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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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裏あるいは表の四十八話 完全縁結びの謎あるいは対アーク特級機密前編

すみません。また二話に分割する事になりました。

まだ対アーク特級機密ではありません。

 


 俺の名はアルスィフィル。

 ヤムーの守護神。ヤムーが国としての形を持った時から約二千年、信仰され続けてきたヤムーの神。

 俺が目覚めた石室の壁画と、ステータスの称号からしてきっとそうなのだろう。

 実際のところは記憶に無い。


 しかし使命だけは忘れない。


 それはヤムーの民を救う事。


 俺が石室を出て、初めに見たのは無数の石像だった。

 人の石像。

 魂ごと石化したヤムーの民。

 石像が砕けようとも、永遠に魂を石化され解放される事の無いヤムーの民。


 それを見た瞬間、彼らを助けると言う使命と、ヤムーの民を石化した千五百年前の、いや今から一万二千年前のヤムーの大神官、ヤムーの魔法文明の礎を築き、同時に滅ぼしかけたヤムー史上の鬼才、大神官ウルムシュルペを打ち滅ぼすと言う使命を思い出した。

 もう二度と忘れる事は無いだろう。


 そんな俺は、今、学生をしている。

 通う学校の名はアンミール学園。


 大神官ウルムシュルペは封印されていた。

 一万年前、ウルムシュルペはヤムーの民の力を奪った。その結末がヤムーの民の石化だ。

 力を得たウルムシュルペだったが、その力に耐えきれず直後眠りに就いた。その状態の上から封印を施され、現在まで封印されている。


 しかし、監視していたこの学園の派遣教師によると、その封印もあと数年で解けるらしい。

 数年でウルムシュルペが力を制御出来る状態に到るそうだ。

 既に封印さえ無ければ十全に力を使えこなせる状態だと言う。


 そしてそれに対抗する為、力を身に着ける為に派遣教師の案内で、アンミール学園に入学し今日に到る。


 だから俺に、遊びに呆ける時間など無い。


 しかし俺は今、クラスメイトに連れ回されている。


 連携を高める為との事だ。


 数日前、未曾有の魔物の大氾濫が起き、クラス丸ごと巻き込まれた為、断りきれなかった。

 一人では、とても対処しきれなかった。

 早く力をつけなければと焦燥に駆られたが、未熟な自分一人ではどうにもならない事もあると痛感した。


 だから例え周り道だとしても、避けて通る事は出来なかった。


 しかし今しているのは観光。

 そう見えないだけかも知れないが、俺にはそう見える。

 やはり断るべきだったかと、今からでも断るべきかと後悔が滲んで来る。


 だが、目覚めたばかりの俺には連携を高める方法が分からない。

 だからまだ言い出せずにいた。


 せめて、過ぎた時間の分だけは連携が高まっていて欲しい。


 もはや願うように行動を共にしていると、今回の発案者、ケイティが声を上げた。


「皆見て! 新しい施設があるわ! 行ってみましょう!」


 そう言って跳ねるように駆け出す。

 暢気なものだ。


 初対面同士のクラスで、ケイティ程の積極性のある者は居らず、誰も反対せずに俺達は新品の古代遺跡、特定の祭儀を執り行う神殿のような場所に向かう。


 そして頂上まで辿り着くと、周囲の石枠、転移門が独りでに開かれた。


 ここは駅なのだろうか? 

 転移門一つでも希少なのに、ぱっと見十以上の転移門が在った。

 普通、転移門の作成は難易度がかなり高く、複数有っても一つの道になるように別々の場所に起き、利用する。

 そもそも潜れば一瞬で移動できるから、一箇所に密集させる必要性は皆無なのだ。転移門で一つの道を作成すれば、交通の利便性は然程変わらない。

 それなのにここまで集めるとは、きっと重要施設なのだろう。


 試しに、俺達は一つの転移門を潜った。



 転移門を潜ると、肌寒い風が吹いていた。

 気候が違う。来た途端に転移したと実感させられる。


 雪は無い。空は澄み渡る晴天。

 高い峰も。眼下に広がる風景も無い。


 北の大地でも、高山帯でも無いらしい。


 広がるのは平地。

 疎らに木が生え、低い草が茂る。


 そして街、人の気配が無い静かな街。

 草の隙間からは石畳が姿を見せ、崩れた家々が散見する。

 崩れている事を考慮しても、農村程度の間隔にしか建物は無いが、どれも立派な造りで全てが石畳で繋がっている。

 規模は農村なのに造りは都会、不思議な場所だ。


 そして何よりも不思議、いや神秘的なのは空に浮かぶ大地。

 それも城のように聳える、朽ちて尚も威容を保つ大神殿。

 その最頂部には悠久の時を経ても光輝く何かがあった。


「あれは、太陽石……!?」


 光を見たケイティが柄にも無く静かに驚愕していた。


「どうしたんだ?」

「お願い。あれを取りに行かせて。あれは、私達の、いえ、皆の希望なの!」

「あれって、あの光る玉の事ですか?」

「ええ、あれは太陽石、焼き払う事なく、世界を優しく照らす光。太陽の変わりよ。私には成れなかった、お父様の代わり……」


 どうやら使命を抱えていたのは俺だけでは無かったらしい。

 俺と同じなのに、明るく振る舞い、遊びと思える事も、迫りくる焦燥を抑えて行動していたのだ。俺には出来なかった事を。

 俺は酷く勘違いしていたようだ。彼女は、暢気な学生等では無い。俺の及ばない、俺が見本とすべき少女だ。


「一緒に行ってあげましてよ」

「せっかくここに来たんだしな。来て帰るのは退屈だ」

「勿論、俺も行かせてもらおう」


 誰も、彼女に反対しなかった。

 彼女の決意と使命感に押しつぶされた表情を見て、断れる者など居ない。自分もついて行く言い出す。

 勿論俺も。


「ありがとう。でも、危険よ。希少な太陽石が廃墟に有るなんて、普通なら絶対にここの子孫や敵対者が持って行く筈だもの。それでも残っているんだから、きっと強力な防衛機構があるわ」

「だったら尚更一人で行かせる訳にはいかない」

「元々連携を高める為に来たんですよね? ちょうど良いじゃないですか」


 彼女は危険だと言うが、誰一人引き下がらなかった。 

 寧ろ、一人では行かせないと思いを一つにする。


「ありがとう、皆……」


 感極まり涙を浮かべるケイティ。

 女子はそんな彼女の背を擦る。




 近付いて見ると、空の大地は予想以上に高かった。

 遠目で見れば少し浮いている程度に見えたが、実際は百メートル以上、正確には分からないが少なくともここより五百メートルは高い高さで浮いていた。


 どう上がれば良いのか?

 縄を投げれば届く距離だと思っていたが、流石に縄は届くまい。五百メートルの縄と言う時点でお手上げだ。


 そう思っていると、空から何が落ちて来た。

 いや、降りて来た。


 ドガッと石畳を捲り、大量の砂埃を発生させながら着地したのは騎士の石像だった。

 もしくは彫刻の鎧。

 空の大地から降りて来たのに、傷一つ付いてない。


 石像はゆっくりと動き出した。

 五メートル程の巨体に見合う大剣を大きく振り上げ、振り下ろす。


 俺達は回避、空振りした大剣は砂埃を巻き上げるに留まる。


 そして回避と同時に攻撃を加えた。

 あっ言う間に騎士像は爆炎に包まれる。

 しかし、騎士像は爆炎を割いて再度剣を振るう。


 すれ違い様の軽い攻撃とは言え、大人数の攻撃に耐えるとは、相当頑丈なようだ。

 だが、剣速は遅い。

 脅威かと言うとそうでは無い。厄介なだけだ。


「アンタに構ってる時間なんて無いの! “炎輪掌”!」


 その厄介な頑丈さも、使命感に急かされるケイティには意味も無く、燃え盛る掌撃から炎を注ぎ込まれ、中から燃えた。

 全身を焼き尽くした炎の輪が爛々と輝き、騎士像は静かにほろほろと崩れ落ちる。


 それと同時に、石畳に光が現れた。

 光は線を画きながら拡がり次第に魔法陣となり、魔法陣から空の大地に向かって光が伸びる。


 光が空の大地に辿り着くと、砕けた騎士像から同じ姿の立体映像、おそらく魂が現れた。


『我を乗り越えし戦士達よ。汝らには試練に挑む権利が与えられた。辿り着きたければ、試練に挑むが良い』


 ちらりとケイティが俺達を見た。

 俺は頷く。

 皆もだ。


「勿論、挑むわ。私は、私達は、太陽石を手に入れる!」


『……良いだろう。試練を乗り越えればくれてやる。行くが良い』


 騎士像の霊が消えると、魔法陣は輝きを増し、ガクンと体重が微増した。

 魔法陣の画かれた石畳が浮上したのだ。

 俺達を乗せたまま、ゆっくりと上昇を続ける。


 そして俺達は空の大地に辿り着いた。



 空の大神殿、いや大聖堂と呼ぶに相応しい城は、予想以上に傷が無かった。

 下は倒壊した建物ばかりだったが、ここは罅と欠片がある程度でまだ百年は持ち堪えそうだ。


 しかし造りは豪華であっても基本は下の建物と変わらない。

 材質の変色具合も、地上と同じだ。

 つまり、同じ時期に建てられた事はほぼ間違いない。

 それでも倒壊しない高い技術力が、何かしらの防衛機構があると言う証拠に思える。


 そんな大聖堂は、城のような外観とは異なり中はシンプルな構造だった。

 奥は祭壇。そこに至るまでの道を塞ぐものは扉すらも無く、天井はそのまま天高い屋根。上には部屋の一つどころか上がる階段すらも無い。

 まるで城のような外観が張りぼてで有るかの様に、内部は一つの空間だ。しかしその分、びっしりと施された彫刻や数え切れないステンドグラスが、手抜きでは無く大聖堂として完成されていると告げている。


 試練に挑みに来た筈なのに、それを忘れて思わず見入ってしまいそうだ。


 ここで試練として戦えとと言われても、芸術を壊すのに戸惑いを覚えて全力が出せないかも知れない。

 それ程までに見事な造りだ。


 そんな大聖堂の中央まで来ると、大聖堂全体が輝き出した。

 そして、無数の彫刻、無数の天使像が動き始める。


 天使像は俺達を囲む様にして宙で円を画き、祭壇の上から一際巨大な祭服、カズラのようなものを身に纏った大天使。

 大天使は天秤が付いた杖を掲げ、こちらに告げる。


『礼を示せ』


 大天使がそう言うと、透けた司祭、司祭の映像が現れた。

 地上にいた騎士像とは違い魂を感じられない。

 ただの映像だ。


『異国の旅人よ、よくぞ参られた』


 映像の司祭は両手を広げながらそう言う。


 礼を示せ、これに対して挨拶すれば良いと言う事か?


 試しに、ペコリと頭を下げてみる。


 刹那、光雷が天使のサークルの中から撃ち放たれた。


 咄嗟に局所結界を発動。

 重い。

 強力な力が込められている。


 横からガルフが大剣を横にして振りかぶる。

 しかしまだ光雷は散らない。

 その大剣にエリュンが蹴りを入れる事で、やっと光雷は散った。


「ありがとう、助かった」

「いや、気にするな」

「ええ、生命神エリュクシオン様の巫女として、命の輝きを消すわけにはいかないわ」


 やはり俺は傲慢だったのだろう。

 どこかで、自分一人で何とかなると、他人は役に立たないと思っていた。俺は守護神で、人の子である彼等は俺が守らねばならない存在であると。

 しかし、それは違った。寧ろ、俺が守られた。


 助けてくれた二人に対しても、俺は誤解していた。


 大柄で強面なガルフは明らかに強そうだが、人助けをするタイプには見えていなかった。

 派手で露出の多いエリュンはそもそも荒事が出来無いと思っていた。


 記憶が無いとしても偏見など、神として最悪だ。


 俺の視界が、如何に狭まっていたかが分かる。

 神として失格なのに加えて、こんな有様でヤムーの民を救える筈も無い。


「おい、フィルの礼が間違っていたから攻撃したのか?」


 ガルフが大剣の剣先を司祭に向けながら問う。


 まだ会って間もないのに愛称で呼んでくれるとは、自分の器の小ささを意識させられるが、それもよりもこんな俺を仲間と思ってくれているガルフに胸が熱くなる。


 ガルフ、いやガル……じゃ変か、ルフ? いや、いっその事ガルフィフィルと俺の名の一部を授けて……。


『異国の旅人よ、よくぞ参られた』


 おっと、そうこう考えている間に司祭は回答を出した。

 それは回答とは言え無いものだったが、それが答えと言う事だろう。


「おい、そんな事を聞いているんじゃ―――」


 そう詰め寄ろうとするガルフに、再び光雷が撃ち込まれた。


 俺はガルフの頭上に結界を展開し、これを予見していた数人も手伝って光雷を弾く。


「悪い、助かった。援護を頼む!」


 ガルフは司祭に向かって駆け出す。


「“聖天”」


 無骨な大剣から天まで届きそうな光の刃を出し、一気に振り下ろした。

 光の刃は大天使も巻き込んで炸裂。

 大聖堂中が光に包まれた。


 しかし、光が止むとそこには変わらず司祭と大天使がいた。

 更には、その後方の壁にすら傷一つ無い。


 ガルフは慌てて後退し、体勢を立て直すが、反撃や天使からの光雷も無かった。


『異国の旅人よ、よくぞ参られた』


 司祭が動いたと思ったら、それしか言わない。


「まさか、傷一つ付かないとはな」


 冷や汗を垂らしなから呟くガルフ。

 声を漏らさない俺達も、いつの間にか一様に冷や汗が浮かんでいた。


「どうする?」

「倒せないんじゃ、天使像が言ったように礼を示すしか無いんじゃないか?」

「一応聞くけど、手を抜いたって事は無いですよね?」

「ああ、速さを優先して力を溜められなかったが、手は一切抜いてない。この浮島とまでは言わないが、岩山を使った砦程度なら真っ二つに出来る」

「じゃあ、癪だけどあいつの言う通り、礼を示すしか無いわね」


 そう作戦会議をしていると、再び天使から光雷を撃ち込まれた。


「「っ!」」


 突然の事に若干驚きつつも、備えていた俺達は危なげなく跳ね除ける。

 今回は余裕があったが、こんなもの何発も耐え続ける事は出来ない。


「大体ルールが分かってきましたね。どうやら、試練とやらは司祭が『異国の旅人よ、よくぞ参られた』と告げてから始まる。その後に間違った方法、もしくは時間をかけ過ぎると雷を撃たれるようです」


 インテリ眼鏡、魔法科、実践的な魔術を学ぶ魔術科では無く、論理的な術式を学ぶ事がメインの魔法科所属のリゼルが眼鏡をカチャリと上げながらそう分析する。


「攻撃するにしても、光雷と発言の前にした方が良いって事か」

「つまり今みたいな時ね」

「でもそれは最後の手段です。有効な攻撃が分からない今、魔力を消耗させて光雷を防げないと言う事態になっては詰みます」

「今考えるべきは、どうやって礼を示せば試練を突破出来るか、ですね?」

「ならば、私が行きますわ」


 そう声を上げたのは真っ赤で繊細な刺繍の施されたドレスを着こなす、真っ赤で派手なドレスを身に纏っても気品溢れる高貴な雰囲気が陰る事は無いエレメルナ。

 政治闘争は得意そうでも戦闘は経験すら無さそうな彼女は、気高く真っ直ぐと立候補した。


「しかし、間違えばあの光雷が落ちてくるんだぞ?」

「危険すぎます」

「その時は、守ってくださいまし」

「でも……」


 確かに彼女がこの中では一番礼儀作法に詳しいだろう。

 それでも、礼儀作法は地域によってまるで違う。特定の地域の礼儀作法を熟知していても、時代すらも違う礼儀作法を正しく示すのは博打のような賭けでしか無い。


 非戦闘員の彼女には危険が大き過ぎる。


『異国の旅人よ、よくぞ参られた』


 そう話し合っていると試練が再び開始された。

 時間が無い。


「信じていますわ」


 エレメルナは前に進み出た。


 こうなれば、彼女の期待に応えよう。

 それしか無い。


 エレメルナはドレスの端を持ち軽く会釈。


 いや、彼女の期待に応えるのでは無い。

 彼女を信じよう。


「歓迎、感謝いたしますわ司祭様。私はフロスバキア帝国三大公爵家が一つ、ストロレチア公爵家の長女、エレメルナと申します。お会い出来て光栄ですわ」


 そう華麗に挨拶すると、司祭はスッと消えた。

 試練は無事、乗り越えたらしい。


 呆気ないほど簡単に終わった。


「なる程、エレメルナ嬢は高位貴族、そんな彼女に自分達の礼儀を押し付ける行為自体が外交上非礼に当たる」

「確かに、エレメルナ嬢からその礼儀に従うのは友好アピールでもありますが、あくまでアピール、絶対では無く礼儀とは言えません。エレメルナ嬢なら、自国の礼儀を示せばそれが絶対解となる訳ですね」


 つまり、真の答えで無くとも答えになったと言う訳か。



 しかし、これで試練が終わりとはならないらしい。


 再び大天使像が杖を掲げた。


『信を示せ』


 そう告げると、今度は阿修羅のように三つの頭部と三対の腕のある天使像が天井から降りて来た。

 大きさは俺達よりも少し大きい、倍にもいかない程度だが、その威圧感は大きい。重圧を感じる。


 そしてマンホールの蓋程の円陣が一つ現れた。


『円から動くなかれ』


 三面天使像はそう告げる。


 これが第二の試験の内容らしい。


 そして、さっきの試練のパターンからして、もう試練は始まっているのだろう。


「取り敢えず、円陣に入るぞ」


 俺は円陣に両足を踏み入れた。

 すると、円陣は光を発した。


 加えて、三面天使像が俺めがけて襲い掛かってくる。


 まず金属の矢に、少し遅れて光球。


 想定内の事なので、慌てず結界を展開してガード。


 すると、円陣の光が消えた。

 同時に三面天使像の攻撃が無差別に放たれる。

 六つの腕にそれぞれ持たれた武器により、近距離武器でも広範囲に、全面に被害がもたらされた。


 こちらの攻撃は、司祭を攻撃した時と同じく、ダメージを与えられたのか分からない程度の傷しか残さない。


 やがて攻撃が止む。


『円から動くなかれ』


 そして再び試練は始まる。


「さっきの攻撃のタイミングと、信を示せと言う言葉、どうやら円陣に入った一人は攻撃されても防御も含めて動いてはならず、その一人を守って信を示すのがこの試練らしいな」


 と陰気な雰囲気が特徴的なディラオン。


「どれだけ信じ合えるかって事ね」

「問題は誰が円陣に入るか」

「万が一の時を考えて、一番防御力に秀でている人が良いわね」

「俺が行こう」


 とディラオン。

 正直なところ、人付き合い自体が苦手そうに見える彼が立候補するとは意外だ。

 それに守り切れなかった時、三面天使像の攻撃に耐えられる防御力が有るようには見えない。


「安心しろ、俺は吸血鬼だ。仮に奴の攻撃を受けても、致命傷にはならない。すぐに再生する」


 そう言って円陣に入った。

 輝く円陣。


 再び、三面天使像が動き出す。


 何であれ、守るしか無い。


 俺は三面天使像の鉄矢を弾き返し、ガルフは剣を正面から大剣で受け、エリュンは槍の柄に蹴りを入れる。

 無数に繰り出される光球はリゼルやケイティがそれぞれ対応。

 防ぎ防ぎ防ぎ、時には反撃して隙を作る。


 しかし手強い。


 今まで傷を付けられていないその硬さに自信があるようで、防御体勢を全く取らない。

 こちらの攻撃をものともせず、常に攻撃を繰り返していた。

 反撃による隙も攻撃が止まる事により生じるのでは無く、三面天使像の居場所をズラす事によって生じていた。


 攻撃自体はほんの少しの間も止まらない。

 しかもその全ては円陣に立つディラオンに向けられていた。


 迂闊にも、攻撃の一部が俺達をすり抜けディラオンに向かう。


 しかしディラオンは動かない。


 切り傷や火傷が生じても、ディラオンは動かなかった。


 そして、遂に三面天使像の動きが止まる。


 俺達はディラオンに駆け寄った。


「すまん!」

「攻撃を通してしまった!」

「“エクストラヒール”!」

「なに、気にするな。お前たちは良くやった。あの戦いを見ていればそのくらい分かる。それに俺は血術使い、このくらいでちょうど良い」


 血だらけのディラオンはそう笑う。


「さあ、俺の事よりも次の試練だ。試練は待ってくれない」



『義を示せ』


 そう言うと、ディラオンの立っている円陣が再び光った。

 そして聖堂全体を包む程の巨大な魔法陣に変化する。


 魔法は輝きを増して行き、光が止むとそこには別の光が在った。


 星の光が。

 地上の光が。


 大聖堂の床が、消失していた。


 しかし俺達が墜ちる事は無かった。


 頭上で輪となる天使達が、俺達を浮遊させていた。


 そして安全速度で地上に降り立った。


『義を果たせ』


 天使達はそう言い残すと、天空へと帰る。



「試練は続いているようだが、ここは何処だ?」


 降り立った場所は、俺達が空の大地へと昇った場所とはまるで別の場所であった。


 と言うよりも降りて初めて気が付いたが、俺達が初めに居た場所も空の大地の一部だったのだ。

 空の大地は群島であったらしい。


 今いるここは、本当の地上だ。

 地上と言っても少し高い山のなだらかな斜面だが、それでも空の大地は遥か上空にある。


 そんな上を見上げていると、声が聞こえて来た。


「お嬢様! 逃げて!」

「駄目よ! 貴女も一緒に逃げるの! あの宰相が真実を知る貴女を生かしておく筈が無いわ!」


 そこに居たのは泥と血が滲むドレスを着たご令嬢とメイドの少女。


「見つけたぞ!」

「もう観念して頂こう! アネストリーネ辺境伯令嬢!」


 そして後から百に及ぶ騎士の一団。


 メイドを庇いながらご令嬢が前に出る。


「カイネス王太子殿下に私が命じられたのは国外追放。王太子殿下の御命令に貴方達は逆らうおつもりかしら」


「確かに国外追放が貴女様に下された沙汰です。自力で国境を越えようとして野垂れ死んでも、誰も不思議に思いませんからね。それではさようなら」


 騎士団長的な人物がそう言うと、騎士たちから大量の矢が放たれた。


 これは不味いと間に入ろうと思っていると、結界が生成、結界は矢を全て弾くとそのまま拡がり、騎士達に衝突した。

 幾人かがその衝撃で跳ばされる。


「申し訳ありません。見ていられませんでしたわ」


 と結界を生み出したエレメルナ嬢。


「どうぞ、皆さんは先に試練へと向かって下さいませ。私は後から参りますわ」

「いや、俺も見ていられない」

「私も協力させて頂きます」


 明らかに厄介事だが、また誰一人も引かなかった。


「お前達、邪魔をする気か!?」

「我らをメデステア王国近衛騎士団と分かっているのだろうな!?」


 武器を俺達に向ける騎士団。


「あら、近衛騎士団でしたの? 山賊かと思っていましたわ。メデステア王国、随分と品性の無い国でしてね」

「何だと!?」

「あなた達こそ私達を誰と心得て? 私はエレウリス帝国を一夜にして滅ぼした【暗黒令嬢】、エレメルナ・ド・オルメト・ヴォン・ストロレチア。彼等は私と同じく天下のアンミール学園に選ばれた使徒。覚悟はよろしいかしら?」


 そう言うと、アイテムボックスから柄に多数の宝石が埋め込まれたレイピアを取り出し構える。

 それに習い俺達もそれぞれの得物を抜いた。


「構わん! 皆殺しだ!」

「いよいよ、山賊でしかありませんわね。

 ――金を対価に願いこう 紅き花咲かす 千の刃を――」


 こちらに駆け出した騎士団に対して、エレメルナ嬢はレイピアを突き向け引くと、目にも止まらぬ動きで開放した。


「“サウザンド=スピア”」


 柄の宝石が輝くと共に、千のレイピアの刃が瞬時に騎士団を貫いた。


 遅れてじわりと血の花が衣服を染め、騎士達は静かに倒れ込む。


「お怪我はありませんこと?」


 エレメルナ嬢は後ろを振り向き、追われていた二人に声をかける。


「は、はい、おかげで助かりました。心より、感謝申し上げます」

「ありがとうございます!」

「当然の事をしたまでですわ」


 しかし、終わってはいなかった。


 血で造られた蜘蛛の脚のような槍が何槍も三人に襲い掛かかる。


「“一番盾”!」


 そこに転移し割り込むアルス。

 小柄な体格に似合わぬ背丈を越す大盾で血の脚槍を防いだ。

 激しい衝突音が轟くが、アルスは一歩たりとも退かない。


 攻撃の発生源は先頭に立って最も多くの攻撃を浴びた筈の騎士団長。

 防ぎ切った訳では無く、全身から血を流しているのに立っている。

 そして、その傷口から騎士達の血を吸い取り、背中から血の脚槍を蜘蛛のように生やしていた。


 そして、血を吸い取られた死体がゆっくりとぎごち無く起き上がる。


「バルザック近衛騎士団長、あなたも、やはり邪神に……」

「ええ、私もノルディマンドゥ様の加護を頂いた敬虔たる使徒。配下とは違う本物の不死を与えられた神に選ばれし者」

「崇拝するどころか加護までも……!?」

「知られたからにはますます生かしてはおけません。邪魔者共もそこそこ強いようだが所詮は人間。まとめて消えろ!」


 そう言うと騎士の死体から奪った血で更に血槍を増やし、俺達に放つ。

 同時に騎士の死体も俺達に向かい走り始めた。


 俺は刃の付いた儀式杖で血槍を弾き返し、突撃する。

 血槍は俺の想像よりも硬く力もあり、少しでも気を抜けば弾き返せ無くなりそうだ。

 道を塞ぐ騎士のアンデッドは魔術を纏わせた儀式杖で斬るも、動きを止めない。魂を見て弱点を探すも、本体は奪った血にある。実質、あの騎士団長とやらだけが敵であり、他は操り人形と言う攻撃手段に過ぎないようだ。

 血から騎士の死体を完全に掌握していた。

 アンデッドは倒す事を諦め、隙を作り走り抜ける事を優先する。

 しかし近付くと血槍が多くなり、これまた決定打を打ち込めない。


 そこで接近戦を諦め、距離を取った。


「“ディバインライト“」


 そして神の光弾を放つ。


 光弾は騎士団長に当たると爆発するように拡がり、範囲を焼き清める。

 元とも簡単な神属性を帯びさせた一撃だ。簡単だがそれでも人には届かぬ神の力の一端。

 一溜りもない筈だ。


 更にそこにガルフやエリュンを始めとしたクラスメイトの技も飛来。

 間違いなくとどめを刺せた筈だ。


 現に、騎士団長はアンデッドの手下も含めて、大きく抉られ燃えている。

 そして、端から灰となって崩れた。





 《用語解説》

 ・太陽石

 同名の鉱石及び創造物は多く存在するが、大聖堂に安置されていたのは太陽の力を秘めた宝玉。最大限力を引き出せば世界の半分を常に照らす力、つまり太陽と同等の力を持つある種の本物。

 基本的には人間界、地上に存在しない神器であり、常に光に満ちた天界や暗いが先まで見渡せる冥界などで使われている。


 太陽石そのものが力を有しているのでは無く、エネルギーを与え制御する事で初めて効力を発揮する。

 神々でも太陽や光に関する権能を有していなければ眩しいだけの照明と化す。神器でありその起源も殆どが神造物。神造でないものの殆ども太陽神の残骸などであり、ダンジョン内を含めて自然物として産出される事はまず無い。

 形状も多くは太陽と同じ形、もしくは真球型と自然物としては難しい形であり、形が崩れると速やかにエネルギーに分解される。その為、完全に形を保った太陽石しか存在しないし太陽石の欠片も存在しないと考えて良い。


 太陽石は一つの世界において多くてもその分けられた界の数、例えば天界と地上と冥界などの数しか存在しない。

 太陽神にとっても必須の仕事道具という訳では無く、そもそも自身が太陽と呼べる程の神格で無ければ十全に効力を引き出せない為、全世界からしても非常に珍しい。

 生み出せるのは自身が太陽である程の神、太陽を馬車として乗りこなすような神のみで、太陽よりも後に誕生した神々にはまず生み出せ無い。


 しかし扱うには、必ずしもそこまでの神格は必要ない。

 世界全てを照らせるかは兎も角、太陽そのものでは無く天候を司る神、太陽との関わりが深い豊穣の神でも限られた領域であれば太陽石を使って照らす事が可能。

 ある種、太陽そのものの権能が無くとも、限定的に太陽神になれる神器とも言える。


 だが運用には力を使う為、太陽の権能が限定的に得られるからと言って使われる事は非常に稀。

 太陽が存在すれば無くても困らないどころか、必要ないからである。

 十全に使いこなせる太陽神からしても、そんな太陽神はこの石が無くとも太陽を十全に運用出来る為に、有れば使う程度で必須の神器では無い。


 この石を主に用いるのは未熟な太陽神で、先代が何らかの要因で太陽を運用出来ない時に、補助道具として用いられる。

 その為、総合的には保険のような存在だが、その分、非常時には大変重宝される神器でもある。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話は後編になります。

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