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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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裏あるいは表の四十八話 完全縁結びの謎あるいは対アーク特級機密後編

後編です。ここからが本当の対アーク特級機密となります。

セリフだけにしてかなりボヤかしてはいますが、残酷な描写に値するハードな内容が多いです。

苦手な方はご注意を。

 


 ……誰かが、語りかけている気がする……。


 ぼんやりとだが、一度意識が動くと、状況も伝わってきた。

 断片的に意識の声が、意思の光景が、送られてくる。


「やっと、見つけた、アルスィフィルの、魂の欠片」


 少女が、泣いていた。

 その周りにいる人々も泣いている。

 悲しみは感じられない。

 有るのは安堵と喜び。


 何に安堵しているのだろうか?

 彼女達はボロボロだ。

 衣服や装備には破れ血に染まっている。

 中には血が止まっていない者もいる。

 気を抜ける状況でも、喜べる状況でもないように感じられる。


 彼女達の視線は、彼女の手の中にあった。


 そこにあったのは微かな光の宿る水晶の欠片。

 不思議と、それが自分であると感じる。


 自分の事も、彼女達の事も、思い出せそうで思い出せない。

 今の自分には、何かが欠けている。


 そんな事を思いながら、自分の意識はそこで眠りについた。





 不思議な感覚だ。


 別の誰かが、俺の中に入って来る。


 しかし、俺自身、自分が誰なのか分からない。


 記憶は有る。

 しかし情報があるだけ。


 記憶と言う軌跡を辿っても、それが自分であると言う認識が出来ない。

 まるでただ本を読んでいるようだ。


 しかし入って来た別の誰かが、自分でないと言う事だけはハッキリと理解出来た。


 そして入って来た彼女の、ケイティの感情と記憶が怒涛の勢いで押し寄せて来た。


 決意悔悟後悔使命感罪悪感。


「ごめんなさい、あなたの身体を借りるしか、方法は無かったの!!」


 彼女ケイティは、太陽神と人の間に生まれた半神。


 そんな彼女は激戦で全力を使い、受け継いだ神の力に肉体が耐えきれず霊体となってしまったらしい。

 そこで遺体ではあったが、修復していた俺の肉体、神の器に宿ったようだ。


 そうすれば彼女の魂と肉体が同化し、俺の復活が叶わなくなるかも知れない。

 それ以前に、続く戦いで肉体を修復不可能なまでに破壊してしまうかも知れない。


 だが、仲間を守る為に全力を発揮し、それでも勝てない相手に打ち勝ち仲間を守る為にこの選択をしたようだ。


 それを悔いる気持ちが、仲間を助けたいと言う気持ちが、そして俺を助けたいと言う気持ちがこれでもかと伝わって来る。


 俺は既に死んだ身。

 今を生きる自分達の事だけを考えれば良いのに。

 そもそも、彼女達が追い詰められているのも、俺達を救おうとしたかららしい。

 俺の中にいる彼女から、鮮明にその記憶が読み取れる。


 なんて事を……。


 彼女は、自分一人の事でも手一杯な筈なのに……。


 彼女の父親、太陽神は世界を支配しようとした夜の神と戦った。

 太陽神は夜の神を倒すも、相討ちとなり共に滅びた。

 世界は救われたように思えた。


 しかし、太陽神と共に太陽が失われた。

 夜の闇も共に失われたが、闇が無くとも太陽が無ければ地上に実りは訪れない。


 太陽を取り戻せるのは、太陽神の一人娘である彼女のみ。


 だが、それは出来なかった。

 彼女自身、強大な力は有している。

 世界を照らす炎の力を。

 しかし、照らすだけでは実りは与えられない。


 結果、彼女は幾つもの森林を燃し、砂漠を生み出してしまった。

 元々太陽無き枯れた森林、草原であったが紛う事なき大災害。

 その光景が、鮮明に記憶に残っている。


 幸いそこは太陽神の住まう最東の地。神の領域であり被害者はいなかったが、彼女は悔いた。

 森林や草原を燃やしてしまった事を。 

 何より人を救えなかった事を。

 そして自分の力不足を悔い嘆いた。


 彼女は、世界一つを背負い込んでいた。


 同時に、俺の肉体から彼女へ俺の記憶が流れてゆくのも感じる。


 それに彼女は静かに涙を流す。


 君と比べれば、俺には何も無いも同然なのに。



 ケイティは、漆黒の大穴より這い出し地を埋め尽くす魔物の群れに一人で立ち向かう。


「“愚かな太陽(パエトン)”!!」


 そして中心地で全ての力を解放する。

 彼女自身が太陽となる。

 強烈な炎、光は彼女諸共全てを焼き尽くさんと拡がる。

 天をも焦がす偉大なる炎は魔物をいとも簡単に焼き滅ぼし、漆黒の大穴をも滅ぼした。


 そこに彼女は倒れる。


 そして最後の力を振り絞って、俺の肉体から抜け出そうとする。


 それを俺は留めた。


「何で……?」


 そこで、彼女も意識を失うのであった。




「ぐっ……、これで魂の欠片は俺の中だ。魂の固定化が解けても消える事は無い」


 ……


 ……………


「これが、フィルさんの記憶、そんな! 私達をもう一度救う為に、力を解放するなんて!! これじゃ復活が!!」


 ……


 ……………


「私は、生きているの? 何で、死んだ筈じゃ? えっ、これはフィルさんの記憶? もしかして、私の魂の一部になって救ってくれたの? どうして、そんな……」


 ……


 ……………


 次々と記憶、別れた魂の記憶が蘇って来た。

 同時に、途中同一化していたクラスメイトの記憶までも浮かんで来る。


「どうして、俺の為なんかに!?」


 そして、幾人かはここに辿り着くまでに倒れていた。


 先に復活していたガルフが俺を宥める。


「ああ、気持ちは分かる。だが、俺達の死が完全なもので無かったように、あいつ等の魂も結晶化している。まだ、間に合う! 行こう!」


 俺達は冒険を続けた。





「おい、早くポーションを飲め! 唇を奪ったって、恨むなよ――ん」


 ……


 …………


 ……………………



「これが、ユージンの記憶、そんなだってアイツは! 何で私なんかを……」


 ……


 …………


 ……………………



「今まで、僕は何も出来なかった。そんな僕の腕一本で皆さんが救われるなら、本望です」

「待て、寄せ!」


 ……


 …………


 ……………………



「……サァフィー、お前は間違いなく聖女だ」

「……全ては打算の結果です。だから、そんな顔、しないで下さい……綺麗な顔が、台無しですよ…………」

「サァフィー!!」


 ……


 …………


 ……………………



「……戻って来なくても、良かったのですのに……私は、国を滅ぼした悪女ですわよ……」

「……いや、貴女だけが正しかっただけだ」

「……そんな事は、ありません……だから、私を置いて、先に行って、下さいませ……貴方が犠牲になる必要など……」

「俺だけじゃない、皆いる」

「……もう、皆様は、どこまでも英雄様なのですから……」


 ……


 …………


 ……………………



「サァフィーの居ない今、遺体の回復は……?」

「……俺の〈叡智眼〉によると、あの山脈の奥に古竜がいる。古竜の血を得られれば、再生のエリクサーも造れる筈だ」

「古竜……、いや、行こう」

「ええ、私を救ってくれたあの人の為にも」

「俺達を救ってくれたアイツの為にも」


 ……


 …………


 ……………………



「……これが、全てを一つに溶かし込む“原初の坩堝”……、これで魂と肉体を一つに戻せる……」

「……おい、本当に良いのか?」

「ああ……俺に解かせ。もう、何人かの魂の結晶化が解ける……俺もいつまで持つか分からない、皆には申し訳無いが、俺が、器に適任だ……」

「お前の事を聞いているんだ!? 別人の魂が混ざれば、自分じゃなくなるんだぞ!!」

「そんな事は、構わない……、後で、皆に、起きた俺に謝っておいてくれ」

「メルト!!」


 ……


 …………


 ……………………



「先に助けるのはエリュンだ!」

「いや、カオンよ!」

「“グランドクロス”!」

「“ダークネスバイト”!」


 ……


 …………


 ……………………



「犠牲になるのは俺だ!」

「いえ、僕です!」

「だから私です!」

「引かないと言うなら歯を食いしばれ!」

「こっちのセリフです!」

「少し眠ってもらいます!」


 ……


 …………


 ……………………



「これが、“分霊の祭壇”」

「古文書によると、そうなります。周りの壁画が描く内容からも、間違いないでしょう」

「どう、使えば良いんだ?」

「古文書によれば、『魂の混ざりし者、魂を知る者、両者祭壇に上がりて、魂を定義するべし』とあります」

「魂の定義?」

「途中で聞いた伝説によると、魂を辿り、混ざりし者の記憶を辿るようです。そこで知る者はその魂の所以を見届け、混ざりし者は思い出す。そんな内容だそうです」

「あやふやなものをハッキリさせ、他者が見届ける事で外界に固定する杭を打ち込む。そんなところか」

「ええ、おそらくは」

「行きましょう」

「行こう」


 ……


 …………


 ……………………



『誓おう、太陽に叛き、夜を以て臣民を守ると!』

「やめろ! そんな事をすれば、お前は!」

『その誓いを受け取ろう。汝は今を以て我が眷属、夜の眷属にして夜の王、ヴァンパイアだ』

『ぐぅああああっっ! こ、これで、民を守れる』


 ……


 …………


『バケモノを追い出せ!』

『魔物の異常発生は裏切り者の王のせいだ!』

『ディアナ! な、なんで、こんな、事に』

『……お兄様……私達は、間違って、いたのでしょうか……?』

『俺には、何も分からない……』

『そう、ですか……。でも、最期に、一つ、お願いします……。お兄様、生きて下さい……例え間違っていたとしても、誰が何と言おうと、生きて、下さい……』

『ディアナ!? ディアナーーー!!』


 ……


 …………


『何故だ!? 何故魔物が止まらない!? バケモノ姫と貴族共は始末した筈だぞ!? バケモノ王もあの傷で生きているはずが無い!! よせ!! 来るな!! ぐぁあああーーー!!』

『や、やめろ! ギャアアァァーーーー!!』

『ママ? ママはどこ? イヤァァーーー!! 誰か助け……?』

『無事か?』

『王様?』

『王よ! 南地区の解放が完了致しました!』

『付き合わせて悪いなバイゲル……。お前も妻を民に殺されたのに……』

『……いえ、王よ。妻も私も、民を救う為に吸血鬼になったのです。ここで民を見捨てたら、きっとあの世で妻に怒られます』


 ……


 …………


『バイゲル! バイゲルしかっりしろ! このナイフ、まさか民にヤラれたのか!?』

『……ええ、ですが民を恨まないで下さい……』

『俺が吸血鬼にしたせいで……』

『それは違います……吸血鬼になったおかげで、ここまで生きて、来られたのです……。私達も、民も、この力が無ければ、一度目の大侵攻で、皆、散っていたのです……。この国に生きる全ての者は、貴方様の、選択に助けられて、今がある……。それを、忘れないで下さい……』

『だが、俺が選ばなければ、お前達は人間でいられた! バケモノにならずに済んだ!』

『……確かに、この身はバケモノかも、知れません……。ですが、私も皆も、貴方様も、人を救ってきたでは、ありませんか……。誰一人、バケモノになど、なってはおりませんよ……。胸を張って下さい……貴方様は、英雄を生み……国を、民を……救った……のです…………』

「バイゲル……」


 ……


 …………


『無事か?』

『……王よ。王がいたわ! 皆早く来てーー!!』

「お前は、何度裏切られ、傷付いても、人を助けて来たんだな。でもそれで良いのか? 俺達を最後に助けて満足か? 本当にそれで良かったのか!?」

「そうよ! あなたの悲願は、達成していないじゃない! 人助けをしたい? 違うでしょ! あなたの本当の悲願は、誰も傷付かない世界を築く事でしょ! 早く戻って来なさいよ!」


 ……


 …………


 ……………………



「……すまない」

「……いえ、良いんです……。私じゃなくて、タリシャさんを、選んだ……それだけの……事です…………」

「……必ず蘇らす。その時は、俺を殺してくれ」


 ……


 …………


 ……………………



「……なんで私を罠に?」

「お前を、愛しているからだ」

「えっ? でも、だったら何で!?」

「こうでもしなければ君は止まらない。何度でも君は傷付いていく。それがもう、耐えられなかったんだ。身勝手なのは分かっている。俺を恨んで構わない。もし再会できたら罰も受けよう。だから頼む。ここで待っていてくれ」

「待って!」


 ……


 …………


 ……………………



「どうせ誰か一人が犠牲にならなければアイル、決闘だ! 勝った方がエリュンと付き合う!」

「それでかまいません!」

「二人とも、何を言っているの!? そんなこと止めて!」

「じゃあ、告白の返事を今、教えてくれ」

「……私は、二人共愛しているわ。それに、愛しているのは二人だけじゃ無い。馬鹿な女よ。一人を選べないなんて。私は、あなた達が惚れるような女でも、相応しい女でも無いわ。私に争う価値なんか無い。だから、止めて」

「いや、止められない」

「僕も同じです」

「何で!? 私があなた達を止める為に嘘をついたとでも思っているの? 本当の事よ! 私は、あなた達が望むような女じゃないわ!」

「エリュンさん、貴女の心が僕達以外にも向いている事なんて、とっくに知っています」

「だからこそ、お前を好きになったんだ!」

「例え何人に愛を向けていても、貴女のその愛は本物だ。生涯を添い遂げた夫婦とも、何も変わらない! だから貴女を愛おしく思った! 一生隣に居たいと思った!」

「愛の為に人を守り、愛の為に傷付くお前を好きになったんだ!」

「「だからお前(貴女)を手に入れる!」」


 ……


 …………


「がっ……」

「っ!? ユージンさん、今ワザと!」

「ふっ、流石に騙しきれなかったか……」

「もしかして、初めから!? 初めから自分が死ぬ気で!」

「ああ、そうだ……」

「じゃあ、私が好きって言うのは……」

「いや、それは本当だ……。俺は、お前を、愛している……」

「そんなの、ズルいです……愛する人の為に死ぬなんて、僕が、勝てる訳、ないじゃないですか……」

「いや、勝てるさ、アイル、お前は……俺が惚れた……男なんだから…………」



 ……


 …………


 ……………………



 ……………………


 …………


 ……




「やっとだ、やっと全員、揃った……」

「泣くな、俺まで……」

「も〜、本当に泣かないでよ!」

「号泣しているケイティさんには言われたくないです」

「でも、本当に良かった!」


 俺達の旅は終わった。


 幾度も倒れ。

 幾度も救い。

 幾度も蘇った俺達の旅は。


 再び全員と出逢う為の旅は、遂に成し遂げられた。


 何度身を投げ出したか分からない。

 守れるなら、それで良いと思った。

 自分以外の誰かを死なせる訳にはいかないと思った。

 しかし何時しか、誰かが再び出逢わせてくれると信じて、身を投げ出すようになった。

 必ず見捨てる事は無いと。


 何度彼等を知ったか分からない。

 極限状態で、全てを曝け出した。自分の知らない自分までも、きっと彼等は知り、自分も知ったのだろう。

 彼等の記憶すら、彼等よりも鮮明かも知れない。幾度も魂と対話し、時には自分の一部となった。

 何を想っていたのかも、既に言葉は要らなくなっている。


 彼等は、自分に無くてはならない、欠けてはならない大切な一部だ。

 例え何度死が分かとうとしても、手放すつもりは無い。

 きっと、いや、皆も同じ気持ちだ。



『智を示せ』


 感動の再会を果たした所で、いつぞや見た天使像が現れた。


「まだ続いていたのか……」

「そして、今、来たということは、あの時の『仁を示せ』はクリアしたと言う事ですね」

「仁、人の在り方、皆が助け合ったのが正解だったって事?」

「それで次はこの問題か」

「智を示せって言われても、問題を出された訳でも無いし、どうやって示せば」


 実のところ、試練の存在自体忘れかけていたが、試練を出されたからには答えなければならない。

 間違えば延々と攻撃を浴びせかけられるし、何より乗り越えた先にケイティの求める太陽石がある。

 元々ケイティの為に得る筈だったが、何度もケイティの記憶を追体験し、ある時は彼女になった以上、決して避ける訳にはいかない。


 例え幾年の月日が必要だとしても、手に入れる。


 ん? 時間?


「おい、もしかしてここに来てからの全てがこの試練の出題だったんじゃないのか?」

「どういう事だ?」

「見ろ、俺達、歳をとって無い」

「「「……」」」


 皆、察したようだ。


 俺達の旅は、一日二日どころか、数年を跨いだものだった筈だ。

 何度も大冒険を繰り広げた。

 人を蘇らせるには、それ相応の対価が必要であった。


 しかし、俺達はここに来た時のままの姿だ。


「問題はここが何だったのか、と言う事か?」

「おそらくな。明らかに不自然だ」

「確かに、生き返らせるには、それだけの大冒険が必要だと言うのには納得が行きますが、そう人を生き返らせる方法が転がっている訳がありません」

「戦った相手も異常な強さだった。あんなのが一体でも存在すれば大事件だ。それなのに、俺達は数え切れない程、戦い抜いて来た」


 戦った相手に関しては、最初の邪神が脇役になる程の存在がうようよ居た。

 邪神を越える存在がそんなに存在する訳が無い。


「つまり、最初から試練だったんだな」

「この世界そのものが、試練の為に創られた特殊空間」


 そう言い終わる共に、空から光が降りてきた。


 光の中には大天使像。


 そしてゆっくりと大聖堂が降下して来る。


『挑戦者達よ。汝らは見事試練を乗り越えた』


 俺達の予想は合っていた、そして試練を遂に乗り越えたらしい。


「なら、太陽石を!」


『汝らが、望むのならば』


 大天使像が両腕を掲げると、そこに光が降りてきた。

 その光の元は太陽石。

 それがケイティに渡される。


 俺達は、やり遂げたのだ。


 そして光の門が現れた。


『さあ、攻略者達よ。これで、試練は全て終わった。この門が出口だ。ここを潜り抜ければ、元の場所まで戻れる。汝らの未来に期待する』


 そう言うと、大天使像の後ろにこれまでここで出会った全ての人々、令嬢も宰相も邪神までもが現れ、微笑んだ。

 そして、大天使像達は溶け込むように透けて消える。


 この世界までもが、ゆっくりと光の粒子に変わってゆく。


「……本当に終わったようだな」

「ええ、帰りましょう、私達の世界へ」



 こうして俺達の冒険は終わりを告げ、日常へ、いや新たなる未来へと歩みをすすめるのだった。





 《完全縁結びの謎――解答――》

 ・デスしても終わらないデスゲームあるいは英雄達による絆イベント


 まず彼等が迷い込んだのは、コセルシアが適当に創り出した【夢幻自在】の第一位階八級【最初で最後の審判】。このダンジョン階層は階層そのものが意思を持っており、攻略者に試練を与える。


 その試練とは礼、信、義、仁、智、五つのテーマに沿ったもの。


 礼の試練は立体映像の人物に対して礼を返す事。

 今回は司祭だったが、これは階層に入る度に変わる。

 そしてこの試練は本来回答出来ないものである。

 礼儀作法は文化圏や時代によって違う事より、初見の世界の礼儀作法に合わせられない為だ。一応、解答はあるがそれは運任せの賭けに頼るしか無い。


 この試練は、試練を受けた者が死する事により、命により礼を示したと言う回答と見做される事で突破出来る。

 つまり本来は死が前提のデスゲームである。そして実力的にも大半は一度目の回答で死する事になる。この第一の試練は試練を受けた者が死する可能性が高いと知らしめる試練でもある。

 今回死者無しで突破出来たのは礼を押し付ける事が出来ない高位貴族令嬢が試練に挑んたからである。コセルシアに生み出されたとは言え、手抜きで知識はアカシックレコードから平均的最頻的情報を得たのみの階層からしたら、高位貴族令嬢が危険な試練に自ら挑むとは予想外であった。


 第二の試練、信の試練は画かれた円から動かずに三面天使像の猛攻を受けるというもの。

 この試練は何度入っても変わらない。

 仲間を信じて自分は受け身すら取らずに猛攻を耐えぬかなければならない。


 これも実質的にはデスゲームである。

 第一の試練の時間切れによる天使の攻撃に加えて、強力な三面天使像が襲い掛かってくるので、円に入った者のみならず、守りに動いた者達も高確率で死亡する。

 そして第一の試練とは違い、死すればそれが正解となる訳では無い。仲間を信じれず円の中で守りに動いてしまえば、死しても試練は突破出来ない。

 ここで全滅する可能性も非常に高い試練である。


 尚、信の試練、つまり信頼を試す試練と言っているが、誰かが円で動かなければクリア出来る。

 しかし三面天使像は特殊能力こそ備わっていないが、モレク並の強度で仮に倒してもすぐに補充される為、三面天使像を倒して試練を突破すると言う方法はまず取れない。

 そして三面天使像は円内に入った挑戦者の排除を第一に防御もせずに攻撃を連発する。その攻撃はどれも低位竜、ワイバーン程度なら一撃で葬る威力を持ち、防御に自信のある歴戦の勇士でも動かないまま、つまり技も使わない状態ではほぼ間違い無く亡骸へと変わる。


 そしてこの試練は本来、挑戦者の心を非常に揺さぶるものである。

 まず直前の試練で一人を喪う前提があり、恐怖が刷り込まれた状態で挑まなければならない。

 元々仲間を信じ切る者、もしくは初めから死を覚悟しているものが最初から試練に挑まないと試練を乗り越える事は非常に難しい。

 そうで無くては死を重ねて行く必要がある。恐怖に挑戦者達が塗り替えられていれば、挑戦間の殺し合いにすら発展する可能性もある。


 今回クリア出来たのは単純に乗り越えられら戦力を有していたから、そして彼らが英雄の素質を有していたからである。

 彼等は力を持ち、自己犠牲も厭わず、救う意志、助け合う意志を有していたからこそ、三面天使像に屈せず仲間同士で疑心暗鬼に陥ること無く、正解を越える正道でクリア出来た。


 第三の試練は義の試練。

 内容は義を果たすものと言う曖昧なもの。

 この試練の内容は挑戦者毎に違い、具体的には第一第二の試練を受けた挑戦者によって変わる。

 第一第二の試練の挑戦者の願いを叶えるのが、この試練の内容となる。

 試練は大聖堂の下で行われ、第二の試練クリア後に急速に階層の中身自体が試練に合わせて変更される。

 実質的には、第一第ニの試練で犠牲となった挑戦者の未練を晴らす内容の試練となる。


 今回は第一の挑戦者エレメルナの望みを反映した、濡れ衣令嬢を救えと言うもの。

 そして第二の挑戦者ディラオンの吸血鬼を救いたいと言う望みを反映し、今回の試練の形となった。

 実はこれも試練に取り組まなければ間隔は一日程に伸びるが天使から雷を落とされる。しかし即決で助ける選択肢をし諦めなかった事で、試練をクリアするまで現れなかった。


 本来ならこの試練で、死した挑戦者の思いの丈、願いの片鱗を知る事になる。

 そして戦う必要の無い願いにおいても、今回の邪神に相当する相手がその願いを叶える邪魔をし、投げ出さないか試される。

 尚、この邪神相当の相手は倒し切れなくとも、試練を投げ出さなければ途中で封印アイテムや必勝アイテムを持った人物、令嬢達のようにこの階層のゴモラに相当する偽人間がやって来て解決する。

 が、基本的に誰かが死亡するまでは動かない。

 しかし戦闘力を試している訳ではないので、試練の突破自体は可能。


 今回クリア出来たのは彼らが英雄の素質を持っていたから。

 これは必勝アイテム到着前にクリアしたが、基本的には願いを完遂すると言う正道な方法でクリアしている。


 そして第四の試練は仁の試練。

 具体的な内容はこれまでの試練で死亡した者の復活を成す事。

 数々の復活方法と試練が用意されている。

 復活の方法としては試練を突破したら別口で階層が復活させるのでは無く、ダンジョン外にも存在する本物を用意している。試練も実在の方法に付随しているものに寄せている。

 “メデューサの瞳”は標準装備で、第三の試練で死亡した者の魂の記憶を挑戦者達に強引に押し付ける。

 戦闘力も精神力も相当必要な試練で、この階層で全滅する可能性が高い。


 尚、実のところ第一第ニ第三の試練で活躍し死亡した者の復活さえ成せばクリア出来るが、前述の通り復活方法は本物なので、この試練で死亡した者にも適用出来る。

 今回は全員を復活させクリアした。


 完全縁結びが成されたのは主にこの試練によるところが多い。

 まず共に激戦を潜り抜け絆を深めた。何度も庇われ、何度も救い、やがて死しても必ず誰かが助けてくれると確信するまでの仲となった。

 そして魂の混入、魂に潜っての個人定義、魂のサルベージを繰り返した。時に自分が相手であるような状態にすらなり、相手を理解し、その記憶や秘められた思いを知った。

 本来ならデスゲームでしか無いような場面でも、英雄の片鱗を持つ彼等の殺し合いは盛大な決闘、隠されることの無い本気の思いの丈のぶつかり合いとなった。

 そしてお互いに英雄の素質、その信念を見せ付けられ続けた。


 それ等の結果が完全縁結びが成された答えである。


 彼等は長く濃密なその冒険の果てに、死期を迎える夫婦並、もしくはそれ以上にお互いを知り合い、自分に無くてはなら無いと認識する状態になっている。

 縁結びは縁結びでそこに愛もあるが、恋愛的な意味での愛であるかは誰にも判定がつかない境地。

 隣に居たいと言うよりも、隣から居なくなるのが耐えられない状態。


 全員無事で完全縁結びまで成されたが、方法的にはデスゲームの繰り返しなのでアークが真似してデスゲームを与え続けないように、アークからこの出来事は厳重に隠されている。


 尚、第五の試練は智の試練で、全てが試練の為に創られたものであると気付ければ良い。

 サービス問題。

 第四の試練を突破出来る程の冒険を繰り広げれば、有り得ない数の復活方法とそれに見合う脅威から辿り着く事ができる。


【最初で最後の審判】は【夢幻自在】の第一位階八級に相当する階層、つまり難易度は【退廃都市ソドム】と同じだが、第四の試練の復活方法の用意に相当なリソースを割いている為に、出現する相手は最大でもモレク相当となっている。

 しかしエネミーの種類はりんきに変更可能で一つの世界に存在する種よりも多く出現させられる。


 また、最後の余談だが、試練のクリア報酬は“太陽石”では無い。

 あれは大聖堂の飾りである。

 本来は、シンプルに願いを叶えると言うもの。

 勿論限度はあるが、創造関連の願いなら一つの世界が欲しいと言う願いぐらいまでなら叶える事が可能。階層自体が一つの世界よりも強大な力を有しているからである。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話は四周年記念日に今章の登場人物紹介を投稿しようと思います。

また同時に【ボッチ転生】と新たに四周年記念として裸体美術部の部員が主人公の【不屈の勇者】を投稿する予定です。

そして今話の登場人物紹介もモブ紹介に近々投稿する予定です。

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