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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第4章〈アーク主催イベント〉あるいは〈縁結びイベント〉

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第七十四話 早朝の喧騒あるいは音楽イベント

投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。大変お待たせ致しました。


今話から新章開幕です。

章題はまだ仮のものですが、アークがイベントを主催する内容となる予定です。

 



 今日も新たな日に空が染まる。

 入学式から一日、既に賑やかだった学園も、まだ日が地平線の彼方に隠れるこの時間帯は静か。


「待てぇーーっ!! 裸体美術部ぅ!! 観念して牢獄に戻れぇ!!」


 いや、そんな事も無かった……。


「タダ飯食らって、夜番の看守姉さんも帰った後の監獄に用なんか無ぇんだよ!」


 早朝から元気に脱獄劇と大捕物。

 逃げているのは裸体美術部の先輩達で、追いかけているのは衛兵科の先輩達だ。


 あのダンジョン調査から割と大人しく捕まっていたなって思っていたら、そんな理由だったんだ……。


「牢獄を何だと思ってるんだぁ!!」

「「特殊プレイ部屋」」

「クソがぁ!!」

「治安を守ると謳っている奴がそんな汚い言葉使って良いのか?」

「まあ、無駄な事は諦めて大人しく寝てるんだな! “リア充爆…”、お前達、リア充じゃないな。どうだ、いっその事俺達の部活に入部するか?」

「「クッソぉぉーー!!」」


 衛兵科の人達が必死に追いかける反面、裸体美術部の先輩達は随分と余裕だ。

 一応脱獄劇なのに慌てた様子が無い。

 心臓に豪毛が生えてそうな精神力を有していると言うのもあるだろうが、何というか逃げ慣れている。


 衛兵科の人達の敗北は残念ながら近そうだ。


 追討ちををかけるように空から裸体美術部の先輩達に迎えがやって来る。


 異世界の乗り物ヘリコプター、にしてはプロペラの多い航空機に乗っているのはセントニコラさんを始めとした裸体美術部の先輩達のお仲間だ。


 縄梯子をセントニコラさんが蹴落としイタル先輩達を待つ。


「早く此方へ!!」

「逸れないで! 纏まって来て!」

「真っ直ぐ、そのまま真っ直ぐ!!」


 他の人達は口々に指示を出す形でサポート。


「信頼出来る仲間って良いものだね」

「ええ、逃げている原因はあの方達の自業自得ではありますが、そのような部分も認め自分達に害が及ぶのも恐れず助けに来る、これこそが仲間と言うものですね」


 早朝から思いも寄らない良い光景が見れたものだ。

 逃亡犯とその仲間と言う部分が不謹慎かも知れないが、それでもその関係性は美しい。

 見習いたい、いつか築きたい関係だ。


 先輩達は縄梯子の近くまで辿り着く。


「今です!」


 それを見たセントニコラさんは合図。


「「「はい!」」」


 一斉に握ったボタンを押す。


 そして大爆発。

 ドガァァーンッッ!!とイタル先輩達は爆炎に呑み込まれる。


「「…………あれ?」」


 おかしい、まるで美しい信頼出来る仲間であるセントニコラさん達がイタル先輩達を爆破した様に見えた。


「第一から第四十四地雷、起爆確認!」

「正常に機能しました!」

「遅延術式も狂い無し!」

「継続地雷、継続術式も正常通り!」

「第四十五から第百三までの地雷及び遅延術式を準備! 戦略衛星ニビルの第一主砲チャージ開始! 警戒を怠るな!」

「「「了解!!」」」


 ……セントニコラさん達は裸体美術部を助けに来たのでは無く、始末しに来ていたらしい……。

 いや、きっと気のせいだ。衛兵科の先輩達を足留めしようとして間違ってイタル先輩達を巻き込んでしまったのだ。きっと、多分、おそらくは……。


「標敵、動き出しました! 地雷の効果、ありません!」

「くっ、やはり足留め程度の効果しかありませんか」


 うん、やはり希望は尽きていない。

 地雷の効果を全く受けていないのはそもそも被爆していない衛兵科の人達だ。そして足留めしなければならない対象も衛兵科。


「こ、コアさん、き、きっと間違えてイタル先輩達を巻き込んじゃっただけだよね?」

「え、ええ、き、きっと巻き込んでしまっただけです。寧ろ信頼関係の証かも知れません。彼等なら地雷にもびくともしないと、だから衛兵科の皆さんの足留めに地雷が使える。きっとそう考えたのでしょう。きっと、おそらくは」


 コアさんも先輩達を信じたいらしい。

 意見は一致した。

 やはり仲間を抹殺しに来る人が居るはずが―――。


「第四十五から第百三までの地雷及び遅延術式を発動! 隔絶防壁第一層から十二層まで全て展開! 防壁の展開が完了し次第、戦略衛星ニビル第一主砲発射出来るよう準備! 同時に次弾装填を開始せよ!」


 爆風に呑み込まれる裸体美術部の先輩達。

 それを覆う様に地面から迫り上がる金属質な分厚い壁。


 ……ちょ、直撃してるけどきっと何かの間違い―――。


「ニビルゼロ点補正中! 軌道修正完了! 顔認証追尾システム起動! 標敵イタル=ゴトウ! ロック完了!」

「まもなく隔絶防壁展開完了します!」


 ……うん、はっきり誰を狙っているのか言っている。


「統合幕僚委員会議より連絡! 破滅的戦略兵器使用の許可が下りました!」

「深層隔絶層ムーンリフレクター起動! 戦略衛星ニビル第一主砲発射!」


 一直線に魔法陣が咲き乱れ、空から光が落ちて来る。

 地平線の彼方のその先からも見えるであろう莫大なエネルギーを持ったの光は、一直線にイタル先輩の元へ。

 そして今度は莫大な光が空へと昇る。

 光の後から大地は揺れ、空気は震え、爆炎に呑み込まれて行く。


 防護壁のおかげで主な被害は空へと向うが、それでも周囲は融け地形が変わっていた。


「……殺意しか無かったね、コアさん」

「……殺意しか有りませんでしたね」


 もう、認めるしか無い。

 殺意が高過ぎる。

 しかも多分、セントニコラさん達だけによるものでは無い。


「敢えて触れなかったけど、戦略衛星とか言っていたよね? 実際その名に恥じない兵器だったし」

「ええ、統合幕僚委員会議の許可がどうとも言っていました。統合幕僚委員と言う方々は存じ上げませんが、会議自体は統合幕僚会議と同じ役割のものでしょう。つまり学園政府から許可が下りた、大規模に協力していると考えても良いかも知れません」

「地雷にしても防護壁にしても、事前に設置していたみたいだしね」

「あれ程までに大掛かりな罠は、流石に誰にも知られずに設置する事など出来ませんし、それを治安を守る衛兵科の方々や生徒会の方々が見逃す筈ありません。少なくとも黙認はしていそうですね」


 尚、戦略兵器に狙い撃ちされた裸体美術部の先輩達はピンピンしている。

 何故か綺麗に服だけ消失しているが、煤けている程度だ。

 直撃したのが一番頑丈なイタル先輩だった事もあり、ダメージ自体は何故か皆無に等しい。


「標敵、健在です!」

「戦略衛星ニビル、リミッター解除! オーバーチャージ! 追尾機能を残して全システムダウン! 全てのリソースを主砲に回せ!」

「第ニから第十二主砲、エネルギー充填率100%、120%、150%、200%! 急激に上昇しています!」

「ニビルとの通信が乱れ初めました! そろそろ限界です!」

「エネルギー充填率500%を突破!」

「システムダウンの影響で間もなく大気圏に突入します!」

「分解直前まで近付け!」

「大気圏突入!」

「エネルギー充填率1000%を突破! もう限界です!」

「戦略衛星ニビル、全主砲一斉開放!」


 小さな太陽の如く白熱している戦略衛星兵器から、魔法陣が無数に展開され、十二の光線が地を染め穿いた。

 白き純粋無垢なエネルギー砲、黒き空間をも歪める重力砲、同じく空間を捻じ曲げる次元砲。

 都市どころか国、いや大陸をも一発で滅ぼせるで有ろう暴威がたった数人の個人に襲いかかる。

 ここがアンミール学園で無ければ比喩抜きで星を貫いていた一撃だ。


「あばばばばばばっ!!」


 しかし、それでも標敵にされているイタル先輩は元気に悲鳴をあげていた。

 また、イタル先輩が盾になってた事により、他の先輩達も何故か悲鳴をあげる程度でピンピンしている。

 跡形も無く服は消失していたが、それだけだ。


 イタル先輩達がどうにかなる前に限界を越えた戦略衛星が空中分解し爆発する。


「標敵健在! 誰一人消せていません!」

「くっ、今回も作戦失敗です」

「致し方ありません。作戦行動中止! 対裸体美術部協力協定に従い、これより特別監視行動へと移行する!」

「「了解!」」


 セントニコラさん達の作戦は失敗したらしい。

 流石に戦略衛星兵器を超える戦力は用意していないようだ。これ以上打つ手が無いらしい。


 しかし、作戦が失敗したにしてはそこまで悔しそうでは無い。正確には悔しそうでもあるが、どちらかと言うとやっぱりかと言う感情が強いように思える。

 想定済み、と言うよりも日常茶飯事のようだ。


 セントニコラさんは爆炎によって殆ど燃え尽きた縄梯子の代わりに新たな梯子を投げ落とす。


 対して攻撃されたのにも関わらず、当たり前のように縄梯子を登るイタル先輩達。


「おう、助かったぜ女神様!」

「信じてたぜ!」


 まるで何事も無かったかのように、礼まで述べて梯子を登る。

 攻撃されたのに気が付かないと言うよりは、こちらも日常が如く慣れを感じさせる。


 そしてヘリコプター的な乗り物は発進。


 衛兵科の先輩達も追い駆けない。

 打つ手が無いと諦めるようだ。


 この転換の速さもセントニコラさん達と協定を結んでいた事を窺わせる。何というか、セントニコラさん達自身が作戦の内に含まれていたような気がする。

 視れば、がっつりと衛兵科や風紀委員一同とセントニコラさん達“裸体美術部から人類の品性を守る会”は手を組んでいた。


「……ある意味、イタル先輩達とセントニコラさん達は凄い信頼関係を育んでいるのかな? あんな事の後でも一緒にいるし?」

「……そうかも知れませんね。もう、そう言う事にしておきましょう」

「そうだね」


 深い信頼関係が有ったとしても、戦略兵器を持ち出して来たりと傍迷惑だなと思いつつ、僕達は先輩達を見送った。



「何だかんだ、きっかけさえ有ればイタル先輩とセントニコラさんとか、付き合いそうなのにね?」


 完全にイタル先輩達が去った後、僕はふと思った事をコアさんに言った。


「確かに、縁結びは必要無いくらいに濃すぎる程の縁は有りそうですね。と言うよりもどう視ても有りますね。裸体美術部の方々には深い好意も有るようですし」

「だよね。どちらも素晴らしい人達だし、是非とも子供を生んで欲しいんだけど、どうすれば良いのかな?」


 あと少しで結ばれる様ならば、背中を押さないと言う選択肢は存在しない。

 それが英雄たる素質を持つ、と言うよりも英雄であると言っても良いイタル先輩達が相手ならば尚の事だ。


「意識自体は良くも悪くも強く互いに向いている様に思えます。なので意識させると言うよりも、裸体美術部の方々に格好良い姿を見せる、強い所を見せると言う様に、相手が惚れる長所を発揮していただくのが良いのでは?」

「裸体美術部の先輩達はもう相手に惚れている様なものだし、確かにイタル先輩達の良い所を強く引き出してセントニコラさん達に惚れてもらえば上手く行きそうだね」


 そうと決まれば後はその方法だ。


「どうせなら新年度の新入生歓迎イベントに便乗して何か出来ないかな?」

「それはイベントを開くと言う事ですか?」

「うん、この時期なら普段は出来ない大規模なものでも実行出来ると思うんだよね」

「確かに、それに便乗しない手はありませんね」


 こうしてイベントを開く方針で決まった。

 イベントを開くとなると大変そうではあるが、頼まなくてもやると言えばアンミールお婆ちゃん達が張り切って手伝ってくれるだろう。

 どんなイベントであれ問題なく開催出来る。


「やっぱりイベントとなると、料理対決かな? 勿論、僕が審査員をやるよ。食べ物の審査なら自信が有るからね。料理を食べれて縁結びも出来る。正に一石二鳥だね」

「……早くも欲に走りましたね? 数あるイベントの中でも恋愛に向かないイベントだと思いますよ?」

「そう? 食べ物で釣れない?」

「釣れません。と言うか食べ物で釣るよりも、もっと家庭的な所をアピールするとか他の要素が有るでしょう」

「じゃあそれで」

「それでも料理対決の時点で恋愛向けではありません」


 駄目か。完璧な作戦だと思ったんだけど。

 何より例え腕が拙かったとしても、全身全霊で作り上げた心の籠もった料理が食べれる。


「う〜ん、どうしたら美味しい料理が僕の口に」

「光の速さで目的が変わっていますよ? 恋愛イベントを考えましょう。恋愛イベントを。裸体美術部の方々を魅せるイベントを考えましょう」


 おっと、確かに目的が何時の間にか変わってしまっていた。

 軌道修正軌道修正。


「魅せるイベントなら、そのまま魅力を評価するミス・コンテストでもやってみる? 異世界だと、色々な学校でやっているみたいだよ?」

「魅せると言うよりも魅力をアピールするイベントでは? 目的自体は先輩方の魅力を知ってもらう事ですが、新たな一面を知らせる、魅せると言う事が今回は大切に思えます」

「確かに、ミス・コンテストと恋愛って結びつくイメージが無いね。自分の魅力を自分から売り込むのはちょっと違うのかな? そもそも、魅力は他者が判断するものだしね」


 それに、自分の魅力アピールなら常日頃から裸体美術部の先輩達はやっていそうだ。


 それでも今の関係と言う事は、やっても効果が無さそうだ。


「やはり、新たな一面と言うものが、先輩方の関係の改善には効果的だと思います。そこで、音楽はどうでしょう? 歌唱に演奏、どちらも上手ければ大勢の人々を魅了しファンとする事が可能です」

「ああ音楽! 良いね! 熱狂的な信者(ファン)が生まれる事もあるくらいだし、多少上手い程度でも新たな魅力で意識させる事も出来るかも」

「ええ、元より音楽とは気持ちを伝えるもの。同調させるもの。真摯に気持ちを籠めればきっと伝わる事でしょう。裸体美術部の方々に気持ちがある以上、きっと成功します」

「音楽で決まりだね」


 となると後はイベントの方式だ。


「どんな音楽イベントが良いかな? シンプルに誰が一番歌が上手いか競ってもらう?」

「点数を付けるのも良いですが、それでは参加者が歌に自信のある方に限定されてしまうかも知れません。自由に歌う場を設ける程度にしておいては?」

「う〜ん、でもそれだと少し熱が足りない様な気がするんだよね。イベント感が足りないと言うか」

「ではまず、既に行われている音楽イベントを視て参考にいたしましょう」

「そうだね。流石にこの時間帯はやっていないから、過去のイベントを視てみようか」



 この前はあまり意識をしていなかったが、音楽イベント自体は入学式の前後で複数行われていた。


 おっ、ちょうど裸体美術部の先輩が参加している音楽イベントがあった。

 参加と言うよりも何故か開催していたが、参考には出来るだろう。


『それではこれより、第5回ナルサス様賛美歌コンテストを開催する!!』


 うん、さっそく参考にならなそうな気配がするが一応は視てみる。


 尚、主催者、と言うよりもイベント運営側はナルサス先輩一人。

 自分を讃えさせる歌を要求する存在なんて、神様王様以外にもいたんだね……。

 と言うか第5回って、過去4回も開催した事が有るんだ……。


『賛美歌が採用された勝者には賞金としてなんと金貨百枚!! 優勝を逃しても各賞景品が用意されている!! さあ、挑戦者達よ!! 優勝目指し俺を賛美しろ!!』


 俺を賛美しろと堂々明言する顕示欲、神様王様でも中々居ない強者だ。


「「「おおぉっっーーーー!!!!」」」


 そして驚く事に参加者がそこそこ居た。

 しかもやる気が十分。


 視れば何処かで視た覚えの有る人々が混ざっている。

 ダンジョン調査の依頼を受けてくれた先輩達だ。

 賞金目当てらしい。


『では最初の挑戦者、エストロ公国の皆さんで、【世界を照らす美の輝き】』


 ステージの幕が上がると、そこに立っていたのは全裸の貴公子達、ハービット先輩率いるエストロ公国の皆さん。


 例外無く借金相手の露出教に服を差し押さえられているらしい。

 それでも貴公子だと判るとは、先輩達の日々の努力が、腐らぬ気高き心が滲んでいる。

 そして残念ながら、露出教が勧誘するのも解ってしまう。こんなにも全裸なのに、それも恥ずかしいのを押し殺して堂々としいる存在、露出教が見逃す筈が無い。


 そんな彼らは合唱スタイルで挑むようだ。


「♪〜」「♪〜」「♪〜」

「「♪〜」」


 いや違った。幾人かはボイスパーカッションで参加している。

 演奏する楽器が用意出来なかったから口で楽器を再現するらしい。

 しかも上手い。オーケストラの域まで再現出来ている。とんでも無く器用だ。


 恐らく、借金返済の為に日々様々なバイトを熟している努力の賜物だろう。


「美貌は大地を照らす〜♪」

「東から西へ不自由な太陽〜♪」

「自由な貴方は西から東へ縦横無尽〜♪」

「貴方が居ればそこが昼〜♪」

「真の太陽、太陽の君〜♪」

水の乙女(クリュティエ)も貴方を追う〜♪」


 歌詞や曲は兎も角、それを高度な合唱技術と演奏技術(?)で誤魔化している。

 よく聞かなければ素晴らしい出来栄えだ。

 審査員のナルサス先輩もうんうんと頷いている。


 そして何だかんだ大盛況で合唱を終えた。

 俺を賛美せよと言う無茶苦茶な音楽イベントでも、割と成立するらしい。


 もう少し視てみよう。


『さて、続いての挑戦者は、ゲッ……、アルバネシア王国からお越しの、ドリアス第一王女……。曲は【殺したい程ア・イ・シ・テ・ル】、ヒッッ!!』


 どうやら次に歌う人はナルサス先輩の知り合いらしい。

 何があったのか、ナルサス先輩は一瞬で顔色を青くさせ怯え始めた。

 確かに曲名が少し怪しい。

 と言うか、ナルサス先輩の事が好きな人がいたんだ。何でナルサス先輩はすぐにくっつかないのだろうか? 裸体美術部としてあんなに求めていたのに。


「聞いてくださいまし! ナルサス様! 私のアイを! それではお聞きあそばせ。【殺したい程ア・イ・シ・テ・ル】」


 指をパチンと鳴らすと伴奏が始まる。

 そして歌が始まった。


「世界を揺るがすその美貌♪ 天から降りし神の奇跡♪

 この世の宝♪ 救世の光♪ 我らが勇者♪

 その光は世界を照らし♪ 闇を切り裂く♪」


 おっ、何か怪しい気配がしていたが普通に気持ちの籠もった歌だ。


「私の勇者♪

 嗚呼、貴方は永遠の勇者♪ 永遠の救世主♪

 その美はこの世の♪ 果まで有るべき♪

 嗚呼、神の奇跡は♪ 奇跡へと消える♪

 偉大も矮小も♪ 時に流れる♪」


 栄光も時と共に去る。

 諸行無常を歌っているようだ。


「剥製にしますわ♪」


 へ?


「貴方の美貌は♪ 永遠に遺す♪

 剥製にしますわ♪

 貴方の栄光は♪ 永遠のもの♪

 ア・イ・シ・テ・ル♪

 血の一滴までも♪ 遺してみせる♪

 ア・イ・シ・テ・ル♪

 例え二人が倒れても♪ 剥ぎ取ってみせる♪

 ア・イ・シ・テ・ルから♪」


 ……何故、ドリアスさんから愛を向けられているのに、ナルサス先輩がモテようとしているのかよく解った。

 それに、色々な愛の形がある事も……。


 しかし、この音楽イベントで参考になるものも確かにあった。



「コアさん、どの程度歌を評価するかは兎も角、賞金とか賞品を用意すれば本気で歌いに来る人はいるみたいだね」

「確かに、あの様な個人の賛美歌を求める大会も何故か成立していましたし、効果は絶大な様ですね。これなら、順位や評価を決めるイベントでも、歌唱能力に依らず広く多くの参加者を集められそうです」


 ナルサス先輩の賛美歌でもイベントが成立するのだから、もはや賞金さえ用意すれば内容をどんなものにしても縁結びとしては成功しそうだ。

 イベント自体を成功させる事は、必ずしも必要では無いのだから。


「人集めは問題無くなったし、肝心のイベント内容を決めようか?」

「そのイベント内容についてですが、この際、思い付いたものを全てやってみるのはどうでしょう? 人が集められる以上、イベントは幾ら大規模でも良い訳ですし、それなら多くの方式を採用するのも手かと」


 確かに、やる気がある人が多く集まってしまえば、イベント内容自体に工夫する必要性は薄くなる。

 問題はそれだけの人を、お金に困っていない人も集める賞品だが、その辺りはアンミールお婆ちゃんに相談すれば頼まなくても用意してくれるだろう。

 ならばより良い縁結びの為、様々な試行錯誤をするに限る。


「そうだね。じゃあ色々な部門を設けてみようか。歌唱能力を評価する部門は勿論、自作の歌を歌ってもらって評価する部門、何なら作詞作曲だけの部門とか」

「では、音楽のジャンルも分けてみましょう。オペラからオーケストラ、ロックからアイドルソングなるものも評価してみましょう」

「どうせなら単純に音楽だけじゃなくて、アイドルとかミュージカルの表現力も見せてもらおうか」

「今回は通常の縁結びとしても上手く行きそうですね」

「そうだね。じゃあ早速準備しようか。まだ早朝だから皆が起きる前に準備出来るかも」


 まずはアンミールお婆ちゃんに相談だ。

 やる事は決まっていてもやり方は残念ながら知らない。賞品を用意したとしても、流石にビールケースのお立ち台一つじゃ成立しないだろう。


 善は急げと転移で即座にアンミールお婆ちゃんの元へ移動する。


「アーク、お帰りなさい。良いものは見れましたか?」

「うん、色々なものを見れたよ。それでね、音楽イベントを開催してみたくなったんだけど、どうすれば良いかな?」


 笑顔で出迎えてくれたアンミールお婆ちゃんに、早速僕はイベントについて聞く。

 単刀直入だったかも知れないが、アンミールお婆ちゃん相手なら全く問題ない。


「そう言うと思って準備しておきましたよ」


 何故ならアンミール学園はアンミールお婆ちゃん自身。

 当然、アンミール学園内で会話している内容は、アンミールお婆ちゃんも聞いているからだ。

 多分、アンミール学園内じゃ無くても聞いているのだろうが……。


 兎も角、全て知っているアンミールお婆ちゃんは待っていましたと満面の笑顔だ。

 僕に頼られるのが相当嬉しいらしい。


「アークに連なる音楽家達は勿論、思い付く限りの音楽家に召集をかけました。会場も建築家を召集して建立に当たっています」

「「…………」」


 アンミールお婆ちゃんの笑顔を見ると僕も嬉しくなるが、これは素直に喜べない。

 流石に、いやどう考えてもやり過ぎだと思う。


 いや、主なのは僕の親族だ。

 そんなに大事にはなっていない筈。


 恐る恐る現場を視る。


「収容人数は百万人の予定だ! テキパキ動け! この調子じゃ朝までに間に合わんぞ!」

「装飾に使う貴金属はまだか! 全然足りない!」

「建築ギルド第一陣三万人到着しました! 第二陣十万人は十五分後に到着予定です!」

「最上級音響石八千トン確保出来ました! 残りの予備含め四万二千トンは商業ギルドと冒険者ギルドが総力を挙げて収集中!」

「輝姫石、既に四十の世界で埋蔵量全て採取しましたが、必要量にはまだ及びません!」


 ………………。


「中止!」

「え?」

「え?じゃないよえじゃ! どう考えてもやり過ぎ! と言うか百万人収容のステージなんかプロの歌手でも緊張して歌えないよ! 規模が大き過ぎ! と言うかどこをどうやったらステージの為に資源を掘り尽くす事になるの!?」

「アークの為ならばこれくらいは当然なのです」

「一体どんな理論!?」


 百万人収容可能なステージの時点で、国家事業でも造られた事が、いや造られる事が無い規模のものだと思う。

 異世界でも最大規模で十万人収容可能な程度だと言う。


 そもそも大きければ良いと言う問題でも無い。

 そこまで巨大化させたら、端の席からは豆の様な歌手しか見えないだろう。

 いや、ステータスが高ければ以外と普通にこの規模でも?


「ちょっ、マスター! 悩み始めないで下さい! 絶対に使いこなせませんから! 精々一万人規模で十分ですから!」

「コアさん、コアさんの感覚も狂って来ていると思うよ?」


 僕も確かに少し使えるかもと考えてしまったが、コアさんの言う一万人規模のステージでも過分だと思う。

 全校生徒を集めるのなら兎も角、学園レベルのステージでは、千人、いや五百人も集めれば良い方だろう。


 そもそも縁結び、その中を進展させるには格好良い姿を見せればいいだけだから、最低限切磋琢磨し気持ちの籠もった歌を歌い、縁結び相手に見てもらえればそれで条件は成立する。

 より良くする為には観客も必要かも知れないが、今回の観客の役割はあくまでも歌手の力を引き出す事。必要な条件と言う訳ではない。

 寧ろ素人の先輩達相手には、大勢の観客は緊張させる要因になってしまうだろう。逆効果だ。観客はそこまで多くなくて良い。


「まあ、ここまでステージを造っちゃったら放置する方が勿体無いから完成させても良いけど、使わないからね?」

「仕方ありません。百万人ステージは取り敢えず完成させ、一億人ステージ計画は中止する事とします。ですが、気が向いたら何時でも言ってくださいね?」

「「………………」」


 ……一億人ステージ、聞かなかった事にしよう。


「何を頼んでも大袈裟な事になりそうだから、まずは自分達でやってみる事にするよ」

「二人で大丈夫ですか?」


 アンミールお婆ちゃんは尚も未練が有るらしい。

 正直、二人でやるには不安が残るが、アンミールお婆ちゃん達に頼るのはもっと不安だ。

 少し手伝って貰う筈が、何時の間にか学園規模になっていても何ら不思議では無い。

 しかし二人で開催出来るかと問われると、やはり難しいのも確か。


「「アンミール様、我々に御任せを」」


 どうしたものかと考えていると、僕達の眷属、サカキとナギが現れた。

 そうだ、僕達には眷属がいる。


「僕達には眷属も居るし、大丈夫だよ」

「そうですね。解りました。ですが、何か有ればすぐに頼るのですよ?」

「解ったよアンミールお婆ちゃん、ありがとう」

「開催場所等の細かい打ち合わせは我々がしておきますので」

「御双主様は御望みの方を御下命下さい」


 おお、頼りになる眷属だ。

 僕達の願い通りのイベントを作ってくれるなんて。


「じゃあ僕達は、イベント内容を更に考えようか」

「そうしましょう」


 今日も良い一日になりそうだ。





 《用語解説》

 ・戦略衛星ニビル

 破滅的戦略衛星軌道兵器。“裸体美術部から人類の品性を守る会”がアルバチオン帝国から接収したアルバチオン帝国の最終兵器。


 アルバチオン帝国は他世界侵攻まてま目論んでいた悪徳巨大帝国であったが、色々とあって裸体美術部と巻き込まれた“裸体美術部から人類の品性を守る会”にボロ雑巾にされた。

 戦略衛星ニビルはそんな帝国からの略奪品…頂き物の一つ。


 因みに、高性能な兵器等を予算削減の為にこうして入手するのは“裸体美術部から人類の品性を守る会”では良くある事である。

 ニビルはついでの産物だが、自分達から邪悪な組織を潰して略奪…悪用されないように確保する事も多い。

 その結果、多くの世界が買い物に行くような頻度と気軽さで救われている。


 戦略衛星ニビルは星を穿く超兵器であり、その高威力ゆえ自分も他者も滅ぼす敗戦時の最終兵器である。


 龍玉炉と言う龍脈一つに相当するエネルギーを生み出す魔力炉が十三機搭載されており、一大陸分の魔力を担えるスペックを持つ。

 そしてそのエネルギーを運用可能な砲身及び術式が備え付けられており、更に制御系には高度な魔導計算機が採用されており、照準補正機能や追尾機能は勿論、顔認証追尾システムまで有している。

 馬程度の速度で対象が逃げても外すことは無い。


 ただ、破滅的大量破壊兵器しか積んでおらず、最終局面でしか使えないと言う欠点がある。


 断じて人に向けるものでは無い。




 ・音響石

 音を高効率で反響させる鉱石。

 特殊な魔法的性質を持つ鉱石で、石の面が音を反響させるのでは無く、石を中心とした領域内に音を反響させる特殊な鉱石。

 品質によってその効果範囲及び音の響きは様々。錬金術等による加工によっても様々な性質を示す材料に加工できる。

 金とは言わないまでも銀よりは希少な鉱物だが、音楽が根深く浸透している世界以外では需要が無く、ただの珍しい石として取引されている。




 ・輝姫石

 美しい光を発する鉱石。

 加工せずとも自然状態で常に光を発している魔法宝石の中でも特に美しい光を放つ宝石で、非常に希少で高価。

 美しい以外に魔力を加えるとその分だけ更に発光すると言う性質しか無いが、その美しさは多くの人々を魅了し非常に重宝されて来た。

 成分や分類的には同じ鉱石は比較的多く存在しているのだが、その中でも特に美しい物のみ輝姫石と呼ばれる為に非常に希少な宝石であり、世界によっては数えられる程しか無い事も多々有る。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話は年内の投稿を目指したいと思います。


大晦日追伸

年内投稿は間に合いませんでした。

申し訳ありません。


そして今年一年、本当にありがとうございました。

来年も何卒、よろしくお願い致します。

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