第七十八話 食材採集前哨戦あるいはアークの権力
投稿が大変遅くなり申し訳ありません。
それでいて通常回です。
転移門から次々に参加者が食材を求め指定の世界へと向かってゆく。
そしてその時点から競争は始まっていた。
お互いに自分が先に行こうと、そしてここで相手を退場させようと戦闘を開始する。
山の様に巨大な空中戦艦は艦体を衝突させながら全砲門から砲弾やビームを一斉発射、一斉照射しながら猛烈な爆炎の中を征く。
流れ弾の飛来した所は早くも焼け野原。
剣と剣のぶつかり合いも天と地を同時に斬り、業火と激流の衝突は文字通りの嵐を引き起こす。
ただの無人の静かだった土地があっと言う間に終末か創世の時代並みの光景に変わった。
食材を探しこのまま牽制(?)しながら進むのだから、まるで天災が移動しているようだ。
いや、天災でもここまでの被害は生じまい。
既に元の地形が判らなく、いや無くなって来ている。
しかしこの場所はまだマシな部類だ。
何故なら無人な地に出ただけで、世界自体は有人の地であるのだから。
つまり、これでも人里まで被害が出ない様に加減している。
参加者達にとって、この程度は本当に軽い牽制だ。
感情を視ても信じられない事に自重している、と認識している様だ。
人もいない世界では更にとんでも無い事になっている。
自重はしていない。
星に亀裂が入ったり、マントルが剥き出しになるほど穿たれたり、海が蒸発したりと、開始数秒で別の惑星に変貌してしまっている。
人のいない、かつては居て滅びてしまった終わりかけの世界てあるから強度的な問題もあるが、これは酷いとしか言いようが無い。
本当に世界が終わってしまいそうだ。
食材、無事だよね?
「……気にするところ、そこですか?」
「えっ? だって世界なら滅んでも治せば良いけど、天然物の食材は治してからじゃ採れないからね」
「治せば食材も復活するのでは?」
「食材自体は復活するけど、天然物っていう付加価値が無くなっちゃうだよ」
「味、変わりませんよね?」
「成分的には同じだけど変わるんだよ。風情ってやつだね。家でどこかの郷土料理を食べるよりもその土地で食べた方が美味しく感じる、特段美味しく無い筈のものでも珍味と言う珍しさが付けば美味しい気がする。そんな風に環境も立派な調味料なんだよ」
「確かに、それは有るかも知れませんね」
結局の所、価値を見出す自分の答こそが全て。
客観的な美味しさは兎も角、美味しいと感じるか否かは自分次第。それで全てが決まる。
そして料理を、食べ物を不味くしたいと望む者はいない。
食べ物を作る人、採る人、育てる人、そして食べる人まで、全ての人が美味しくなれと望んでいる。
食とは願いの塊なのだ。その経緯全てが美味しさを求めた願いの結晶。
つまり、全ては調味料だ。願いはそのまま美味しさへと繋がる。
水肥料日照量それ等を制御して科学的に美味さを追求するのであれば、成分に関わらすその努力も味になる。
水や肥料を自然の中に求め自然に近い優しい環境の中で美味さを追求するのであれば、これも物質的な結果に留まらずそれを求めれば求めるほど味となる。
そして、願いそのものは何よりもの旨味。
自分に向けて作られたもの、心のこもった手料理が何よりも美味い様に、近所のお店で売られた玄人の作った野菜よりも素人の親戚から送られてきた野菜の方が美味しい様に、何なら自分で心を込めて作った家庭菜園の野菜が美味しい様に、願いの純度が高いものは何よりも美味しく感じる。
ただ工夫も改良も無く、競技続行の為に再生したものの味が落ちるのも道理だ。
再生する時点で、込められた経緯が断絶する。
そこからまた一歩ずつ前に進むのなら兎も角、これでは台無しになる。
「ではどうしますか? 止めますか?」
「う〜ん、もう少し見てみよう。一応、食材を駄目にしないように気を付けてはいるみたいだし。せっかく全力を出してくれているんだから、水を差すのは悪いよ」
「珍しいですね。食べ物がかかっているのに引くとは」
「失礼な、僕だって縁結びを優先させるよ。それに、僕だって料理になる前の食材の段階から食べたいと思う訳じゃ無いからね」
「因みに、料理と縁結びとでは?」
「……ノーコメントで」
「料理なのですね……」
「……縁結びは幾らでもタイミングがあるけど、料理は冷めない内に食べなくちゃいけないんだよ」
「…………」
「さ、さあ、対決の行く末を視よう」
強引に痛い視線を無視しながら、再び会場となる各世界へと視線を戻す。
激しい牽制でも本来の目的を忘れていた訳では無いようで、食材に近付く毎に周囲への被害が少ない牽制に切り替えながら皆、徐々に食材へと向かってゆく。
僕達の目的としては、牽制では無く難しい課題に挑む中で絆を深め、縁として結ばれて欲しいのだがどうだろうか。
まず気になったのは帝国のお城の地下に眠る熟成龍肉を採り向かった人達。
ここは目的地が人里ど真ん中であったが為に転移先も帝都のすぐ近くで、早くも兵士達に囲まれていた。
加えてただの兵士だけで無く戦艦も用意していた事で、大規模な軍勢が周囲を固めつつあった。
アジェンリッヒ帝国はゴルドニア世界史上の最大の大帝国であり、強大な軍事力により大陸を統一し、更に他の大陸にまで手を出す軍事大国だ。
その軍事力は伊達では無く、迅速に行動可能なのようによく鍛えられている。
イベント参加者達の丁度いい試練になってくれるだろう。
帝都の街壁に幾つも設置された魔導砲から上を通り過ぎるだけで草が焦げる強力な光線が空中戦艦に向かって放たれる。
ドラゴンもランク8程度なら一撃で葬れる、一つ一つが決戦兵器級の光線だ。
地下に眠る龍の遺骸から放たれる豊富な魔力が満ちた土地だから出来る芸当らしい。
これにはイベント参加者達の造った戦艦のミスリル装甲や結界も破られてしまった。
元々参加者同士のぶつかり合いで弱っていた所にトドメとなったようだ。
どの戦艦も複数箇所から爆炎を上げる。
そしてイベント参加者達がとった行動は奇しくも一つ。
「「「突撃ー!!」」」
全速前進。
無事な機能をフル活用して帝都目指し、急発進した。
真正面から魔導砲の光線を浴び船首が大爆発してもアクセル全開。
浮遊機能にまでダメージが及び、一部地面に接地し瓦礫と帝国軍をチャーハンの様に巻き上げても止まらず出せる最高速度で突き進む。
その目には、お題である龍の肉しか映って無いらしい。
今のところ、縁結びに至る試練となっている兆候は無い。軍隊に囲まれたり対軍兵器で撃たれても驚いている様子すらも無い有様だ。
戦艦が原型を留めない程にダメージを負っている状況にも、慌てた様子は無い。
帝国軍よりも並走するライバルチームを見ており、そもそも視界にすら殆ど入っていなかった。
その視線の先は常に帝城、その下にある龍の肉だけだ。
ただ真っ直ぐと突き進む。
そして遂に爆炎を上げ破壊されて逝く巨大戦艦はあらゆるものを巻き上げながら街壁に到達した。
世界最大の軍事大国の要であり続けた帝都の街壁はこの世界最硬の守りと言っても過言では無かったが、見るも無残に砕け爆散した。
精鋭である騎士団もあまりの事に啞然と立ち尽くしそれを見送ってしまっている。
突然現れた戦艦に突撃され、世界最強だと思っていた自分達の軍勢が蹴散らされ、挙句の果てに長年帝都を守り続けていた街壁が破壊されたのだから無理もない。
そもそも大陸一つを手中に治める大帝国の中心部、帝都に敵が現れる事すら夢にも思っていなかっただろう。
ここ二百年は帝都に敵国の軍勢が到達した事は無かったようだ。
加えてその敵、巨大空中戦艦は街壁に衝突すると共に大爆発、敵もその戦艦もあっと言う間に散った。
全てが理解不能だ。
しかし爆炎の中から突撃の勢いそのままに、乗組員達は平然と飛び出し止まる事なく駆け出した。
超兵器に見える巨大空中戦艦もアンミール学園の生徒達の前ではただの消耗品の一つ。
英雄の域に足を踏み入れた超人同士の戦いで戦艦が幾つも沈むなど当たり前。
特別気にする事でも無いらしい。
流石、次代の英雄。
これからが楽しみだ。
やはり是非とも誰かと縁を結んで一人や二人や百人、子供を生んでほしい。
……いや、これが英雄候補の当たり前かと思ったが幾人かが泣いている。
泣いているのは戦艦の造船職人や持ち主の人達だ。
当たり前の日常では無く、ゴールを見据え過ぎ突っ走り過ぎてしまったが故の結果らしい。
「おお〜、マイハニー!!」
そう嘆くのは戦艦を造った、のでは無く戦艦に書いた押しキャラが爆発と共に消えて嘆くクラオシフォン先輩。
尚、戦艦の作製者もクラオシフォン先輩だ。
押しキャラを戦艦に描いた時点で色々とズレている。
「1億フォンの戦艦が〜!!」
そう嘆くのは戦艦を造ったのでは無く、買ってきたらしいリキュア先輩。
アンミール学園では戦艦がポンポン売っているらしい。ついでに戦艦としては多分、大幅なお値打ち価格だ。
「徹夜して造ったのに〜!!」
そう嘆くのは戦艦を普通に造ったバーネッサ先輩。
戦艦とは、アンミール学園において徹夜をすれば一日で造れるものらしい……。
そもそも、戦艦が壊れたと嘆くこと自体が異常だ。
戦艦とは時に国力にまで影響を与えるもの。世界のパワーバランスを変える事もある様なものだ。
それが沈んだら歴史に遺る大事件の最中である。最低でも戦争中など、嘆く暇など本来は無い。
しかし常識などなんのその。
涙で歪んでもその目に映り続けるのは龍の肉。
ゴールを目指してその脚は止まらない。
戦艦が壊れた一因であるライバルチームへ牽制兼八つ当たりの攻撃を加えながらゴールを目指す。
「1億の恨み、喰らいなさい!! “部分加速”!!」
時間属性魔術で投げた無数の両刃のナイフを加速させ放つリキュア先輩。
「“エンチャント――斬空――”!!」
それを受けるのは騎士のメゼリア先輩。
空間属性の魔力を剣に込め、空間を瞬間的に斬り断絶してナイフを防ぐ。
「金の力に頼るから軟弱なのだ! 強欲のツケが回って来たまでの事! 何でも買えると思ったら大間違いだ! 艦船の様に沈むが良い!!」
今度はこちらの番だと剣を振るい空間の裂け目として斬撃を飛ばす。
「“部分加速”!!」
リキュア先輩は自分自身の時間を加速させて斬撃を避ける。
そのまま反撃しようとしたところで別の人物が介入した。
「リキュア! 1億ってどう言う事だ!?」
「貴女、数百億する戦艦を一千万ずつ出すだけで買って来ると言っていましたよね!?」
「俺達から1億以上集めてるじゃないか!!」
金銭トラブルらしい。
どうやら、実質的に安い戦艦をぼったくり価格で販売していた様だ。
「くっ、私は数百億円相当の戦艦を用意すると言っただけです。誰も数百億円で買って来るなど言っていません。古い戦艦を伝手から探し出し、安く譲って貰えるよう交渉し、そして新品同然の力を発揮できる様に修繕したんです。これは立派な商取引、皆さんは1億で数百億の価値のある戦艦を手に入れた、そして私は僅かな対価を得た、両者にとって良い取り引きに他なりません」
開き直るリキュア先輩。
一応筋は通っており、結果的に数百億フォンの価値がある戦艦も手に入った事でクラスメイトの人達は瞬時に言い返す事が出来ず、押し黙る。
そんな中でリキュア先輩に声をかけたのはライバルチームのバーネッサ先輩。
「あっ、誰かと思えばリキュアさん、この前は戦艦のお買い上げありがとうございました! いや〜、造ったはいいものの置き場所が無くて困っていた戦艦を引き取ってくれて助かりました!」
どうやら、1億フォンの戦艦はバーネッサ先輩から買い取ったものらしい。
そしてこの情報からトラブルは再燃する。
「おい、今の話聞いたぞ!! あの戦艦は造ったはいいものの置き場所に困ったものらしいな!? ほぼ新品じゃねぇか!! 同年代の奴が造ったって事はどんなに古くても3年やそこらだろう!?」
「あの戦艦ならニヶ月前に造ったものです」
「戦艦としては新品じゃないですか!? 修繕費はかかっていない筈ですよね!?」
「こっちは借金して一千万用意したんだぞ!?」
「くっ、今はそんな事よりも黄金林檎です! 優勝目指して龍の肉を手に入れましょう! “部分加速”!!」
リキュア先輩は自分を時間属性魔術で加速させ、一気に前へと駆け抜ける。
「おいコラ逃げるな!?」
「逃しません!」
「“グラビティフォール”!!」
捕まえる為に実力行使する事態にまで発展する。
……絆を深める為のイベントの筈が、仲が悪化している気がする。
試練として立ち塞がる筈の帝国軍も、未だ現実が呑み込めていなかったり、激しい攻撃の応酬でそもそも近付けなかったりと、試練になっていない。
「一緒に挑む系のイベントで仲違いする事も有るんだね……」
「協力が必要なイベントだからこそ、非協力的なメンバーとの間に軋轢が生じる事もあるのでしょう。今回の場合をそれと同等に考えて良いのかは疑問ですが……」
何時もならテコ入れ、例えば強大な敵を別途用意するなどするのだが、今回の舞台は街中、急にそんなものを投入しては不自然だし、現地人に急激な力を与える訳にもいかない。
何より、食べ物はしっかり持って来てくれないと困る。脱落ぎりぎりは狙えない。
「そこも食べ物優先なのですね……。そう言えば、不自然云々以前に街中で暴れさせて良かったのですか? 兵隊や騎士の方々が結構な数轢かれ、街壁まで木っ端微塵にしてしまいましたが?」
「問題ないよ。日頃の行いが悪い国を舞台に選んでいるから」
「死なない程度の回復も行っているのでご安心を」
「そう言う問題なのでしょうか……」
兎も角、帝国の人達の犠せ…協力もある以上、是非とも縁結びを成功させて欲しい。
さて、イベントの舞台はゴルドニア世界だけでは無い。
衝突では無く、僕達の目論見通りに協力している場所も存在した。
例えば、ソナミーラ世界での椎茸争奪戦。
舞台は雷雲轟く空島で、参加者達は激しい雷に襲われていた。
雷雲の中にいる為、上からのみならず四方八方から雷が襲いかかる。
空島が舞台と言う事で、ここも全員が空中戦艦に乗っている。
しかし、戦艦のサイズは戦力よりも防御力と機動力を確保する為に比較的小型だ。それでも巡視船級のサイズだが、大人しい方である。
最初は空母級の大型船でライバルチームと戦っていたが、雷雲に入り激しい雷に撃沈されてしまっていた。
一発一発の威力が高く、面積の大きい戦艦では全体を守り切れなかったらしい。
そこで戦艦乗り換え。
戦艦自体の防御力には殆ど頼らず、その機動力を利用。
守りは乗組員達の手動による結界などで対応している。
四方八方から飛来する雷に対して乗組員総出だ。
宇宙戦艦っぽい戦艦なのに甲板出て盾を構えたり結界を張ったり迎撃したりと、誰一人休まずに働いていた。
「“マジックバリア”!!」
「“オーラシールド”!! “シールドバッシュ”!!」
「左前方より高エネルギー反応多数! 左舷前方シールド展開! 面舵いっぱい! すぐ取舵を取れ! 次は下方より高エネルギー反応!! 回避優先!! エネルギーをエンジンに回せ!!」
「“裂空拳”!!」
魔力の障壁を作ったり、盾に魔力を込めて概念を活性化させ魔力の盾を生み出し、それを飛ばして雷を防いだりと、それらを繰り返し何とか雷から戦艦を守っている。
しかし、雷は強大かつ普段相対しない攻撃である為に四苦八苦していた。
雷を防ぐ経験があるとすればそれは魔術であり、防ぐ方法も対魔術結界など、対魔術に特化したものだ。自然の雷などそうそう個人に飛来して来るものでは無い。
そもそも経験以前に雷を防ぐ技術自体も多くない。加えてここの雷は通常のものよりも強大なものだ。避雷針を蒸発させる様な威力を持つ。
対魔術用の技では効力を発揮し切れず、だからといって雷である故に感電する事なども考えると物理的に盾などで防ぐ事も難しい。
一発の雷を防ぐのに数人がかりで複数の技をぶつけていた。
やはり回避の方が有効的と言う状況。
ただ、回避するのにも雷の頻度が高過ぎて穴をこじ開けるか、守りを固めてある程度受けるしか無いと言う状況だ。
「左舷前方の送魔基盤がやられた!! 修復まで約2分! 左は優先的に回避しろ!!」
「“氷壁”!! なっ!? 左第3エンジンから煙が出てるわ!! オーバーヒートよ!! 今すぐに止めて!!」
「ここで止まったらこの船は沈む!! “空太刀”!!」
「だが暴発して他のエンジンまで故障したらそれこそ終わりだ!! 左第3エンジンだけ冷却しよう!! それまで俺がエンジン代わりになる!! 3・2・1で止めてくれ!! 3・2・1“バーニングインパクト”!!」
雷を防ぎながら、迎撃しながら、回避しながら、そして戦艦を修理しながら椎茸求めて突き進む。
壊れそうなエンジンの代わりに人力で炎を噴射して推進力を得ると言う荒業まで使い、各々全力を尽くして、一つにまとまって協力しながら航空している。
先程の場所とは大違い。
僕が求めていたのはこんな風に協力し合うイベントだ。
直接縁結びに繋がるかは兎も角、強い一体感と信頼は得られるだろう。
今でなくとも、先の縁結びへと繋がる。
そしてこの舞台では、攻略法も様々で協力関係の種類や在り方も様々だ。
小型戦艦で進もうとする人達だけでは無い。
チーム全員が空を飛べる様なところでは、直接隊列を組んで飛んでいる。
例えばクラスメイトでは無く、アイドルとファンが組んでいる飛行系アイドルグループ【スカートの中は見ないで】とそのファンクラブ御一行。
飛行系アイドルは勿論、ファンもどんな空中ライブへも向かう為に飛行能力が秀でている。
「カナちゃん、危な〜い!! “鉄体”!! あばばばばっ!!」
「クレトさ〜ん!!」
「リアちゃんは僕が守る!! “トルネードシールド”!! アギャババッッ!!」
「リーグく〜ん!!」
「レミちゃんには傷一つつけさせない!! “オートヒーリング”!! いぎょあばば!!」
「財布〜!!」
このチームは協力していると言うよりも、ファンが全力で推しを守っていた。
技が破られても身を挺して守り抜いている。中には防御系の技を使うのでは無く、回復系の技を使い肉壁となっている人すらもいる始末だ。
そもそもファンの人達は戦闘職じゃない人達も多いらく、例えば肉壁になった財布、じゃなくてジャミアン先輩はヒーラーだが、推しの前ではそんなこと関係無い様だ。
不屈の精神で、黒焦げになってもすぐにまた盾になっている。
それをやってもどうやら財布扱いされている様だが……、まあ、愛の形は人それぞれと言う事で。
何であれ、色々と頑張ってほしい。
そしてまた別の攻略法を目指すチームもいる。
「そもそも今回の勝利条件は椎茸の入手だ。必ずしも俺達が雷の中を突っ切る必要は無い」
頭脳派チームだ。
「ゴーレムやドローンに採りに行かせれば良いってことか」
「小さいものなら希少素材もふんだんに使えて、とびきり頑丈なのが造れます」
「小さければ被雷面積も減らせてスピードも機動性も高く出来る、一石二鳥ね」
縁結びに繋がるかは微妙だが、協力関係としては良いものが築けている。
この後もイベントは続くのだし、そこで縁結びへ繋がるかもしれない。
下地としては十分な成果だ。
後は個人で挑む人達もいる。
雷に強い人達や防御、もしくは高速飛行に秀でている人達だ。
この人達は単独なので、今の所縁結びに繋がる気配は無いが、全体としてどこのチームが椎茸を手にするのか楽しみだ。
「縁結びが目的だったけど、勝負系イベントとしても中々視応えがあるね」
「勝負の様子は幾つものモニターに映し出していますし、その姿を見て憧れや中には恋心を抱く方も出て来るかも知れませんね」
「金銭トラブルとかも放送されちゃってるけど、何かの切っ掛けにはなりそうだね。少なくとも皆、時の人に成れる可能性を秘めているよ。魅力を引き出すと言う目的も、この時点で達成出来そうだね」
今の所、直接縁結びに結び付きそうな場面は無いが、全体としては大きな進歩だ。
見ている側も含めると既に大成功と言っても良いかも知れない。
「これはもう、毎日朝昼夕、食事の度に料理イベントを開催しても良いかもね」
「……それは流石にやめておきましょう。権力の濫用です」
「僕に権力なんか無いよ」
「……周りはマスターの一言で多分勝手に動きます。実質的な権力です」
「そう? 権力なんか持っていないんだけどな」
コアさんはそう言うが僕はただの田舎者なアンミール学園の新入生である。
親族の皆は色々と良くしてくれるが、流石に職権まで行使するような事は無いと思う。
あくまで、今みたいな元々参加開催自由なイベントを手伝ってくれるだけだ。
僕自身には権力など一欠片も無い。
「何を言っておられるのですか? アーク様は様々な権力をお持ちですよ?」
「「え?」」
アタメルのこの言葉にはコアさんも一緒になって疑問の声を漏らす。
ちゃんとした形のものなんて、あった記憶が無い。
「例えば、このアンミール学園唯一の学園長位継承権をお持ちですし、アンミール学園連盟国の唯一の全権位継承権、加えて連盟国殆どで唯一の王位継承権、帝位継承権等をお持ちですよ」
僕にも権力が有るのかと一瞬思ってしまったが、どうやら冗談だったらしい。
「もう、こんな時に冗談? 真面目そうな顔して言わないでよ」
くすりと笑いながら僕はそう言う。
アンミール学園に学園長がいない、ずっと空位なのは有名だし、アンミール学園連盟国にも全権なんていない。連盟国を治めているのは盟主達、つまり連盟加盟国の王や偉大なる英雄達、その中から選出される全権代理と言う地位の人だ。全権なんて連盟国にそんな地位は聞いた事が無い。
加盟国の大部分も王がいない国として有名だ。国王代理や皇帝代理と呼ばれる人達が治めている。
それらは有名な話だ。
少なくとも、アンミール学園で知らない学生はいない。
新入生でも知っている様な事だ。
曰く、空位だったり代理が最高権力者なのは、真の最高位、玉座に座るべき存在が存在としても最上位の存在だかららしい。
どこもそう公言している。
多分、アンミール学園が人を育てる学校であるから、常に向上心を持ち続けろ、成長し続けろと言う意味だろう。
おそらく、最高権力者になったとしてもそれは真の最上位では無い。上はまだある。だから進み続けろと言うような意味で空位を上に作っているのだろう。
アンミール学園に関してはそもそも学園そのものであるアンミールお婆ちゃんがいる。
最高権力者などそもそも必要ない。
アンミールお婆ちゃんこそが全てだ。
そんな飾りの空位の継承権があると言われても、誰もが冗談だと気が付く。
「冗談では無いのですが。他にも料理人ギルドや冒険者ギルドを始めとした各種ギルドの全権などなど、数多の権力をお持ちですよ」
アタメルは苦笑いしながらそう言う。
自分でもこの冗談は言い過ぎだと思ったようだ。
「お望みがあれば、何なりと御下命を」
しかし冗談は最後まで通すらしく、敬々しく一礼する。
「何かあれば、お願いするよ」
僕もその流れに乗ってそう言う。
ただ、冗談でも何かお願いしたらとんでもない規模で実行しそうだ。
コアさんには僕が何か言っても何も起こらないと言ったが、思い返してみれば僕の親族には世界神の人までいる。
大英雄の力を持っている皆は職権を濫用しなくても、ちょっとの気持ちでとんでもない力を出せる。
実際、このイベントだって当初はここまで発展するとは思いもしなかった。
「やっぱり、イベント開催は偶に開くくらいが丁度いいかな」
「それが賢明だと思います」
余計な事を思い出してしまった僕達は、さっきよりも少し遠い目で、舞台に視線を戻すのだった。
《用語解説》
・アークの権力
周りが勝手に自主的に動き、本人も有しているとは思っていないが、実は王権など分かり易い形の権力も数多有している。
その理由の大部分はアークが力を持つから捧げられた等では無く、一般的な王位継承と同じ理由からである。
力ある存在は力がある故に子孫を作る能力が力の分だけ低下する。
それは不老不死の存在が不老不死の存在を生み出し続けては世界が破綻する様に、世界を成立させる自然の摂理だ。
アークの先祖となった存在達もその理からは外れず、アークに近付く程、力を有する存在程、子は少なく、殆どが一人の子しか居ない。
つまりアークは多くの先祖にとって唯一の末裔である。
そしてアークの先祖は名のある大英雄、王や皇帝など数え切れない。
故に、捧げられた訳でもなく、通常通りの理由からアークは数多の王位継承権等を有している。
基本的に全て正統中の正統であり、先祖の殆どは既に王位等を経験済みの為、多くで唯一の王位継承権を持つ存在になっている。
しかし、限りなく絶対的な力を持つアークにとって王位など必要なものでは無いので、アークの手を煩わせないよう継がせようとはしておらず、特に継承権についても何も言っていない。
だが同時にアークの座るべき玉座を他のものが座るのは畏れ多いので、そのような国では空位にしている。
ただ、権力は有っても存在自体がそれ以上であり、別次元のレベルである為に、権力が有っても無くても何も変わらない。
権力が無くともアークの言葉によって周りは自主的に動く。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次話は年末年始での投稿を予定しています。




