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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第七十話 決戦準備あるいは決戦後編

すみません。後編とありますが、この後に完が続きます。また長すぎたので分割しました。

今章最終話はおそらく次です。

 


 先輩達は、常に駆け続ける。

 そして隙が少しでも有れば攻撃も忘れない。


 例外は裸体美術部の数人と、後は戦闘に参加せずにコソコソと逃げ回っているカイウス先輩とティナ先輩ぐらいだ。


 流石にモレクの通常極大攻撃を何度も防御出来る先輩は少ないらしい。


 トム先輩のアルゴーⅣも、ミスリルやアダマンタイトをあちらこちらに使用しているのに、早くもガタがきている。

 弱い素材のパーツは殆ど熔け、装飾的なものの多くは既に喪われている。

 外は無骨なアダマンタイト鍍金外装が残るばかりで、内側も形こそ残れど元々頑丈に造られた重要機関以外はほぼ使えない状態だ。

 その残る重要機関であるミスリル鎖による筋線、主動力も何本か融解しそうになっていた。


 特別頑丈な巨大ロボットもこの有様。

 生身の人間が耐えられる攻撃では無い。


 しかし耐えられないなら避ければ良いと、先輩達は諦めてはいない。

 そして逃げるでもなく、モレクに向かい駆け続けていた。



 テオ先輩はこれまた種族特性である飛行術式を完全展開し、相対位置固定された八つの魔法陣から推進炎を放出し、まるでロケットのように飛行。

 幾つもの高品質な魔石を食し、魔力炉の出力を上げ避けながらも加速。


「“クェーサーソード”!!」


 モレクとすれ違いざまに恒星色に煌めく魔力刀、ビームサーベルを最大出力で一振り。

 モレクの左腕を切り裂く。

 更に遅れて大エネルギーによる大爆発。


 モレクの傷は捲れ上がり、傷口は大きく広がる。


 しかしモレクの巨体から言えば深くとも、それは小さな傷だった。

 魔力を収束しビームサーベルの威力を出している為に、最大出力でも刃渡りが短いのだ。


 そしてテオ先輩も無傷では無い。

 猛スピードで斬りつけた余波と爆発の余波で、大きく無くとも確かなダメージを負っている。

 それでも攻撃の手を緩めず、高速飛行しながら進路上のモレクを次々と斬りつけてゆく。


 モレクは反撃しようとするが、それは他の先輩が許さない。


「“加重撃”」


 ノボル先輩がモレクが剣を構えていた腕に攻撃。

 すると剣の軌道が大きくズレた。

 モレクの腕に通常の数倍の重力が付与されたからだ。


 モレク程の存在になると、その身に宿る魔力などで付与魔法を弾いてしまうのだが、付与魔法は傷により魔法式として刻まれていた。


「“脱魔撃”」


 更にそうして出来た隙に、吸魔の術式まで刻む。


 もう好きにはさせないと、モレクは口から獄炎を放射するが、それは失敗に終わる。


「“雲滝”」


 死角に移動していたバルグオルグ先輩がモレクの顎を蹴り上げたからだ。


 余波で雨雲は裂け、獄炎は口の中で暴発。

 巨重なモレクも下からの力には対策していないらしく、高く打ち上げられた。


「“天柱神撃アトラス”!!」


 そしてそこにもう一撃。

 拳をモレクに向け大きく突き上げる。


 余波で大地は粉々に砕け、厚い雨雲が抉られた。

 そして空気ごと殴られ生まれた壁の如き拳撃。


 モレクに打ち込まれると、モレクの落下は止まった。

 上昇するのでも、落下するのでもなく停止。

 そしてミシミシと潰れてゆく。


 空気ごと殴って空気の壁が生まれたように、殴られたモレクの背面にも空気の壁が生まれ挟まれたらしい。

 ただ強力なだけでなく巧みな技だ。


 しかしこの技も強力な分、反動が大きらしく、バルグオルグ先輩は膝を着く。

 腕や足腰はダメージを受け、生命力も大幅に消費してしまったらしい。

 生命力は魔力で補完し技を使ったようだが、それでも一撃に使うには多すぎる量だ。


 生命力はすなわち生命に近い存在、強引に大きな移動をするとそれに身体まで引きずられてしまう。

 離れる事の出来ない影を無理矢理動かせば本体も動くようなものだ。薄くしてその分を使うように量を考えなければ危険だ。

 まあ、強力な磁石を早く動かせばアルミニウムのような非磁性体も磁石のように振る舞うのに似た現象であるから、本当に身体が引きちぎられるような事は無いが、力自体は受けてしまう。


 バルグオルグ先輩は強力な武技による物理的なダメージとの相乗効果で病院行き確定のダメージを受けている。


 そんな所に別のモレクの獄炎斧杖。


 この状態では避けられない。


 しかし、バルグオルグ先輩は動じなかった。


 光を放つ斬撃により斧杖は横に逸れる。

 斬撃を辿るとそこには雨に濡れた如何にもな英雄らしき格好良い人物。

 主人公を演じる俳優、実際は強くて顔まで良いなどあり得ないから英雄では無く役者だと、断言されてしまう程に格好良い人がいた。


 …………化粧が取れてオネェ系の外見が消えた素のカタストフ先輩だ。

 何故、化粧をしていたのだろうか?

 例え同性が好きだとしても、このままの方が良いと思う。女装好き? 世の中、人の性質が多過ぎて僕にはまだ理解出来ない。


 兎も角、バルグオルグ先輩は援護を信じていたから動じなかったようだ。


 語らなくとも伝わる絆。

 素晴らしい。


 カタストフ先輩はモレクに正面から挑む。


 剣と斧杖が交差しても押し負けない。


「“聖月”」


 それどころか激しく光を発する剣を以て、モレクの斧杖を両断した。


「“聖雷槍”」


 そこで終わらず純白の雷を槍型に収束して十二本連続投射。

 モレクに聖なる雷槍を浴びせる中、自身も雷のように高速移動。


「“聖三日月”」


 モレクを袈裟斬りに斬る。


 モレクは聖なる光に包まれ、光が晴れると共に崩れ落ちた。


 カタストフ先輩、どっからどう視ても英雄に視える。

 演劇の中の英雄、映画の中の英雄、実物の英雄、物語で思い浮かべる英雄、どれにも当てはまる。

 …………本当に、何故化粧をしていたのだろうか?


 モレクは最期の力を振り絞ってブレスを放射しようとチャージする。


「“天墜”!!」


 が、いつの間にか回復していたバルグオルグ先輩の踵落とし。

 口が閉じられるどころか拉げ、自爆した。

 光の粒子が開放され、モレクは灰となって崩れた。


 因みに、雨で化粧の落ちたバルグオルグ先輩は如何に強そうな武人、いや武王のような外見だ。

 元々体格が良かったのでカタストフ先輩と比べれば違和感は少ない。


 そして回復と共に、牙が生えたり、龍の鱗が現れたり、悪魔の羊角が現れたり、目が魔眼になっていたり、尻尾や羽が生えたりと、何か凄い姿になっている。

 どれも種族特性では無く、霊薬の類による効果のようだ。美容の為の健康法として各地の霊薬を使用したきたものが、急速な回復力を生み出すために前面に出て来たらしい。


「良いのか? その姿を晒して? 美しく無いって嫌っていたじゃないか?」


 姿だけでなく言葉遣いも素に戻ったカタストフ先輩が問う。


「良いのよ。そんな事の為にお友達を犠牲にするのは美しく無いわ」

「……しかし、使えば使う程、戻れなくなるんじゃ?」

「美は作るものじゃないわ。美は美しく在るものよ。それとも何? 私の在り方が美しく無いとでも?」

「いや、君は美しいよ。私が、保証する」


 軽くまるで冗談であるかのように答えるバルグオルグ先輩に、友として、仲間として隣で美容の努力を見続けてきたカタストフ先輩は、笑い返すように、しかし真っ直ぐと答え返した。


 尚、シリアスな雰囲気のところ悪いが、変化が戻らないと言う点に関しては、それほど“大賢者の加護”は甘くない。

 人の定義と言える程に強大なその加護は、人であろうとする限り例えそれが直視しすら出来ない程に悍しい邪神であろうとも人の形を維持する。

 自分から殻に閉じこもるような事が無ければ、強引にでも人の姿には戻る事が出来る。



 まあ何であれ、良い光景が視れた。

 抱えながらも乗り越えてゆく。成長の最たるものだ。

 実に豊穣である。


 取り敢えず、縁結びが進む事も祈って〈性転換〉スキル辺りを授けるとしよう。

 あの二人を逃す手は無い。

 是非とも誰かと結ばれ、僕にまで繫いで欲しいものだ。

 何となく、二人は使わないような気がするが、それでも構うまい。選択肢の多さはそれ自体も成長を促す事だろう。


 後は〈聖母〉スキル。

 二人のようなタイプだと、おそらくこちらが本命となる。

 二人にとって一番楽な道は妥協して二人が結ばれる事だ。周りから理解され難い性癖を持つもの同士、お互いをよく知る理解者同士、結びつく理由は多々ある。

 しかし二人はどこまでも仲間であり友だ。欠片も意識していない。同性が好きだからなのだろう。相手を違う性だと認め、自らの在り方を良しとしている。

 中身が異性なのでは無く、ただ同性が好き。そして化粧は美しいと思うからしている。こんなところだろう。多分。


 ちょうど激戦の最中。

 戦闘後に与えても莫大な経験値によって獲得したとでも思うだろう。

 二つとも固有スキルだが、おそらく不自然には思われない。


 今の内に創っておこう。


 コネコネコネ、ベシンベシン、コネコネ。


「マスター、うどんでも捏ねているのですか?」

「違うよコアさん、〈性転換〉スキルと〈聖母〉スキルだよ」

「随分とキワモノなスキルだな」

「あそこのオネェ系の二人にあげようと思って」

「それはいい考えですね。性癖だけで縁結びを行わないには、もったいなさ過ぎる英雄の器ですからね。子さえ産めるようにすれば万事解決です」

「その二人の縁結びは阿鼻叫喚な光景になりそうだな……」


 ゼンは縁結び相手の事を考えると素直に共感出来ないようだ。

 それでも、物事には順位と言うものがある。


「誇れる自分こそが何よりも大切な要素だからね。先輩達がオネェであるからこそ力を発揮するならば、他の問題なんて些細なものだよ。縁結びなら英雄に至りきれなくとも、次代に任せればいい。でも、真に求める存在になるには、自分でどうにかしてもらうしか無いからね。猫派か犬派かなんて、どうでもいい事なんだよ」

「……性癖を猫派犬派で片付けるのはアレだと思うぞ」


 兎も角、僕も初めから最高を手に入れようとしている訳ではない。

 それを得る為に縁結びでそこに繋げて行くのだ。


 勿論、縁結びの段階から英雄であって欲しい。最高へと辿り着いて欲しい。

 でも、最高とはそんなに簡単なものではない。

 どんなに力ある英雄であろうとも、最終試練を超えられるかはその在り方に重きが置かれる。

 強さだけではどうにもならない、既製品のままでは決して辿り着けない。


 僕が真に求める存在、縁結びの先に居るのはそう言う存在だ。


 つまり優先すべきはその器たるものだ。


 何としてでも縁結びを行いたい。

 そしてその器が最も輝く方法が好ましい。

 だから輝く道を用意するのは当然だ。

 勿論、普通の縁結びの攻勢もかけるが。


「それにしても、いい感じにピンチも生まれて、物語が生まれ始めたね」

「それでいて乗り越えられていますし、良い傾向ですね」


 先輩達はダメージを受けながらも善戦していた。

 そもそもダメージを受け始めた最たる理由は自分の力の反動だ。


 その力の行使を決断するだけの戦果があった。


 しかし先輩達は忘れていた。


 ソドムの復活を。


 砦による猛攻により沈黙していたソドムは、砦の崩壊により復帰した。

 既に再生したばかりか武装ゴモラを配置。


 モレクごと一斉攻撃を開始した。

 槍や魔術、矢の雨が一帯に降り注ぐ。


 モレクは全て弾き意に返さないが、先輩達にとってはある程度効く攻撃。

 強くとも攻撃が効かない程、防御力も高いとは限らなかった。

 モレクの攻撃に加え、そちらへの回避行動も余儀なくされる。


 例外はイタル先輩辺りの特殊な人達。


 善戦だったのが、不利に傾いた。


「“土壁長城”!!」


 アバウルス先輩が大地を隆起させ、山のような壁を築く。

 が、そこにモレクの獄炎弾。


 一撃で融解し、水風船が破れたかのように飛び散った。


 引き続きソドムからの攻勢は続く。


 ソドムの狙撃を防ごうと止まればモレクから防げない攻撃を撃ち込まれ、モレクに集中しようともその進路はソドムによって狭められる。

 数の暴力と質の暴力を同時に受けている状態だ。


 避けるから逃げる回るに変更を余儀なくされた先輩までいる。

 そんな先輩は防戦一方。


 それどころかモレクに対しても攻撃は最大の防御であったらしく、攻勢に出られなくなった先輩達の相手をしていたモレクが本格的に攻勢に加わり、状況は悪化。

 ソドムへの対処も満足に出来ずゴモラ兵は増産。

 負のスパイラルに突入し始めていた。


 そこに高速飛行により攻撃を回避し続けていたテリオン先輩の魔導飛行船。

 カリギュレオン先輩が貸し出したらしいその船に、先輩達は退避回収されてゆく。


 そして戦線離脱。


 追撃をとんでもない軌道で回避しながら、空からもソドムの見えない遠方まで退避。

 止まることなく距離を離し続ける。


 船内で作戦会議を開始する。


「一体何なんだアイツらは!?」


 いや、まだ作戦会議では無く現状把握の段階らしい。


「おそらくあの街は伝説にある退廃都市ソドムだ。あの人の外見をした魔物はソドムの眷属ゴモラだろう。都市核学の講義で一度だけ聴いたことがある。こんな特徴の揃う存在が他に居るとは思えない」


 そう答えるのはシュナイゼル先輩。

 単独で二体のモレクを撃破し、増援されたモレクにも善戦し一体撃破していたが、その消耗は激しい。

 傷は塞いだようだが血は拭かれぬままで、装備は一部融解し消失していた。傷が無くとも、それが無事な筈無い。


「あの牛の化け物は?」


 そう問うのはアバウルス先輩。

 目立った負傷は装備も含め大きくは無いが、魔力的にはかなり消耗していた。

 広範囲魔法が得意なだけあって反動によるダメージは低いが、それでも大魔術の連発で全身に属性が宿ってしまっている。

 電力による発熱の魔力版、その段階の先にある症状だ。魔力のショートには耐性があってもその先の耐性はなかったらしい。

 火属性の影響で発熱、氷属性の影響で氷結とまだ顕在化はしていないが、爆弾を抱えている状態になっていた。

 強大な魔力を流せば属性は顕在化し、アバウルス先輩を傷付けるだろう。


 他の先輩達もこの二人と似たような負傷。

 多くはその中間だ。


「あの牛の正体は分から無い」

「あれはモレクだと思う」


 代わりに答えたのはトム先輩。

 トム先輩はアルゴーⅣの内部に居たためほぼ無傷。

 しかしそのアルゴーⅣの損傷は激しく、撤退の寸前にアイテムボックスに回収していたが、使える状態かは怪しかった。


「モレクってなんだ?」


 疑問の声を上げたイタル先輩は、何故かいつも通り無傷。

 全身煤けているが、傷の一つも無ければ内側の損傷も皆無だ。


「モレクは最強のゴーレムと目される邪神だ」

「邪神なのにゴーレム?」

「ああ、ゴーレム業界、いやロボット業界では有名な話だが、この邪神は人工的に生み出せるんだ。中を炉にした牛人の銅像に生贄を焚べ続ければそれが邪神になる。古代遺跡から出土した乗り込めるロボットは、この機構を応用して操縦者のエネルギーで稼働するものが多いんだ。つまり搭乗型魔導ロボットの原型だ。だから邪神なのにゴーレムと呼ばれる」


 と、今度はトム先輩の代わりにカリギュレオン先輩が解説。


「そして、現代の技術はまだ一部を模倣する域にしか達していない。つまり悔しいが現代の魔導ロボットよりも遥かに強い。それは戦って分かっていると思うが、原理的にモレクは常に発動している代償儀式魔法だ。

 今回俺のアルゴーⅣが抑えられたのはアダマンタイトとミスリルの性能に頼り、魔力の力押しをしていたに過ぎない。それもスクラップ寸前だ」


 引き継いでトム先輩が悔しそうに言う。


「弱点は?」

「存在自体が高出力の代償儀式魔法であるモレクに弱点は存在しない。本体は銅像ではなく儀式そのものだ。首も心臓も形だけで破壊しても意味がない。込められた儀式、概念を捻じ曲げて破壊する必要がある。つまりモレクを上回る出力の力押しが最も効く攻撃だろうな」

「それは……正しく弱点が無いな……」


 聞かなかった方がまだ楽だった情報に、先輩達は言葉を無くしてゆく。

 しかし絶望はしていなかった。

 暗黒の宇宙そらをも貫き照らす目の光は喪われていない。


 ただ覚悟を決めてゆく。


 そして本当の作戦会議が始まる。

 風紀委員会も裸体美術部も関係なく、仲間として話し合う。


「そのモレクの発生源は、ソドムと考えていいか?」

「鑑定したらソドムとラインが繋がっていた。同じダンジョンの魔物だからと考えるよりも、ソドムが生み出したからと考える方が自然だと思う」

「つまり先にソドムをどうにかしないと、モレクは増え続けるかも知れないと言う事か?」

「実際、モレクの援軍がやって来たし、時を置けば増産されるだろうな」

「だとしたら、長時間回復に努めるような事も出来ないぞ。回復薬は十分にあるか?」


 話しながらも、先輩達は上級の回復薬を飲む。

 先輩達の力量的に、飲んでいるのは回復上限が決まっているタイプの回復薬ではなく、回復速度を上昇されるタイプの回復薬だ。

 しかし時間が勿体無いと、即効性のある回復量の決まっている回復薬も飲み始めた。


「すまん、俺は予算の都合で……」

「俺も……」

「私も……」

「私も……」


 お金の為に今回の依頼を受けた先輩達は予算の都合上、ポーション類を保持していなかったらしく、回復薬を恵んで貰っている。


 そして全員が回復し再び決戦に向かおうと魔導飛行船を引き返す直前、先輩達は見つけてしまう。


 別のソドムの存在を。


「……モレクの援軍は、ここから来たのか」


 先輩達は相手がソドム一体とその眷属だけでない事に気が付いた。

 が、動揺は一瞬。

 決断も覚悟もまた一瞬。


 先輩達は自分の能力を仲間達に告げ、作戦をまとめると次々にソドムへと降下した。



「“ファイヤーボールレイン”!!」


 先輩達は降下しながらもソドムに初撃を加える。


 マサフミ先輩が発動したのはハービット先輩の使っていた“ファイヤーボールシャワー”の上位魔術。

 雨の如く大量のファイヤーボールがソドム全域に雨のように降り注ぐ。


 ソドムはそれを感知し、都市全域を守る結界を展開。

 ファイヤーボールは結界に阻まれ球形を崩し、普通の炎となって拡散してゆく。

 結界は無数のファイヤーボールを当てられ大きく揺れているが、傷は一つも入らない。


 そんな事は想定済みな先輩達はそれぞれ魔石を投げる。


 すると結界面で周囲に満ちた火属性の魔力と反応して大爆発。

 魔石はカリギュレオン先輩の開発した新型の爆魔石、火属性の魔力を火種として有する代わりに従来のものよりも威力が増大したものだ。

 材料はいつの間にか回収していたゴモラの魔石。


 数も威力もあり、結界は崩壊。


 先輩達は降下から一度も止まることなくソドムに侵入した。


 結界を超えたファイヤーボールの雨により弱いゴモラは壊滅。


 先輩達は真っ直ぐ中心の領主館を目指す。


 そして一斉攻撃。


「「「“グラビティメテオ”!」」」

「「“グラビティキャノン”!」」


 飛行船の中から付与魔法まで使いチャージを続けていた〈アイテムボックス〉の武技を一斉に発動する。


 弾丸となるのはトム先輩の提供したアルゴーⅣの外れた部品、アダマンタイト片。

 どこまでも重力加速度を受け続ける事が出来る最硬最重の金属に隕石を超えるエネルギーをチャージし開放。


 剰りの速さに、ソドムは結界の展開が遅れる。

 そして即時展開の結界はいとも簡単に破れてゆく。

 音が伝わる頃には領主館は壊滅。蒸発した。


 僅かな間に辛うじて強力な結界を出せたソドムのコアのみが残る。

 ソドムの全処理能力、魔力を乗せた結界。

 しかし発動前に領主館のゴモラは壊滅した為に、生贄による出力強化は出来ていない。


 ソドムの結界には生贄により付与される概念が存在していなかった。

 身を捧げての守りには多くの場合、守ると言う概念が付与される。

 魔術でも属性や物理法則以外に概念が付与されるもの、有名なものでは“クリーン”の綺麗にすると言う概念のように、概念が付与、概念を顕在化させて発動される事があるが、身を挺して守ると言う概念ほど強力なものは出力だけで何とかなるものでは無い。


 生贄により生まれる強大なエネルギーは、ソドムの能力により用意されていたが、この違いは大きい。

 例えるなら、城は元々陥し難いが、それが世界遺産ならば他の理由でも陥せない。そんな感じだ。

 魔力で破れる結界が、物理的な力も無ければ破れなくなる。概念を加えればこの必要なものが多くなる。


 つまり、言ってしまえば生贄の無いソドムの結界はただ頑丈な壁。


 それでも都市としての莫大な魔力、龍脈能力魔力を全開にして、空間の力を総動員して持ちこたえる。

 幸い、先輩達の攻撃はただの物理攻撃。

 力技で、何とか結界を維持している。


 しかし武技を放った先輩達は既に動いていた。


 拮抗を続ける結界に次の攻撃を加える。


「“居合飛斬”」

「“先消”!」


 それはどれも速さ重視の技。

 威力はそこまで高くない。


 が、それだけで拮抗は一瞬で崩れた。


 結界は砕け、先輩達の速攻がコアを断ち切る。

 同時にソドム中から魔力が抜け、ただの都市に零落。

 魔力ありきで造られた強引な建築物は崩壊してゆく。


 そしてアダマンタイトの弾丸は、結界で力尽き遅れてパラパラと落下。

 あっという間にソドムは攻略されたが、かなりギリギリの戦いだったらしい。


 ソドムを攻略し終えても先輩達は休まない。


 砕けたソドムのコアを回収。

 欠片を元の形に組み立ててゆく。


 そして再構築。


 ダンジョン管理が出来る先輩総手で、新たなシティーコアを構築する。


 かなり強引に、莫大な魔力で文字通りの魔法を引き起こし、シティーコアは完成。

 そのままシティーコアに莫大な魔力を込め、旧ソドム全域を支配下に置く。


 再び龍脈と接続され、ソドムは都市として再生した。


 更にシティーコアを通して各々が龍脈と接続する。


 多くの先輩は龍脈の圧倒的過ぎる魔力の暴圧で吐血し、膝を着いてしまったが魔力は完全回復。

 その魔力で自身の肉体を回復させ、立ち上がった。


 そして完全な回復を待つことなく次へ。


 それぞれ戦闘準備を整えて行く。


 トム先輩はシティーコアを操作し工房を展開。


 アルゴーⅣを修理する。

 自動でパーツが召喚され、独りでに機関が組み上がって行く。

 トム先輩はシティーコアの端末を操作するだけ。

 自ら工具を握るような事はしない。


 ある程度機関製造が自動でも行える段階になると、この元ソドムからかき集めた金貨を取り出す。


「――金を対価に願い乞う どうか一度の開放を――“操鉄”」


 金貨を対価に金属性魔法を発動。


 アルゴーⅣの融けたミスリルやアダマンタイトを操作し、形を戻してゆく。


 同時に湯水の如く消えてゆく金貨の山。

 都市中からかき集めた筈の金貨がまるで真夏のアイスクリームのようだ。


 金属性魔法は金貨を捧げた代償魔法としてしか発動出来ない。

 金属性は徹底して封印され、誰もがその適性を持たないからだ。

 その出力は全て捧げた金貨の数に依る。

 どんな偉大な魔術師でも、精々術の効率を上げる事しか出来ない。どう頑張っても金貨との等価交換な効果しか出せない。


 更に先輩は組み立て終わると、再び強大な金属性魔法を呼び起こす。


「――金を対価に願い乞う どうか一度の開放を――“錬真銀”“錬神鉄”」


 下手したら末代まで遊んで暮らせる程の金貨の山が一瞬で消え去り、アルゴーⅣの卑金属パーツがミスリルやアダマンタイトに変わってゆく。

 元々ミスリルやアダマンタイトが金庫の如く大量に注ぎ込まれていたが、その比ではない。歩く銀行、それ程までに高価な存在、有り得ない存在と化していた。


 他の先輩達もソドムの金貨をかき集め、採算度外視で武装を整える。


「――金を対価に願い乞う 我に赦しを――“錬神鉄”」


 セイバ先輩はナイフをアダマンタイト製に。


「――更に金貨を以って願い乞う――“重金”」


 更にアダマンタイトナイフを重くさせる。

 その頬には滴る一筋の雫。

 唇からも垂れる紅。


 ……金欠の為にこの依頼に参加していたセイバ先輩は泣く泣く金貨を捧げているらしい。

 ソドムからかき集めた金貨でも、未練が有り過ぎるようだ。


 同じくハービット先輩も泣いていた。


「久し振りの服……」


 ……久々に服《鎧》を着れて感動しているようだ。

 …………頑張って。


 よく視れば泣いている先輩は多かった。

 しかし万全の準備を整えるには致し方なく。

 頑張ってね……。


「――金を対価に願い乞う 過去の栄光をここに――“剛金”」

「――金貨を対価に願い乞う 金の奇跡をここに――“金弾”」

「――金を対価に願い乞う 金忌を解き放て――“耐熱付与”」


 なんだかんだで準備は着実に進んでゆく。


 因みに、金属性魔法を発動する時に祝詞は同じような意味なら何でも良い。

 反対に共通しているのは『金を対価に願い乞う』の部分くらいである。それですら他のパターンが存在する。

 伝統のある祝詞の方が祝詞自体が力を持ち、捧げる額が少なくて済むが、違いと言えばそれくらいだ。


 寧ろもっと大切なのはその後に引き出す魔術の詠唱だが、時間が惜しいのかそれは省略している。

 詠唱すれば金属性魔法を願う祝詞を正確に唱えるよりも減額されるのだが、短くするどころか完全省略。


 視るとそもそも詠唱文を知らないようだ。

 世を視てみると、記録の殆どが喪われていた。

 アンミール学園には当然のように記録が遺されていたが、この様子だと知らなくても仕方無いのだろう。


 無駄にしていると言う意識すら存在していない。

 普通の詠唱を組み合わせると言う発想自体存在しないようだ。

 祝詞が詠唱だとすら思っている節すらある。


 が、準備自体は順調だ。

 かき集めた金貨の数による暴力で問題は発生していない。

 既に金貨は数枚を残すまでに消費されているが、全体的に装備は整っている。


 トム先輩とカリギュレオン先輩なんかはアルゴーⅣのような巨大兵器を新たに幾つも開発までしていた。

 シティーコアに召喚させた回復薬の貯蔵も十分。

 物理的な装備に限らず付与も万全だ。


 いつでも再突撃可能。


 そんな中、地平線が光に照らされた。





 《用語解説簡易版〜金属性魔法〜》

 ・操鉄

 鉄を操作する金属性魔法。鋼鉄でも銑鉄でも操作出来るが、半分以上が鉄である対象にしか使えない。出力を上げれば他金属の操作も可能だが、その場合は多額の資金を要する。ミスリルやアダマンタイトの操作などとんでも無い。知名度は高い。

 小規模なら割とお安い。


 ・錬真銀

 銀を真銀ミスリルに変える金属性魔法。知名度は高い。

 剣一本に使おうとしてもそこそこの街の予算が吹き飛ぶ。


 ・錬神鉄

 鉄を神鉄アダマンタイトに変える金属性魔法。知名度は高い。

 剣一本に使おうとしてもそこそこの国の予算が吹き飛ぶ。


 ・重金

 金属を重くする金属性魔法。知名度は低い。

 少し高い程度だが、使おうと思う者は少ない。


 ・剛金

 金属を硬くする金属性魔法。金属特化の強化魔法。特化している分、他の魔術よりも強化度合いが高い。知名度は低い。

 高めの武器メンテナンスよりも高い。この魔法の存在を知っている騎士団の貴族も使わない。


 ・金弾

 金属の弾性を高める金属性魔法。知名度はかなり低い。

 少し高い程度だが、使おうと思う者は少ない。そもそも弾性が必要だと思う者が少ない。


 ・耐熱付与

 金属の耐熱温度を上げる金属性魔法。高温に対する耐性、擬似的に融点を上げる魔法。温度変化に対する耐性は上がらない。知名度は一部層にそこそこ。

 少し高い程度だが、耐熱温度を上げるごとに値段は上乗せされる為、実用性を生むまでには多くの金貨を要する。盾職が切羽詰まった時などにしか使わない。




 《出張モブ紹介簡易版》

 ・テオ

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【平凡な程主人公】である。


 “クェーサーソード”は魔力炉を開放し、魔力を純エネルギーに変換、剣の形に収束する技。

 魔力炉もエネルギー変換も収束もテオの種族特性、内蔵兵器のような能力である為、テオが出力を上げようとすれば上げようとするほど出力は上がる。その分、直結しているので出力の反動が大きい。

 最低出力でも鋼鉄くらいなら熔かし斬れる。



 ・カタストフ・フォン・クレムロ

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【劇の英雄は本物を超える〜役作りの結果本物以上になった件〜】である。


 “聖月”は〈聖属性魔術〉と〈剣術〉による武技。

 聖属性の籠もった回転斬り。魔族など邪悪な存在特攻の技だが、硬い竜の鱗を容易く斬り、首を落とせる。勇者の技を再現した技だが、そこらの勇者の手本にした技よりも強い。出力も高いが、どちらかと言うと技巧派な技。


 “聖雷槍”は〈聖属性魔術〉と〈雷属性魔術〉による魔術。

 聖属性の籠もった雷の槍を連射する。魔族など邪悪な存在特攻の技だが、首都級の城門でも吹き飛ばせる。これも勇者の技を再現したもの。誇張された文献、つまり伝承から再現したからか、本物より強い。


 “聖三日月”は〈聖属性魔術〉と〈剣術〉による武技。

 聖属性の籠もった上段斬り。同じく伝説に伝わる勇者の技を再現したもので、本物よりも強く、不壊の筈のアダマンタイトすらも斬れる。



 ・バルグオルグ

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【武王の鍛錬? いえ美容師の美容法です】である。


 “雲滝”は〈格闘術〉による武技。

 雲を割り雲の滝を生み出す威力を持つ蹴り上げ。技術も必要だが、反動に耐えられる強靭な肉体を必要とする。


 “天柱神撃アトラス”は〈格闘術〉による武技。

 天をも支えられると錯覚する程の威力を持つ突き上げ拳。技術も必要だが、反動に耐えられる強靭な肉体を必要とする。


 “天墜”は〈格闘術〉による武技。

 天をも墜とせると錯覚させる程の威力を持つ踵落とし。空に浮く浮島なら実際に首都サイズでも落とせる。技術も必要だが、反動に耐えられる強靭な肉体を必要とする。



 ・アバウルス

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【抑止力は民間人になる〜広域魔法しか使えませんが、冒険者になろうと思います〜】である。


 “土壁長城”は〈土属性魔術〉による魔術。

 大地を隆起させ山のような壁を造る。ただ、本質的には持ち上げるだけの魔術なので、隆起は固定されていない。隆起させた下は空洞となる。その為、長くは維持出来ない。かなり高威力な攻撃を短時間防ぐ魔術である。使いどころは限られそうだが、歴史の中には何度も使われた場面が存在する。強大な敵を相手とする英雄達にとっては有用。

 新たな生み出す魔術では無く操作する魔術である為に、スキルのレベルよりも属性への親和性、つまり高い土属性の適性を必要とする。



 ・セルガ・アービス

 彼が主人公の物語に名前を付けるならば、【無刀の剣士】である。


 “居合飛斬”は〈刀術〉もしくは〈剣術〉による武技。

 飛ぶ居合い斬り。使える者はその道に進んだ者に多いが、その威力には大きな開きがある。簡単だが、技術力によって大きく変わる武技。



 ・アリカ

 彼女が主人公の物語に題名を付けるのならば、【奴隷商業界の女帝〜悪人を奴隷として売り払えば金になると知ったので、孤児院の為にも調教しまくります〜】である。


 “先消”は〈鞭術〉による武技。

 鞭を視認出来ない速度で振るう。中級程度の武技だが、使用者の実力によって威力は大きく変わる。




 《出張準レギュラー紹介簡易版》

 ・ノボル=クラシロ

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【異世界クーデター王〜役立たず勇者として消されそうになったので抵抗したら国の上層部をうっかり全滅させちゃいました〜】である。


 “加重撃”は〈剣術〉と〈付与魔法〉〈刻印魔法〉による武技。

 重力を増加させる術式を剣により対象に刻み込み、強引に付与する。魔術耐性が極端に強い相手でも刻み込みさえすれば効力を与えられる。魔力は対象負担で、術式を物理的に消さない限りは発動し続ける。

 かなり高等な武技で、術式の知識だけでも高度。


 “脱魔撃”は〈剣術〉と〈付与魔法〉〈刻印魔法〉による武技。

 魔力を奪う術式を剣により対象に刻み込み、強引に付与する。基本的には“加重撃”と同じ。加重撃には相手の魔力を利用すると言うプロセスがあり、この技はそれに特化させ魔力を奪う武技なので加重撃よりも発動難度は低い。



 ・マサフミ=オオタ

 彼が主人公の物語に題名をつけるならば、【孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~】である。


 “ファイヤーボールレイン”は〈火属性魔術〉による魔術。

 空を覆い尽くす程のファイヤーボールの連射。ドラゴンのような硬い防衛を持つ相手には、雨のような密度と頻度とは言えファイヤーボールの連射なので嫌がらせにしかならないが、多少強い程度の相手は何人いようとも圧殺、終いには窒息させる。都市を壊滅させるには丁度いいとまで言える魔術。

 一発一発はファイヤーボールだが、かなり高度な技術を必要とする。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

次話こそは今章最終話にしたいと思います。既に一話分の文量は有りますが、残りが短く収まる可能性もあるので、まずは書きあげたいと思います。

また、クリスマスには【クリスマス転生】、正月には【ボッチ転生】を投稿する予定なので、次話の投稿は少し遅くなるかも知れません。年が明けそうなら、諦めてまた分割投稿しようと思います。


因みに【クリスマス転生】はお葬式の話しです。クリスマスにピッタリですよね?

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