。

 当初、おばちゃん達に縁結びは関係ないと思っていたが、実は全員独身だった。

 つまり、縁結び的にも参加者として相応しい。


 ここは是非とも縁を結んで欲しいものだ。

 歳の差なんか、千を超えればあって無い様なもの。


 外見年齢だって、おばちゃん達はわざとおばちゃんの姿をしている様だし、全く問題ない。

 独身が永引くとおばちゃん姿の方が気が楽だからそうしている様だ。

 しかし恋に目覚めれば相手の望む年齢の姿になるだろう。


 おばちゃん達は、イベントの詳しい概要を聞き、調理場へと移動してゆく。

 歌うチャンスを増やす為に料理もしてくれるらしい。

 実に楽しみだ。



 そして一段落と思った中、突如騒がしくなったのはイベント参加者や観客では無く、運営側だった。

 いや、僕がおばちゃん達に集中している内から、何やら話していた様だ。

 しかし激しくなったのは今。


「生徒以外の参加もアーク様はお認めになられる様だ」

「これは私も食材を取ってくればアーク様に褒めていただけるチャンス」

「アーク様に俺の料理が食べてもらえる!」


 何か、変な方向に話が流れ始めている。


「待ちなさい」


 その話の危険性を察知して止めに入ったのはアンミールお祖母ちゃん。

 流石はアンミールお婆ちゃん、頼りになる。


「アークに手料理を渡すのは私です!」


 違った。全然頼りにならない。


「マスター、どうしますか?」


 止めようかと心配そうな顔をしているのはコアさんばかり。

 いや、手元を見たらフライパンとフライ返し。

 コアさんは、自分も出た方が良いのかと考えていただけらしい。


 これはもう、僕が直接止めるしかない。


「皆は参加禁止! もう最初から僕の親族なんだから、どう考えても縁結びの対象外! 分かったらイベントの邪魔をしない様に別口で料理を持って来て!」


 強めに注意しておく。


「マスター、後半に私利私欲が漏れ出てますよ?」

「おっと、僕とした事が。つい感情に流されて」

「感情で流されたら余計な事は出て来ないと思いますが。さてはどさくさに紛れた確信犯ですね」

「な、何の事かな」


 決して、料理を持って来ると聞いて惹かれてしまった訳ではない。

 ただ惜しいと思っただけだ。


「それを確信犯と言います」

「さ〜て、イベント方針を明確にしておこうか」

「……」


 また同じ様な事が有ると困るので、はっきりと基準を決めておく。

 コアさんの視線は気にしてはいけない。


「まず僕の親族は参加禁止。でも、おばちゃん達の例も有るし、アンミール学園の生徒じゃなくても参加は可能。ただし、独身に限る」


 これならば縁結びに繋がったまま実りあるイベントが遂行出来る筈。

 そして僕の親族の参加を禁止さえしておけば、とんでも無い事にはならないだろう。


「「「畏まりました」」」


 しかし何故か、幾人かの姿が消えた。


 え? 参加しちゃ駄目って言ったのに何で動いた?


 その答えは残っていた人達の会話から判明した。

 判明してしまった。


「対象食材の存在する世界の全冒険者ギルドに“至上命令(アーククエスト)”を発令! 何としても我が冒険者ギルドの冒険者からアーク様に食材を献上するのだ!」

「「「御意!!」」」


 とドラスラーお爺ちゃんに冒険者ギルド本殿最高幹部の皆。

 何かとんでも無い事を言っている。


「全商業ギルドに“至上命令(アーククエスト)”を発令! 我等こそが先に、より多くの食材を献上するのだ!」

「「「はっ!!」」」


 商業ギルドも冒険者ギルドと同じ。

 トップであるウルカウお爺ちゃんの号令で一斉に動き出す。動き出してしまった。


 と言うか“至上命令(アーククエスト)”って何?


「全ての分校及び関連組織に通達! こうなれば負けてはいられません! 何としてでも我が子らに献上させるのです!」

「「「はいっ!!」」」


 アンミールお婆ちゃんも同じく張り合い号令。


「才能ある子を全員連れて来なさいな! 我がギルドは食材採集では遅れを取るかも知れない! でも料理ではどこにも負けない! どこよりも美味しい料理を献上するのです!」

「「「ウィーマダム!!」」」


 料理ギルドも当然の如く動く。


「全アイドルを招集! 料理ベタな子が多くとも歌とガッツはどこよりも優れています! 食材さえ手に入れれば勝つのはアイドル以外に有り得ない!」

「「「イエス、アワプロデューサー!!」」」


 まさかの偶像教まで動き出した。

 もはや動き出していないところが無い。


「我がエルグランゼ一門に太上辺境伯として命じます! 我等が積み上げてきた底力を今こそ発揮するのです! 世界貴族の存在意義を今こそ思い出すのです!」

「はっ!」


 組織でなく、親族関係を動かす人達もいる。

 世界貴族の存在意義、こんなイベントで出るものではないと思う。


「皆やる気だな。うちもやっとくか」

「「「は…」」」


 ゼンも何やら呟くと、数人が現れ深く頷くと消えた。


 まさかのゼンまでもが動くとは……。

 これは行動に移していない人はいないと考えても良い。


「「…………」」


 唖然としている間に、全てが動き出してしまった。

 とんでも無く大きい行動に移さない様に止めた筈なのに……。

 何故こんな事に……。


 これで、このイベントの大波乱は確定されてしまったのだった。





 《用語解説》

 ・至上命令(アーククエスト)

 各ギルドを始めとした世界勢力に存在する至上の命令。

 全ての依頼、命令よりも優先される絶対命令。所属する全ての存在に従う義務が生じる。


 発令された場合、例えば冒険者ギルドでは本殿の武器庫、スキル庫などが開放され封印指定武具等も適任者に貸与し、勢力を上げて適任者の支援が行われる。

 支部のギルドマスターにも円滑に命令を行使する為に依頼料上限が破棄され、ギルドマスター権能が一時的に貸与される。


 封印指定武具、封印指定スキルの無制限開放、神の証明とすらされる権能の貸与等、一つでも世界が壊れかねない力を有し、世界を幾つ潰しても足りない程のリソースを必要とする為、世界が確実に滅びる程度の危機でも発令されない。

 それでもやらねばいけない時に発令される、これ以上無い至上の命令。


 何故か、至高(アーク)の為になら躊躇なく発令される。

 尚、アークの為に発令すると、何故かリソースの消耗が激しいのに収支プラスになる。

 事実上、アーク専用。

 もしアークの為で無い場合も、発令されるのはアークを止める場合等である。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

改めまして、今年もよろしくお願いいたします。

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