第六十六話 精力増強あるいは陽動
一先ず“●●しないと出られない部屋”を用いた縁結び効果の確認は終わった。
これは時間を使って他の縁結びが進歩するまで待つと言う目的もあったのだが、現状ほぼ変化無しだ。
強いて変化を上げるとするならば、メービス先輩の追跡劇だろう。
やろうとしている事とその結果自体は変化していないが、メービス先輩は多彩な魔術を使って時が経つと共に強大な包囲網を張っていた。
アンデッドなのだかリビングアーマーなのかゴーレムなのかよく判らない禍々しい騎士型の使い魔を多数召喚して捜査に当たらせていたり、獄炎を烏の形にして空から捜索させていたりと、どんどん禍々しい追手を召喚していた。
果たしてこの追手からマサフミ先輩は生き延び……じゃ無くて逃げ切る事は出来るのだろうか?
しかしこの変化は縁結びとは関係ない変化。
変わるのはマサフミ先輩の寿命くらいだ。
肝心の縁結びはどれも進んでいない。
「進歩状況が滞っているけど、どうするべきかな? このまま待ってる? それともテコ入れする?」
「現在唯一望みの有りそうな魔法少女に変身した方々はおそらく、あの格好のままだけで乗り越えようとしています。動かすにはテコを入れるしか無いのではないでしょうか?」
「因みにパパはどう思う?」
「これ以上、悪化のしようは無さそうだから、好きにすれば良いんじゃないか?」
なんと投げやりな。
もう少し息子を手伝ってもいいと思う。
何であれ、コアさんの意見を採用だ。
となると考えなくてはいけないのはその方法。
「一応保険として、ゴモラに何かさせるよりも、僕達が何か別の手を使った方が良いかもね。ゴモラのやってる誘惑は継続したままでも成果が得られる可能性がゼロじゃ無いし、せっかく待ったんだからそれを中止させたらもったいないと思うんだよね」
「確かに未だ変化はありませんが、長時間使ってこそ効果が現れるものだった可能性もあります。その手が良いでしょう。しかしどうしますか? 中断させずに更に手を加えるのは難しいと思いますよ?」
「うーん、不自然じゃない小さな偶然から試すしか無いかな」
「いつも通り試行錯誤と言う訳ですね」
先輩達は既に非日常の中にいる。
ちょっとやそっとの変化では気付いてももらえないだろう。
しかし巨大な変化を与えては、一から別の縁結びをするのと変わらない。
停滞こそしてしまっているが、縁結びに合う非日常の中にいることは間違い無い。
それを無にする選択肢は僕達には無い。
だが、小さな変化を与えるだけでは無意味。
だから試行錯誤して丁度いい加減を見付けなければならない。
こうして、僕達の挑戦はまた始まった。
「取り敢えず、その場にあるもの、身近なものをどうにか操作してその場と合わせるぐらいしか出来そうに無いけど、どうしようか?」
「幸いにして、普段無いようなものが其々の場に有ります。それを使うのが良いのではないでしょうか? 元々特殊なものは勿論の事、それがどういうものかの認知度が低いものも多々ありますから、自然なままに多少の無理は可能であると思います」
「認知度が低いものは先輩達によって使い分けなきゃいけないけど、元々が変なものはすぐにでも使えそうだね。その手でいこうか」
まず使えそうな変なものを先輩達の周りから探す。
先輩達それぞれに対する方法を考えるのでは無く、使えそうな変なものが近くにある先輩から手を加える作戦だ。
作戦と言うよりもまず使えるものが無ければどうにもならない。
「一番目に付くのはマンドレイクだね。あれだけ先輩達が持っていて攻撃したりしていたから、破片とかが色々なところにあるよ」
「ポケットの中やフードの中に紛れ込んでしまった方々も多いですね。では、早速試してみましょう」
コアさんはそう言うと、シンシア先輩の服に付着し、服を脱いだ時に床に落ちたマンドレイクの破片にほんの少し魔力を与える。
バレない程度の魔力だが、コアさんは微量な魔力で的確にマンドレイクの脈を突き、活性化させる。
するとマンドレイクの破片は床の石材にゆっくりとめり込む。
石材はゆっくりと艶を失い、やがて破れた。
罅の中心から頭を出したのはマンドレイク。
破片では無いマンドレイクだ。
しかし元のマンドレイクでも無い。
真なるマンドレイクから株分けされ生まれた魔物。
ルクスリアマンドレイク、一般的なマンドレイクよりも数段上位に存在する、ルクスリア、色欲に特化したマンドレイクだ。
魔物のマンドレイクのランクは4、討伐にはD級冒険者パーティーが必要とされるが、このルクスリアマンドレイクの大きく跳ね上がってランク8、討伐には街の防衛だって一パーティーで可能なB級冒険者パーティーが必要とされる。
逆に言えば、ルクスリアマンドレイクは街一つを壊滅に追いやる力を持った魔物だ。
が、今回その力には期待出来ない。
ルクスリアマンドレイクは床を破壊して蔦を伸ばすと同時に、頭の天辺に咲いた花から催淫ガスを、そして口からはマンドレイク特有の叫びと言ういきなり全力の奇襲を仕掛ける。
そして次の瞬間には破裂した。
シンシア先輩は奇襲に気が付くとステッキで反撃したのだ。
蔦をステッキで弾き返せばそれだけで蔦は破裂し、あっと言う間に接近。
ガスも叫びも意に介さず一突き、それだけで胴体をぶち抜かれ、念を入れての縦横無尽の撲打。
秒もかかっていないこの反撃に、ルクスリアマンドレイクは木っ端微塵に破裂。
あっと言う間にこの世から姿を消した。
この光景にコアさんの表情が崩れる事はない。
「ルクスリアマンドレイクはその体液もガスも叫びも、全て催淫効果を持ちます。瞬殺されましたが全て直撃した様子。おそらく死に直結しないからと避けなかったのでしょう。確実に効いている筈です」
そう、コアさんの目的はルクスリアマンドレイクの持つ催淫効果。
他の力には元々期待していない。
倒されても催淫効果さえ与えられれば問題無いのだ。
尚、ガスと叫びを浴びたゴモラは、しっかり効いている演技をしている。
ゴモラは一つの独立した魔物と言うよりもソドムの端末としての側面が強い為に、繁殖能力を有しておらず本来は効くはずもない。
しかし人間の影の部分を写し取る能力から、大抵の行動は真似る事が出来る。
今回の催淫と言うものは人の欲と言う部分に近い事から特にその演技具合は完璧。
これで何かあってもゴモラを疑う事は無いだろう。
さて、シンシア先輩の性欲はしっかり高まっているかな?
「ふう、お怪我はありませんか? 無ければ撮影の続きを」
そう言いながら液体の付いたステッキを一振り、汚れを振り払う。
さっきとの変化は……強いて言えば目付きが鋭くなった、かな?
「コアさん、あまり効いて無いみたいだけど?」
「おかしいですね? 攻撃自体は兎も角、催淫効果のあるものは全て受けた筈なのですが?」
「そう言えば、普通のマンドレイクの叫びを聞いた時から催淫効果がある筈なのに、今回縁結びをしていてそれが役に立った感は無いよね? もしかして皆耐性を持っていたのかな?」
「いや、前回も今回もしっかり効いているぞ?」
僕の推論に対して変な事を言うゼン。
「現に効いて無いよ?」
現在進行形で普通の状態なシンシア先輩がいるのに、何故現実を否定するような事を言うのだろうか?
視て無かったのかな?
「目に見えて効果が発揮されないだけで、効力自体は減衰も何もしていない。行動とか表じゃ無くて中を視てみろ」
言われた通りによく視てみると、確かに浴びる前よりも精力が高まりそれに連なって性欲が高まっている。
でも表にはやはり出ていない。
何故か現実を動かすには到らないようだ。
「本当に効いてるみたいだね」
「何故それなのに外に表れないのでしょうか?」
「その手の衝動を抑えるのが上手な先輩だったのかな?」
「ですが、マンドレイクの叫びを聞いた方々は全員抑えたままです。一人なら兎も角、全員が抑えられるのは不自然では?」
確かにコアさんの言う通り不自然だ。
そもそも本物のマンドレイクの叫びは人を殺すほど内にあるべき生命力を表面に引き出す力が強い。
催淫効果がその副次効果だとしても、かなり強力だ。内的要因で催淫効果を引き出すものとしては最高峰と言って良い。
アンミール学園には何れ物語の主人公として語られるであろう英雄の次元に既に足を踏み入れている人達で溢れて、その精神力は相当なものだと思うが、流石にマンドレイクは耐性スキルが必要なレベルで強力なものだ。
更には副次効果により引き起こされるから耐性スキルが働くかも怪しい。
それを全員が防げていたなんて、今思えば不自然でしかない。
一体何故この結果が生まれたのだろうか?
「一言で答えると、効いて無いように見える原因は種族レベルだな」
「「種族レベル?」」
ゼンによって明かされた答えは種族レベル。
種族レベルは通常皆レベル1だ。
これを上げる事を覚醒と言い、覚醒すればあらゆる力が一段上の次元に昇華する。
ステータス的には能力値は桁が上がり、同じスキルレベルでも技の可能域が広がると言う。
覚醒はその世界に一人も覚醒者が居ない事がよくある程難しいとされるが、先輩達の殆どは実際に覚醒者だ。
「覚醒していいるから催淫への耐性も強いって事?」
「そうじゃ無い。もう一度言うが、効果自体は効いている。まあこれは知らなくても仕方がない。種族レベルが上がる事によって与えられる変化の内、今回の事と関わりがあるのは寿命だ」
「「寿命?」」
種族レベルが上がって寿命が延びるのは有名な話だ。
基本的に、一つレベルが上がれば寿命は二倍になる。
覚醒するとステータスに表示される値以外にも、ほぼ全ての事が元より上昇する。
寿命はその最たる例だ。
聞くところによると、外見まで元より美しくなるらしい。
流石にこの真偽は不明だが、よく言われる事ではある。
しかしそれのどこが今回の事と結びついているのか全く判らない。
耐性でもなく、寿命が伸びたところで変化は無い筈だ。
「勿論、寿命が直接何か影響する訳ではない」
「そうだよね?」
「しかし間接的には大きく関係してくる。あまり知られていない事だが、寿命が延びる事と付随して性欲が減衰、と言うよりもなんと言うべきかアークには説明し難いが、動物で例えると発情する機会が減る。寿命が長くなるだけに、子孫を残そうとする本能が弱くなると言う事だな」
「だから体力が有り余っても、発情しないって事?」
「そう言う事だ。因みにこれまた説明し難いが、種族レベルが上がると男で言う弾数自体は増える。能力的には元より小作りし易い筈なのに、更に精力を増強してもこの現状だ。まあ、実行に移す気が起き難いと理解しておけば良い。
ついでに言うと、子供が出来る確率自体もレベルが一つ上がれば二分の一だ」
思いもしなかった話だが、言われてみれば頷ける点が多々ある。
統一世界に統一されている世界、住人が超越者だらけになった土地の出生率は極端に少ない。
住人はほぼ不老不死であり、いつまで経っても精神以外は若々しいままなのに、人口は一向に増える兆しが無い。
数年に一人生まれただけでかなり良い方だ。僕が生まれる前辺りからベビーラッシュらしいのだが、それでも数年に一人で良い方、少子化にも程がある。
これはただ永生きである事により動機が減少しているだけだと思っていたが、他も色々と下がっていたらしい。
聞いただけでも肉体的には二倍の性能になるが、中身的には四分の一、結局種族レベルが一上がる毎に二倍生まれ難くなると考えると悪夢のように少子化が下がって行くようだ。
「ん? でも割と性欲に溢れている先輩達って多いよ? 男子寮のごみ捨て場なんて、ホムンクルスを永遠に生産出来そうな程、材料がティッシュに包まれているし?」
「……それは、まあ、本番へ向い難いと言うのが本質だからな、多分。後は広く知られていないように、本人でも気が付かない奴が殆どだ。覚醒前のままと思い込んでいる奴が多いって事だな。自分の過去で今の自分に暗示をかけているような状況になっていると言う訳さ。
俺のように人類を視守るぐらいしていないと気が付けないと思うぞ?」
「つまり縁結びシチュエーションを使うなら感覚は変わっていないし、そもそも意識するきっかけを作るだけで性欲は多分関係無いから縁結びが出来るけど、精力増強とかは明らかにやってますよアピールしないと効きにくいって事?」
「縁結びで例えると、そういう事だな」
そうなると困った。
シンシア先輩に限らず他の先輩達にも破片マンドレイクさり気なく魔物化作戦が使えないと言う事になる。
マンドレイクに押しもらうと言う作戦も、何かを壊して二人だけ閉じ込めたりする作戦も、簡単に討伐されるだろうから使えないし、一番数のあるマンドレイク作戦が全て封じられる事になる。
一から他に使えそうなものを探さなければならない。
振り出しだ。
そう考えていると、ふと催淫された演技をしているゴモラが目に入った。
「そうだ。別に間接的にでも先輩を導ければ問題無いんだよ」
「何か良い方法が浮かんだのですか?」
「うん、シンシア先輩に直接何かするよりも余程効果的な方法を思いついたよ」
その作戦を実行するのは僕では無い。
僕は指示をするだけだ。
たったそれだけ。
しかし避けられもしない方法。
「部屋が汚れて、しまったので、部屋を、替えましょう。気分も悪くなりますし」
有無を言わさない仮病、催淫演技で絶妙に具合が悪そうにそう提案する。
病院が必要でも無いけど少し休む必要がある、乗り物酔いのような気分の悪さを表現している。
そんな弱っている者の発言に反対など出来る筈もないシンシア先輩は、カメラマンゴモラに肩を貸して移動する。
その先は何と、ハービット先輩が撮影している部屋。
何の悪びれも無く合流させる作戦だ。
ハービット先輩はあくまでも健全な撮影をしている最中であるし、その隣で撮影させれば嫌でも意識し合う筈だ。
部屋に入らせるだけでも効果がある。
「おお、これは不可避かつ不自然さの無い完璧な作戦ですね」
「あの失敗からこの作戦まで持ってくるとは、凄いぞアーク」
珍しくゼンにまでお褒めの言葉をもらった。
我ながら素晴らしい作戦だ。
「怪我の功名ってやつだよ」
そう言いつつも、つい笑みが溢れてしまう。
扉が開かれる。
その扉は正しく未来への扉。
そして運命の扉。
肩を貸し、ゴモラの体調を伺いながらゆっくりと扉を開くシンシア先輩はまだ気が付かない。
モデルの仕事に夢中なハービット先輩もまだ気が付かない。
シンシア先輩が扉にゴモラがぶつからないように気を使い、丁寧に部屋に入り切り扉を閉めたことでやっと気が付く。
「なっ……」
「ん? はっ……」
奇しくも、二人の驚き方は同じだった。
余りにも予想外の口に、開いた口が塞がらない。
その感情は驚愕、それを一つ通り越して無に近くなっている。一向に呑み込めないようだ。
羞恥心も興味心もまだ追い付いて来ない。
その間にゴモラ同士が話し始める。
「何だ、使っていたのか?」
「急にどうした? こっちは見ての通りそこの彼にヌードモデルをやってもらっている。いや〜、逸材でだな。普通の作品どころか教材にも使えるような作品を撮らせてもらっている。お前も後で頼んだらどうだ? そこらのプロよりもモデルが上手いぞ?」
「そうか、お前がそこまで言うのなら頼んでみるよ。後で作品を見せてくれ。こっちは急に植物型の魔物が発生してな、どこかから種が紛れ込んだらしい」
「そんな事があったのか!?」
「ああ、多分カメラの振りまく魔力で活性化してしまったんだろうな。それでそいつはそこの彼女が倒してくれたんだが、毒ガスみたいなのを吐く奴でな。部屋にいられなくなったからこっちに避難してきた訳だ」
「そりゃ災難だったな。兎に角休め。俺は他の連中に伝えてくる」
「他の連中? 今日は他のスタジオも使われているのか?」
「もう展覧会が近いからな。全スタジオが埋まっているぞ」
普通の会話に思えて、その実情報の刷り込み。
あくまでもこれは正当な行為だと両者に示す。
そんなゴモラの内、元々この部屋にいたゴモラは外に出て行った。
やっと情報を飲み込めてきた二人は、徐々に顔を紅くする。
しかし唖然としていた時間が長すぎて、悲鳴の一つも叫べないでいた。
それに本来叫ぶ側のシンシア先輩は後から来た側。
正当性はハービット先輩の方にある。文句が言える状況じゃ無い、状況じゃ無いが何か言わないと気が済まない。
「貴方、早く服を着たらどうですか?」
固い口調だが、声は若干震えている。
そしてそう言いつつも視線はハービット先輩のシンボルをチラチラ。
自分は乗せられて服を脱いだりしないしっかりしたタイプなのに、そう言うところはちゃっかりしているらしい。
「き、君の方こそ、なんだその格好は?」
そう言い返すハービット先輩。
この発言から、どうやらハービット先輩には魔法少女の姿が見えてしまっているらしい。
少し残念だが、苦し紛れの発言では無く、六割くらいは本心が交ざっている。
自分は全裸なのに、女子のそれに対する耐性はかなり低いらしい。これでも貴族としての露出度が基準のようだ。
「な、私のは仕事です!」
「僕のも仕事さ!」
ハービット先輩は常時全裸だが、まあ細かい事は気にしなくても良いだろう。
因みにハービットは手で頑張って股間を隠している。やはり普通に羞恥心はあるようだ。
そんな中で、外に出ていたゴモラも帰ってくる。
「皆に伝えて来た。取り敢えず、撮影を再開しようか。狭いが体調が治ったら隣を使え」
「良いのか?」
「ギリギリ使えるだろう。展覧会も近いしな」
そう会話して巧みに先輩達の退路を塞ぐ。
「だが、モデルの二人に悪いんじゃ?」
先輩達の認識としてはゴモラも不運な被害者。
健康を害したばかりか、展覧会とやらの締め切りも近いらしい。
善人であれば断るのが難しい案件だ。
「い、いえ、大丈夫ですよ!」
「そ、そうです! 撮影を続けましょう!」
善人である先輩達はやはり断れなかった。
顔が若干引きつっているが、しっかり笑顔を作っている。
「君達……ありがとう」
病人ゴモラは嬉し泣きの演技。
「「…………」」
うん、退路は完全に絶たれた。
肩がふれ合いそうな狭さの中、撮影会が再開される。
二人とも合流前よりもポーズぎこちない。
シンシア先輩は全体的にポーズが小さく、ハービット先輩は明らかにシンシア先輩を意識して、アソコが見えないポーズを次々と決めている。
「どうしたの〜、さっきの勢いが無いよ〜!」
「もっとリラックスリラックス!」
そう言われ改善しようと努力をするも、改善は小さい。
だが、そんな状況にゴモラはほくそ笑む。
「分かったよ。まずは緊張を解そう。二人一緒にモデルになってくれ」
「おお、良いアイデアだな。二人で協力すればすぐ緊張も解けるだろう。さぁ並んで。ほら隣に、肩を寄せて」
同情心で退路を絶たれた二人は、自分達のせいで撮影に影響が出たと自覚しており、渋々ながらも寄っていく。
「まずは何も考えないで良いよ!」
「落ち着いて肩の力を抜いて」
パシャパシャと撮り続けるがポーズは強要しない。
ただ近くにいるだけの写真を撮ってゆく。
外から視ると、悪役魔法少女と全裸の少年と言うかなり謎な光景だが、次第に二人の緊張は収まってゆく。
無理をしないだけでも多少の効果があったようだ。
まだ十分緊張している状態だが、その緊張も無理までしている緊張から自然体の緊張に変わっていた。
そこからは真面目な、ありそうなモチーフのポーズを注文されこなして行く。
悪魔に誘惑され苦悩する少年。
悪魔に誑かされてしまった少年。
悪魔を正義の心で追い払う少年。
……シンシア先輩の役割が悪魔で統一されてしまっているが、ちゃんとポーズを取ると絵になっている。
元々モデルがプロの領域だったハービット先輩は勿論の事、素人の域だったシンシア先輩も、悪魔のポーズ、表情はめちゃくちゃ上手い。
精霊の鎧は使用者によって姿が決まると言っていたが、残念な事にかなり真実味を感じる。
演技だけ、雰囲気だけそうだと願っておこう。
そしてポーズは徐々に接触の多いものになってゆく。
ハービット先輩に背中から胸の辺りに手を回し、何やら囁くポーズ。
これも同系統の、悪魔に誘惑されているポーズだが、密着していて二人共も疑わなくとも軽く紅く染まっている。
縁結びとしてはかなり良い傾向だ。
後は視守るだけで成就するだろう。
「これは縁結び成功と考えていいよね?」
「はい、大成功です。縁は確実に結ばれているでしょう」
「俺から視ても大成功だと思うぞ」
「ただ、同じ状況を生み出す事が困難な点を残念に思えてなりません」
「そうだね。その点は凄く残念だよね」
ここまでの成功を生み出せたが、この縁結びは再現性が無い。
このダンジョンに放り込めば同じ事が可能かとも思えるが、この階層に行き着くかの時点で運だ。
まあそこは操作で何とかなるだろうが、来た人がヌードモデルの仕事をしなければならない。
ゴモラに誘惑されてモデルになった先輩達は全員お金に困っている人だ。比較的普通の経済状況のひとをお金で釣ることも可能だとは思うが、多過ぎたら多過ぎたで怪しまれてしまう。加減が難しい。
そして今回最大の要素としてマンドレイクがあった。
これ程の霊草ならば魔力などの要因で欠片が魔物に転じても然程不思議では無いが、代替品を使うにしてもマンドレイクレベルの霊草はまず無い。
マンドレイクが存在するのはどこの場合でも通常は不自然である。
宝物の眠るダンジョンにおいてもそうそう有るものでは無い。
この手の危険物を扱う縁結びで意図的なものを感じてしまえば、それは強い警戒心となってしまう。
だから不自然さを感じさせる要素は排除しなければならないが、マンドレイクは不自然要素の塊と言っていい。
これらの条件を不自然なく揃えるのは不可能に近いだろう。
裸体美術部の先輩達が持っていたのは奇跡のようなものだ。
規制品でもあるし……。
つまりこれはかなり特殊な状況下でこそ可能な縁結びだ。
「再現性が無いのは残念ですが、せっかく揃ったこの要素。今の状況下では幾らでも再現性があるでしょうから、今の内に多くの縁結びを行ってしまいましょう」
「そうだね。ついでにモデル撮影以外の場所でも利用出来るか確かめてみよう」
まずは安定の撮影の現場から。
ここは新たにマンドレイクが発生する必要も無い。
特定の部屋にマンドレイクのガスを流入させるだけで状況は揃う。
例の如く、メルダ先輩の部屋に流入させ、ゴモラの体調不良を理由に部屋を移る。
ハービット先輩担当のゴモラは、本当に別の部屋にマンドレイクの事を話に行っていたから、行動はスムーズ。
他の部屋が全部埋まっている事までさり気なく知らせている。
メルダ先輩はテオ先輩がいる部屋に向う。
テオ先輩のところにしたのは普通の外見で無難そうだからだ。
ハービット先輩とは違い一部が“あーるじゅうはち魔法”で隠されているが、テオ先輩程の普通パワーならその点もカバー出来るだろう。
扉が開かれる。
「キィャァーーーーー!!」
そして悲鳴。
続いて崩れ落ちる。
……悲鳴も崩れ落ちたのも何故かテオ先輩の方だ。
女性型ゴモラは平気だったのに、同級生の女子に見られるのは駄目だったらしい。
とてつもない羞恥心と軽い絶望感を感じる。
一体ナニしてた?
「…………そ、その、ごめんな、さい?」
メルダ先輩の方が何故か謝る始末。
本当に一体ナニがあったのだろうか?
その秘密は“あーるじゅうはち魔法”で隠された部分にあるのだろうが、僕にはそれがナニだが理解出来ない。
まあ、拒絶などはしていないから、時間と共に縁結びとなるだろう。
次は、最後の女子の先輩、アリカ先輩だ。
男子の先輩は何人もいる。
いっそ男子の先輩は全員で試してみよう。
メルダ先輩と同じくアリカ先輩の部屋にマンドレイクのガスを。
移動、一部屋目。
マルスク先輩。
「キィャァーーーーー!!」
……テオ先輩と同じ反応だった。
アリカ先輩が反応する前にこの部屋にもガスを。
移動、二部屋目。
テリオン先輩。
「キィャァーーーーー!!」
……また同じ反応だ。
ガス投入。
「「……もうお婿に行けない……」」
二人とも両手で顔を覆って嘆いている。
本当に一体ナニをしていたのだろうか?
移動、三部屋目。
イタル先輩。
「――――――――ピ――――――――」
……今度は違う反応。
言葉にまで“あーるじゅうはち魔法”がかかっていた。
口の動きからして言葉を口にしている訳では無いらしいが、それでも魔法で隠されるとは一体ナニゴトだろか?
一つ言えるのは気色悪い表情をしている。
アリカ先輩は無言でステッキを鞭に変えた。
見事な使いこなしだ。
そして男子の先輩を纏めて打ち伏せる。
「「やっあっ」」
「「「あ"ぁあん――――――――――ピ――――――――」」」
奇しくも声が重なった。
…………放っておこう。
何故か感情的には鞭で叩かれても悦んでいるらしいし、僕達の出る幕ではない。
縁だけなら結ばれた状況だろう。
どんなきっかけも、何に変化するかは神すらも知る余地が無いのだ。
激しい鞭のせいで、建物全体が軽く揺れているが、気にしない方が吉だ。
現像した写真がバラけているが、心なしかその写真が僕には宙を舞う花弁に視えた。
《用語解説》
・ルクスリアマンドレイク
ランク8の植物型の魔物。色欲特化のマンドレイク。
魔物にしては珍しく、ダンジョンよりも地上に出現する方が多い。本物のマンドレイクの欠片により株分けされた存在であり、魔力の濃い土地などにうっかり真のマンドレイクの一部を放置してしまうと発生する。
心臓等の弱点が無い魔物である為、討伐は核となる魔石を狙うか魔術で焼き尽くす必要がある。その他の方法での討伐は困難を極める。本来はステッキで撲殺されるような魔物では無い。
直接的な攻撃力はランク8の魔物にしては低く、蔦による物理攻撃は多少頑丈な民家に隠れるだけでも防ぐ事が出来る。しかし攻撃の全てが催淫効果をもたらし、またその攻撃の殆どが広範囲攻撃である為に街中などで出現した場合は大変な被害をもたらす。
仮に街中に現れた場合、一般人を獣状態に変え、これも対処しなければならないので被害を抑えるには討伐可能以上の力が必要となる。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次話が今章最終話、もしくはラストスパート突入となります。
その後は裏あるいは表の話、登場人物紹介、そして次章へと続く予定です。




