第七十一話 モレク決戦あるいは決戦完編前編
すみません。やはり二話に分割する事になりました。この後に完編後編が続きます。
本編はこれで今年最後の更新です。
先に仕掛けたのはソドムサイドだった。
全ソドム全モレクによる一斉攻撃。
空が、破滅の色に染まる。
各地のソドムからは最大出力の“ソドムイレイザー”が、モレクからは残柱全てのブレスを束ねた収束ブレスが照射された。
剰りのエネルギーに触れてもいない射線下一帯を焼き滅ぼしている。
先輩達はそれに対して冷静に動く。
まず、シティーコアを操作して範囲が限定される代わりに防御力の高い局所結界を展開。
その上でトム先輩とカリギュレオン先輩が開発した新兵器を出動させる。
新兵器は空飛ぶアダマンタイトの大盾。
外見は三角形の戦闘機。
しかし上面を正面にして大盾となる。
何重にも張られた局所結界に極撃が到達。
壁のように分厚い結界と極撃が衝突する。
途端、防がれた極撃の残滓が周囲を大破壊。
幸い結界は都市から離れた所に展開していたが、まるで都市が山頂に築かれた都市であったかのように、周囲の大地は蒸発し抉れ融けまた蒸発し爆発しと、とんでもない速度で消えてゆく。
この地域にも降り注いでいた雨は、地に触れる事すら出来ずに蒸発。
莫大な魔力を注ぎ続けている分厚い結界も、まるで鍋の中の氷であるかのように消える。
そうして何層も結界を突破。
そこらの都市を、下手をすれば国を一撃で葬るであろう戦略級代償儀式魔法すらも受け止められる、龍脈接続した都市核の局所結界が幾重にも突破された。
最後の一枚も突破されるかと言う時に、アダマンタイトの大盾は到着。
シティーコアから莫大な魔力の供給を受け、最硬のその機体を更に硬化、あらゆる強化を加え最後の結界を破った極撃を受け止める。
そして押し退けられないよう、魔導ジェットエンジンを最大出力で極撃を押し返す。
強化しても尚、飛び散る融解したアダマンタイト。
アダマンタイトは一度鍛え上げてしまえば、元々破壊不可能と言われているにも関わらず、更により強固に固定される。
それこそ金属性魔法でなければ太陽に投入しようとも無意味なレベルの強度だ。
融解しようものなら、神器タイプの太陽、地形では無く神の管理する乗り物としての太陽や、神の腹中としての大地の焔に当てるくらいしか方法が無い。
そんなアダマンタイトに強化を施しているのに融解。
流石は龍脈まで手にしている神の領域に存在する神話の魔物の極撃だ。
防がなければ収束型の攻撃であろうとも、大陸消失規模の被害が出ていた事だろう。
寧ろそんな神話の相手に蒸発では無く、融解程度に済ませている方が凄いとも言える。
アダマンタイトの大盾は厚さを四割ほど融かされるも、遂にはソドムの極撃を防ぎきってみせた。
しかし全モレクの収束ブレスは防ぎきれていない。
大盾は完全に消失してしまった。
厚さ十センチメートル、アダマンタイトの盾としては破格の厚さを誇る新兵器も、残骸としても残っていない。
そのまま到達しそうになる破滅のブレスに、トム先輩のアルゴーⅣが特製のアダマンタイトの大盾を持って駆け付ける。
「“グランドキャッスル”!!」
そしてトム先輩は〈操機術〉でアルゴーⅣを自らの一部とし、〈盾術〉〈鎧術〉を用いて武技を発動する。
「“コキュートス”!!」
「“アイスエイジ”!!」
「“アブソリュートゼロ”!!」
それをメービス先輩達は、冷却し援護する。
更にその後ろではカリギュレオン先輩が組み立てていた魔導砲の準備をしていた。
龍脈から時空がねじ曲がる程の魔力を収束させている。
アダマンタイトの砲身の内側にミスリル鍍金を施した砲も、既に赤熱し限界そうだ。
「今だ!!」
拡声魔法で拡声したカリギュレオン先輩の声が街中に響き渡る。
それを合図にトム先輩は横に捌ける。
一拍も置かずにそこには青白い極光線。
それがモレクの赤黒い収束ブレスと正面から衝突する。
魔導砲は収束ブレスを呑み込み、押し返す。
同時に後ろに弾けたモレクの収束ブレスが抉れていた大地を更に蒸発爆破、既にそれが地殻まで穿いたのか融けた地表なのか判らない有様に変える。
魔導砲が押していた拮抗はちょうど両者から同じ距離まで行くと完全に拮抗した。
押す事も押される事も何処かに弾ける事も無く、正面からぶつかり合う。
そして、前にしか行き場の無いエネルギーは大爆発を起こした。
空まで届く程の大爆発。
いや、実際に雨雲まで到達している。
吹き飛ばしたりはしていない。
何故か拮抗し、それがまた新たな魔力の衝突を生み出している。
おそらくは雨雲はコアさんの呼び出したものだからだろう。
雨雲は言い換えると、この世界の絶対管理者の生み出した世界の理だ。
ダンジョン内におけるコアさんの力はそれほど大きい。
言わば原初の言霊で呼び出されたものだ。
僕のメガフラッシュも重なり“大災害”と変わらない。
視たところ、一部なら比較的弱い力でも吹き飛ばせるが、広範囲に力を加えるとその力が顕在化するようだ。
変化させられても消せはしない。消す程の力を加えると理としての姿を表す。
そして雨雲まで到達したのに雨雲を吹き飛ばせないのは、大爆発の力がそれだけ強い証拠だ。
大爆発が環境を変える程の力を秘めていると言う証拠。
爆発は遙か遠く離れた筈の二都市までそれぞれ届き、それは都市結界で防げる程度だったがその他の場所の被害は凄まじい。
物理的な破壊以外にも、魔力が乱れに乱れている。
天からも地からも魔力のスパークが迸り、各地で魔力の密度が過剰になり具現化、反対に魔力に解けてしまった物質までもがで始めていた。
極撃同士の魔力だけでなく、龍脈までも引き裂かれ、そこからも過剰な魔力が漏れている。
その龍脈から逆流までしたようで、不規則に破壊された箇所も数え切れない。
元々大量に龍脈を設置した事も悪手に回ってしまったようだ。
煉獄の風景を越え、原初に回帰してしまっている。
そんな時、各地で一斉に光が昇った。
総攻撃を受けた時点で、多くの先輩は都市から出立していた。
都市防衛は、受け身ながらも陽動であった。
先輩達は先のモレク戦で、先輩達はモレクがブレスの後反動で動けなかった事を忘れていなかったのだ。
必殺が最大の隙と、攻撃を察してすぐに行動に移していた。
莫大な魔力を消費し、極撃の核が発熱などによって極撃を中断せざるを得なくなると、潜んでいた場所から一気に奇襲。
初撃から全力の一撃を叩き込んでいた。
各地から昇る光、後から伝わる衝撃波や揺れ、轟音はいつまでも終わる気配がない。
猛撃を絶え間なく繰り返しているからだ。
先輩達の攻撃は殆どがソドムの主砲の出力に遠く及んでいなかったが、技としては、限定範囲の攻撃としては力任せと言えるソドムの極撃よりも数段優れていた。
消耗した後のソドムではまともな抵抗が出来ていない。
例えばシュナイゼル先輩はまず全力である天使のような姿になり、限界まで力を収束していた聖剣を一閃。
聖剣は他の色を許さないような白き光の剣となり、ソドムを真っ二つに割いた。
咄嗟に結界を多重展開した中央の城以外は、一直線に深い断崖の谷が引かれた。
余波でその周りの設備は壊滅。
追い打ちをかけるように聖剣を城に向けて振るい、谷を引いたのと同等の破滅の光を纏った斬撃、範囲が狭いだけで同じ力の籠もったそれを何度も放つ。
防衛戦力は最初の一撃で消滅した為、ソドムは結界を張って守りに徹するしかなく、その守りも全開攻撃の影響で消耗し大した術を行使出来ず、やがて破綻。
ソドムの核は真っ二つに斬られ、蒸発した。
ソドムの単独討伐だ。
そんな偉業を成し遂げたのはシュナイゼル先輩だけではない。
名前までバグっているアアアア先輩もそうだ。
「“ステラ”!!」
拳に空間がねじ曲がる程の輝く魔力を込め、空気を弾く速さ力強さで殴る。
一発目。
ソドムはノーダメージ。
バグった、もしくは理に反するエネルギーが理に修正されてしまったようだ。
二発目。
アアアア先輩の服だけが弾け飛んだ。
下だけ……。
普通は弾けても全部か上だけでは無いだろうか?
これもバグなのか、それとも裸体美術部の先輩達はこんな運命の下にあるのか?
三発目。
遂に城の周りだけが蒸発し消し飛ぶ。
四発目。
ノーダメージ。
五発目。
ノーダメージ。
六発目。
雨雲に穴が空く。
上への反動のみが現実として残ったようだ。
七発目。
遂にソドムは残った中央の城ごと消し飛んだ。
残るのは跡地に残る巨大な拳の型。
バグによって確率攻撃になっているが、その威力は凄まじい。
反動でアアアア先輩は吹っ飛んでお星さまになっているが、それはご愛嬌と言うものだろう。
普段とは違う戦い方をする先輩もいる。
イタル先輩だ。
ソドムをリア充認定出来なかったらしく、いつものリア充爆発能力を使わずに侵攻していた。
無詠唱で爆撃魔法を使い、例え建物が何棟進路を塞ごうとも道を選ぶ事なくこじ開けて真っ直ぐ疾走。
片手に性剣“朝断ち”を持ち吹き飛んで来る破片は切払い、止めようとするゴモラも序とばかりに切伏せる。
なんの障害も無かったかのように城まで駆け抜けると、挨拶代わりに爆撃魔法。
無詠唱で強引に何発も発動する。
イタル先輩は爆発に適性があるとは言え、本来無詠唱で扱える程の技術は持たないが、反動を強靭な生命溢れるその身で受け止め、極めて強引に発動している。
限りなく代償魔法に近い。
が、反動にびくともしない事で当たり前のように発動している。
一発一発が結界も魔法的付与無い城なら、余程大規模でない限り全壊させられる程の威力を秘めていたが、ソドムは無事。
結界は数枚破るも、本体は無傷。
今度は無詠唱で神属性魔法“グングニル”を複数同時発動。
貫通特化の神槍は結界を穿き、あっさりソドムのコアを破壊した。
イタル先輩、シンプルに強い。
それも神属性魔法の無詠唱複数同時発動など神々でも難しいレベルの事だ。
神属性魔法は神の力と言うよりも、それを再現した力に過ぎないが、それでもスキルレベルが高ければポンポン使えるものでは無い。
まず魔力だけで発動できるものでは無い。
神力、神の力が必要だ。
そして神力はまず用意出来るものでは無いから、代償魔法、別の力、この場合命などを代償変換して発動する。
仮に神力が宿っていても、身に余るその力は動かそうとするとその身を傷付けてしまう。
イタル先輩の場合は何故か神力も宿しているようだが、それでも無詠唱複数同時発動などとんでもない。
普通は人としての形を保てなくなってしまう。
しかしイタル先輩は無傷。
あらゆる面で理論が破綻するほど頑丈なようだ。
代償すらも命を削らずに有り余る生命力で代用していた。
普通に人の域を超えている。
英雄の域とかそんな域では無い。
別の生き物ですらなく別の存在と言って良いほど特殊だ。
構造上は普通の人なのに、驚異の強度。
外だけで無く中も、中の方が恐ろしく強靭て、奇跡と呼ぶしか無い。
最終試練すらも、あっさり超えてしまいそうな気すらする。
やはり是が非でも欲しい人だ。
ただやはり手放しで褒める事が出来ない人でもある。
視ると、無詠唱だったのは速効性を優先しての事では無く、そもそも詠唱を覚えていなかったかららしい。
暗記は苦手なようだ。
神の力の代償と暗記を天秤にかけて、暗記を選ぶ人は多分イタル先輩だけだろう。
単騎以外にも、チームプレイでソドムを討伐した先輩達の活躍があり、十都存在したソドムは、一都はゼンのコントロールコア誤操作で壊滅、今の出撃で八都壊滅と、初めのソドムだけになった。
一方、速攻で圧倒した先輩達も無事では無い。
ソドムやゴモラからの攻撃では傷付いていなかったが、全力かつ速度重視で無詠唱や武技の連続発動を繰り返したらしく、かなり傷付いている。
回復薬を使って外傷も内傷も既に回復済みだが、ガタガタだ。
回復薬では回復しない部分まで消耗してしまっている。
例えば魔力や生命力の脈。
傷こそ塞がれているが、強引に広がりかなり乱れている。
そして強力な力の連続行使で属性が偏ってしまっていた。
例えるなら、龍の力を使い過ぎて龍に変質してしまうアレの、自分起源版。
残念な例えをすると電流を流したコイルの核。鉄が磁石に変わってしまうようなものだ。
流石に龍への変質ほど深刻でもないが、続ければ存在が変質してしまう可能性がある。
そして多くの場合、変質は成功せず命を落とす結果となるだろう。
この症状を治すのは難しい。
回復魔法ですら帯びてしまった力と反発してしまう可能性が高く、明確に何を帯びたかが判明し、その症状専門の回復魔法が存在する症状で無ければ回復は困難だろう。
治療法と対策法は慣れる事だ。
トレーニングのように積み重ねれば人の身のまま耐性を付ける事が出来る。極めればシュナイゼル先輩の天使モードのように全身に宿し一体化する事も出来る。
反対に積み重ねる以外にも、何もせず安静にしていれば偏りは拡散し回復もするだろう。
が、慣れるなんてこの場で出来る事では無い。
安静にもしていられない。安静でいなければならない時間は、軽い症状なら兎も角、先輩達レベルの出力では、慣れる為に必要な時間と大して変わらないだろう。
幸いにして先輩達はシュナイゼル先輩のように既に身に宿す類の技を使えている事から、同系統の耐性をある程度は身に着けている。
しかし使ったのはそんな実力を身に着けてもなお、全力の一撃。
身に余る力だ。
今すぐどうこうなる程ではないが、また全力で戦うような事があれば悪化では済まないかも知れない。
そしてその全力での戦闘は不可避だ。
勝とうが負けよろうが厳しいものとなるだろう。
それでも先輩達は躊躇う事なく決戦の舞台へと向かう。
その歩みは止まることなく、その眼差しは真っ直ぐ前を向いていた。
その眼差しの先にいるのは十三体のモレクと、一都のソドム。
極撃の余波でモレクの場合は口が融け、ソドムは中心から極撃を放った方向に巨大な溝が遙か遠方まで刻まれているが、その存在感は未だ健在。
龍は眠っていても龍。
常人には傷一つ付ける事など出来ない。
そんな圧力を伴ってそこに君臨していた。
その圧力は先輩達の倒したソドムのものよりも大きい。
尚、存在感で言えば残ったソドムが上だ。モレクよりも倒させたソドムの方が大きい。
これはソドムの方が高位に位置する存在だが、戦闘力と言う基準ではモレクの方が上だからだろう。
ソドムは強大でも街だ。
防衛力に関しては高いが、街と言う性質を持つ為に攻撃力は低い。
街は攻める存在では無く、どんなに堅牢であっても攻められる存在だからだ。
その防衛力も、巨大な規模に対応するように分散している事から面積あたりの防御力は低い。
単騎としては格段にモレクの方が強い。
龍脈から魔力を吸い上げ強引に出力を引き出せるここのソドムと比べてもその事実は変わらない。
寧ろモレクまで龍脈と接続されていて、それを十全に扱えるかは兎も角、モレクの戦闘力の方が数段上だ。
そしてただ一都残ったソドムも、他のソドムの力を使って回復した時の道を辿って、ソドムの存在しなくなった龍脈を掌握している。
その魔力は湯気のように可視化され、外に溢れている。
既にソドムには並の龍脈を上回る魔力が宿っていた。
崩壊した街並みもほぼ元通りに再生し、それを超えて首都規模に展開し始めている。
城壁はより強固に高く積み上がり、ゴモラ兵もその規模に合わせて増員。
数百年もの間、繁栄し続けてきた首都の規模に成り上がっていた。
視ればランクまで上がっている。
一つ上がっただけだがソドムのランク17。
現れたゴモラもただのゴモラでは無く、ゴモラガーディアンなど、誘惑だけでなく歴としたソドム守護の役割を持つゴモラまで生まれていた。
強さは魔力によって作られた欲望で強化されたゴモラと大して変わらないが、その強化プロセスが省略された事で生成速度が段違いに速い。
総じて首都規模の砦、それが今のゴモラだ。
しかし先輩達は止まる事が無かった。
全速力で進行し、開戦した。
「“核撃”!!」
初手はアバウルス先輩達の核撃魔法“核撃”。
核兵器の威力を再現した戦略級の大魔術。
因みに原理的には核融合である。
そんな魔術でソドム一帯は光に包まれた。
音すら消し去る大爆発。
が、ソドムは当然のように無傷。
都市結界が完全に防ぎきった。
その結界にすら亀裂の一つ無い。
モレクに関しては結界すら張らずに無傷。
何事も無かったかのように、先輩達を待ち受ける。
だが、そんな事は想定済み。
光が収まると先輩達はモレクの目前に到着していた。
「“無斬”」
セルガ先輩はすれ違いざまに剣も持たずに居合い切りの動き。
すれ違う毎に同じ動きをする。
モレクに変化は無い。
そこに続けてアダマンタイトの剣を錬金したソルセン先輩が突撃。
セルガ先輩の通り抜けた道を駆け抜け、“聖刃”を宿した剣ですれ違いざまに斬ってゆく。
その効果は絶大で、次々にモレクには大きな斬り傷が爆ぜたように生まれた。
セルガ先輩の時点で、見えない細い斬り傷が入れられており、ソルセン先輩はその傷を斬りつけ、傷口を拡げたのだ。
モレクは斧杖を振り上げる。
しかしそれが二人に届く事は無かった。
モレクの腕に衝撃波を伴いながら衝突するナイフ。
関節の柔らかくないモレクはその反動で後ろにひっくり返った。
セイバ先輩の超重アダマンタイトナイフだ。
持つだけで地面が割れる超重のナイフを刻まれた転移術式で手元に戻し、何度も攻撃に移ろうとするモレクに投擲する。
そうしてバランスを崩した所に、残りの先輩達が突撃。
各々大技を繰り出してモレクの体勢を完全に崩した。
そこからは猛攻。
メービス先輩は冥獄から幾つものも氷鎖を召喚。
モレクに高速射出し、環の一つ一つに付いた刃でモレクを攻撃しながら縛り付け締め付けて行く。
氷鎖はモレクに密着してからも高速で動き続け、凄まじい火花を上げる。
モレクは抵抗するが、元々固定はされず動き続ける氷鎖は引き千切れず、密着している為に炎も使えない。
一方的にやられていた。
ただ刃で削り取るだけでなく、肉体を失った亡者が肉体を取り戻そうとするが如く、氷鎖に宿った亡者がエネルギーを奪い、冷却すると同時に表面だけだがモレクの肉体を支配。
氷鎖に宿った冥獄の亡者は耐久限度を超え次々と光となって開放、まるで燃え盛る炎であるかのような勢いで開放されてゆくが、時間が経つと共にモレクの表面は乾いた土のようにポロポロと崩れて行く。
遂には炉の炎も暗くなり、モレクは地に伏した。
そのまま土塊に変わる。
氷鎖の召喚はその時点で解かれる事なく、次のモレクへと伸びてゆく。
今度は拘束が主。それも動きを阻害する程度。
圧倒していたようには見えたが、その力の動力源となる亡者の消費が激し過ぎたらしい。
しかしセイバ先輩の援護と合わせ、一瞬の隙が普通の隙に変わる。
援護としては十分。
「“ダークネスバイト”!!」
現にヴァンリード先輩はその時間で大技を組み上げた。
深紅の眼を持った漆黒の影、深紅の光を帯びた漆黒と言う謎の存在が無数に現れ一斉に暗黒の槍を突き刺す。
ヴァンリード先輩もステッキの先に暗黒の槍を生み出し合流。
モレクはその程度では穿かれなかったが、影は全身深紅の光に包まれると槍を遺して消滅、光が槍に吸い込まれると槍も輝き一瞬で伸長、一斉にモレクを穿いた。
モレクは鮫に喰われたかのように、穴だらけに。
モレクは穴から灰になって消えた。
因みにこれはヴァンリード先輩流の代償魔法。
スキル、今回の場合は〈槍術〉を代償に捧げた大技だ。
ヴァンリード先輩は大罪スキル〈暴食〉の所持者。血を媒体にスキルを奪える。
そうして奪ったスキルを貯蔵し、具現化させたのが漆黒の影。そして代償に捧げる対価に高出力を得たようだ。
強奪系スキルの賢い使い方である。
「“アルティメットグローリー”!!」
アルデバラン先輩も原理的には似たような大技。
違いは大罪スキルが〈強欲〉である事と、スキルを宿したのが剣である事だ。
剣に宿したスキルを対価に、高火力を生み出している。
宿していたスキルは〈火属性魔法〉〈雷属性魔法〉〈風属性魔法〉〈剣術〉〈爆撃魔法〉等々。
それを対価に天候そのものがそこにあるような、天まで届く渦巻く力を剣に宿し頭上から一振り。
モレクは刳り取られ、消失してゆくように両断され、僅かに残ったモレクの端はすぐさま灰となった。
一体モレクが倒れる毎に、倒した先輩は次のモレク討伐の援護に回り、加速的にモレクは倒れて行く。
イタル先輩、シュナイゼル先輩辺りは既に二体目を倒している。
出し惜しみをしない先輩達はモレク相手でも優位に戦っていた。
ソドムからの援護射撃や援軍も現れたが、それらはアバウルス先輩やマサフミ先輩達、広域殲滅の得意な先輩が対応。
攻撃を撃ち落とし、援軍を焼き払いつつ、常に高度な結界の展開を強制してソドムの力を削ぐ。
幾人かの先輩は彼らの護衛に専念。
後ろを振り向く事すらせず、背中を任せている。
因みにマサフミ先輩だけは、ソドムの方向の前線に立たずにモレク達の真っ只中に陣取りながらの広範囲攻撃。
空洞領域結界を展開し真ん中に立つことで、攻撃を避ける為の障壁代わりになっている。
前の時とは違い、領域の中に入れる訳ではないから拒絶の力を存分に発揮してどんな攻撃にも耐える絶対防御の力を遺憾なく発揮している。
本人はボッチ力を具現化までしているのに、周りは入れ代わり立ち代わり盾として陰に隠れ、非常に賑やかだ。
尚、範囲攻撃での使用魔術は“白亜の夜空”、大絶滅の空を再現するが如く、白熱した炎槍を空を埋め尽くす程、連発する技だ。
〈火属性魔術〉だけでは無く〈延焼〉や〈放火〉スキルと言った、そもそもどうやれば獲得出来るのか定かでないスキルまで揃えているようで、一発一発がかなりの威力。
白炎槍一発でも、そこらの城門なら貫通、爆破でも燃やすのでも無く熔かし貫通させる事が可能な火力と物理強度を有している。
しかしそれでも得られている結果はイタル先輩の援護に過ぎない。
ソドムを覆う結界は破れていないからだ。
結界を抜けて来たソドムの攻撃や、ゴモラ軍にしかダメージは与えられていない。
結界は都市一つを覆う超大規模結界だが、ソドムは豊富過ぎる魔力で限界まで強引に強度を上げ、修復力を上げていた。
罅や傷は何度も付けていたが、どれも表面に留まり次の瞬間には再生している。
幸い流石のソドムも過剰な魔力を制御しながら張れる超大規模結界は一枚だけのようだが、マサフミ先輩達は攻撃と言うよりも防衛しか出来ていなかった。
それでもソドムの攻撃は一切通していない。
防衛は完璧だ。
ソドムの結界に阻まれ潰れ拡がった先輩達の攻撃は、ソドムの結界から出て来た存在をその場で焼き尽くしている。
龍脈経由で結界の外に直接召喚されても、面のと言える程の密度がある攻撃の前では無意味。地上は勿論の事、空中に放たれた攻撃も残さず焼却。
矢の一本たりとも、先輩達の元に届く事はない。
そうしている内に、全てのモレクが倒れた。
援護としても完璧であったようだ。
モレクからは囚われた魂の光が空へときらきら昇り、破壊され尽くした戦場跡はダンジョンの修正力で元の地形に再生してゆく。
それに伴って獄炎も鎮火。
地獄と化していた場所は元凶が滅びた途端、元に戻りつつある。
早送りなその光景は、世界の救われた瞬間であるかのように神秘的だ。
僕はその光景に合わせてメガフラッシュを止めた。
コアさんも何も言わずに豪雨を晴らした。
コアさんもこの光景に見惚れたようだ。
「行こうか?」
「行きましょう」
行き場所を告げずとも伝わった。
僕達はダンジョン入口の上空から、先輩達のいる階層に転移する。
何の反応も見せなかったゼンも遅れず付いてきた。
ゼンも同じ気持ちだったらしい。
彼等と同じ場所で、視届けたいのだ。
そんな中、真の最終決戦が幕を上げた。
《出張モブ紹介簡易版》
・セルガ・アービス
彼が主人公の物語に名前を付けるならば、【無刀の剣士】である。
“無斬”は〈刀術〉による武技。〈剣術〉でも可能。
速さや威力よりも斬る事に特化した居合い斬り。風を斬る音すらさせずに、斬れていない様に見えるほど正確に斬る。重い大木を斜めに斬っても暫くは倒れない。
かなり高等な技で、特別強大な力は必要としないが、刀術の高い技量を必要とする。
・メルダ
彼女が主人公の物語に題名を付けるのならば、【無能と呼ばれた私は大魔術師〜うっかりやり過ぎる事が多いので、無能の肩書には大変お世話になっています〜】である。
“アイスエイジ”は〈氷属性魔術〉による魔術。現実的に発動するなら莫大な魔力や〈環境魔法〉〈天候魔法〉などが必要。メルダは属性魔法が使えないので後者全てを用いて発動した。
氷河期を創り出す大魔法。魔術と言うよりも魔法の域にある。最低出力でも視界全てを氷の世界に閉じ込める。出力を上げれば国一つ氷の世界に閉じ込める事も可能。超大規模の魔法だが、規模の割に攻撃としては些か威力が低い。虫以外殺さずに発動する事も可能。反対に威力を上げる事も可能だが、攻撃として使える威力を求めるなら、他の魔術を使った方が効率が良い。
・メービス
彼女が主人公の物語に題名をつけるならば、【魔女の魔女刈り〜異端者による異端審問は大虐殺〜】である。
“コキュートス”は〈冥獄〉の武技。
囚えた亡者にエネルギーを奪わせる冷却攻撃。亡者、この世に通常存在できないと言う特性を活かし、この世に存在するのに必要なエネルギーを熱エネルギーとして吸収させる。その冷却能力は炎も容易く消し去る。
冥獄の亡者は召喚されると本来全てのエネルギーを吸収しようとする為、そのエネルギーを熱エネルギーだけに調整するのは些か難しい。
・アバウルス
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【抑止力は民間人になる〜広域魔法しか使えませんが、冒険者になろうと思います〜】である。
“アブソリュートゼロ”は〈氷属性魔術〉による魔術。アバウルスは〈広域魔法〉も用いて発動した。
原理としては氷と言うよりも運動を停止抑制させ熱を追い出す大魔術。強引に絶対零度を生み出す。絶対零度を生み出す事を目的とする魔術である為、絶対零度が固定されるまで熱は追い出され続け、熱がすぐに戻らないところまで追い出される為に広範囲に影響を及ぼす魔術となっている。
当然の事ながら壊してはいけないものを冷却するような魔術では無い。
使い手は氷属性魔術の達人の中でも一握り。使えるようになったら、宮廷魔術師長への誘いが来ても何ら不思議では無い。そんなレベルの魔術。
“核撃”は〈核撃魔法〉や〈分解魔法〉〈融合魔法〉〈広域魔法〉などによる魔術。通常は儀式魔法として発動される。どれか一つでも有れば発動出来るが〈分解魔法〉〈融合魔法〉では発動に至るまで多大な修練が必要。〈核撃魔法〉と魔力さえ有ればレベル1でも発動出来る。アバウルスは〈核撃魔法〉と〈広域魔法〉によって発動した。〈広域魔法〉だけでもアバウルスは発動出来る。
核兵器の威力を再現した大魔術。威力は言葉通り核兵器の再現。異世界とは物理法則が異なり物質の構成要素に魔力も大きく関わっている為、普通に核分裂や核融合を試みても核兵器の再現は出来ない。物質要素をエネルギーに変換できても残った魔力要素がエネルギーを取り込み、多くの場合、再度物質化してしまう。またこのエネルギー自体も魔力に変換される分が出てしまう。その魔力の制御の為に核兵器の概念の再現が発動には不可欠。核燃料が無ければ基本的に核融合方式で発動される。
超高等魔術だが、核撃の名を冠するスキルが存在するように、かなり広く知られた大魔術。しかし使い手が多いと言う訳ではない。一人で使える者はその世界に現れない事の方が多い。主に金貨を対価にした金属性の代償儀式魔法として使われる。この儀式でもかなりの難易度を誇り、大国のトップレベルの術者ぐらいにしか使えない。
《出張準レギュラー紹介簡易版》
・マサフミ=オオタ
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~】である。
“白亜の夜空”は〈火属性魔術〉による魔術。
空を覆い尽くす白炎槍の連射。空を白く染め上げる。大絶滅を再現する程の魔術で、城壁も容易く穿き、燃えない筈のものすらも徹底的に破壊し焼却する。
一本の白炎槍を出す事すら本来は難しい。因みに一本の時の魔術名は“白輪槍”、太陽の白輪の如き威力を持つ。実は一本でも大魔術。対少数火属性魔術の中ではトップクラスの魔術。使えたら宮廷魔術師へのスカウトが複数の国から来る。
・ヴァンリード=ヴォン=アインヘイム
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【厨ニ転生〜設定を鵜呑みにされ後に引けなくなりました〜】である。
“ダークネスバイト”は大罪スキル〈暴食〉による技。〈槍術〉による武技とも言えるし、代償魔法でもある。ヴァンリードのオリジナル技。
〈槍術〉スキルそのものを対価に捧げた大技。スキルの力を強引に最大限まで引き出す。威力は捧げたスキルのレベルが高い程強力になる。レベル1でもドラゴンの鱗くらいなら容易く穿ける。
〈暴食〉によるスキルを奪う感覚を反転させ、スキルを自らと切り離して認識する事により発動できる。実はスキルを極めた者なら、反対にスキルをより深く認識する事で発動も可能。
スキルを喪うだけで無く、その反動も大きい。スキルとの親和が深いほど大きなダメージを受ける。また、外傷ができる訳でも無いので回復は非常に困難。症状が稀有な為に回復方法は殆ど開発されておらず、有っても関係あると結び付けるのが困難である為に自然治癒を待つしか無い。
・トム
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【異世界で巨体ロボを造り上げました。結果、何故か異種族をまとめ上げ戦乱の世界を統一した賢帝として崇められています。】である。
“グランドキャッスル”は〈盾術〉や〈鎧術〉による武技。
広範囲を守る武技であり、対軍魔法を防げる大技。城の概念を具現化させ、盾の大きさを遥かに超える範囲を守る。見かけ上はほぼ結界。
発動はかなり難しい。使えたら軍の切り札級、主要都市に一人は欲しい人材である。反対を言えば切り札となり、主要都市に一人しか使い手がいない程、難易度の高い技。
高位の武技の中ではポピュラーで、広く知れ渡っている。その為、使える様になったから将軍に昇進、また将軍にスカウトされるような事も多い。
・アルデバラン
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【転移しても魔王プレイ〜魔王オプションが外れない!〜】である。
“アルティメットグローリー”は大罪スキル〈強欲〉と〈剣術〉スキルによる技。また様々なスキルを捧げ発動する代償魔法とも言える。
捧げたスキルの力を最大限引き出すと言うよりも、スキルを概念の伴ったエネルギーに変換する技。“ダークネスバイト”を放出系の技とすると、こちらはエネルギーを纏う強化系に近い。一度エネルギーに変換すると長くは制御出来ないので、今回のように一気に解放し使うのに適している。
・アアアア
彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【バグ転生〜ゲームのチート改造は絶対に止めよう! ゲーム内に転生したら後悔する事になります〜】である。
“ステラ”は〈格闘術〉による武技。
可視化され輝く程の魔力を拳に纏い殴る。武技だが魔力を拳に込める技なので、魔力操作の技量が必要。魔力による拳の強化に加え、破壊力も付与する為に、そこそこ難しい。
この魔力運用が行えるのは魔術師並に魔力を扱えなければならず、そこまで出来ても殴る技量が高く無ければただの硬く魔力が弾ける攻撃なので、用いた魔力に見合う威力は引き出せない。実用的に使える者は少数。
本来はアアアア程の威力は出せないが、アアアアの最大の武器は高い能力値、武器が自壊する程の能力値であり、魔力による強化と腕力によるこの武技は非常に相性が良く、災害レベルの威力を発揮出来る。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次話は来年の更新となります。
本編更新は今話で今年最後ですが、クリスマスには【クリスマス転生】、その後から正月にかけては【ボッチ転生】を更新します。
【クリスマス転生】主人公:後冬至
https://ncode.syosetu.com/n0116ff/
【ボッチ転生】主人公:多田倭文
https://ncode.syosetu.com/n9389fq/
宜しければお読みください。
それでは皆様、良いお年を!




