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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第4章〈アーク主催イベント〉あるいは〈縁結びイベント〉

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第七十七話 音楽イベントあるいは料理イベント

本日で本編は投稿から5年目になります。

皆様、ここまで本当にありがとうございます!!


そして今話について一言。

サブタイトルの通り、章題から路線変更しました。

 


 何故か僕達がステージ上に召喚され開会式のスピーチやらをする羽目になったが、無事音楽イベントが始まった。


 後は縁結びをしつつ音楽イベントを楽しむだけだ。


「じゃあ、早速見に行こうか」

「どの分野を見に行くのですか?」


 この音楽イベントの目的は縁結び。

 その為、様々な形式の音楽イベントを同時進行で行っている。

 そんな中で僕が最も見に行きたいと思う形式のものは一つだ。


「勿論、『料理音楽大会』だよ」

「ああ、私欲に走り回って開設したあれですね……」

「私欲とは失礼な。音楽に料理はつきもの、音楽の才能イコール料理の腕前と言っても過言じゃないんだから開設して当然の分野だよ」

「過言にも程が有り過ぎます。古今東西初耳です」

「それは兎も角、料理と音楽での総合評価だから美味しい、じゃなくて面白いイベントになる筈だよ」

「……まあ、前代未聞と言う点では確かに面白いものが見れそうですね」

「それじゃあ出発するよ」


 僕は特等席玉座の操作端末を取り出し向かう会場を指定する。


 何とこの特等席は自動で会場に向かう機能があるのだ。

 勝手にステージ上にまで向かってしまうのは玉に瑕だが、人混みの激しいイベント会場を快適かつ迷わずに向かう事の出来る素晴らしい機能である。

 一日も準備に時間をかけていないのに、流石の仕事の速さだ。


 後は移動する際に過剰な演出が無い事を祈るばかり。


 移動の決定ボタンを押すとすぐさま動き出した。


 会場が……。


「「動くのそっち(ですか)!?」」


 会場中が次々と動き出し変形し道を造り、目的の会場が外観からは信じられない軽やかさで移動して行く。

 音も揺れも殆ど無い。


 何から凄いと言っていいのか判らない技術力の高さだ。


 本当に、どうやってこの短期間で造ったのだろう?


 そう思っている内にも料理音楽大会会場は特等席の真下にやって来る。

 実に早い到着だ。見たところこれ程の早さにも関わらず会場に混乱は殆ど見られない。僅かな混乱も原因は急に動き出したことによる事故などでは無く、動き出した事に大盛り上がりしてしまっているだけだ。

 単純に体幹が良いだけかも知れないが、タペストリーなども殆ど揺れていないので、それほど速やかかつ計算された移動だったのだろう。


 そして遂に玉座も動き出す。


 より見やすい位置に移動してくれるらしい。


 最も見やすい場所に移動した。


 審査委員席と言う名の特等席に……。


「やはりこうなりますか……」

「でも、よくよく考えると今回は料理も出てくるからここに居なくちゃね」

「ですがマスター、料理の事は良いとして、音楽の評価など出来るのですか?」

「他にも審査委員が居るからきっと大丈夫だよ。無難な点数を出しておけば影響は少ない筈」


 そう話しているところへ料理人ギルドの頂点にして【アンミール学園のお袋】、アタメルが何かを持ってやって来た。


「御二方、こちらを使ってくださいな」

「これは?」

「審査委員用の点数札です」


 やはり僕達が審査委員をしても問題ないらしい。

 点数札を用いる方式、点数を入れるのでは無く札が一つと言う事は、最後に一番良かった人にだけ点を入れる方式だ。

 それなら審査委員の数も多い中では大きな影響を及ぼし難い。


 一応、確認の為に札を受け取って見てみる。


『100万点』


 あれ?

 1点じゃ無いんだ。


「ねぇアタメル、審査は一人100万点の持ち点で入れる方式なの?」

「まさか、他の審査委員は1点の持ち点ですよ」

わたくしのも1点ですね」

「何故に最終問題で誰でも逆転出来るような点数を僕にだけ渡すの!?」

「アーク様の選ぶ料理、音楽こそが至高だからですよ」


 何も疑う様子無くそう言い切るアタメル。

 その後ろにいる親族達もうんうんと頷いている。


「僕が主催したけど僕の為の大会じゃないからね!? 審査は公平に! 一人一人点を入れていく方式に変更!」

「アーク様がそう仰るのであれば直ちに」


 僕の感性も問われてしまうが、これであればまだ不正(?)は起き難い筈。

 少なくとも僕の評価が大幅に反映される事は無い筈だ。多分。



 会場に続々と人が集まる。

 予想以上の数だ。


 会場の方が中心地に移動したから立地が関係あるのかも知れない。

 きっとまずは近い所からと言う事だろう。

 前から周知していた訳では無いから、念入りに準備してきた訳では無い筈。つまり参加先もしくは見る場所を決めてから来た訳では無い。

 となると、やはり無難なもの、参加しやすく見やすいものから行く。立地と言うのはその条件を最も簡単に揃えるのだから人も集まるのだろう。


 実に楽しみだ。


 僕達は人が集まるきるまで伊達眼鏡をしながら審査委員玉座、審査委員席で待機。


 観客は勿論、参加者の人達もかなり多い。

 なんと参加者の方が多いくらいだ。


「アーク様、参加希望のグループが多いようなので、先にある程度競い人数を絞ってから本ステージで決勝戦を行うと言う方式で宜しいでしょうか?」

「態々分けなくてもそのくらいの量なら一瞬で食べれるから大丈夫だよ」

「……その、音楽の方が問題かと」

「そう? 同時に聞けば良いんじゃない?」

わたくしもそれで構いません」

「私もそれで良いと思うわ」

「……アタメル様まで。我々と観客にそれは不可能です」

「あら、そうだったわね」


 よく解らないがこの会場の運営をしてくれている僕の親族の一人、世界を統一したどころか国家や人以外の全てをも自らに下したとされる伝説の覇王、【天を見下ろす】ゼファエルの指摘にアタメルが困ったように頬を手で抑える。


 僕は元々何人の参加者が居ても同時に評価すれば良いと思っていたが何か問題があったらしい。

 このステージ以外にも同時に音楽イベント会場中を視て聴く予定だったが、もしかしてそれも何か問題があるのだろうか?


「アーク様、コセルシア様、多くの存在の声を同時に聴ける者など極々少数なんですよ」

「へぇ、僕達みたいに全ての存在の声を全て聴ける人って実は少ないんだね」

「兎も角、観客も入って来るのでその方式はやめた方が良いかと思うんですよ」

「そうだよね。皆で楽しまなくちゃね」


 となると、それぞれ別のタイミング、もしくは小分けした会場で歌ってもらう事になる。

 しかし、決勝戦しかこの審査委員席がある中央ステージで歌わないのなら、ここまで届く料理の数も減ってしまう。


 何とかして料理だけでも僕の下に届くようにしなければ。


「見事なまでの職権乱用精神ですね」

「そんな事は無いよ。より良いイベントになるように試行錯誤しているだけだよ」


 失礼な事を言うコアさんに苦言を呈しながらも方策を考え続ける。


「コアさん、何か良い考えは無い?」


 そして素早く話題を変える。


「そうですね。この場合、問題となるのは音楽の部分だけです。料理は元々、全員の口に運ばれる訳では無いですし、調理場面は同時に見れるでしょうから同時に行っても問題ありません。ですのでまずは全員参加の料理対決を行い、そこで上位の方に音楽ステージへと進んで頂いては?」

「流石コアさん、完璧な方策だよ」

「ふふふ、もっと褒めてくれても良いのですよ」

「これなら大丈夫かな?」


 僕は完璧だと思うが一応、アタメル達にも確認する。


「それなら全く問題はないと思いますよ」

「直ちに準備致します」


 アタメルを除いた運営陣は即座に会場へと散り、大量の調理台の設置へと向かった。


 これで、準備はほぼ万端だ。

 あと必要なのは一つ。


「最初の料理は何にしようか?」

「ん? 最初の料理? 料理は指定するのですか? そして何品か作るフルコース方式で?」

「違うよ。テーマ毎のフルコースを作ってもらうんだよ。一回で決めるのは評価し難いからね」

「フルコースであれば多くの料理が出て来るので一回で良いのでは?」

「そんな事は無いよ。やっぱり厳正に審査しなくちゃ」

「……自分が少し手も多く食べたいからですよね?」

「さて、どんなテーマが良いかな」


 追求が広がる前にさっさと本題に入る。


「コアさんはどんなテーマが良いと思う?」

「そうですね。今回の参加者は大半が料理人の方では無いので、無難に中華料理、イタリア料理など分かりやすいテーマでしょうか? 季節や旬をテーマにすると、学生の方には難しいかも知れません。まあ、評価しやすくするとなると、敢えてある程度答えのある課題にしても良いと思いますが」

「確かに答えのある課題なら点をつけやすくて運営し易いかも。でも、縁結びが一番の目的だから、答えを求めるって言うのは違うのかな。だからと言って中華料理を作ってもらったりする無難なテーマで縁結びに繋がるかな?」


 そう言うと何故か感心した様に僕を見るコアさん。


「あれ? どうしたの? 僕の顔になにか付いてる?」

「いえ、縁結びが主目的である事を忘れていなかったのだなと」


 感心していたのでは無かったらしい。

 見直しただけの様だ。


「失礼な。最初からずっと縁結びの為だと思っているよ。縁結びの他に目的を持っているように見える?」

「では縁結びの為、試行錯誤し協力するような料理テーマに変更し、難しくなる分その課題に集中出来るよう料理の品数を減らしましょう」


 抗議したら何故か倍になって返ってきた。


「……コアさん、最近は効率と言うものも大切なんだよ。一つ行動で一つの目的を達するよりも、一つの行動で多くの目的を達成できた方が良いと思わない?」


 否定は諦めて正当化する方向に方針転換する。


「まあ、そう言う事にしておいて差し上げましょう」

「でも、縁結びの為には試行錯誤が必要なテーマの方が良いって言うのも正しいよね」


 そして透かさず話を戻す。


「試行錯誤しつつも多くの参加者の人達が競い合えるテーマが有れば良いんだけど」


 そう思いながら優勝賞品と同じ品種の黄金林檎を食べていると解決策が降りてきた。


「そうだ、食材を指定すれば良いんだよ」

「食材を指定ですか?」

「うん。入れるだけで料理の出来に関係無く音楽ステージに進める食材を指定しておくんだよ」

「なるほど、入手の難しい食材を手に入れる過程で試行錯誤して頂くと言う事ですね。それであればこの学園の方々なら誰もが参加出来、良い競争となりそうですね」

「じゃあそれで決まりだね。試行錯誤してもらうにはその要素だけで良さそうだから、料理のテーマ自体は簡単なのにしようか。朝だからさっぱり目で和食のフルコースにしようかな」

「畏まりました。それでは手配しますね」


 こうして概要が決まった。


 後は最後の詳細。

 特別点となる食材を決めるだけだ。


「どんな食材を探してもらおうか。取り敢えず和食に合いそうな食材が良いけど」

「大人数の参加者の方々がいらっしゃるので、一個では無く何個か、何なら絶対に不可能そうな食材も含めて色々と指定しておきましょう。そうすればより協力して挑む縁結び的に素晴らしい関係性が生まれる筈です」

「そうだね。それなら悩むより先にどんどん決めちゃおうか」


 僕達はまずアンミール学園内を視渡す。

 学園で売っているようなものを指定しても仕方が無い。

 それではただの買い物競争になってしまう。


 続いて参加者の人達のアイテムボックスの中も探ってゆく。

 既に誰かが持っていれば不公平な戦いになってしまう。

 その点も排除しなければならない。


 そして色々と判った。


 一番無難そうな食材、ドラゴンの肉は多くの人が持っていた。と言うかお肉屋さんに普通に売られている。

 珍しく強い魔獣系は産地まで指定しないと試行錯誤する競争にならなそうだ。


 だが、食材となるものでは魔獣など肉類が多く、珍しい野菜果物などは非常に持っている人が少なかった。

 魔獣の肉を有しているのは討伐が主目的であり、討伐したついでにその素材である肉を持ったままであったと言う事だろう。


 つまり純粋に珍しい食材を収集している人は少ない。よって純粋な珍しい食材は持っている人が少ない。

 強もなく食材以外の素材としては使えず何かのオマケでも得られないような珍しい食材は持っている人が殆どいない。


 と言う事はそんな美味しいだけの珍しく得るのに費用対効果が見合わないような食材を探せば良い訳だ。



 色々な世界に目を向け、課題として丁度良い食材を探してゆく。


 すると早速一つ視つけた。


「あの山葵なんかどうかな?」


 澄んだ水の流れる渓流に自生する山葵。

 高濃度の瘴気により汚染された事で微生物は勿論、魚のような魔獣すらも存在しない見掛け上澄んだ水で育つ山葵だ。

 周囲は瘴気により育った魔獣が跋扈し、広範囲を埋め尽くしている。

 辿り着くのは至難の業だ。


 そして山葵自体も売られているものや誰かが所持しているようなものでも無い。

 同時に摂取したものにどんな毒性があっても無効化してくれる様だが、既に毒を受けた人を回復するような力は無い。加えて薬の副作用を無くす為に入れようにも、強い薬効まで消してしまう性質が有る様だ。

 つまり毒物を食べたい人くらいにしか需要が無い希少食材、課題としてぴったりだ。


「良い物を視付けましたね。わたくしも一つ視付けました。あちらはどうでしょう?」


 コアさんの示す先には良い感じに熟成された龍の肉。

 有るのは大きなお城の地下にある神殿。そこの御神体として肉のみならず龍の亡骸が手付かずで丸ごと奉られている。

 どうやら大切だから無傷で奉られていると言うよりも、鱗が硬すぎて誰にも手を付けられないらしい。


 これはもったいない。

 是非とも僕達が有効活用しなければ。


 その龍の肉が眠るのは守りの堅い、その世界でも侵略を繰り返す軍事国家として有名な大国。

 ここを突破して取ってきて貰うとなると、丁度いい課題になりそうだ。


 龍の肉自体も切るところから常人には不可能に近いし、料理対決としても非常に見応えがあるだろう。

 和食に合う材料かは兎も角、それ以外は申し分ない。


「面白いものが視れそうだね。採用決定」


 僕も負けてはいられない。


「あれはどうかな?」


 僕が視付けたのは昆布、和食に必要不可欠である出汁に必要な重要食材の一つだ。


 その在り処は深海。

 深海にある海溝の深い位置に自生する。

 濃いミネラル分の影響か、それとも周囲の激しい海流の影響か海溝には鎧のような鱗を持った魔獣が数多く生息し、深海と言う事を無視しても辿り着くのは困難。


 更にその上の海は魔獣こそ居ないが荒れに荒れている。

 まるで船を解体する為にあるかの様な海域だ。


 船を用意する所から見物だ。


「昆布ですか。良いですね。では、あちらの椎茸は如何でしょう?」


 コアさんが指差すのはこれまた美味しい出汁が出そうな椎茸。


 その在り処は空に浮ぶ島。

 それだけなら簡単に採りに行けそうだが、そこは轟雷轟く厚い雷雲に包まれている。

 この雷を浴びて育つ椎茸らしく、特に落雷が酷い場所にその椎茸はあった。


「椎茸ときたら鰹節だよね」


 鰹、では無く鰹節が在ったのは塩の砂漠。

 山脈に囲まれたそこは海が蒸発し、塩の砂漠となったらしい。

 鰹節はその塩の奥に埋もれている。


 海が干乾びたのは太陽神系の力によるもので、今も激しい日射が降り注ぎ、白い塩はそれを反射させ山脈が増幅することで恐ろしい環境になっていた。

 生き物は動物はおろか魔獣もいない。在るのはそれらのミイラ。

 乾燥しきった空気と日射に加え、塩が水を奪う。


 加えてミイラと化した魔獣がアンデッドとなり塩の中を泳いでいた。

 鰹節も広大な砂漠を自由自在に泳ぎ回っている。


 この環境で動き回る鰹節を探すとなると、英雄と讃えられている人でも難しいだろう。

 単に過酷なだけでなく激しい日射は視界を奪い暑さは集中力を奪う。加えて何処からアンデッドが現れるか判らないず果ての見えない広大さ。

 道への冒険の為なら命知らずの冒険者も近付こうとも思わないだろう。


 どう攻略するのか楽しみだ。


「和食となれば鮮魚も必要でしょう」


 コアさんが示す先には極寒の海。

 水は全て凍っていて、液体として在るのは窒素のみ。液体窒素で構成された極寒過ぎる海だ。


 なんとそこには様々な適応した魚型の魔獣が泳ぎ回っていた。

 身が引き締まり実に脂がのっていそうなお魚達だ。

 刺し身にして良し焼いてよしの最高品質。


 そして難易度も申し分ない。

 極寒と言うだけであれば幾らでも対策があるが、液体窒素中の魚を捕るとなると話は別だ。

 熱を放てば液体窒素は途端に蒸発し大爆発を引き起こす。

 寒さに耐性があるだけではここは攻略出来ない。


 また、競い合うのすら困難だ。

 剣を交え火花が散ればそれだけで大惨事に繋がるかも知れない。

 そもそも誰か一人がミスをすれば巻き込まれる。


 ここでは競い合いながらも協力すると言う、縁結びにぴったりな光景が生まれるかも知れない。

 実に素晴らしい漁場だ。


「どうせなら、ただ難しくて協力し合う環境にもって行くだけじゃなくて、直接縁結びに繋がりそうな課題もあった方が良いよね」

「そうですね。主目的は縁結びですから、多少は難易度を犠牲にしても縁結びに繋がりそうな食材も探しましょう」


 新たな方針も付け足し探し続けていると、さっそく縁結びに向いていそうな食材、その在り処を発見した。


 そこは狭い道が続く鉱山の奥深く。

 人二人が並んで通るのがやっとな細い道の先にある燕の巣。

 和食の食材として燕の巣は適さないかも知れないが、縁結びの現場としては素晴らしい。

 ただすぐ傍らに居る、密着する、それだけできっと物語は生まれるだろう。


「あちらの松茸は丁度良さそうですね」


 コアさんの視線の先には赤松、では無く赤松から造られた吊橋があった。

 その中央付近にびっしりと松茸が生えている。


 吊橋は谷では無く、深く幅の広い地溝に架かっており、途轍もなく長い。

 物理的に有り得ない長さの吊橋だ。

 この吊橋を成立させるために特殊な赤松の木材が使われているようだ。地溝は龍脈であり、豊富な魔力が魔力親和性の高い赤松の木材を強化しているようだ。


 地溝には激しい魔力まで込められた風が吹き抜け、吊橋を激しく揺らしている。

 空を飛ぶものは皆無。強風で危険なだけでなく、魔力的にも乱され飛ぶものの墓場とでも言える環境だ。

 吊り橋効果を引き出す吊橋としてはこれ以上ない。


「まさか吊橋に松茸があるなんて、最高の場所があったね」

「この調子で素晴らしいものを探して行きましょう」


 こうして僕達は次々と縁結びに繋がりそうな食材を探して行くのだった。



 そして遂に『料理音楽大会』が開幕する。


『皆様、本日は本大会に御集まり頂きありがとうございます』


 ゼファエルが司会進行を行うらしい。

 無難な挨拶をしてから頭を下げる。


 …………何で観客席とか参加者の方じゃなくて審査委員席にいる僕達に向かって挨拶をするのかな?

 何故か観客と参加者の人達もこちらに頭を下げるし……都会の文化は難しい。


『それでは審査委員長から御言葉を頂きたいと思います』


 一応、全体の開会式はしたが、ここでも開会の挨拶をするらしい。

 ゼファエルはマイクを審査委員長のアタメル、では無く何故か僕に持って来る……。

 僕が審査委員長だったんだね……。


 まあ、料理の為に挨拶くらいはしておこう。


「挑戦者達よ! 勝利の栄誉が欲しいか!」

「「「おおぉーーーっ!!」」」

「歴史に名を刻みたいか!」

「「「「おおぉーーーーっ!!」」」」

「夢を掴み取りたいか!」

「「「「「おおぉーーーーーっ!!」」」」」


「ここにはその全てがある! 栄誉も力も用意した! 欲しくばその手に掴んでみせよ! 

 意気込みは十分か!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」

「覚悟は十分か!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」

「英雄になる準備は出来たか!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」

「ならばその資格を証明してみせよ!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」

「これより料理音楽大会を開始する!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」


 僕の宣言と共に無数の花火が上がる。

 そして参加者達は一斉に動き出す。


「……マスター、先程の開会の挨拶とはまるで違うのですが?」

「そう? こんな感じだった思うけど?」

「……全く違います。食べ物が絡んだだけでこうも変わるのですか……」


 何の事かは解らないが、料理音楽大会は始まった。


『それでは改めまして観客の皆様にルールを御説明致します』


 参加者の人達には案内を渡し説明しており、観客の人達にも案内は配ってあるがゼファエルが大会の内容を解説する。


『まず第一ステージは料理対決です。審査委員の皆様に料理を献上し、高得点を得た方から第二ステージへの進出が決まります。

 方式は料理が出来た順に四チームが同じグループとして対決し、最も審査委員の皆様から高得点を得たチームが次のステージへと進出出来ます。また、満点の九割以上を獲得した場合は同グループ内により高得点を得たチームがいる場合でも次のステージに進出可能です』


 料理が出来た順に評価するのはそれだけ参加者の人数が多いから、後ついでに料理は出来立てが一番だから。

 そして勝つだけでなく高得点でも次に進めるのはより可能性を信じて評価する為、より多くのチャンスを与える為、後ついでに次はもっと美味しいかも知れない料理を見逃すのが惜しいからだ。


「……それぞれ最後の部分の方が本音ですよね」

「な、何の事かな」


『そして特別ルールとして、指定された食材を持って来たチームにはなんと、本来なら最終ステージまで進まなければ得られない歌唱権を獲得出来ます! また、最終ステージでは無くその場で歌う事も可能です!

 料理の腕に少し自身が無いチームは一考を。料理に自信のあるチームにも大チャンス! 食材を持って来るのと料理の評価は別です。料理の得点が高いと歌唱権の獲得と共に次のステージへも進めます。つまり勝ち抜けば二回歌うチャンスが!

 是非とも参加者の皆様は指定食材を探してみてください』


「あれ? 指定食材の獲得は次のステージへの進出では無く、歌う権利自体を与える事にしたのですか?」

「うん、そうした方が冒険に参加してより縁結びに繋がりそうだからね」

「ああなる程、色々と食材を探している内に出来るだけ多く珍しい食材を使った料理が食べたくなったと」

「ぼ、僕がそんなに食べ物に執着している様に見える?」

「はい見えます」

「…………おっと、頼まれていた事をしなくちゃ」


 僕は何故か逃げる様に一仕事へと向かう。

 決してやましい事があったから、見透かされていたからでは無い。

 頼まれたから仕方無くコアさんとの話を切り上げたのだ。


『アーク様…』


 ゼファエルの元へと向かう。


「アーク様、予定ではこの後次のステージの説明もする予定でしたが、予定を早めるので?」

「う、うん、皆やる気が滾っているからね。早く挑戦して貰おうよ」


 何故かコアさんの視線が突き刺さる。


「それではアーク様、宜しくお願い致します」


 ゼファエルは一礼すると再びマイクを持つ。


『それではこれより、アーク様に指定食材への道を開いて頂きます!』


 どうせならどの世界に食材が在るのかを探し、自力で行って欲しかったが、時間の関係か世界への扉を開いてくれと頼まれたので、アンミール学園と他世界への扉を開く。


 さて、どう繋げようかな。


 “世界降ろし”は直接世界が地続きになってしまい、地形が変わってしまうのでやめておくとして、無難に扉型の道を開くだけで良いかな。


「“世界門”」


 特に技と言う訳でも無いのだが、それっぽく演出しながら次々と違う世界へと通ずる道を開く。


 何故か周りは唖然としているが、僕は構わず進行する。


「さあ征くが良い! 未来の英雄達よ!」

「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」


 そうして次々と参加者達は別の世界へと飛び立つ。

 そのまま潜る者もいれば戦艦を率いて挑む者もいる。

 一つの世界でも向かった人達の規模は大艦隊級だ。


 今更ながら、向かう先の世界に対する影響を考えていなかったかも知れない。

 空を飛ぶ軍艦一つだって世界によっては大騒ぎものだ。


 でもまあ、何とかなるだろう。


 そんな事よりも朝ご飯が楽しみだ。





 《用語解説》

 ・世界門

 アークが適当に名を付けた世界を繋げる技。

 単に世界を繋げるだけでなく他世界に適応した上で移動可能。さり気なく移動させるだけでなく存在を上書きさせ、他世界でも問題なく動けるようにする力を持つ。


 これを再現しようとするならば最低でも恒常的な異世界召喚術を構築及び運営出来るだけの力量が必要となる。

 世界一つを新たに創造するよりも遥かに高い難易度を誇る。

 潜った者を単純に勇者並みに強化する術式の方が数段簡単であり、実現の可能性が極僅かに存在する。


 アークは家のドアを開ける感覚で複数同時に展開し、それどころか環境として世界に定着させている。

 閉めようとしなければ永遠に存在し続ける。

 害を及ぼしていないだけで大災害級の力を秘めている門になっている。


 尚、当事者のアークは勿論、コセルシアもこの門の規格外さには全く気が付いていない。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。


そして改めまして、本作は今日で投稿から五周年を迎えました。

ここまで書き続けて来られたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!

これからも、お付き合い頂ければ幸いです。


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