第七十五話 音楽イベント開始あるいは開会の挨拶
明けまして、おめでとうございます。今年も、よろしくお願いいたします。
すみません。去年の内に投稿する筈が遅くなってしまいました。
音楽イベントの準備は着々と進んでいる。
音楽ステージの集まるちょっとしたテーマパークのようなものが完成しつつ有るが、アンミールお婆ちゃん達が造った百万人ドームよりは数段マシだ。
マシなだけであってやはり規模が大きいが、許容範囲内ではある。
一つのステージに全てが集中する様に造られた会場ではなく、複数のステージが乱立する会場で有るから、規模自体は広くとも歌ってくれる人を緊張させ過ぎたりする事も無さそうだ。
存分に力を発揮してくれる事だろう。
そして、準備は着々と進んでいるが、ここに来て一つ忘れている事があった。
「コアさん、そう言えば賞品を決めていなかったけど、どうしようか?」
「賞品が無ければそこだけマスターの親族の方々に用意していただけば良いのでは? 挑戦者を集める為の賞品ですし、そこは多少豪華でも問題ないと思いますよ?」
「いや、でも百万人が入れるステージを造ろうとする人達だよ? 多分、頼んだら競うようにとんでもない秘宝を持って来られるよ」
「それもそうですね。となると、賞品は私達が用意できるものですか。う〜ん、難しいですね」
何気にこれは大問題だ。
今回のイベントは計画としては賞品で挑戦者を誘う少し強引な方式だ。
賞品を求め挑戦者達がお互い全力を出し尽くし、その光景に観客を惹かれさせる。
賞品は出発点、前提条件だ。賞品によって挑戦者を呼び寄せられ無かったら、挑戦者が全力を出して求めるものでなければ計画は、このイベントは破綻してしまう。
そんな大切な賞品が、果たして僕達に用意出来るだろうか。
「そもそも、学園の皆は何を求めているのかな?」
用意出来る出来ない以前に、求めるものの把握もまだいまいちだ。
「先程の実例を見る限り、王道は賞金では?」
「でも、金貨もその材料の金も簡単に創造できるものでしょう? だから、特に金が好きな人しか来ないんじゃないかな? さっきのもどこかで見た人達だったし」
「そう言われてみれば、確かに偏った見た事のある方々でしたね。賞金だけでは偏り過ぎるのかも知れません。となると、賞金で買えるようなものも賞品としては向いていないのかも知れません」
確かに、お金で買えるものも賞品にあまり向いていないかも知れない。
結局、価値があるものが賞品としての適切なのだろうが、その価値が何なのか分からない。
「もう、僕の野菜果物セットにでもしておこうかな?」
「奥様方なら来そうですが……」
「贈答品に出来る程度品質なら保証するよ?」
「良いものであっても、それを求めるかは別の話だと思います。いくら美味しいものでも、学生の方々はそれを求めて全力を尽くす事はないのでは? 美食家の方々なら本気で来るかも知れませんが、それはそれで人材に偏りが生まれるかと」
「僕なら参加するけど?」
「それはマスターも偏った人材に分類されるからです。実際優勝賞品が野菜果物な若者のイベントを見たことがありますか?」
さり気なく失礼な事を言うコアさん。
しかし若者のイベントと言ったところで僕達の間違いに気が付いた。
「割と地域のお祭り的なものとか、学校イベントではあると思うよ? コアさん、ステージがプロレベルだったり大会レベルでも、流石に賞品までそのレベルに合わせなくても、元々学園のイベントだからそんなもので良いんじゃないかな?」
「言われてみれば、そうですね。ステージの規模の大きさに流されてしまいました」
そう、僕達が行うのは結局のところ、学園のイベントなのだ。
世界大会を開催する訳じゃない。
賞品について言えば、本来なら金貨一枚の賞金ですら過剰かも知れないぐらいだ。
「となると、マスターの育てた野菜果物で丁度いいかも知れません。一回しか開催出来ないと言う規定がある訳でもありませんし、まずはマスターの育てた野菜果物を賞品にやってみましょう」
こうしてこのイベントの賞品も決まった。
これで準備は万端だ。
さて、僕の野菜果物で一体何人の挑戦者が来てくれるだろうか?
楽しみであり、ちょっぴり不安だ。
何だかんだ音楽イベントの打ち合わせや微調整をしている間に、開催予定時刻一時間前になった。
「コアさん、多勢集まって来てくれているかな?」
「宣伝チラシも配っていただいたので、百人程度は来てくださるのではないでしょうか」
「百人も来てくれたら十分だね」
そんな風にドキドキしながら会場を視る。
「「…………」」
そこには、地を埋め尽くす程の多勢の参加者が集まって来てくれていた。
百万人ドーム、満員にはなら無いとしても必要だったかも……。
「って、どうしてこんなに!? アンミールお婆ちゃん、イベント参加の強制でもした!?」
僕はすぐさまこの学園で過剰な事態になったら一番怪しいアンミールお婆ちゃんを問い質した。
この学園そのものでもあるアンミールお婆ちゃんなら、少なくとも黙認はしている筈だ。
「私は不本意ながら今回は何もしてはいないのです」
やろうとはしたんだ……。
「じゃあ、どうしてこんなに?」
「アークが呼び込んだではないですか」
「僕が!?」
「原因はこれなのです」
そう言ってアンミールお婆ちゃんはチラシを出した。
『音楽イベント開催のお知らせ
本日午前九時より本校舎南門外右側の特設会場にて音楽イベントを開催!
入退場参加は自由!
歌に自信のある方、奮ってご参加ください。最も観客を魅了した方には豪華賞品を贈呈します!
賞品
“ヘラの黄金林檎”
“アフロディーテの黄金林檎”
“アテナの黄金林檎”』
紛れもなく普通のチラシだ。
今回はダンジョン調査依頼書が色々と過剰になったりした反省から、印刷込みでアンミール学園の印刷所に発注しておいた。
僕が書いても良かったのだが、当回しに止められた結果でもある。
尚、発注しに行ったのは眷属。
学生の運営している印刷所なので大丈夫そうではあるが、それでも万が一僕の親族がいたら過剰な事になりそうなのでその対策だ。
結果、よく見るどこに出しても何の問題も無いチラシが出来上がった。
そう思っていたのだが、何か問題でも有ったのだろうか?
「僕には普通のチラシに見えるけど?」
「私にもそう見えます」
何度も読み返し、向きも色々と変えて見て見るが、やはりどこにもおかしな所は無い様に思える。
単純にちゃんとしたチラシだからこそ、これだけの人が集まってくれたのだろか?
「答えは明白です」
そうして呆れたように指し示したのは、チラシの賞品欄。
「僕の黄金林檎? 何だ、やっぱり美味しい食べ物も多くの人にとって求めてやまない物だったんだね」
「まさか、そこまでの需要が有ったとは、私が見誤っていたようです」
「違います。そうではありません」
「「えっ、違う?」」
美味しい食べ物に皆は惹かれたんじゃないの?
美味しいのと、見掛けが金で贈呈品にぴったりな事以外、特別な部分は無い筈だけど。
「あっ、もしかして迷信のせいかな?」
「迷信とは?」
「この三種類の黄金林檎はね、パリスの審判にあやかった黄金林檎なんだよ」
「パリスの審判ですか? トロイア戦争を引き起こす要因となったとされる出来事ですよね?」
「うん、そのパリスの審判だよ。結婚式に呼ばれなかった不和の女神は怒って最も美しい女性へと書いた黄金林檎を投げ込んだ。その林檎を最も美しいと自信を持つ三人の女神が自分の物だと主張し、パリスに誰が最も美しいかを審判させた」
有名な異世界の神話だ。
パリスは自分を選べば世界一の美女を与えると約束した女神アフロディーテに黄金林檎を渡し、アフロディーテは約束通りパリスは世界一の美女であったスパルタ王の妻ヘレネーと恋に落ち、ヘレネーを連れ去る。
これがトロイア戦争の原因となった。
「それにあやかった黄金林檎と言う事は、不和を呼び込む林檎と言う事ですか?」
「違うよ。この黄金林檎は、食べるとアフロディーテ、ヘラ、アテナ、三柱の女神が自分を選んだらパリスに与えると約束していたものを得られるとされる黄金林檎なんだよ」
「……それはそれは、凄まじいですね」
つまり、“アフロディーテの黄金”は食べれば世界一の美女もしくは美男と恋仲になれ、“ヘラの黄金林檎”を食べれば世界を支配する権力が、“アテナの黄金林檎”を食べれば戦場での勝利が手に入るとされている。
「でも迷信だよ迷信。鑑定して視ると、何故かしっかり書いてあるけど、実際食べると普通の美味しい林檎だよ?」
そう言いながら豊穣世界で実物を収穫し、コアさんに見せる。
「食べる? シャクシャク、もぐもぐ」
「確かに視たところ、マスターに変化は有りませんね。では私も」
コアさんも食べ始めるが、やはり変化は何も無い。
鑑定結果に出て来ても迷信に過ぎない事が証明された。
「コアさん、何か効果有った?」
「力が染み渡るような感覚はありますが、女神の恩恵らしきものは何もありません。迷信のようですね」
「やっぱりそうだよね。滋養強壮には良いんだけど、効果っぽいものはそれだけなんだよね」
「………………」
アンミールお婆ちゃんは何故か呆れたようにこちらを見ているが、やはり迷信は迷信だ。
あっ、もしかしてアンミールお婆ちゃんも食べたかったのかな?
「アンミールお婆ちゃんも食べてよ」
「戴きます……」
うん、何だかんだ美味しそうに食べている。
「黄金林檎の効果が迷信だとすると、何故これほど多くの方々が集まって来てくれたのでしょうか? もしや迷信だと知らないと言う事はありませんよね?」
「賞品はこれですって飾って有るから、それは無いと思うよ? 鑑定出来るから、迷信なのは知っているんじゃないかな」
「そうですが、我々の鑑定では効果の部分に何故だかその迷信が書かれている様に視えるのですが?」
「僕達の鑑定が拙いだけだよ」
実際、僕は鑑定を使いこなせていない。
何故か鑑定をすると、聞いたことが無い項目まで表示されたり、有り得ない量の莫大な情報が出て来てしまったりする。
きっと鑑定は自分である程度は情報整理精査しないと上手く使えないのだ。
今回の場合は反対に一部情報が、項目名か何かが抜けて迷信説明が効果項目に書かれている様に視えてしまったのだろう。
「では、何故黄金林檎を求めるのでしょうか?」
「美味しいからじゃない?」
「確かに、この世の物とは思えない、いえ明らかにこの世の物では無い別格の美味しさでしたが……、確かに味で求めても不思議ではありませんね」
「ありがとう」
「これなら万人が求めても不思議ではありません」
初め、食べ物で多くの人は釣れないと言っていたコアさんが、黄金林檎を食べてその意見を翻してくれて、それほど美味しいと言ってくれてとても嬉しく誇らしい。
食べ物には人を変える力があるようだ。
「ですが、黄金林檎は秘宝とされるほど貴重な筈です。大半の方が、いえ可能性としては集まった方全員、食べた事が無い筈です。如何に美味しかろうと、風聞だけでここまで多くの方々が集まるでしょうか?」
「言われてみれば、多過ぎるかも」
コアさんも食べて初めてその価値に気が付いた。
事前にいくら美味しいと聞かされても、百聞は一見にしかず、じゃなくて百聞は一食にしかずだ。
少なくとも、異世界で世界三大珍味と言われるトリュフ、フォアグラ、キャビアが賞品でも、高級なお肉やカニでも、それ等をセットにしても、ここまで多くの人は集まらない筈だ。
多分、賞品にしても殆どの人からしたら、そのイベントへの参加理由は面白そうだからが勝ると思う。
「じゃあ、金よりも綺麗な金色だから欲しくなったのかな?」
「美品として価値があるのは間違いないですが、生物をそこまで求めますかね?」
「永遠に腐らないよ? まあ、永遠と言っても時間を加速させて百億年黄金林檎の時間を進めただけだから、本当に永遠に腐らないかは判らないけどね」
尚、腐らないどころか熟しもしない。
そもそも時間を進めたのは追熟してより美味しくなるかの実験だったが、何個やっても味は変わらなかった。
ただ、時間加速を使う空間をエネルギーの少ない環境に変えると黄金林檎は腐らないものの発芽し、時には何故かユグドラシルのようなタイプの新たな世界を形成すると言う性質を持つ。
永持ちしても早めに食べた方が良い林檎だ。
「……そんな効果があったのですね。百億年はもう永遠と言ってもいいと思いますよ? 権力者なら不死を願う縁起物としても不思議ではないですね」
「縁起物、もしかしたらそれが答えかも。迷信に加えて金ピカで腐らない、飾りから食べる縁起物にまでなるからね。それにもし縁起物として認識されているとしたら、本当に権力者の人達が求めていて高額で取引されているのかも。そうだとしたら全部説明出来るよ」
「迷信や伝承、そして伝説は時に国を、世界をも左右する事が有りますから、その可能性は濃厚ですね。迷信に過ぎなくとも、とてもない価値を有していたとしても不思議ではありません」
これで謎は全て解けた。
僕達の音楽イベントに集まって来てくれた人達の目的は賞品である黄金林檎を手にする事。
何故なら、黄金林檎は縁起物として高い価値を持つから。
食べるにしても飾るにしても売るにしても価値が有る。故に求める。
謎など一欠片も残っていない。
「…………シャクシャク」
何故かアンミールお婆ちゃんは相変わらず呆れたような視線をこちらに向けているが、気にしたら負けだ。
予想外に集まった参加者に合わせて、急ピッチで会場を拡大させたりしていると、いよいよ開催予定時刻になった。
ステージが乱立する会場の中央ステージ、そこに司会進行役に立候補してくれた僕の親族【四界信仰】ロメスティオが登場する。
最も知られた二つ名も司会進行に掛けられたロメスティオは伝説の司会者だ。
世界宗教の一つ“偶像教”の司祭であったロメスティオは、“偶像教”の偶像達と共にあらゆる争いに乱入し心を掴み、そして流れを思うままにし世界平和に導いたと言う。
世界すらも上手く進行させられる、もはや司会者かどうかも定かで無い程の大司会者だ。
ロメスティオが居ればもはや音楽イベント成功間違い無しだろう。
本当は僕達二人と眷属達だけで運営しようと思っていたが、計らずもここまでの大イベントになってしまったのでその道のプロに任せる事にした。
僕達はいつの間にか造ってくれていた専用の特等席で高みの見物をする。
さて、伝説の司会者はどのような司会進行を見せてくれるのだろうか?
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日の司会進行は私、偶像教司教ロメスティオが行わせていただきます」
偶像教の司教らしく芸能的な司会進行をして盛り上げるかと思ったが、ロメスティオは式典で司会する様に進めるらしい。
服装も偶像教の神官服要素が含まれているものの、真面目な式典にも参加出来る程度にはきっちりしている。
しかし対照的に会場はざわつき、盛り上がり始めた。
ロメスティオが伝説の英雄、しかも芸能方面での有名人だからだろう。
早くもイベントは成功しそうだ。
「まずは特別審査委員の方々をご紹介いたします」
スポットライトがステージの一角に当たる。
「御一人目はこの方!! ここ、アンミール学園が最高位、アンミール様!!」
光の先に居たのは伊達眼鏡をかけたアンミールお婆ちゃん。
アンミールお婆ちゃんの登場で盛り上がっていた会場は一挙に沈黙する。
会場の皆はアンミールお婆ちゃんの存在感の大きさにやられたらしい。
ある種、有名人過ぎたようだ。
「皆さんの想いの籠もった音楽を心待ちにしています。自身が無くとも拙くとも、是非歌ってください。奏でてください。想いを、叫びを届けてください。それはきっとあなたの、音楽に共感した皆さんのかけがいの無い糧となるでしょう。
そして聞いてください。あなたの学友の想いを、叫びを。感じてください。想いが届けば、同じく届いていれば、あなた達はお互い良き理解者です。感動を共有してください。そうすれば、皆さんはかけがいの無い友を得るでしょう。
皆さんの成長をここで見守らせてください」
優しく心から生徒を想い、成長を願うアンミールお婆ちゃんの言葉に、会場の皆の緊張は解けた。
歓声が上がり、元より大盛り上がりになる。
流石はアンミールお婆ちゃん。
眼鏡は伊達でも、子供の成長を誰よりも願い見守る、見守り成長へと導いて来た超越存在としての側面は伊達では無い。
圧倒的な存在感を有していても、子を、人々を優しく包む込み緊張を解す何かがある。
「アンミール様、ありがとうございました」
そんなアンミールお婆ちゃんに心から敬意を払うロメスティオ。
どうやら、ロメスティオの司会が真面目なのは特別審査委員であるアンミールお婆ちゃんに合わせてらしい。
多分、まだ圧倒的大物な僕の親族が出てくる気がする。
「続いてはこの方!!」
スポットライトが一点に集中する。
そこに居たのは純白のタキシードにハットと言う派手な服装ながらも、不思議と派手には感じさせないほど着こなしている貴人。
外見年齢は若いようにも歳を重ねて来たようにも見え判別出来ないが、高貴さだけは確かに感じる。
「数多の神々を生み出した我らが偶像教の主神、【神々の生みの親】エー様!!」
やはり圧倒的大物な親族が登場した。
アンミール学園に集まった親族の皆の中では、そこまで上位の存在感を有している訳ではないが、音楽に関わりが深い僕の親族の中では最も有名かつ力の有る親族の一人だ。
世界神でも最も力ある存在では無い僕の親族って一体……?
「アンミール様も仰っていた様に、皆さんの音楽を心待ちにしています。理想は理想の中にしか存在しないのかも知れません。しかし理想を生むことは誰にでも出来る。理想の自分になる事は難しいでしょう。理想とは叶えたい願い、叶っていないからこそ理想なのですから。ですが、誰かの理想には成れる筈です。誰かが憧れるような自分には、より簡単に成れるでしょう。それに貴方は気付かないかも知れない。それでも全力で挑んでください。貴方は必ず誰かの憧れになります。
そして貴方に憧れた誰かは、いつか貴方の憧れへと至るでしょう。近しい貴方方なら、きっと良きライバルを得る事が出来る筈です。ただ前を向いていれば、全ては成長へと変わります。
どうか掛け替えのない時間にしてください」
エーがそう締めると、再び会場中から歓声が上がった。
アンミールお婆ちゃんに緊張を解された生徒に、もはや遠慮は無いらしい。
流石は次代の英雄。
「エー様、ありがとうございました。
御次はこの方!!」
次にスポットライトが当たったのは笑顔が素敵なお姉さん。
間違い無く女神であると断言出来る美貌の持ち主であるが、笑顔の素敵なお姉さんと言う印象が第一に来る、外見と言うよりも内面が第一印象になる黒目黒髪のお姉さん。
「複数の世界宗教の名誉主神、最古の勇者全員の子孫、【喜劇のヒロイン】アキホ様!」
「頑張ってねぇ〜!」
「結婚してくれぇー!!」「まずはお友達からー!!」「こっち見てぇー!!」「俺と目があった!!」「アキホちゃんが手を振ったのは俺だ!!」
「もうヤダな〜、私は既婚者だよ?」
「はい、ありがとうございました」
盛り上がりが最高潮に至る会場。
仮にも世界神をちゃん付け、流石は次代の英雄だ。
尚、声を上げた人の大部分が裸体美術部員。やはりこれも彼らが次代の英雄を率いる器だと言う事なのだろうか? 何であれ是非とも良縁を結んでもらいたい。
「最後は至高たるこの方々に御言葉を戴きます」
ロメスティオがそう言うと、一言を言ってからは座っていた三人と、紹介はされなかったが同じく審査委員をやってくれるらしく、審査委員席に座っていた僕の親族が一斉に立ち上がった。
そしてステージ中央に向けて頭を下げる。
観客の人達も自然と頭を下げて静まった。
「コアさん、アンミールお婆ちゃん達よりも凄い人を呼んでいたらしいね」
「一体何方でしょうか? あそこに並ぶ方々、特にアンミールさんを超える力を持つ存在など、無きに等しい筈ですが?」
「僕達も知らないくらい凄い人なんじゃないかな?」
「なる程、一般人は知る事も出来ない程の方ですか。いや〜、凄い方に来ていただけて光栄ですね」
そう話していると特等席が動き出した。
僕達の席だけでなく、会場中が動いている。
会場を変形させるギミックまで用いて凄い人を紹介するらしい。
本当に凄い人が来るようだ。
一体どんな人だろう?
上に隠されていた僕達の特等席は、ステージ奥の位置に移動して行く。
そして回転。観客を向く方向に席の向きが変わる。
どうやら僕達は、凄い人を真後ろから見れるらしい。
常に一番良い所から見れるようにしてくれているようだ。
後でサインを貰おう。
更に驚く事に、特等席はステージ上に向かって下へ降りて行く。
本当の本当に真後ろで見れる特等席らしい。
降りて行く毎に、当たるスポットライトが増えて行く。
ステージに近すぎて当たってしまうらしい。
これは少し減点かな。
ステージに近付く毎に、今度は花火まで打ち上がる。
煙は出ず、最後は花弁と香りに変わる特性花火だ。
降りる程その勢いは増して、もはやガトリング砲を使っているかの如く、花火の数は増える。
過剰でこそあるが、これは間近で見れてとても綺麗だ。
特等席、特性玉座の座り心地も相まって、まるで僕達に向けられているような気分になれる。
こんなに迎えられる人は、本当にどんな人なのだろうか?
遂に特等席はステージに降り立つ。
有名人のサイン、是非とも戴かなくては。
「本イベントが主催であらせられる遙か尊き偉大なる御方」
へぇ、いつの間にかこのイベントの開催にも手を貸してくれていたようだ。
主催と言うからには、一番色々とやってくれたのだろう。
後でお礼を言わなくちゃ。
「アーク様、並びにコセルシア様!!」
へぇ〜、同姓同名だ……。
僕達は期待を込めて振り返る。
そして恐る恐る元に戻す。
……おかしい、僕達以外にステージ中央には誰も居ない。
正直者ならずの都会人にしか見えない主催でも居るのかな?
そう思っていると、ロメスティオがステージ中央へ、僕達の方へやって来た。
もしやロメスティオこそが凄い人、影の実力者!
「アーク様、こちらを」
小声で恭しく何かを三宝に乗せ捧げて来るロメスティオ。
そこには、マイクが在った……。
誰も使ってなかったのに、何故こんな時だけ判別出来てしまう物を持って来るのだろう……。
『マスター、もう、諦めましょう……。よくよく考えたら、主催者など、私達以外に存在しません』
そう心の声で促してくるコアさん。
『そうだね……』
もう僕には、そう言う事しか出来なかった。
《用語解説》
・アフロディーテの黄金
アフロディーテがパリスに提示した力を与える黄金林檎。
食せば世界一の美女もしくは美男と恋仲になれるだけの力が手に入る。迷信では無い。
恋仲になる対照は別に世界一の美しさを持つ者でなくても良い。好きな相手と恋仲になれるチートアイテム。
原理としては、好きな相手の理想の相手に食した者を変貌させる。外見は勿論、世界一の頭脳を理想とするならば叡智を与え、世界一の力を理想とするならば世界一の力を与えると言うとんでもない効果を持つ。
勿論、限度はあるが、通常の世界内においてはほぼ確実に願いが叶得る事が可能。
アークが新たに創造したものでは無く、伝承から自然発生したもの。滅多に生じないが、いくつかの発見例が存在する。効果は凄まじいが、パリスの黄金林檎の中では最も発見例が有る。
・ヘラの黄金林檎
ヘラがパリスに提示した力を与える黄金林檎。
食せば世界を支配する権力が手に入る力を得る。迷信では無い。
具体的には世界を支配するだけの力、世界そのものを動かす絶対的な権限、“権能”が手に入る。支配領域において天候も地形も好きに操る事が可能。人の国家を直接支配する力は与えられないが、支配に足るだけの、人の手には過剰な力が与えられる。
そんな人としての権力よりも神としての権力を与えられる黄金林檎。完全に力が定着すると神へと転じる可能性が高いチートアイテム。世界を新たに創る力にすら成り得る。
アークが新たに創造したものでは無く、伝承から自然発生したもの。滅多に生じないが、いくつかの発見例が存在する。パリスの黄金林檎の中で最も観測例が少ない。生成には創世級のエネルギーが何かしらの形で収束する必要が有る。その為、世界最大の至宝として生み出される例が多い。観測例はその全てが神話へと発展している。
・アテナの黄金林檎
アテナがパリスに提示した力を与える黄金林檎。
食せば戦場での勝利が手に入る力を得る。迷信では無い。
食せば力、もしくは叡智が与えられる。シンプルに食した者の存在を上げる効力を持つ。三つの中で最も汎用性が高い。
あやふやな効力だが、そこらの世界では勝利が約束されるどころかほぼ不敗へと至るチートアイテム。
通常、黄金林檎と呼ばれるもの全般も似たような力を持つが、それ等との違いは知恵も与える所に有る。
アークが新たに創造したものでは無く、伝承から自然発生したもの。滅多に生じないが、いくつかの発見例が存在する。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今章は歌が出て来る予定なので、次話はいつも以上に時間がかかるかも知れませんが、お待ちいただければ幸いです。
そして改めまして、今年も本作をよろしくお願いいたします。
20220222追伸、次は二百年後のゾロ目記念として【モブ紹介】に完全縁結びのモブを追加しました。ただのモブの紹介ですが、お読み頂ければ幸いです。大急ぎで書いたので後日修正すると思います。




