表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/103

第七十三話 最終決戦あるいは決戦完編完

すみません。今回も投稿が遅くなりました。

長いです。

 



 暫くすると、全ての先輩たちがソドム中央地区に集結した。


 致命的でないにしても、傷を負っている先輩も多い。

 傷は少なくても、消耗している先輩はそれ以上に多い。休む間もなく魔術や武技を繰り返していた影響だろう。


 特に武技に関しては、魔力を代償に実力以上の実力を一時的に発揮出来る、技として使えるサービス、技術の事を呼ぶ。

 つまり、発動するだけで肉体的にも魔力的にも酷使してしまうのだ。

 本来使えない筈の技を使う、言い換えると本来動けない動作を行うのだから。

 連続的に使う事は勿論、多用する事もあまり好ましくは無い。


 武技は本来出来ない技術を使えるので、スキルレベルを上げる鍛錬としては良いが、それは鍛錬に値する程の負荷がかかると言う事だ。


 それにこれは、正確には武技によって技術が身に付くからスキルレベルが上がる訳では無い。

 一応感覚を掴む事にもそれに耐え得る練習にはなるが、実際にレベルアップするのはスキルレベル上昇の条件を偶々満たすだけだ。

 本当にそれだけの実力を身に着けたから上がる訳ではない。

 ある種のバグ、チートと言ってもそこまでの間違いでは無い現象だ。


 つまり、スキルが高レベルになる程、そのレベルに見合う武技を使った時の負荷は溜まってゆく。

 本来必要な能力を満たさない状態で、実力と必要能力の差が開いている状態で、武技を使い続けているからだ。


 そしてこの連鎖の中に先輩達もいる。


 武技によって無理矢理スキルレベルを上げるのが、最も早く力を得る方法だからだ。

 スキル、武技が本来何であるかを誤解している者が殆どなのが現状と言える。いや、本質を理解している者は全人類の比率からすれば、限りなく居ないと言ってもいいだろう。


 一応、アンミール学園ではスキルと武技に頼りきりではいけないと教えているらしく、全ての技が武技と言う訳でも無いが、その使用頻度は高い。

 ある意味、実力以上の力が必要なのだから、力を抜けない時に使うのは必要な行為と言えるが、武技名を唱える行為すら省略しており、通常時であれば病院行きの消耗までしている先輩もそこそこいる。


 そもそも、武技にしたって本来は魔術のように長々と詠唱した方が良いのだ。

 あくまでも詠唱は補助行為であり、発動条件を緩和、原理的には発動と言うよりも概念魔法による再現として使う事により発動条件を緩和する行為でしか無く、使う為に必要と言う訳ではないが、そもそも使えない筈の技を使うのが武技である。

 条件緩和しても釣り合うのか微妙と言える。


 連続して武技名すら省くなど、以ての外だ。


 武技レベルの通常技、つまり真に自分の力だけで戦っているのはイタル先輩とマサフミ先輩くらいである。

 この二人は魔術を、完全に独力で構築していた。


 それは裸体美術部の連携にも現れている。


 ヴァンリード先輩やアルデバラン先輩による奪ったスキルを代償に用いた超絶攻撃。


 当然、スキルを代償に発動するので連発は出来ない。

 スキルを代償にしたらそれまでだ。

 低レベルのスキルならゴモラから回収して連発も可能だが、低レベルスキルではスキルを代償にした反動に見合う威力を望めない。高威力ではあるが、代償を捧げなくても同等の威力を出せる先輩からしたら、反動に見合わない攻撃だ。


 そして現に先輩達は、高レベルスキルを代償にし、奥義に匹敵する程に高出力な代償技を使っていた。


 〈爆撃魔法Lv5〉を代償に捧げた世界を壊す程の極大爆撃。


 範囲はかなり狭められているが、その爆撃は都市に形を許さない。

 第一撃は単純な絨毯爆撃。

 これだけでも街の大部分は瓦礫の山に。

 第二撃は爆破により蒸発した瓦礫の膨張による爆発。

 この時点で瓦礫も殆ど形を残さない。

 第三撃は粒子の質量消失。

 瓦礫の山は巨大な穴へと変わる。


 他には〈火属性魔術Lv5〉を代償に捧げた大魔法。


 ゴモラの放った炎も含めて制御下に置き、急速に延焼拡大させ出力を上げ一帯を全て炎に変えてゆく。

 燃やす融かすの領域では無く、視界全てが炎の海に変わった。ゴモラも盾も鎧も建物も燃料に、炎に変わる。


 そしてそれらを連発していた。


 何故なら、スキルの供給源が居るからだ。


 その供給源とはイタル先輩とマサフミ先輩。


 ここにイタル先輩とマサフミ先輩の実力が現れていた。


 スキルは奪われても、全て自力でそのスキルレベルの領域にある技を扱えれば、一瞬で同レベルのスキルを再び獲得出来るからだ。


 ヴァンリード先輩もアルデバラン先輩も、イタル先輩やマサフミ先輩の陰に、鉄壁の防御を誇る二人の後ろで自らの攻撃の余波を防ぎながら、容赦なくスキルを奪い、スキルを代償に極撃を連発していた。

 一応連携だとは判っているが、イタル先輩とマサフミ先輩の扱いが酷い。


 尚、イタル先輩とマサフミ先輩のスキルレベルはそれぞれ10。

 それにも関わらずレベル5の代償技しか使わないのは、やはり反動が大きいかららしい。

 こちらも、連発出来たとしても連発してはいけない類いの技だ。


 しかしそれでも、実のところそこらの武技よりも効率が良い。

 スキルは力と言うよりも技術だ。武技で考えると出力を生み出すのは身体能力や魔力であり、スキルはそれを効率良く制御する力である。

 そのスキルを限界まで使い潰す事により生じるのは、その強大な制御力だ。

 つまり一度発動されたら最効率で力が運用される為、負担が始めだけで済む。魔力も代償にした対価に得られるので、スキルを喪う以外の負担は無いに等しいのだ。


 下手に奪ったスキルを使うよりも余程賢い選択と言える。

 スキルを使うのは手っ取り早いので、僕にとって歓迎出来る選択肢ではあるが、それで同等の力を発揮させるのは現実的では無い。

 奪ったスキルは再取得したて、元の持ち主との親和性も低く扱い易いとも言えるが、それでも代償として使った方が効率的だ。


 何度もスキルを奪ってそれを代償にする、言葉にするとかなり悪辣な事をしている様に思える。

 しかしその実、先輩達の中で最も合理的に、武技を連発して戦う事と比較すればある意味正攻法とすら言える戦法だ。


 しかし、それでもソドムは陥落しない。


 壊滅どころか消失規模の被害が出ても、簡単に再生、もしくは再建されていた。

 全て鋼鉄で造られた砦等はそう簡単に構築されないが、通常の建造物、五階建て規模の建造物ならもはや絶え間なく生やしていると錯覚する程の速さで構築されている。

 ゴモラですらそれは同様だ。


 加えて、先輩達が集結した事でソドムの戦力も中心区に集結していた。


 イタル先輩やマサフミ先輩の侵攻を抑えていた、それこそ鋼鉄で造られた砦やA級冒険者並のエネルギーを内包したゴモラが、別行動していた時とは比べ物にならない速度で生成されている。


 幸いなのは、あくまでA級相当のゴモラ兵は保持しているエネルギーがA級相当なだけであり、技もコピーし貼り付けた急造品である事。

 A冒険者と言うよりもA級冒険者が相手にする魔物、人のような技の無い獣に近い、人に化けた偽物でしか無い。

 本来のゴモラは人の欲望を吸収し、限りなく本物へと近づいていくが、新たに生成されたゴモラはそれを持たない初期状態のままだ。


 しかしそれでもA級相当、集結した事により乱戦になり、一気に殲滅する事も出来ず、先輩達は囲まれ苦戦していた。


 そしてそんな強力なゴモラ兵を倒すには高度な武技が必要であり、疲労は蓄積する一方だ。

 ゴモラは新規生成された全快状態で有るのに対して、分が悪い。


 それでも、個々の戦力としては先輩達が圧倒的に上回っている。


 剣でミスリルの盾を構えたゴモラごと鋼鉄板の張り巡らせられた砦を両断し、拳もまたゴモラごと砦を粉砕し、移動時の踏み込みですら砦をぶち抜く。


 しかし持久力は相手が圧倒的に上。


 何度破壊されようと、縦横無尽、あらゆる方向から砦は再生し、大型トラックの衝突並の勢いまで伴って高速で新たな建造物が生えて来る。足場の高低も瞬時に変わる有様。

 ゴモラ兵も同時に補充。弱いゴモラに関しては溢れる勢いで増殖し続けていた。

 その勢いは、一向に衰える気配が無い。


 いつ決戦へと移るかが勝負の決め手だ。


 ソドム中央城の結界へは、現段階でも手が空けば攻撃を加えているが、多少の攻撃、他に注意を払った状態では大した傷すら付いていない。

 全力を重ねてやっと破れる強度だ。


 しかしゴモラ兵に邪魔をされ、建造物で仲間と隔たれ、連携を取るのも難しい状況だ。


 勝負を仕掛けるにしても、一人で仕掛けてはまるで意味が無い。



 そんな中、動きを見せたのは風紀委員のアバウルス先輩。


 室内並に近くに障害物が乱立する戦場で、得意とする広域魔法を封じられていたが、拡散しない広域魔法、広域結界を発動した。

 アバウルス先輩を起点に球状の結界が展開され、周囲の建造物は重機で押されたかのように圧力を受け歪み、やがて崩壊し押し流されて行く。


 そうして拓けた、そしてソドムが建造物を構築できない領域が完成した。


 それを見た風紀委員の先輩達がそこに合流し、更にそれを見た先輩達が続々と集結。


 メービス先輩が領域内に黒泥を広げ領域を補強、更に数人の先輩がダンジョンマスター能力を不完全ながら展開させる事で、ソドムの支配を領域内から根絶する。


 そこから真っ先に動いたのはこれまた風紀委員のシュナイゼル先輩。


 シュナイゼル先輩はこの中で一番ボロボロ。

 装備は落ちないのが不思議なほど傷だらけで、回復術式を常時展開し傷は残ってはいないが、自分の血でほぼ全身が汚れている。赤く無い箇所は燃えて黒化した後のみと言う有様。


 実力だけで言えばシュナイゼル先輩はこの中でトップクラス。

 イロモノ揃い、じゃ無くてクセモノ揃いの裸体美術部を相手にしても、引けを取らないイロモノ、じゃ無くて実力者だ。

 スキルに頼らず魔術を連発していたマサフミ先輩と比較しても、直接闘ったら空洞結界を破れるかは微妙なところだが、戦力としての総合力なら上回っているとすら言える。


 しかし負っているダメージは最も大きい。


 これには理由があった。


 ソドム中央区に到るまで、シュナイゼル先輩は一度も応戦しなかったのだ。

 セイバ先輩のように素早さに秀でている訳でも無く、マサフミ先輩のように守りに秀でている訳でも無い。

 そしてそれはシュナイゼル先輩自身も自覚していた。

 それでも避ける事や守る事を徹底して、応戦し攻撃する事は無かったのだ。


 そんなシュナイゼル先輩は、ボロボロなだけで無く、全身から、いや全身を越えた領域からも激しい光を発していた。


 外から流れ込むように集まる青みを帯びた白い光。

 そして自らが発する雷のような赤黒い光。

 赤黒い雷が増す毎に、集まる白光も激しくなり、神々しく、そして禍々しく無機的な天使のような姿へと転じてゆく。


 そして抜刀。


 白光は全て赤黒い雷へと変質。


 剣から凄まじい黒き雷。

 黒き雷は空に。

 そして空を掌握。


 空は黒き雷が轟く雷雲に支配され、地上、ソドムに降り注ぐ。


 それと同時に雷雲は渦巻き、雷に砕かれ燃やされた瓦礫残骸が吸い込まれるように渦を巻き、被害を拡大。


 ゴモラは黒雷により何の抵抗も無かったかのように刈り取られ、鋼鉄製の砦のような建造物も一撃で融解し、瓦礫の渦に攫われて行く。

 この黒雷と嵐の前には新たに生成されるゴモラも建造物も、まるで意味が無い。


 堅牢な中央結界すらも、黒雷は軋ませ、何層か破ってゆく。


 まだ結界の再展開速度の方が早いが、威力自体は十分高い。


 これはシュナイゼル先輩が結んでいる“契約”、『人類を守る』と言う契約によって得た力だ。


 ステータス上における“契約”とは、契約として制限を受ける対価に力を得られるものだ。

 行動を継続的に代償とした代償魔法に似ている。

 代償魔法との違いとしては、契約を継続し続けられ無ければ、力を失ってしまう。

 捉え方を換えれば、契約内容しか出来なくなると言っても良い。

 本質的には、“契約”とは存在の書き換えだからだ。それによってリソースを集中させ、また得られるリソースを増やしている。


 シュナイゼル先輩の場合は、『人類を守る』対価に力を得られる。

 また反対に、人類の危機的状況下では、実質的に人類を守る事しか出来なくなる。


 では、何故急激に力が増していたのか。


 これはソドムが人類の脅威である為では無い。


 ソドムの力は人類の脅威足り得るが、契約は履行した結果として力を得られるもの。履行中には、達成したとは見做されない。

 結果として認められるにはそれだけの成果、もしくは時間が必要だ。基本的には、継続によって力を得られる。

 そもそもダンジョンから物理的に動けないこのソドムは、力的には人類の脅威だが、外の人類に影響を及ぼせないのだから人類の脅威では無い。


 何故力が急増したのか、その答えは『シュナイゼル先輩自身が人類の脅威になり得る』からだ。


 つまりシュナイゼル先輩は攻撃されたにも関わらず反撃しなかった事で、自分から動かなかった事で、自分が人類を滅ぼさない事で、『人類を守る』と言う課題を達成していたのだ。

 反撃を行わず、ボロボロになっていたのはこの為。


 通常なら継続期間で評価される契約履行度も、人類を守ると言う課題なら、例えば核兵器を一発防ぐだけでも十分。

 シュナイゼル先輩はその核兵器に値するだけの力を有している。

 そしてゴモラはその巧妙な擬態能力から、人類としてカウントされた。


 滅ぼす動機も力も有る存在が動かない事は、それだけで人類を守る事に繋がると言う訳だ。


 残念な言い方をすれば、見事なまでのマッチポンプである。


 尚、反撃を開始しても力を失わないのは、一部の人類が滅ぼされる事で、残りの人類へと向けられる力が無くなり、人類を救うことになるからだ。

 これまた、見事なまでのマッチポンプである。


 そんな風に攻撃を開始したシュナイゼル先輩に呼応して、メービス先輩は黒泥をかなり広範囲に広げた。

 黒雷に滅ぼされたゴモラの魂が黒泥に囚われてゆく。


 そして黒泥は嵐に巻き上げられ、雷雲と一体化した。

 雷雲が粘着質に変質し、より黒さを増す。


 やがて全ての黒泥と一体化すると、雷雲の中央が割れるように裂けた。


 そこに現れたのは禍々しい眼球。

 渦巻く何重も瞳孔があるように見える眼球。

 いや、眼球に見えるなにか。


 徐々に空間の亀裂は拡がり、目の形まで拡がると巻き上げられていた瓦礫が黒化。

 黒化した瓦礫は灰色になると灰となって崩れて行く。

 瓦礫だけでなく生成され続けてゆく建造物までも、端から黒化し灰へと崩れる。


 そしてゴモラは、直接魂を抜かれて逝く。


 全身から光の粒子や塊が流出し、ゴモラの色が抜けて、最終的にはゴモラも灰になった。

 魂のみならず、あらゆるエネルギーを抜かれ、もぬけの殻の殻すらも遺らない。


 これらは空に現れた眼球の効果。

 眼球、いや眼球のように見える何かは、高密度の魂によって生まれた理の穴だ。重力崩壊の魂版と言えば解り易い。

 つまり、空の狭間の眼球は、物質では無く魂やエネルギーを吸い込むブラックホールだ。


 シュナイゼル先輩とメービス先輩の二人によって、ソドムは中央以外壊滅状態。

 人類では無く世界すら滅亡に向かっているような、終焉の光景が広がった。



 周りは駆逐されても、ソドム中央の城は健在。


 次々と結界を破壊するも、全て破る前に新しい結界が展開されてゆく。


 そしてソドムは何度生成しても破壊され続ける都市の殆ど、中央区以外を放棄、全てのリソースを中央に集中させた。


 当たり前のように、一撃で都市を崩壊させる代償儀式魔法や、本来なら一発放つだけで広範囲の魔力を枯渇させ不毛の大地に変える主砲を連発。


 広範囲に及びつつも建造物を押し流す程の強度と出力を誇るアバウルス先輩の結界も多少の抵抗を見せただけで穿かれ、穴だらけになる。


 先輩達は絶対防御を誇るマサフミ先輩の背後に退避。


 マサフミ先輩の陰になる部分以外は、瞬く間に焼失。

 遺り積み上がっていた瓦礫の山も一瞬で融解し、街の外と区別がつかなくなる程広域に渡って燃え上がった。

 遺るのは融けている深い溝。まるで無事である先輩達が立つ場所が小山であるかの様に、瓦礫と大地は刳り取られた。


 しかもそれが何発も。


 溝はより深く広く、固形物は姿を消してゆく。


 だが、先輩達は無傷。

 マサフミ先輩の空洞結界は何層も破られるも、展開速度と層数からしたら全く問題が無い。


 問題なのは動きを封じられた事。


 シュナイゼル先輩とメービス先輩の力は元々遠隔発動が可能なので受ける影響は少ないが、真っすぐにしか攻撃を放てない先輩や、放ててもソドムの結界を破るには接近しなければならない先輩達が大勢いる。

 攻撃は最大の防御をソドムに実践された形だ。


 ソドムの主砲や儀式魔術師は一発放つ毎に散っているが、新たに生成される事で連射。

 途切れる感覚が短過ぎる。

 マサフミ先輩の陰から結界を破れる先輩は数人しかいない。


 そんな状況下で、活躍したのはまたしてもあの先輩達だった。


「ティナ! あの結界内に避難しよう!」

「急ぎましょう! カイウス様!」


 戦闘に参加していない所為でマサフミ先輩の陰に避難できなかったティナ先輩とカイウス先輩だ。

 コメディと言うレベルで爆発アフロのボロボロになっているが、ゴモラの追手から、そしてゴモラを殲滅する先輩達の大規模攻撃から見事逃げ切ったらしい。


 やはり、逃げる事に関しては超の付く一流だ。


 ソドムの結界をまたしても術式の隙間を突く事で、結界内に侵入した。

 同時に、結界の術式は乱され先輩達の攻撃で容易く崩壊。


 更にそれだけでは無く、二人の技は結界を破壊するものでは無く術式の根幹を滅茶苦茶にするものなので、内部からの攻撃は通すと言う性質も乱し、主砲が内部で炸裂した。

 主砲は自らの結界も容易く穿いたが、それでも反動は大きく、干渉されていない結界にも大きな被害を及ぼした。


 新たな結界の生成も、術式が乱された結界は破壊されるも残留しており、その場に新たな結界を重ねがけする事は出来ない。

 強引に結界を張り直される前に先輩達は動く。


 先陣を切るのはトム先輩のアルゴーⅣ。


 前に構えるのはカリギュレオン先輩特製の大盾。

 アルゴーⅣがすっぽりと隠れる高層建築のような大盾は、ソドムの主砲や儀式魔法を受けても健在。

 無傷では無く何度も消し去られそうになるが、盾の表面を覆うマグマスライムの粘液等が蒸発する事で、主砲の莫大なエネルギーを消費し、表面に貼られた魔力光変換素子が魔力を光に変えることで魔力エネルギーを散らす。


 そしてその層が破られ、合金層に到達しても、その先はまた同じくスライム層。

 カリギュレオン先輩の固有スキル〈複製〉によって、全てが突破される前に何度も複製し耐え抜く。

 また数人掛かりでアルゴーⅣに乗り込むことで〈盾術〉を発動させ、強力な武技も発動。

 慣れないアルゴーⅣの操作やバラバラな先輩の武技をハービット先輩が制御する事で束ね、儀式魔法相当の武技に昇華せていた。


 アルゴーⅣは数々の極撃を耐え抜き、乱れた結界に突撃した。

 途轍もない衝撃と共に乱れた結界の内側の結界をも打ち破る。


 一つの座標に複数枚の結界、それも高度なものを詰め込む事は出来ず、幅を縮めるにしても術を簡略化、術を使い回す事で高速演算を可能としていた事で、ソドムはそこに新たな結界を展開出来ずにいた。

 新たな結界を一から発動するには新たな演算が必要で、その演算を行うと高速展開の維持が出来なくなるからだ。

 つまり処理能力を上げるために結界の展開速度を犠牲にしても、主砲や儀式魔法を犠牲にしても拮抗は崩れる。

 ソドムには出来ない選択肢だ。


 そこでソドムは処理能力を再配分せずに変更可能なゴモラの動きを変更した。

 ソドム主砲級の、つまり広域代償儀式魔法から、各個撃破に戦闘方針を切り替える。


 大量の魔力を付与され、儀式魔法級のバフを重ね掛けされた決戦級ゴモラが続々と結界の内側からやって来る。

 その数はソドムが生成したにしては格段に少ないが、それでも百を超える一団。

 超強化は幾分か黒泥の魂抜き対策に割かれているが、それでも大国でも公民問わず国中から招集してやっと集まるかどうかと言う大戦力だ。エネルギー的には各々A級冒険者上位に匹敵している。


 三分の一はアルゴーⅣを標的に襲来し、全方面から攻撃を開始。


 アルゴーⅣは反撃しようとするも、その攻撃は中々当たらず、次々と削られてゆく。

 アルゴーⅣの機構が鎖の伸縮操作、かなりアナログな分、操縦士のトム先輩次第で巨大人型兵器とは一線を画す機敏性を示していたが、それでも超重鎧を着込んでいる状態だ。

 力は強いが素早い相手には苦戦していた。


 倒す数よりも、新たに生成された援軍の数の方が多い。


 主砲も耐えるアルゴーⅣに対し、ゴモラの与えられるダメージは微々たるものであるが、各個撃破に動くゴモラにアルゴーⅣを強化していた先輩も狙われ、内部に乗り込んでいた人以外はゴモラと直接戦っている。

 特に外から消耗部品を複製していたカリギュレオン先輩が抜けた穴は大きい。

 軽い傷でもそれを治す手段や補強する手段をトム先輩達は失っている。


 だが、そのアルゴーⅣを強化していた先輩達がゴモラを倒す事で、全体的には辛うじてゴモラに勝っていた。


 カリギュレオン先輩は再び分身を複数解き放ち、起動式大盾を展開、自身は透明マントで透明になりビームセイバーもビーム波長を紫外線領域よりも短波長側にブルーシフト。

 陽動の分身と障害物の大盾の狭間から不可視かつ高出力の斬撃を仕掛ける。


 まだヒーローに変身したままにも関わらず、繰り出すのは不意打ちだが、兎も角強い。


 力は与えられていても、戦士の感は勿論、野生の感も乏しいゴモラは不意打ちに反応出来ていない。

 大盾を足場に縦横無尽に駆け巡るカリギュレオン先輩に次々に焼き切られる。


 カリギュレオン先輩の無双状態と言っていい。

 しかし殲滅力と言う点では十全では無かった。


 透明化した事により、他の先輩との連携が取れないからだ。

 カリギュレオン先輩の透明マントは、残念ながら味方に見える仕様では無い。誰に対しても、着ているカリギュレオン先輩からも見えなくする。

 攻撃の軌道上にカリギュレオン先輩が居ても気が付く事が出来ないのだ。

 そんな状態で連携が取れる訳もない。


 だからカリギュレオン先輩は仲間に巻き込まれない狭い範囲で戦うざるを得なかった。

 そしてゴモラもカリギュレオン先輩を避け別の先輩の下へ。


 しかし他の先輩達に援軍が必要と言う訳でも無かった。

 殲滅のように圧倒的では無いが、着実に勝利している。


 ハービット先輩は振り押された大剣による武技を剣で迎えると、その勢いを利用して横回転。

 ゴモラの武技は回転で回避し自らも武技を発動。

 何と後ろに迫っていた暗殺者型ゴモラを大剣の武技の力が上値せされた一撃で両断。

 勢いそのままに大剣を振り下ろしたゴモラまでも両断した。


 アリカ先輩はゴモラをモーニングスターで迎撃。

 巨大な棘鉄球はゴモラの顔を潰そうと迫る。

 それを超強化されたゴモラは大剣でもなく普通の剣で迎撃し打払う。

 しかし視界を塞いだ間に足首には鞭の拘束。

 そのまま大技を放ったゴモラの射線上に投げ討伐。

 そして自らはモーニングスターを重りに立体機動。次なる相手の討伐に向かう。


 先輩達にとって力は有っても付け焼き刃の技しか持たないゴモラは、硬いだけの敵であるようだ。

 技が良く通用している。


 それでも、結界の突破には手を割けていない。

 ソドムは先輩達を抑えると言う目的を達していた。


 もう三分の一のゴモラはこの戦闘方針に追い込んだメービス先輩とシュナイゼル先輩を襲撃。


 こちらは難なく風紀委員の先輩達が虐殺、じゃ無くて殲滅している。


 特にメービス先輩の殲滅力は凄まじく、黒泥に染まった氷鎖で何重にもゴモラを穿き、その上で幾本もの黒泥に染まった氷槍で串刺し、最期はあっという間に黒泥に呑み込む。

 戦闘では無く良くて虐殺、もっと言えばまるで処刑であるかの様に圧倒している。


 結界への攻撃も中断されず、ゴモラごと結界に黒雷や黒槍、黒鎖を叩きつけていた。


 シュナイゼル先輩もそれは同じで、結界破壊のついでとばかりに、ゴモラを両断していた。

 超強化されたゴモラがまるで相手になっていない。

 ただ結界とシュナイゼル先輩との間にいる、それだけで終わっていた。技が当たるまでも無く、余波でねじ曲がり切り刻まれ消えて逝く。


 アバウルス先輩とユーサス先輩はそんな二人の援護、はする必要が無いと気が付き主に結界を相手にしている。

 特に障害物が無くなった事で広域魔法を放てるようになったアバウルス先輩の活躍は大きく、大きく結界が削られてゆく。

 そんなアバウルス先輩も新たな標的に、ゴモラの一団が襲い掛かって来るが、それはユーサス先輩が対応。

 ユーサス先輩からは可視化出来る程の怨念が溢れ出し、怨念は暗い炎で燃え上がる。自らに向けられていた怨念をエネルギーに変換したのだ。それを合図にユーサス先輩は凄まじい勢いでゴモラを打ち倒す。速さと力がまるで流星のように災害級だ。


 そして残りの三分の一は、その半分はイタル先輩とマサフミ先輩を襲撃。

 殲滅戦で活躍していたが、今のところ結界に対する強大な脅威とはなっていない為、メービス先輩達よりも脅威認定度は低く、メービス先輩達に向けられた戦力の半分が派兵されたらしい。


 が、その認識は甘く、簡単にゴモラは滅ぼされていた。

 片手間で対処し、ゴモラは相手にされていない。


 虐殺級の圧倒すらしていない。

 ただ近くに来たら討ち払う。

 態々攻撃しなくとも、それで十分であった。


 ほぼ結界にしか意識を向けていない。


 尚、結界への対抗手段は、マサフミ先輩は変わらず魔術の連射、イタル先輩は爆撃魔法だ。


 流石のイタル先輩も結界をリア充認定は出来ないらしい。

 しかしだからどうしたと言うばかりの威力。ソドムに再生能力が無ければ、如何に巨大で堅牢であろうとも粉々に砕けるだろう爆撃だ。


 それでもイタル先輩は威力に不満があるのか、爆撃魔法を腕に込めた。

 ついでとばかりに神属性などの力までも溜める。


 そして殴りつけた。


 余波だけでも幾つの高層ビルが倒壊かも定かでない爆風が吹き荒れ、錯覚では無く力で空間が湾曲、殴られた結界が何層も吹き飛び、やがて砕き、最後にひび割れる。

 一撃で、十層以上の結界が痕跡残らず消し去られ、十五層以上の結界は砕けたガラスのようにバキバキに、更に五層以上の結界に皹が入った。


 オマケに神話級の激闘でも辛うじて残っていたイタル先輩の装備衣服が完全に吹き飛ぶ。

 殴りつけた拳は、何故か威力を込めただけで強度強化も保護もしていないのに何故か無傷。


 桁外れの強さだ。


 日頃の行いや言動はアレだが、イタル先輩は間違いなく天才だ。

 それも創れない真なる天才。

 僕にも、どこをどうすればイタル先輩が誕生するのか解らない。

 強大なステータスでも説明出来ない部分が多い。ステータスを使いこなせていない人が大多数だと言え、イタル先輩の場合は表しきれていない。

 多分、気合で何でも出来る、そんな気までしてくる人だ。


 やはり、確実に縁結びをしなければならない人材と言える。


 きっと、確率と物理法則のみですべての星に知的生命体が生まれる世界と、イタル先輩なら、イタル先輩の方が稀有な存在だ。

 縁結びを続けても生まれるか定かでは無い。


 そして残りのゴモラは遊撃。

 それぞれ残った先輩達を襲撃している。


 そこを視ると、イタル先輩達の異常性がよく判る。


 精鋭ゴモラの強さは確かなのだ。

 技が拙いのも確かな事実だが、それでも精鋭ゴモラは十分強い。

 技の無いドラゴンが弱くないのと同じだ。流石にドラゴン程の力は無いが、分類としては変わらない。


 イタル先輩とは違い圧倒では無く、打ち合っている先輩達が多くいた。

 一対一であれば技で勝利出来ているが、複数の相手に囲まれると苦戦している。


 だが、大部分はシュナイゼル先輩達を襲撃している為、全体数は少なく、手の空いた先輩が参戦する事で善戦していた。



 そして、イタル先輩が結界を大破壊した事で、戦況は更に変わった。


 ゴモラが攻勢から守勢に転じたのだ。


 あるゴモラは結界を張り、あるゴモラはイタル先輩の前で盾を構え、あるゴモラはイタル先輩を排除しようと剣を振り上げる。


 イタル先輩は誰の助けを借りるまでも無く、攻勢ゴモラを爆破し、守備ゴモラを拳で盾や結界ごと粉砕。


 他の先輩たちはゴモラが居なくなったこの隙きに、結界へ高威力の技を放つ。


 モレク戦の時と違い、追い詰められていない先輩達の攻撃はより高度に時間をかけ構築された技で、その威力はモレク戦の時よりも高い。

 いや、ただ余裕があっただけで無く、確かな成長までしていた。

 これまでの短期間で、実力を更に伸ばしている。 


 モレクをそれぞれ倒せれるかと問われれば、まだ倒せないと答えなければならない範囲だが、恐ろしいまでの威力、暴威だ。


 もはや、何が起きているのか解らない。

 ソドム中央はそんな惨状だ。


 イタル先輩やアアアア先輩、バルグオルグ先輩による大地大気、空間をも揺がす星のような豪拳撃。

 結界は疎か、標的ではない結界周囲の大地も上下左右バラバラ、地殻変動が起きた後のような惨状を生み出し、その衝撃波は砕けた砦、小山ほどあるそれすらも吹き飛ばし、空の雲も吹き飛ばされる。


 マサフミ先輩やアバウルス先輩、メルダ先輩等による大魔術。

 全てを呑み込み全てを無に還す虚無よる大侵食、龍の息吹を再現した概念すら滅ぼす破滅の極炎、氷河による凍結と地形を変える圧力。

 虚無は空気すらも光の粒子に変え吸収し侵食域を空洞化、龍の極炎は結界そのものを燃やし辺りを融解蒸発、氷河は冷却したものを呑み込み重量を増しつつ前進。

 地形が変わるどころか地形の状態すらも変化する。


 セオン先輩やセルガ先輩による斬撃、セイバ先輩の超重ナイフの投擲、ハービット先輩の一点集中突き。

 範囲が比較的狭い攻撃でも先輩達の周囲からは瓦礫すらも消える。


 そしてシュナイゼル先輩の滅光剣はもはや都市ではなく世界も滅ぼしそうな威力。

 結界が無ければ星を斬る一撃を上段から振り下ろす。

 尚、その延長線上にはイタル先輩。何故かは深く考えないが、滅光剣は時と共に威力を増し、シュナイゼル先輩の目も鋭くなって行く。


 メービス先輩の黒泥はあらゆる形や状態となり千変万化、代償儀式魔法級の攻撃を様々な属性で行い、一人で地獄そのものを再現。

 ユーサス先輩は禍々しい呪力を軍刀に宿し、これまた結界が無ければ星を斬るとまでは行かなくとも、大地溝を生むこと間違いなしの一撃。

 反対に正真正銘勇者なソルセン先輩は神々しい光を奪った剣に宿し、同じく大地溝級の斬撃。

 ヴァンリード先輩とアルデバラン先輩はより高位のスキルを代償とした反動覚悟の極撃。


 オマケに凄まじい先輩達の攻撃の余波から逃げる為、結界を乱しながら内へ内へと逃げ惑うカイウス先輩とティナ先輩の活躍。


 等々、最後の二人は兎も角、結界付近では世界の終わりとも表現出来ないような、凄まじい惨状が広がっていた。


 そして、各々思い思いに全力を出していた為、一部の攻撃は相殺されてしまっていた。

 また、反動と余波が大き過ぎて其々の攻撃は、数発で終わる。


 しかしそこで、裸体美術部のナルサス先輩が力を使う。


「“美しくあれ”」


 すると、其々の技が相殺されない軌道に、そして余波までも影響が少ない方向に散った。

 更に負った反動すらも多少回復する。


 ナルサス先輩の固有スキルの力だ。

 固有スキル“美”。

 固有スキルと言うよりも権能の域にあるこの力は、自分も含めた対象を美しい形に校正出来るらしい。


 視ると、ナルサス先輩は転生時にどんなチートが欲しいかと問われた時、格好良く生まれ変わらせて欲しいと願ったちょっとアレな人のようだが、それをスキルと言う形で授けられ何故か強くなったようだ。


 そんな補助が入り、一気に結界は削り取れた。


 それでも満足せず再び攻撃。

 これで仕留めようと、回復術が使える者は回復に移り、それが必要な程、反動のある、更に強い一撃を放つ。


 凄まじい勢いで結界が破れ、増援のゴモラも結界外には出られない程、破壊の暴威が溢れた。


 ゴモラは全て防衛に移行。

 だが、それは時間を稼げているのかすら判らない非力な補強。

 瞬く間に破れ、次第に結界は中心へと後退して逝く。

 維持する結界の枚数が減り、演算能力に余裕が出来たソドムは新たな結界を発動するも、全面終末の如く荒れ狂っている場では脆くも崩れ去り、殆ど助けにならない。


 ソドムは再び方針を変え、簡単に生成可能な市民ゴモラや街並みを大量に生成した。

 メービス先輩のエネルギーを奪う黒泥の渦に数で対抗し、少数でも使える戦力を送り出し、攻撃を分散させる作戦らしい。

 が、余りに強大な攻撃の余波で、エネルギーを奪われるまでも無く、全滅した。幾ら生成する数を増やせど、増えるのは死体、いや死体すらも遺らなかった。


 これを視ると、先輩達は無事なだけでも凄い事が良く解る。


 まあ、攻撃の余波は結界で一部反射して来る、つまり正面方向から来るので、自らが攻撃を放ち続ければ余波は消し去る事が出来るのだろうが、それでも素晴らしい。

 正しく英雄の域だ。


 相手が住民付きの都市型で、街を破壊する英雄の反対に見えない事も無いが、兎も角先輩達は英雄である。

 見た目を気にしてはいけない。

 今回は相手の姿が悪いだけだ。


 カイウス先輩とティナ先輩も結界破壊で活躍している上に、何気に余波から逃げられ続けていて、何気に英雄の域だ。


 一般的に強い人で出来ない事を熟している。多分、歴戦のその国で英雄と讃えられている大将軍程度では、数分も持たないだろう。

 代償儀式魔法まで使って超強化されたゴモラまでも結界がいに出られないのだから、純粋な強さ以外の要素か、桁外れな強さが必要となる。


 二人は場合はどうやら其々サキュバスやインキュバスの力を使えるらしく、夢に潜り込めるらしい。

 永遠の眠りではあるが、まだ魂の残存しているゴモラの夢のような所、まだ残存している人生の走馬灯に退避する事で身を守っているようだ。

 正式な夢でも無い走馬灯に退避する事は、普通は夢魔にも出来る事では無い。

 原理的には解錠の応用のようだ。無理矢理走馬灯に混ざっている夢と言う成分に入り込んだらしい。


 この二人も、方向性さえ少し変われば英雄と呼ばれる存在になるのだろう。

 少なくとも、英雄譚ライトサーガに語られる存在であると思う。

 縁結び、はしなくても結ばれているので、視守っていきたい存在だ。



 手が尽きたソドムは最終手段を選んだ。


 結界は維持するのみで、新たな事は何もしない。


 ただ、龍脈から吸えるだけの魔力を溜め込んでゆく。


 それは明らかに使え切れない量。

 都市と言う規模を管理するソドムの処理能力を以てしても、明らかに消費出来ない莫大な魔力。


 ソドムはそんな無意味に思える行為に、殆どのリソースを割いた。


 莫大な魔力は可視化され、集めている中心部を越え、可視化される範囲がソドム中に拡がり、やがてそれは触れられる程に高い密度になってゆく。

 その行為自体は先輩達にとって何の妨害にもならない。触れられるレベルで高密度の魔力でも、風と同じ程度の圧力しか生まない。

 高密度だが、技と言うレベルまでには収束していなかった。


 しかし、ソドムの企みに気が付いた先輩達は、一斉に退避。


 瓦礫が増えた都市を爆走する。


 その間にも魔力は貯められ、中央に収束してゆく。


 先輩達が攻撃を止めても、ソドムは新たな結界を張り直さない。

 それ程、制御が効かない莫大な魔力だからだ。

 もはや自らが集めた魔力によってソドムに余裕は無い。

 制御を離した途端、魔力が暴発してもおかしくは無い。


 そして、ソドムが実行した最終手段、それは魔力の暴発、自爆だ。

 それもただの暴発では無く、莫大な魔力を有した状態の自らを対価とした、つまり魔力を保有し対価としての価値を限界まで上げて発動する代償魔法。


 通常のソドムなら、追い詰められてもこの手段は取らないだろう。

 しかし、このソドムはダンジョンのソドム。自己保存では無く、ダンジョンの守護を最優先とする。

 ゴモラがソドムの為に次々と代償となるのと同じく、ソドムもダンジョンの為になら自らの犠牲を厭わない。

 外敵の排除を至上とする。


 収束されて行く魔力量からして、一つの世界を吹き飛ばす程の威力が出るだろう。

 集まった魔力からして、龍脈を複数増やしたから可能な量で、一つの世界からかき集めても集まらない量だ。


 ただ逃げても、仮にこのダンジョンの果てに退避しても逃げ切れ無いと判断した先輩達は、再びソドムの外で集結する。

 各々逃げるのでは無く、対抗するようだ。

 正しい、と言うよりもそれしか無い選択肢である。


 魔力光に満ちたソドムは、今度はソドムそのものが外側から光に変換され始める。

 魔力は紅黒く染まり、光は中央に収束。


 自らを対価とした代償魔法が始まった。


 魔力束は一際輝き、破壊は始まった。


 先輩達は即座に対抗。


 各々、正真正銘の全力を尽くす。


 最前に出たマサフミ先輩が空洞結界で勢いを遅らせ、その間に各々力をチャージ。

 準備が整うとマサフミ先輩はテリオン先輩の操縦する高速飛行艇で退避。


 全力の一撃はナルサス先輩の力により、最終的にシュナイゼル先輩、ユーサス先輩、ソルセン先輩の神剣魔剣聖剣に収束。

 三本の光の剣が爆光を切裂こうと天から振り下ろされる。


 力は拮抗。

 莫大なエネルギーが一部弾けて世界を破壊する。


 先輩達は反動覚悟で更に力を込める。

 吐血や破裂した血管から血を流す先輩が続出する。

 肉体的にもそうだが、表面化していない部分の摩耗も激しい。


 メービス先輩が黒泥に囚われた魂を対価とする代償回復魔法を発動する。

 劇的な回復と、それすらも捧げ莫大な消耗を繰り返す先輩達。


 光の剣は爆光に食い込み押し返す。


 しかし、光の剣は砕けた。


 爆光のエネルギー、そして収束した先輩の力に耐え切れなかったらしい。

 即座にマサフミ先輩が最前に降り立ち空洞結界を発動。

 また時間を稼ぐ。


 先輩達は再び力を溜めるが、収束する器はもう無い。


 しかし立ち止まらず全力を振り絞る。


 そして先輩達は奇跡を掴んだ。

 器があった、つまりエネルギーが収束したのだ。


 収束先はまさかのイタル先輩、その生身。

 生身で世界を滅ぼせる爆光と拮抗した莫大なエネルギーを受け止めた。


 その力は更に拳に収束。


 下から拳を天高く振り抜く。


 爆光は横に大拡散、拳に捻じ曲げられると、天に投げ飛ばされ、その向きに大爆発した。


 先輩達は無事。

 マサフミ先輩が逃げ遅れて衝突の余波を浴びているが、マサフミ先輩も無事だ。


 何となく結果を視ると、イタル先輩の生身や、マサフミ先輩の空洞結界だけでも防げた気がしない事も無いが、深くは考えまい。


 今は偉業を成し遂げた先輩達を称賛しよう。



「正しく英雄譚ライトサーガの一場面、先輩達は真に英雄に相応しい人達だったね」

「はい、そんな方々の縁結びが成功していないのは残念ですが、それを含めても素晴らしい光景を視れてわたくしは満足です」

「縁結びについては今後に期待しよう。一緒に戦った経験はきっと確かな絆だから」

「それもそうですね。人によってはそれで十分かも知れません」


 次が、先輩達の今後が楽しみだ。


 先輩達がとても輝いて見える。


「僕達も、いつかはあんな困難に立ち塞がれても、乗り越えて進んで行けるかな?」

「ええ、きっと。一歩一歩協力し合えれば、いつかはどんな困難も乗り越えられる筈です」


 いつか僕だって先輩達のような英雄にだって成れる。

 コアさんと一緒なら。


 あの輝く先輩達の様に。


「「あれ?」」


 何故か、本当に眩しい。

 憧れを込めて見ているから輝いて見えるのでは無く、先輩達は本当に輝いている。

 いや、正確には先輩達と僕達の間に眩し過ぎる光が在った。


「何か、近付いていない?」

「奇遇ですね。わたくしもそう思います」


 それも光は近付いて来る。


「何か、熱くない?」

「奇遇ですね。わたくしも同意見です」


 僕達は顔を見合わせる。


「「うわぁぁぁーー!!」」


 そして叫んだ。


 僕達に光が、イタル先輩に弾き飛ばされ、先輩達の技の威力まで増量されたソドムの爆光が襲いかかる。


 そして直撃した。



「「コホッゴホッ」」


 煤けて咳き込んでいると、いつの間にか退避していた薄情なゼンが戻って来た。


「無事、倒したようだな」

「流れ弾が来るのを知ってたのなら教えてよ!」

「見れば判っただろう? 動かない事に定評がある俺すらも気付いて避けたんだぞ?」

「…………」


 妙な説得力のある言葉に、僕は何も言い返せなかった。


 加えて、それだけ僕達が熱中していたのも事実だ。

 やはり縁結びは上手く行かず、終いには極大の流れ弾を浴びる羽目になったが、得たものは、視ていただけだが大きかった様に思える。

 英雄とは道を照らすもの、その勇姿は僕達も共に歩ませてくれる。

 今回は脅威に立ち向かうと言う単純な過程しか無かったが、それでも憧れてしまう心身の強さがそこにはあった。それだけで十分だ。


 きっといつの日にか、この光景は情景となり、僕達の背中を押してくれるだろう。


 何だかんだで満足して僕達はダンジョン内から出る。


 今回のダンジョン調査はこれで終了だ。

 結局、ダンジョンの縁結び効果については解らないままであったが、良いものが視れた。

 急ぐ調査でも無いし、特に指示も無い依頼でここまでしてくれたのなら、先輩達の成果としても言う事はない。


 ダンジョンの外は、すっかり日が暮れていた。


 一日としても、今日は、入学式後の初日、学生としての初日は素晴らしい日であったと思う。

 きっと、生涯今日という日を忘れる事は無いだろう。


 まあ、忘れると言う都会文化は僕には難しく、まだ気にしない事しか出来ないのだが。


 それでも忘れないように、一つ一つ大切に今日という日を刻み込む。


 手をイタル先輩に差し出すシュナイゼル先輩。

 敵対していた二人にも絆が芽生えたようだ。


「おう!」


 手を握るイタル先輩に、シュナイゼル先輩はもう片方の手で包み込み、熱烈な握手。


 他の裸体美術部と風紀委員の先輩たちも。


 カチャリ。


 …………。


「やっと捕まえたぞ、イタル=ゴトウ! お前をマンドレイク不法所持の現行犯で逮捕する!」

「汚えぞお前!? 俺達、一緒に戦った仲だろうが!?」

「それとこれとは別だ! 大人しく署まで来てもらおう!」


 連行されてゆく裸体美術部の先輩達。


「これで、一息着ける」


 歓喜の涙を流すのはダンジョンの外で待っていたサカキとナギから報酬を受け取ったハービット先輩。


 その肩には優しくポンポンと手が置かれる。


 そこに居たのは七三分け銀縁メガネにネクタイを締めた全裸の紳士。


 ハービット先輩の報酬を、戦利品として回収していた装備ごと没収する。


 借金相手である露出教の使者らしい。


 ハービット先輩の涙は止まらない。

 止まらないが、それは感涙では無かった。


「今日も豊穣だったね」

「ええ、豊穣でしたね」


 明日が楽しみだ。





 《用語解説》

 ・アルゴーⅣ

 異世界転生(てんしょう)者であるトムにより造られた多ギミック巨大人型兵器アルゴーシリーズの第四世代。

 様々な乗り物に変形出来るなど多彩なギミックを有し、その装甲や主要機関には貴重なミスリルやアダマンタイトが惜しげも無く使われている。現トムの最高傑作。

 総工費は簡単に複数の国の国家予算が吹き飛ぶ額で、加えてそれだけの資産が有っても揃えられない希少素材が惜しげも無く使われている。トムは自分で材料を調達して建造した。


 今回はミスリル鎖で操縦すると言うかなりアナログな方式で操縦していたが、通常のレバーなどで制御出来る操縦室モードもある。

 ミスリル鎖が人で言う神経や筋肉の変わりである事は変わらないが、操縦モードの場合はそのミスリル鎖を制御する制御機関、そして動力源からのみ力が供給される。

 ミスリル鎖で操縦したのは単純にその方が強いから。直接力が伝わり動力以上の性能も、操縦者自身が有していれば高性能鎧として機能する。


 通常の操縦室モードでも、一般人がドラゴンを抑えられる程度に高性能で、過激な動きに耐えられる事を重視し設計されているので、一般人でもドラゴンに勝てるかは兎も角、負ける事はない。


 ただし、欠点として燃費が些か悪い。

 一流の魔術師でも、一日魔力を込め続けて三分の稼働がやっと。

 莫大な魔力が無ければ非常用の兵器にしかならない。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

今度こそ正真正銘の今章最終話です。

閑話と登場人物紹介を挟み、次章に移行したいと思います。

閑話は完全縁結びの答え合わせを予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ