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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第4章〈アーク主催イベント〉あるいは〈縁結びイベント〉

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第七十六話 開会の挨拶あるいは校歌

大変投稿が遅くなってしまいました。

申し訳ありません。


ルビ制限がここまで厄介だと思いませんでした。

尚、歌詞はそれっぽく書いてあるだけなので曲等は特にありません。

 


 突然音楽イベントの主催として締めの言葉を求められた僕達。

 断固拒否したいところだが、動く特等席で既にステージ中央。

 もう避ける事は出来ない。


『コ、コアさんどうしよう? こんな時ってどんな言葉を言えばいいの?』

『音楽イベントの言葉となると、流石に情報不足です。ここはそれっぽく間違っていませんよと通し切るしかありません!』

『それっぽくってどんな風?』

『仕方がありません。(わたくし)が先に話すので参考にしてください』

『流石はコアさん、頼りになる!』

『おまかせください!』


 コアさんは三方からマイクを手に取ると、玉座から立ち上がり言葉を紡いだ。


「此度は我が主の催儀に良くぞ来てくれた」


 つい緊張で訛ってしまっているが、内容は『本日は私達のイベントにご参加いただきありがとうございます』かな。

 マイクのスイッチは入れ忘れてしまっているが、不思議と世界の果てまでも聞こえそうな声音でとても落ち着いている。


「汝らの行く末に幸あらん事を」


 これは『皆様のご活躍をとても楽しみにしております。皆様にとっても実りあるイベントになる事を願っております』だと思う。

 多分、音楽イベント用と言うよりも学校の音楽イベント用の挨拶にしている。


「最礼最拝!」


『それではアークのお言葉です』と、ん? アークのお言葉!?

 いやいやまさか、気の所為だ。そうに違いない。


 そう混乱している内にも場は動く。


 それぞれ頭を深く下げ、片膝立ちになると、武器や象徴的なものを地面に突き立てた。


 うん、やはり僕の勘違いだ。

 これは礼儀作法としての最礼最拝、最上級の相手に向ける礼儀作法だ。

 神々はおろか、世界神にすら向けられる事の無い、なぜ存在するのか解らない最上級の作法。


 その方法は深く頭を下げ一言一句聞き逃さないよう目を閉じ最大限の敬意を払い拝みつつ、片膝立ちになり仕事道具を構えるというものだ。


 通常、騎士の叙勲でも無ければ敬意を払う相手の前で武器は抜かない。拝む相手の前で片膝立ちというのもそうあるものでは無い。

 しかし最礼最拝でそうするのはただ拝むだけでは無いからだ。『貴方の命を直ちに遂行する』と言う誓いの儀でもある為に、すぐに動けるよう片膝立ちになり、自分が最も力になれると考える仕事道具を構える。

 武器を持っても良いのは、自分では決して貴方を傷付ける事は出来ないという絶対者への敬意と忠誠を表しているからだ。


 うん、これは間違いなく最礼最拝。

 つまりコアさんの言葉の訳は『アークのお言葉です』では無くそのまま『最礼最拝』をしてくださいだ。


 コアさん、何このマイク?

 ちょっと何で皆僕の方を向いて最礼最拝しているのかな?


『マスター、次はマスターの番ですよ』


 ……誤訳じゃなかった。

 聞いてる方は本当に最礼最拝しているからコアさんの言葉をそのまま受け取ったのだろうけど、コアさん自身は次は僕に話せ言う意図で言ったようだ。


『と言うか騙したねコアさん! 参考にしろとか言って司会みたいにこっちに流しただけだよね! 言葉を最小限にしたよね!』

『マスター、起きてしまった事はもう仕方が無いのです。元より、本当の主催者はマスターなのですから』


 清々しい程の笑顔でそう言い切るコアさん。

 やっぱり最初からこのつもりだったのだ。


 今この場で秘技“ワールドブレイク”でもコアさんに叩き込みたいが、僕達はステージの上。

 加えて既にバトンは僕へ。


 報復する事も僕の話も回避する事は出来ない。


 もうこうなればアドリブだ!


 皆さん。


「愛しくも儚い我が子らよ」


 ……初っ端から訛ってしまった。

 いやいや、まだ最初だ最初。失敗を引きずってはならない。


 本日は音楽イベントの集まっていただき、ありがとうございます。


「世は汝らの成長を望む」


 ……まただ。また訛ってしまった。

 挽回のチャンスはまだある。


 皆さんのご参加を心待ちにしております。


「試練を乗り越えよ」


 もう修正は諦めた方がいいかも知れない。

 短く終わらせる方に力を入れよう。


 是非とも奮ってご参加ください。


「世と共に歩もう」


 最高の貴方である事を期待しております。


「願わくば、最高の君であらん事を」


 そう言い終わると、うっかり使い忘れていたマイクを三方に載せる。

 すると三方を持つロメスティオはアンミールお婆ちゃんにマイクを渡した。


 これは完全に僕の出番は去ったと考えていいだろう。

 僕は何とかこの試練を乗り越えたのだ。


「それでは、校歌斉唱です」


 開会式の最後は学校のイベントらしく校歌で終わらせるらしい。

 壇上にいる以上は、僕も歌わなければならないだろう。

 でも校歌なんか知らない。


 大急ぎで歌詞を探す。

 すると視つけた。


 どれどれ。


『愛しくも儚い我が子らよ

 世は汝らの成長を望む

 試練を乗り越えよ

 世と共に歩もう

 願わくば、最高の君であらん事を』


 …………。


 ………………やってしまった………………。


 まさか、訛った挨拶と全く同じ文言だとは……。


『マスター……』

『違うよ! 違うからね! 校歌から話す内容を考えた訳じゃないからね! 偶然だから!』

『偶然でも、とんでもないやらかしですよ……』

『こうなったら、世界改変でもしてどうにかするしか』

『悪化しかしないと思いますよ?』


 確かに、世界を改竄して僕の言葉を無かったことにするにしても、それまでの辻褄合わせも考慮して世界を改変する必要がある。

 もしもボ●クス的な大雑把な改変ならば簡単だが、ここにいる人達相手では僅かな違和感から改変に気付いてしまうだろう。

 完璧に誤魔化すには繊細な作業が必要となる。


 だからと言って時間を戻した状態にすると、もう一度開会の挨拶が必要になってしまう。


『……その選択肢の内では、迷わず時間逆行を行うべきでは?』

『皆の前で話すのは一度で十分だよ』

『そうですか……』


 どうしたものか?


 そう考えている内に校歌の伴奏が、いや演奏が始まってしまった。


「「「愛しくも儚い(遥かなる理想を目指し)我が子らよ(我らは進む)」」」


 良かった!!

 まさかの都会語訳が違ってた。


「「「世は汝らの(理想は我らを)成長を望む(待っている)

 試練を(何度挫けても学ぼう)乗り越えよ(歩みは決して止めない)

 世と共に(果て無き理想を目指し)歩もう(永久に進み続けよう)

 願わくば、(英雄になろう)最高の君で(神話になってみせよう)あらん事を(最高の自分を目指して)」」」


 全て都会語訳、発音が違う。

 本当にその部分を訳したと言うよりも全体を訳した様な歌詞だが、この際そんな事どうだって良い。

 僕の挨拶とまるで発音が、発声が違うという事が重大だ。


 文章にすると同じになってしまうが、何とか面目は保てるだろう。

 寧ろ音楽イベントの開会の挨拶だから校歌にかけた文言にしたのだと思ってくれるかも知れない。

 意味と発音が違うならきっと大丈夫だ。



 僕の役割も終わり、自分の挨拶に問題は無かったと思えるようになると途端に余裕が出てくる。

 校歌は歌いそびれてしまったが、誰も気にした様子がないのでこれも問題ない。


 後は暫くのんびりと皆の音楽を楽しむとしよう。


 楽しむと言っても校歌だが、校歌も立派な音楽の一つ。それに予想以上に完成度が高い。

 神殿や国の式典で歌っても場違いじゃないところか合っているとすら言える。

 圧倒的な伝統と歌い継がれる完成度を感じさせられる歌だ。


 しかしそれもすぐに終わる。

 何故なら、歌詞は一つしか無かったからだ。

 この校歌は一番しか無い。


 そう思ったが、なんと二番が始まった。

 歌っているのはイタル先輩。


愛しくも儚い(百の恋が実らなくとも)我が子らよ(俺は決して諦めない)

 世は汝らの(夢に過ぎないとしても)成長を望む(運命は俺を待っている)

 試練を(無くても掴んでみせる)乗り越えよ(運命なんてつくるもの)


 歌詞(?)は全く同じだったが、読み(ルビ)がまるで違う。

 しかも音楽自体もいつの間にか持っていたギターで演奏している全く違うものだ。

 替え歌とかそんな範疇に無い。ジャンルから違う。


 更に驚くべきは、一人一人が違う読み(ルビ)で歌っている事だ。


愛しくも儚い(独り立って独り走り人)我が子らよ(はいつしか孤高と謳う)

 世は汝らの(虚空の英雄虚像の勇者)成長を望む(求むなら演じて見せる)

 試練を(幻想に成り切ってみせ)乗り越えよ(よう独りは皆の為に)


 これを歌うのはマサフミ先輩。

 魔力で音を奏でるギター型の魔導楽器を演奏しながら歌っているが、歌詞は勿論曲調もイタル先輩のものとは違う。

 元の校歌よりは似ているが別物だ。


 替え歌の範疇を超えもはや作詞作曲を行い歌っているのは裸体美術部の先輩達に限らない。


 僕達の様な新入生以外は何と殆ど全員が歌っていた。


 例えば裸体美術部の対極、風紀委員の先輩達も例外でない。


愛しくも儚い(この身を犠牲に)我が子らよ(守ると誓った)

 世は汝らの(裏切られても)成長を望む(誓いは変わらない)

 試練を(守ってみせよう)乗り越えよ(この俺から)


 これはシュナイゼル先輩。

 後半に行くほど怖くなる歌詞も気になるところだが、それは兎も角としてやはり完璧なまでの替え歌だ。

 曲調も勿論違う。


愛しくも儚い(宿る悪魔は破滅を呼ぶ)我が子らよ(人を惑わせ死に誘う)

 世は汝らの(一匹残らず焚べよう)成長を望む(浄化の炎へ)

 試練を(悪魔の悲鳴怨嗟は福音)乗り越えよ(人の喜び愛の先触れ)


 やはり後半に行くほど怖い歌を歌うメービス先輩も替え歌だ。


 ルールに厳しそうな風紀委員の先輩達が替え歌で歌うと言う事は、何故かこの校歌の二番は自分で歌うのが正しいのかも知れない。

 どんな経緯でこうなっているのかは全く理解出来ないが、現状からみてそういう事だろう。


 よく聴いてみると、学生のみならず先生や、何故か僕の親族達も替え歌を歌っていた。


愛しくも儚い(子を助けよと)我が子らよ(主は私を生み出した)

 世は汝らの(願いはいつしか愛に)成長を望む(私のものに変わった)

 試練を(子は自分で乗り越える)乗り越えよ(未来は彼らの掴むもの)

 世と共に(手を引かず背を押そう)歩もう(前では無く隣にいよう)

 願わくば、(信じている知っている)最高の君で(我が子らは何処までも)あらん事を(自分の足で歩ける事を)


 これはアンミールお婆ちゃん。

 もはやこの学園のトップが替え歌を歌っているのなら、そう言う文化に違いない。


愛しくも儚い(全てを救う英雄に)我が子らよ(成りたいと願っていた)

 世は汝らの(自分は成せると信じて)成長を望む(英雄の力を手に入れた)

 試練を(そして知った無力だと)乗り越えよ(どんな力を宿しても)

 世と共に(力で人は救えない)歩もう(だから歩むと決めた)

 願わくば、(寄り添おう認めよう)最高の君で(共に歩んでみせよう)あらん事を(君が英雄である為に)


 卒業生ではあっても僕の保護者枠である筈のゼンすらも歌っている。

 もはや有名な伝統なのかも知れない。


 ただ、それぞれ自作の自分の歌を歌っていると思っていたが、ゼンの歌の内容はまともだった。

 働かない事を至上とするゼンのものとは思えない歌詞だ。


 実は元々何種類か決まった歌詞があるのだろうか?


 元々は同じ歌詞とは言え、これだけ歌も曲もジャンルもバラバラに歌っているのに、不思議と一つの合唱としても聞ける。

 しかも計算され尽くした精密な作品にも、自然が偶然織り成す奇跡にも思える完成度だ。


 いや、でも先輩達の歌を聞くと、歌詞は完全に先輩達を表すものだ。

 既存のものでこんなにも表せるとは思えない。

 先輩達自体が一般人と言うテンプレートに当て嵌まらない人達だ。予言でもしなければ歌詞を作るのは不可能だろう。


 結論、多分この校歌の二番は自分達で作ったものだ。


 合唱のようにも聞こえるのは、あまりに違う歌が多く、比較出来ないからだと思う。

 二つの歌なら合っているか合っていないか容易く判る。三つでも容易だ。

 しかし、千や万の歌が同時に歌われたら判断が出来ない。


 加えてそれだけの歌が有ると必ず組み合わせの良い曲が有るのだろう。

 きっと少しずつ補完し合い、一つの歌のように聞こえるのだ。


 最初はちゃんと聴く余裕も無く、音楽よりも先に疑問が入ってきた校歌だったが、音楽として聴くと素晴らしい。

 僕に音楽の良し悪しなど解らないが、少なくとも僕は好きな曲だ。今日始めて聴いたばかりだがそう思える。


 縛られない豊かな自由と調和、あらゆる音楽が一つとなりつつも個々としても高め合うこの校歌は、伝説に語られるのみとなってしまった理想郷を思い描かせてくれる。

 そして実際その理想郷をいつか築いてくれるだろうと言う期待、未来が浮かんでくる曲だ。


 まさか音楽イベントの開会式の時点でこんな曲に出会えるとは思ってもいなかった。


 加えてほぼ自作の曲を披露して、ここで全てを出し切っていないか心配だ。

 当然全員が本職の歌手でも作曲家でも作詞家でも無いのだから、この校歌で全てかも知れない。


 しかし、ほぼ全員が自分の歌を作れていると言うのも事実。これは予想以上に期待が出来る。

 既存の歌を歌う歌上手部門がメインになるかと思っていたが、一応作っただけの部門も合わせてイベント全体が盛り上がるかも知れない。


 これは楽しみだ。



 だがここで一つ問題が起きた。


 校歌が終わらなかったのだ。

 三番もあるらしい。


『コアさん、もしかして僕達も歌わなきゃいけないのかな? このまま続くとなるとずっと黙っているのも気不味いと思うんだよね?』

『一番と二番を歌っていないので手遅れな感も有りますが、まだまだ続くようであれば歌った方が良さそうですね。新入生の方々の中には何とか合流した方もいますし』


 コアさんの言う通り、途中で歌に合流する僕達の同級生が多くいた。

 途中参加が主流だ。

 だとするとこのままの沈黙は駄目でこそ無さそうだが、目立ってしまいそうだ。ただでさえステージ上にいるのにこれ以上は勘弁して欲しい。


『取り敢えず作るだけ作ってみよう』

『仕上がり次第で参加の是非を決めましょう』


 僕達は高速で心の声を伝え合い、三番が始まる前に作詞作曲を試みる。


 まず考えるべきは元となる歌詞の解釈だ。

 作詞作曲に近いとは言え、一応は替え歌だ。まずはそこの規則性を解読するに限る。


『校歌の歌詞の訳し方は大雑把に


 愛しくも儚い()我が子らよ()

 世は汝らの(過去か)成長を望む(ら現在)

 試練を()乗り越えよ()

 世と共に(現在か)歩もう(ら未来)

 願わくば、()最高の君で()あらん事を()

 ってところかな?』


 何故その歌詞がそう解釈されるかまでは解らないが、替え歌自体を聴いてみると大体こんな解釈をしているように思える。


『大方は(わたくし)もそのような解釈だと思いますが、もう少し分解すると

 愛しくも儚い()我が子らよ()

 世は汝らの(動機か)成長を望む(ら想い)

 試練を()乗り越えよ()

 世と共に(現在か)歩もう(ら想い)

 願わくば、(望む)最高の君で(未来)あらん事を()

 と言うような内容なのではないかと思います』

『確かにそうかも。何で皆がそう読んだのかは理解出来ないけど』


 きっとコアさんの解釈か正しい。

 解釈自体はかなり大雑把な内容で、替え歌、読みを変えるというよりも、歌詞の設計図として元の歌詞を使っている。


(わたくし)も同感です。ですがおそらくは本来の歌詞に対して受け身の歌詞として読んでいるのだと思います。例えば『愛しくも儚い我が子らよ』であれば『愛しくも儚い我が子ら』を自分の事を指しているものとして読み解いているのかと』

『確かに少なくても皆、自分の事をここで歌っていたね。なんとなくだけど未熟な自分とか、かつての自分って訳したのかな。加えて愛しい、大切な記憶と言う意味も加えて。次の『世は汝らの成長を望む』も成長を望まれているのは自分達って解釈しているとすると、だから進んだみたいな意味になるのかもね』


 ある程度歌詞について整理は出来た。

 後はこれを元に自分の歌詞に変えるだけ。


 ただ、次は三番だからほんの少し解釈が違うかも知れない。

 未来を覗いてみる。

 英雄達に対しての未来視なんて、とんでもなく確率の低い未来を通る事も多いからあまりあてにはならないが、歌を歌う時の未来なんて次の歌詞を歌う事でほぼ確定だ。

 こんな場合は十分参考になる。


 どれどれ、まずはイタル先輩。


『燃え盛る情熱で融かして見せる 愛を怖がる君の氷の心(アイスハート)

 愛を知らない君に教えて見せる 拒絶されても構わない(ブレイブハート)


 …………。


 色々とアレな歌を歌っていた。

 ただ声量が大きくはっきりとしていて滑舌もよく、何故か上手く聴こえる。


 しかし注目すべきはそこじゃ無い。

 どこかさっきと違う。

 曲は一つとも言えなくも無い。だがこれは同じ人物が作曲したから似ているとも取れる程度には差異がある。


 問題は歌詞。

 何かが違う。

 はっきりと断言は出来ないが、もはやルールを無視している印象がある。


 いや、もう少し聞いてみよう。


『君が素直になれるなら 俺じゃなくても構わない

 君の笑顔が見れるなら 愛じゃなくても構わない

 それでも like or love love or like 無関心とは言わせない

 誓おう like or love love or like 君の好意は手に入れる』


 うん、さっきと違う。

 なんか英語まで入ってきた。


 それにルビを振ったにしては歌詞の量が多過ぎる。

 当然二番の歌詞とも量が違う。

 歌詞の内容からは様々な解釈があるから違う方式だと断言は出来ないが、この量からすると違う歌であると断言しても良いだろう。


 いや、もしかしたらイタル先輩だけかも知れない。

 他の先輩の歌も取り敢えずは聞いてみよう。


『Quality over quantity 独りは多くに勝る

 Quality over quantity 枷なき俺は走る

 右も左も前もいらない 道は自分で切り拓く

 後ろがいれば突き進める それが勇者の英雄道』


 やはり違う曲だ。

 これを歌うはマサフミ先輩。

 ただ、さっきの替え歌と方式が違う云々よりも、やはり歌詞の内容が気になってしまう歌だ。

 量より質と歌っているが、多分後ろに来る言葉からして深く詮索しては悲しい事になる使い方をしている。


 もう二番と三番も違うと断言しても良いような気もするが、もう一人くらい聴いてみよう。


 やはり対比として真面目な風紀委員の先輩の歌を聴いてみる。

 対象は性別も違うメービス先輩が良いだろう。


『十字の炎は未来を照らす 響く断末魔(ねいろ)は笑顔に変わる

 悪を焚べよ 悪を刻め その松明は世界に光を灯し その血肉は大地を肥やす

 見極めよ 騙されるな それは人の皮を被った悪魔 幼子も妊婦も姿は関係無し

 善に信仰は関係無し 善きは善く 悪しは悪しき 答えは教えに無く自分の中

 故に善を悪とすは悪魔のみ 信仰などでは変わらない 騙されるなそれは悪魔 穢れた魂を捧げよ

 鞭打て聞き出せ容赦なく 焚べよ燃やせ灰にせよ 刻め砕け轢き潰せ 

 一匹残らず処刑台(舞台)へ 断末魔(開幕のベル)を轟かせよ その断末魔(ねいろ)は福音』


 …………聴いてはいけない怖い歌だが兎も角、やはりさっきの替え歌と比べて歌詞の量からして違う。


 二番と三番には明らかな差異が有るようだ。

 そしてこれの法則性は解らない。

 内容自体は続きのようにも聞こえるが、それはただ同じ人が自分の歌を歌っているから、ただそれだけを理由に出来る程度のものだ。

 法則性が有るのか無いのかすら不明だ。


 そしてこうなってくると、この校歌に僕達が入る事は出来ない。

 何を歌っているのかすら解らないのだから、合流のしようが無い。


『コアさん、僕達は歌わずに聞いていようか』

『それしか選択肢が無さそうですね』


 結局、僕達はこのままステージ上で玉座に座りながら校歌を聞いている事にした。



 やがて校歌斉唱も終わった。

 いや、正確には七番あたりでアンミールお婆ちゃんが指揮棒を取り出し少し振ってから止めると一斉に歌が終わった。


 多分、校歌の続き自体はまだまだ有るのだろう。


 しかし、開会式の歌としてはこれで終わりだ。


 これでやっと音楽イベントが始まる。


 後はコアさんとのんびり聞いていればいいだけだ。


 そう思っていると再びロメスティオが三宝にマイクを載せてやって来た。


「アーク様、最後に開会宣言をよろしくお願い致します」


 恭しくマイクを捧げてくるロメスティオ。

 最後にまた僕の出番があったようだ。


 ただ、やるべきはさっきのようなスピーチでは無く開会宣言。

 これはただ一言開会しますと言うだけだ。


 もうステージ上だし、そこまで緊張せずに済む。


 それでは、音楽イベントを開催します。


「今ここに新たな時代が始まる」


 あっ、また訛ってしまった。

 しかし今回は全て訛ってしまったから気にしても仕方が無い。

 誰も気にしていなかったみたいだし。


 そう思っていると、今度は静寂が訪れてしまった。


『……マスター、やらかしましたね』

『ややや、やらかして無いよ!』

『あんなにも賑やかであった会場が静まりきっていますよ』


 否定しながらも内心、僕もまずい事になってしまったと思っていると、場は突如動き出した。


 突然の最礼最拝。


 誰もが一言一句聞き逃さないようにと目を閉じ、深く頭を下げ最大限の敬意を払い拝みつつ、片膝立ちになり武器や仕事道具を構える。


 どうやらやらかしの静寂では無く、最礼最拝をする為の間であったらしい。

 そう言う作法だか伝統が有るのなら先に言っておいて欲しいものだ。


「「「「「御意!!」」」」」


 ただ、伝統と片付けるには感情が乗っている。

 ある者は感動し涙しながら、ある者は決意しながら、誓う様に返事をしていた。


 ただの開会宣言なのに?


『……やはりマスター、何かしました?』

『訛っただけだよ。コアさんにもそうとしか聞こえなかったでしょう?』

『何か田舎者の我々の知らない作法でも、気付かずにしてしまったのでしょうか?』

『深くは考えないでおこう』


 次に間違わない様に答えも知っておきたいが、今は後にして欲しい。

 今ここで答えを知ってはただでさえ緊張し困惑してと大変なのに追い打ちをかけられる結果にしかならない。

 落ち着いて聞くべきだ。


 今すべきは撤収だ。


 ロメスティオに目で合図を送る。


 すると僕の意図は無事に伝わり特等席な玉座は動き出した。


 天から光が降り注ぎ、再び特性花火が上がり花吹雪が吹き荒れる。

 玉座は天に戻るかの様に光へ向ってゆっくりと上昇してゆく。


 最礼最拝から戻った人達が次々に演奏まで始め、盛大に送られて行く。


 今更ながら明らかな過剰演出だ。

 最初は僕達に向けられた演出では無いと思っていたから何とも思わなかったが、改めて考えるととんでも無く派手で盛大すぎる演出でしか無い。


 どう考えても主役は僕達では無く演出だろう。

 服を着るのでは無く着せられている状態だ。

 こんな演出、至高の美しさを持つ存在や圧倒的な力を持つ、何にしろ至高の存在なんかじゃないと絶対に似合わない。


 もはや一生分の恥ずかしい思いをしている気までする。


 反対に剰りの過剰演出だからか、会場の人々は満足気に、良いものを見れたと感動すらして見ているようで僕達を意識しないでいてくれているかも知れないが、何にしろ今すぐにでもやめて欲しい。


 しかしこんなに注目を浴びる中で演出を止める事など出来る筈もなく、僕達は飾りの様に大人しくしながら最後まで過剰演出を受けながら退場するのであった。





 《用語解説》

 ・最礼最拝

 最高位の礼儀作法。世界神にすら向けられない最上位の存在に向けられる礼にして祈りの作法。


 通念として最上位である世界神にも向けられない礼儀作法である為、世界不思議の一つに数えられる謎として語られる。

 学説では世界神としても別格の存在として語られるアンミール、ハシィー・ラトゥワーニに対して使われる礼拝方法で有るとの説が有力。


 方法としては目を閉じ降ろされる言葉に集中し、深く頭を下げ最大限の敬意を払い拝みつつ、片膝立ちになり武器や仕事道具を構えると言うもの。

 武器すら構えるのは私では貴方を絶対に傷付けられ無いと言う絶対の敬意忠誠信頼を払いつつ、貴方の為に即座に尽す事を示す為。


 実際はアークを始めとしたユートピアに対する礼儀作法。

 使い途は無いと考えられている一方、世界不思議に数えられる事から非常に知名度は高い。




 ・アンミール学園校歌

 アンミール学園の校歌。かつて至高の存在が遺したとされる言葉を元にした歌詞に後付された曲により構成されている。


 アンミール学園には多数の天才が集う為、歌詞の解釈、一番合う曲の作曲で揉めに揉め、現在のような形に落ち着いた。

 永い永い年月をかけ一番は成立したが、それでもパート分けが多く結局様々な曲や歌詞の解釈を混ぜた校歌になっている。


 そんな複数の校歌があると言う経緯から、何時しか二番以降は自分で作詞作曲するようになった。

 作詞作曲と言っても元の歌詞を元にした曲であったが、全員が全員、作詞作曲できる筈など無く、三番以降は何時しか好き勝手に歌うようになった。


 正当とされる定番校歌でも辞書一冊分ほど有る。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

余計な設定は作るものじゃないと反省する今日此頃です。


次話からも暫く歌詞が有るので遅くなるかも知れません。

お待ちいただければ幸いです。


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