第六十九話 砦戦あるいは決戦中編
今章最終話中編です。これも強引に分割したので切り方が変かも知れませんが、ご容赦を。
戦闘は対モレクばかりで無い。
モレク討伐に届かないと悟った先輩達は、ゴモラの砦の方を襲撃していた。
だからと言ってその先輩達が弱いと言う訳でもない。
モレクの防御を破る一撃を使えない先輩達が来ただけで、相性の問題が大きい。
そして挑むゴモラの砦も強大な敵だ。
全面崖のようにそり立つ城壁。
門は無く、最も低い壁でも五十メートル強。
横にも広いから遠目には普通のサイズに見えるが、近くで見れば塔だ。
そしてそんな壁の側面にはところ狭しと砲が備え付けられている。
矢を十本連続射出する砲、槍を連続射出する砲、砲弾を射出する普通の砲、魔術を射出する砲までぎっしりと完備されている。
採算度返しのソドムにしか構築出来ない過剰建築。
それこそ儀式魔法で吹き飛ばさなければ攻略出来ないような凶悪な砦だ。
歴戦の将軍も見ただけで歩兵での攻略を諦める。
竜騎士での攻略ですら諦めてしまう程の砦だ。
しかし全面を敵に囲われ、選択肢の無い先輩はそこを襲撃する。
相手が九割破壊しても機能する大規模な砦なだけに、こちらは早速協力戦だ。
主戦力は広範囲魔法が得意な、と言うよりもそれの特化型アバウルス先輩。
そして大規模魔法の得意なメルダ先輩。
しかし最も適した戦力であるだけに、この二人だけは別行動で、それぞれ一つの砦を相手にしていた。
アバウルス先輩は迫りくる砲撃ごと城壁を業火で融かし、メルダ先輩は鉄塊も押し潰す斥力で砲撃ごと城壁を潰している。
アバウルス先輩はそのまま方向を変え、同様の攻撃。
メルダ先輩は砲門を全て潰すと、砦に大量の水を投入した。そして凍らせる。
砦の形は辛うじて保つも、内部のゴモラは全滅。
また次の砦へと向かう。
相性の良い二人が砦を破壊できれば速いがそうも行かない。
幾ら範囲攻撃が得意だからと言って、大規模な技を使い続ければ魔力が持たない。同じ方法で破壊できるのはあと一つと言ったところだ。
もう一つ落とせると言う時点で規格外もいいところだが、それにも限度がある。
他の先輩達も見ているだけではどうにもならない。
倒せる内に敵戦力を減さなければ、待つのは敗北。
四方八方から襲われる中、守りに徹してはすぐに力尽きてしまうだろう。
先陣を切るのは暗殺者のセイバ先輩。
尚、この先輩はゴモラに誘惑された影響で変なものを買わされていたり、変な格好になっていたりはしない。
しかしゴモラに嵌められ、一年で割の良い給料を支給される仕事と聞きつつ、三百六十五年でその額が支払われる契約書にサインしてしまっていた。
三百六十五は一年の日数だと言う思い込みを利用した簡単な詐欺だ。
そんな詐欺には嵌められてしまったセイバ先輩だが、奇跡的にセイバ先輩は身に宿した呪いで呪いを弾く特殊体質であり、効力を強制する契約書にサインしても何ともなく参戦している。
多分、まだ騙された事にも気が付いていない。
セイバ先輩は暗殺者らしく軽やかな動きで壁のような砲撃を避けてゆく。
それどころか飛来する槍や砲丸を足場に、上へ前へと移動してゆく。避けきれない砲撃は逆手に持つナイフで迎撃、その反動を利用し更に上へ移動すると言った神業。
空中で全身を使い砲撃を避ける姿も見事だ。道化師の軟体技よりも軟かく素早く連続で避け続けている。
かなりの長時間上への移動に費やしているように思えたセイバ先輩だったが、目が離せずそう感じただけのようで実際は十も数えない内に城壁の天辺に移動した。
そこから先ずは投げナイフで広い範囲のゴモラを打ち倒す。
ゴモラはたかが投げナイフ、盾で簡単に防げると思い前に突き出すが、ナイフはあっさり貫通。
鎧も貫通して、更には後方のゴモラの守りも次々と貫通してゆく。
真っ直ぐ投げられたナイフは、何度貫通してもその速度は大きく変わらず、一投で多くの敵を打ち滅ぼした。
これがセイバ先輩の最たる力、固有スキル〈怪力〉の力だ。
このスキルは固有スキルではあるが、そこまで珍しいものでは無い。固有スキルは同名でも全く効果の違うものが多いが、このスキルは本質的に別物でも大体効果は同じだ。
効果はその名の通り怪力になる事。
そんな力を主にしてセイバ先輩は成り上がって来た。
何故なら暗殺者であるから。
ゴモラとの戦闘の通りだ。
通常、暗殺者の攻撃力は低い。
速さでどうにかする戦闘スタイルだ。
武技を使わない投げナイフなら、余程の安物でも無い限り、普通のテーブルでも防ぐ事が出来る。
鎧を着ているだけで、急所を守ればそれで守りは完結する。
しかしセイバ先輩は怪力。
武技を使わなくとも、ただの投げナイフが盾をも貫く。
普通の暗殺者の投げナイフがダーツなら、セイバ先輩のは岩盤を砕く杭だ。
それでも見かけは普通のナイフ、速度もある程度はナイフの重量で隠している。
そんな彼の暗殺は、暗殺が露見したとしても防げるものでは無い。暗殺者の姿が目の前に有るからこそ、防げぬ盾で安心してしまう。
砦の上層をある程度制圧したセイバ先輩は魔法で信号弾を上げる。
するとモーニングスターが伸び、鞭で砲撃を粉砕するアリカ先輩が上に上ってきた。
続けてテリオン先輩が空を飛んで。
他の先輩達も次々と砦上層に到着した。
到着するまで、もう一段高い城壁からの砲撃はセイバ先輩が処理。
「僕はこの城壁内を担当しよう。制御を奪ってこちらの戦力にする」
とハービット先輩。
「では、私も微力ながらお手伝いを」
とアリカ先輩。
「ではお二人が集中出来るよう、私がお二人の護衛をします」
とシンシア先輩。
シンシア先輩は友達のアリカ先輩に任せてと目で合図。そしてちらりとハービット先輩は見ると微かに赤面した。服を着ていない姿を見てでは無い、顔を見てだ。
あの縁結びは思った以上に効果を上げていたようだ。
今度やる時はあれを参考にしよう。
流石に城壁内ともなると、各所に階段や扉があり、上層攻略担当の先輩達は中へ上へと進む。
そしてそこは外よりも危険な場所だった。
無数の砲台があっても飛来する方向は一つ。狙い撃ちされれば前方は右も左も上も全てから砲撃されるが、それでも前方に注意すれば良い。
しかし城壁内は城壁で囲われている区画が多い。そしてゴモラ兵もあちらこちらに存在する。
対処すべきは全方向だ。
そんな所へ、先輩達は正面から向かう。
目的は攻略だが、ゴモラの砦においてそれの意味するものは殲滅だからだ。
わざと守りの固い敵の多そうな所へと向かってゆく。
ハービット先輩達とは違い、別行動で大量撃破を目指す。
城壁に囲まれた迷路に飛び込み、前後左右を囲まれているのはクーガ先輩。
この先輩は大量の数珠を腕はもちろん首や額にまで身に着け、真っ黄色のちゃんちゃんこを身に纏っていた。
そして全身濡れ、千切られた香草がところどころにくっついている。
ゴモラに占い商法で誘惑された結果だ。
ゲノン先輩についてもそうだが、ゴモラだと気が付いた時点でそんな邪魔なもの、捨て去った方がいいと思う。
尚、謎のお清めの部族汁まで飲んだらしく、唇が腫れている。
かなり滑稽な姿だ。
しかし強い。
シンプルに強い。
「“破断”!」
豪快な飛ぶ斬撃で武技で身を守るゴモラの軍勢を切り飛ばし、道を作ると、そこに飛び込む。
そして左右のゴモラを魔剣で武具ごと切り裂く。
魔剣はただ魔力を込める事により切れ味が上がると言う代物。
精密な魔力操作で必要な時に一瞬だけ魔力を流し、武技よりも効率的に少燃費で斬る。
自然回復量の方が多いくらいだ。
また乱戦にする事で、城壁や城壁上からの遠距離攻撃を防ぐ。
それでも飛んできたものには剣や手甲で払い、時には局所結果で対処。
飛び抜けた力も無いが死角が無い。
そして軍勢の中心まで来ると、大技を使った。
「“全重波斬”!!」
何かを力尽くで押し退けるようにして回転切り。
そこから発生する重苦しい空間の歪みのような非常に太い斬撃。
土属性と剣術を組み合わせた珍しい技だ。
重力、と言うよりも重さそのものを付与された斬撃はゴモラを斬り千切ると共に、ゴモラを押し飛ばして行く。
城壁に到達しても前進。
ゴモラは潰され、細い砲が縦に潰れ、やがて城壁までもが潰され裂ける。
更には土台も裂かれ、城壁の背後にあった別の城壁まで吹き飛ばされた。
クーガ先輩の四方八方が壊滅だ。
が、それでやり切った感は無く、次の相手を探し移動する。
上へ向う大階段を発見したのはセオン先輩。
入り口を守るゴモラに如何にも凄い剣ですと言った金キラ銀キラ宝石っぽい石で装飾の施された剣を向ける。
魔力を流すと、宝石っぽい石が輝き、刀身も薄っすらと光る。
因みに、セオン先輩がゴモラにされた誘惑はこの剣だ。
このお土産の伝説の剣をそのまま大きくしたような剣を、真なる伝説の英雄にしか使えない封印された伝説の剣だとか何とか言われ、百年ローンで購入していた。
勿論、偽物である。
剣としても偽物で、まともに切れないどころか硬いものにぶつけたらすぐ曲がる強度しか無い。
ついでに宝石も金っぽい装飾も全て偽物。
金っぽいメッキですら無く、塗装である。
あるのは光る機能だけ。
流石に判りそうなものだが、伝説の英雄にしか使えない論法で購入してしまっていた。
……色々と大丈夫かな?
「我が前に現れたのが運の尽き、我が剣技をその身に受ける事こそが最大の幸運、泣き崩れるがいい、我が剣戟をその身に受ける栄誉を!」
……滅茶苦茶恥ずかしい事までしている。
よく視れば、その剣先はくにょっと曲がっている。
遂には運まで逆風に回っている様子だ。
あっ、魔力を流してピンとさせた。
若干顔色が赤くなっている。
……少しでも自覚があるなら止めれば良いのに。
「いざ参る!」
そして無謀にも突撃。
剣を振るう。
そして数十のゴモラを一太刀で両断した。
「「「……!?」」」
一閃する毎に数十のゴモラが両断されてゆく。
「「「何故!?」」」
視れば魔力強化が強過ぎる。
ただ剣を強化するのでは無く、剣を被せているかのような強化だ。
木の枝も剣に変えられるだろう。
そして全ての斬撃が強強度の飛ぶ斬撃。
剣術に対する強化がどの面でもかなり強い。
鋭利さも硬さも威力も強度も、全てが高い。
実質、斬撃を生み出す魔術を常に使っているようなものだ。
悔しいが、偽伝説の剣は魔力の強化による光まで灯り本物に視えてくる。
自分から見てもそうだったらしく、調子よく、意味の無い斬撃まで量産。
更には遠距離攻撃の防御に剣を振るっても飛ぶ斬撃が出るようで、砦に壊滅的な被害を与えてゆく。
流石に一撃で城壁を両断するような事もないが、一撃毎に刻まれる深い傷。城壁は内部に狙撃手の潜む通路があるのだが、そこまでは切断されている。
崩壊はしなくとも戦力は壊滅だろう。
英雄っぽく視えるのだが、何とも言えない気持ちになってくる光景だ。
あっ、階段まで切り刻まれ崩壊してゆく……。
上に昇る為に制圧したのに、階段を壊してどうするのだろうか?
答えは諦めて飛ぶ斬撃を上層に向けて連発。
「“扇爪”」
扇のように刀身の分身が現れ、更に横並びに刀身に分身が現れる。
一振りで百の飛ぶ斬撃が繰り出される。
現れた刀身は一振りでは消えず、百の飛斬を何度も量産。
扇に並んだ刀身により一撃の威力が十倍に、横に並んだ刀身の一撃により十倍威力の斬撃の数が十倍に。
「“魔導神経接続”」
そして身体の制御を魔力操作に切り替えた。
思い描くままに、自らを操り人形にして強引に身体を動かしてゆく。
摩擦で火が着きそうなくらいの速さと頻度で斬撃を量産。
ドミノを倒すように砦の建造物が瓦礫に変わってゆく。
ゴモラは抵抗どころか姿も見せない内に討伐。
砦が山に変わってゆく。
そんなこんなで砦の上層は壊滅していった。
下層はハービット先輩達が制御を奪い、先輩達の戦力に。
戦いは最終局面へと移行した。
ハービット先輩とアリカ先輩はゴモラを使い、砦周囲のモレクや未制圧砦、そしてソドムに砲撃させる。
尚、ゴモラはハービット先輩が制御を傀儡術で奪った後、アリカ先輩が追い打ちで調教し、傀儡化を固定している。
シンシア先輩は護衛と言いながら、先に極端に弱らせている事で協力。
まだ頼りになる仲間と言った感情や、気になるがこの感情が何だか解らないと言った段階であるが、それぞれの関係性は進歩していた。
やはり戦闘での協力は縁結びとして使える。
この先も期待しよう。
無数の砲撃は数撃ちゃ当たると、何発も標的に着弾する。
しかし効果は薄い。
元より砦に矢や槍を射出しても効果は薄く、建築過剰な防御力を誇る砦相手には砲弾も魔術も大した効果を上げなかった。
そしてモレクには牽制にすらならず。獄炎を越えて命中しても傷一つ付けられない。
ソドムに対しては、過剰な砦よりも被害を与えられていたが、街を多少破壊したところで中心をどうにかしなければ、ソドムにとって痛手にはならない。
それを見た先輩達はアイテムボックスを展開した。
そして同じ武技。
「「「“垂直展開”」」」
砲撃のベクトルと垂直にアイテムボックスの入り口が修整される。
「「「“並列展開”」」」
そして今度は新たな出入り口を二つ、地面と平行に展開。
「「「“状態完全保持”!」」」
仕上げにアイテムボックス、普通使いの奥義とも言える(そう言えるだけで実際の奥義では無い)技を使う。
アイテムボックスは基本的に普段から中身の時が停止している。熱々のおでんを収納し、一月後に雪山で取り出してもリアクション芸が出来る。
寧ろ内部に時を流す方が難しい。
時と言う要素を保全しない事で術のコストを下げているからだ。
実際、時を停めているのでは無い。力量が無ければ時を内部に持ち込めないだけだ。
生物を内部に持ち込めないのも似たような理由。
そんなアイテムボックスで状態の完全保持はアイテムボックスが完全体になったようなものだ。
真に使いこなすと、武技など使わなくとも初めからそんなアイテムボックスに出来るのだが、ここの先輩達はその段階まで到達していないらしい。
魔力をしっかり代償として支払っている。
しかしそれでも高等な技術。
それで何をしているかと言うと、砲撃ベクトルと重力ベクトルの方向を同じにし、加速させていた。
重力で加速した砲撃はアイテムボックスに収納され、完全に状態を保持、エネルギーを保ったまま、その上に展開されたアイテムボックスから出され、また重力により加速、そして収納、また上へと繰り返し、どんどん加速して行く。
やがて歪んだ空気まで纏い始め、遂には赤みを帯びた。
「「「“グラビティメテオ”!!」」」
そして標的の方向にアイテムボックスが開き、形を保つ限界まで加速された砲撃が、流星群となる。
輝く流星が墜ちる。
流石に本物の隕石ほどの威力は無い。
砲撃の殆どが金属で構成され、加えてそこまで大きく無いからだ。
空の高度を再現すれば融けるを越えて、ものによっては蒸発してしまう。
まだ形を保つ程度しか加速させていない。
しかしその威力は絶大の一言に尽きる。
一撃で分厚い鋼鉄の城壁が粘土で造られていたかのように曲げられ穿かれ、終いには衝撃波付きの大爆発を引き起こし、崩れ散ってゆく。
それが何発も、斜め上空から一部城壁を無視して内部にまで流星の如く突き刺さる。
三回の願い事も許されないまま、幾つもの砦が同時に廃墟となった。
そしてその矛先は、モレクへも向く。
だが、この結果は芳しく無い。
流星撃は目にも止まらぬ速さで、音を切り裂き次々とモレクに向うが衝突するのみ、どんなに激しい火花を散らしても、どんなに激しい衝撃波を伴おうとも、穿く事は無い。
それどころか大して凹んでもいない様子だ。それも誤差の範疇。少し離れれば見えなくなる程度の、小さな窪みだ。
エネルギー自体は伝播するようで、立ち位置は一発毎に後ろへと押し出されてゆくが、ダメージを負った様子は欠片もない。
やはりモレクは魔力強化によるアダマンタイト並、出力によってはそれ以上の硬さを持つ事から、魔力を伴った攻撃で無ければ傷付ける事も難しいのだろう。
一方、ソドムへの被害は甚大だ。
元々、戦闘態勢に入っても、ソドムは城壁を伴った都市であるが、魔物の存在する世界で標準的な、普通の商業都市である。
守りを多少固めたところで、通常の建築物と同じく横からの力には弱い。二階が多くの人に踏みつけられる前提で造られても、壁は多くの人が寄りかかる前提は造られていない。
そんなところに横からの流星撃。
守備に動くゴモラを濡れたポイであるかのように穿き、進路上にある建造物を幾重にも貫通し、崩壊させてゆく。
そして流星撃は生じた摩擦に遂に蒸発。ただの蒸発では済まされず、酸化までして甚大な爆破を引き起こす。
ソドム合併により急回復していた都市は、再び見るも無残な姿に変わった。
それでも終わらず、幾重にもソドム中心の城を砲撃してゆく。
アイテムボックスを利用していたが、流星撃は紛れもない物理攻撃。
しかしそれに、儀式魔法メテオすらも防ぐソドム結界、絶界は押され、幾つも破れてゆく。
強大な一撃は防げても、強い攻撃の連続には流石に耐えられないらしい。一発で付けられる罅が他の罅と合流し、面白いように破れてゆく。
面の攻撃は強くとも、数多の点の攻撃には弱いようだ。
この流星撃に対処する為に、都市の再生や、新たなゴモラ兵の生産が止まった。
殆どの処理能力が結界の維持に回りだしている。
戦果としてはかなり大きい。
だが、そんな攻撃を続ける砦にモレクが進軍する。
相変わらず、流星撃でモレクを迎撃し続けているがこちらの効果は殆どなく、ただ向かい風を進むように前進。
収束させた獄炎の斧杖に更に獄炎を収束させ、振り下ろそうとする。
それを阻むはモレク担当の先輩達。
ある先輩は攻撃は最大の防御なりと猛攻を仕掛け、ある先輩は守りに徹し、またある先輩は進路上の地形を崩し道を塞いでと、それぞれの方法で進軍を止める。
某海でロボットに変形する船と言う名目の粗大ゴミを投棄していたトム先輩は、ここぞとばかりに真価を発揮する。
今度こそは役立つ本物の変形ロボットだ。
帆の無い木造船を全て金属で造ったような、近未来的な中に不思議とアンティークの雰囲気が合わさったその船は、細かく多くの小船体に別れ外側から分離し、人型の骨形に合体、そのまま集合し、太くなる。
そこに船の中心から球形のコアルームが胸の中心に。
また小型船パーツが集まり、コアルームを完全に埋没させる。
するとコアルームからは背骨のような形状のミスリル鎖が飛び出し、小型船パーツの中央を通り抜け、次々と繋いでゆく。
そして分裂した船の中央付近から、外装パーツが現れ、それを今度は小型船パーツから伸びる細い無数のミスリル鎖が外装を縫い止める。
動力源は操縦者、つまりトム先輩。
コアルー厶に乗り込み、巨大な魔結晶で造られた魔力タンク兼魔力増幅器に手を置いている。
動力は勿論魔力。
ミスリル鎖で全体に伝達され、主にミスリル鎖の伸縮によって動く。
ミスリル鎖による魔力回路には硬化魔法などの強度向上魔法の術式が数々刻まれ、魔力が回路に流れる度に、つまり常にそれ等が発動されている。
ロボットと言われイメージする先端技術の塊では無く、かなり強引な構造だ。
よく大型人型兵器の実現性で議論される耐久性はミスリル製に加え強化術式で補強、動力も鎖の伸縮。
コストが資材面でも魔力面でもとんでもない。外装はミスリルよりも更に希少なアダマンタイトまで、鍍金だが使用している。
そんな巨大変身ロボット“アルゴーⅣ”は多層アダマンタイトチェインシールド、アダマンタイト鎖で編まれたの外装の下にエネルギー吸収性の良い素材を何層も重ねた大盾でモレクの斧杖の一撃を受け止める。
火砕流の如きその一撃で辺りは融解するも、アルゴーⅣは融けもしなければ、殆ど後退すらしていない。
融けた大地に少し沈み込んだ程度だ。
アルゴーⅣは防御に終わらず攻勢に移る。
肩から大砲を伸ばし、モレクに狙いを定める。
ミスリル鍍金で鏡となった砲身内に、魔力線が充填され、砲身中央の魔紅玉に収束、内部で増幅してゆく。
魔力版レーザーと言ったところだ。
そして照射。
青白いビームがモレクに直撃した。
途端、迸るスパーク。
空間を歪めそうなそれに、モレクは全身を焼かれる。いや、焼かれてはいない。内側から燃えている。
尚もスパークは増大。
理論崩壊したモレクの外装から漏れるエネルギーもスパークに加わってゆく。
主にモレクの魔力的部分を攻撃しているようだ。
モレクはふらつき、思わず一歩後退する。
トム先輩は見逃さず追撃。
アルゴーⅣの各所に付いた爆魔石ミサイルを連続発射。
酸素を必要としないミサイルは威力を衰えさせる事なく、爆発でモレクを覆い隠す。
そして、爆炎の中、空に向かい光の粒子が昇ってゆく。
炉内の生贄の魂だ。
モレクは、滅び去った。
色が抜け落ち、灰となって崩れ落ちる。
トム先輩は次のモレクへと向う。
他の先輩達とは違い、装備としての蓄えがある為に、持久力がある。
その分、必要なコストも大きいが、強い事も確かだ。
先輩達は善戦を続ける。
ソドムもモレクも防戦一方。
ゴモラは手も足も出せていない。
しかし、そこにまた、新たなモレクの軍勢が現れた。
軍勢と言っても二十体。
されどモレクが二十体だ。
対抗戦力が存在しなければ世界の滅ぶ大戦力。
遠方のソドムではまだ生産していたらしい。
地を獄炎で焼き、空を黒煙で染めながら絶望がやってくる。
先頭のモレク四体が獄炎の収束された斧杖を同時に振り下ろす。
瞬時に獄炎の斧杖がハービット先輩達が陥落させた砦の上空まで伸びる。
「“スヴェル”!!」
咄嗟にハービット先輩は詠唱破棄して代償儀式魔法を発動。
砦を覆う氷のような障壁。
北欧において、天の神と地の人とを隔てたとされる神話の盾、その再現だ。
古来より、世界中で、神は直視してはならないとされて来た。
ディオニソスの母、セメレーの神話が有名だ。彼女はゼウスの姿を直視し、雷に焼かれたと言う。
スヴェルは、そんな神の光から人間を守り、地上を冷やす盾だ。
盾のすぐ外は直撃していないにも関わらず熔け始めるも、内部に熱は通らない。
しかし神話再現の儀式魔法、勿論代償は存在する。
ハービット先輩はスヴェルが墜ちないように両手を掲げ、遠隔から支えるも、腕の血管は浮き上がり、耐えきれず何箇所も出血してしまっている。
支配したゴモラを生贄に強引に発動したようだが、それでも対価は大きい。
詠唱破棄までしてしまった代償が出てしまったようだ。
慌ててシンシア先輩が回復魔法をかけるも、傷付くスピードの方が速い。
スヴェルとの相対位置は完全に固定されているようで、自身が盾で受け止めたかのようにハービット先輩の立っていた石畳は粉々に砕け、陥没する。
時と共に破裂する血管が増えてゆく。
そして何とか防ぎきった。
が、先頭四体のすぐ後列のモレクが斧杖を構え、投擲準備をしていた。
迷わず先輩達は逃げる。
消耗の激しいハービット先輩は治療していたシンシア先輩がかっ攫うようにして逃げる。
砦を逃げた刹那、獄炎の斧杖で穿かれ砦は蒸発した。
一瞬で大地の熔けた溝の一部となり、もはやどこに位置していたかも定かでは無い。
雨に紛れて降り注ぐ岩石が、辛うじて名残を伝えるのみだ。
雨の焼ける音と蒸気が辺りに満ちる。
先輩達は留まる事なくすぐさま散開した。
まとめて狙われ無いように駆け続ける。
そして先輩達が新手のモレクに注意を引かれている内に、生き残ったモレクに周囲に集まって来た。
囲まれた形だ。
先輩達は尚も止まらず、包囲の外を目指す。
しかし、完全に逃走を選んだところで、真の難題に直面した。
新たなモレクが現れたところに、入る時に使った、出口である転移門があったのだ。
つまり、先輩達はモレクを倒さなければダンジョンを脱出する事が出来ない。
先輩達は即座に逃走から迎撃に切り替える。
逃走を選ぶ程の相手に、迷いもせず立ち向かえるのは流石と言う他無い。
かなりピンチな先輩達には悪いが、ハービット先輩とシンシア先輩の新たな関係と言い、これだけでポップコーンとコーラを幾らでもいける。
「……マスター、それは?」
「見ての通り、ポップコーンとコーラだよ?」
「そう言う事では無く……」
「ああ、ポップコーンは塩バター味だよ?」
「……何故こんな時にポップコーンとコーラを?」
「なんだ、それを聞きたかったんだ?」
「それ以外に何がありますか……」
「何故って、まるで映画を視ているみたいで、物語に入り込んだみたいに視所満載だからだよ」
実際に映画館に行った事は無いし、村で見たでは無く、村から視た事しか無いが、何となくそんな気分だ。
より自分から離れた世界の事、物語にしか語られないような英雄を視ている気分になれた気がしてくる。
まあ本当のところは、この状況に合いそうなおやつとして浮かんで食べているだけだが、理由付けをするとこんな所だろう。
南国で勝手な想像の雰囲気に合わせてトロピカルジュースを飲むようなものだ。実際は十中八九、そこ原産では無い果物も含まれているだろうが、全ては気分の問題である。
美味しく感じるし、よりそこに居ると実感出来る。
「コアさんも食べる?」
「……各所でモレクの死骸が転がっていたり、そうで無くとも先輩方以外は全面的に地獄の光景なのに、よく食が通りますね? こんなに、香りを漂わされてはいただくしかありませんが」
因みに、ゼンは僕が言う前に一緒に摘んでいる。
そして宣言通りコアさんも。
自分以外もポップコーンとコーラを食べて飲んでいると、益々映画館にいるようだ。
それに伴い、やはり先輩達の戦い振りがより英雄譚のように素晴らしいものに視えてくる。
例えそれがピンチだとしても、ここでは素晴らしいスパイスだ。
乗り越えてくれれば、いや物語が続く限り、それは次を輝かせる触媒だ。
過去や経験自体は不動のものだが、続く道を変え続ける力を持つ。
きっと先輩達ならどんな経験も、最高への礎にしてくれる。
そう信じるとしよう。いつものように。
願わくば、最高の君に至らんことを。
《用語解説》
・垂直展開
〈アイテムボックス〉の武技、もしくは文技。
収納する物体のベクトルの垂直方向にアイテムボックスを展開する。これ一つでは戦闘に使えないが、普段使いでも使用する場面があるのか定かでない為、主に武技と言われる。
簡単なように思えて、対象のベクトルを感知すると言うアイテムボックスの範囲から外れる力が必要な為、使用者は少ない。
対象の軌道を正確に読み取る力を元々持つ者は簡単に使えるが、そもそも使おうと言う発想を持つ者自体少ない。
利用価値を知っているアンミール学園関係者くらいにしか使おうとすら思われない武技である。
・並列展開
〈アイテムボックス〉の文技、もしくは武技。
アイテムボックスの入口を複数展開する文技。両手に別々の物を取り出したい時などに使う。グラビティメテオ前提で無ければ武技に分類されない。
使える者は多い。
スキルレベルにより、文技としてではなく、魔力の対価が必要ない普通の能力として使える者もいる。
・状態完全保持
〈アイテムボックス〉の文技、もしくは武技。
収納するものの状態を完全に保持する。魔力を含めたエネルギーを保持したまま収納が可能。生物も抵抗されなければ収納出来る。
ただし保持する間は魔力を常に対価として消費しなければならない。
短期間用。アイテムボックスの性能を変えるのではなく、あくまで高位のアイテムボックスを一部再現する技である。
その為生物に抵抗されたら収納出来ないように多くの制限も存在する。主に自分の所有物、預かり物のみ収納可能。自分の延長にある、自分の一部と言う概念を協調させてコストを下げている。
また効果範囲はアイテムボックス全体では無く、使用してから収納したものにのみ適用される。
文技武技、どちらとしても多く使われるが、高難易度の技で使用できるものは少ない。
正確には使えても長時間の維持は難しい。
・グラビティメテオ
〈アイテムボックス〉の武技。
アイテムボックスを対象の上下に展開し、物体に重力加速度を与え続ける、収納時の状態を維持し続ける事により隕石に匹敵するエネルギーを物体に持たせ、射出する。
“グラビティキャノン”の下位互換で、発動には前述の武技を必要とする。無理矢理発動した“グラビティキャノン”と捉えるのが適切。
しかしその威力は隕石そのもので、熱に耐えられる重硬なものほど威力は上がる。
モレクのような神話級の存在で無ければドラゴンだって討伐が可能。魔法攻撃しか効かないような相手すらも、実体さえあれば圧倒的物理で強引に倒せる。
発動は複数の武技を連続発動させる必要があるので難易度は高い。
しかし、同威力の武技と比較するとかなり簡単と言える。
その為、有用な武技なのだが、その存在はあまり知られていない。
それどころかそもそもアイテムボックスが収納以外に使えると考えている者自体が少ない。
これはアイテムボックスが稀有なスキルと言った理由からではなく、反対にスキルとして、そして英雄譚に語られるスキルとして有名過ぎ、その中で代々そう言った話が無い為に常識として固定観念化されている為。
その英雄譚の人物達も、故郷でアイテムボックスが収納にしか使われていない物語を読んでいるので使おうと考えない。
そんな繰り返しの結果である。
例外はあらゆる世界の生徒が集まり、あらゆる記録が集まるアンミール学園。
〈アイテムボックス〉を獲得させる授業もあるかの学園では、その様々な運用法も同時に教えられている。
その為、かなり珍しい武技の筈が、アンミール学園の存在で使用する者は多くいる。
お手軽な切り札の一つ。
ただし加速に多少時間がかかるので、ある程度の余裕が無いと使えない。
《出張モブ紹介簡易版》
・クーガ
彼が主人公の物語に題名を付けるのならば、【最近、幼馴染を勇者と呼ぶ不審者が増えて困っています。畑の肥料はもう十分です。】である。
“破断”は〈剣術〉の武技。
広範囲に大剣の一撃のような重い斬撃を加える。一応飛ぶ斬撃だが、遠距離攻撃と言うよりも刀身が伸びる攻撃に近い。
“全重波斬”は〈剣術〉と〈土属性魔術〉による武技。〈重力魔法〉が有ればより強力に使える。
自身を中心に、波のように大きな重力の刃を飛ばす。実際は実体のある重さを飛ばす斬撃であり、大玉鉄球に刃を付けて叩き切るようなダメージを与える。
尚、当時土属性魔術しか使えなかった自称普通の農家な村人であるクーガが自ら編み出した武技である。土属性を剣に付与すると言うだけでそこそこ珍しい。
・セオン
彼が主人公の物語に題名を付けるのならば、【学なき賢者は最強剣士】である。
“扇爪”は〈剣魔法〉による魔術。
扇のように剣の縦に魔力の刀身を四枚、爪のように横に刀身を四枚生成する。
“魔導神経接続”は〈剣士魔法〉による魔術。
魔力による神経を新たに通し、想像通りに肉体を強引に動かす。強引に動かす為に肉体強度と再生力が必須。それも効果に含まれている。
〈剣士魔法〉自体が激レアスキルな事も含め、賢者レベルの魔術師にしか使えない高度な魔術。
・ハービット
彼が主人公の物語に名前を付けるなら【裸の公子様】である。
“スヴェル”は神話再現の儀式魔法。スキル云々よりも儀式が重要。一応スキル的には〈神聖魔法〉や〈聖属性魔法〉、〈神属性魔法〉であるが、神属性を帯びていようとも人一人が使えるようなものでは無い。
神の盾、人類を守護する慈悲、神と人との隔たり、そんなものを顕現させる守護魔法。神罰をも防げる。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次話は今章最終話【第七十話 最終決戦あるいは決戦後編】となる予定です。一応一話分程の文量はありますがまだ未完成です。長くなり時間がかかるようならまた分割するかも知れません……。
また、ハロウィンにボッチ転生を投稿しました。普通の設定はこちらに多くありますので、宜しければタイトル上の【ユートピアの記憶】からお飛びください。魔術や武技、そして明言はしていませんがスキルレベルについて書かれています。




