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〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~  作者: ナザイ
第3章〈アンミール学園の新入生イベント〉あるいは〈完全縁結びダンジョンの謎〉

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第六十五話 ●●しないと出られない部屋あるいはデスゲーム

 

 “●●しないと出られない部屋”、●●の部分が何なのかは“あーるじゅうはち魔法”で判らなかったが、このナニかを達成するまで出られない、つまりそのナニかを強制的に達成させる部屋は縁結びに最適らしい。

 この部屋を出た時にはかなり親密になっていると言う。


「マスター、この伏せ字の部分は何にするのですか?」

「それは判らないから、伏せ字のまま課題を発表しようと思うんだよね。そうすれば僕達には判らないけど、有名な話だから勝手に結びつけて実行してくれるんじゃないかなって」

「つまりわたくし達は開放する時の審査だけすれば良いと言う事ですね?」

「そう、親密になれば開放すれば良いんだよ。メービス先輩がマサフミ先輩の断罪に熱心だから女子の先輩はいないけど、親密になるかどうかは男子の先輩だけでも多分判るからね」


 我ながら完璧な作戦だと思う。


「……そうか、一つだけ言わせてもらうが、関係性によって親密の意味は違う」

「まあそうだよね」

「……親密になる方法もな」

「そんな事ぐらい解っているよ」


 そんな当然の事を確認してくるなんて、ゼンも心配性だ。

 勿論今回の方法も心得ている。


 縁結びとは縁を結ぶ事、きっかけを与える事だ。初めに仲を結ぶきっかけを与えるのだ。

 本当に結ぶ事なんて本人達以外には出来ない。だから機会を与える。それくらいしか出来ない。


 部屋で一つの課題解決に向かい協力し合う。

 それは意識させるとかでは無く、仲を深めるタイプの縁結びだ。

 初めの一歩である仲良くなるきっかけなら、仲を深めるきっかけなら、多分どんな関係性のものでも変わらないだろう。


 つまり同性を使ってもこの縁結びの効果なら視れる筈。


 縁結びの失敗の多い僕だって、このくらいの事は理解しているのだ。


 さて、先輩達が各々空いている屋内へ、つまり“●●しないと出られない部屋”にやって来た。

 観察を始めるとしよう。



 “●●しないと出られない部屋”にはモニターが設置されている。

 そこには“●●しないと出られない部屋”と、ここがどのような部屋なのかが表示されている。

 尚、このモニターは指示を出す用途にも使える仕様だ。


 後は結局ナニをする部屋なのか正解が判らないので、水晶端末を用意しておいた。

 この部屋専門のコントロールコアみたいなものだ。

 脱出以外だったら、部屋の内装を変えることも、道具を用意する事も出来る。

 フードメニューも充実していて、日数が必要な内容も実行可能。


 これで伏せ字部分が何であっても、大抵は実行出来る筈だ。

 更にはこちらからの操作も自由自在。


 因みに操作無しの初期状態だと扉とモニターが有るだけの白部屋である。


 そんな部屋の一つに集まったのは風紀委員のシュナイゼル先輩と、同じく風紀委員のユーサス先輩。

 どこかの裸体美術部と違って真面目そうな委員会の所属であるし、その中でも真面目そうな二人だ。

 これは変な結果にならず、素晴らしい正解を見せてくれると期待出来る。


「ユーサス、奇遇だな。君もここで雨宿りか?」

「はい、扉が開いていたので失礼しました」

「私が来たときも開いていたな。閉めなかったのか?」

「雨が吹き込みそうだったので閉めようとはしたのですが、壊れているのか閉まりませんでした」

「そうか? 私が入ったら自動的にしまったが?」

「え? そう言えば閉まっていますね。ん?」

「どうした?」

「あそこのモニターに」


 ここでようやく二人ともモニターに気が付く。


「●●しないと出られない部屋? ふざけているのか?」

「先輩! 鍵がかかっています!」

「これも裸体美術部の仕業か? 我々を足止めしようとする魂胆だな。“解錠”」


 シュナイゼル先輩は捜査魔法と言う珍しいスキルにより解錠を試みる。


 この手の魔術は鍵穴が無くとも、錠となる構造があれば解錠出来る魔術だ。

 鍵を用いるものは勿論、閂だろうとダイヤルだろうと解錠出来る。

 ただし種々多様な錠に対応している分、かなり難しい部類の魔術だ。解錠と言う概念自体を呼び起こす概念魔法であり、捜査官や怪盗では無く専門家である魔術師ぐらいにしか使えない。


 普通にどの世界でも昔ながらの錠が一般的である事を考えれば、相当難易度の高い魔術だ。

 まあ、コアさんが使った“質量増大”とかの方が、余程高度な魔術なのだが……。


 兎も角、難易度は高いが魔術的防御が無ければ大抵の鍵を開けられる高等魔術。


 捜査魔法として習得しているシュナイゼル先輩は色々な意味で素晴らしいと言える。


 私利私欲の為に高度な技術を無理してでも獲得しようとする者は多々いるが、必要と言う訳でも無い高度な技術を努力して獲得する者は少ない。

 捜査と言う性質上、開かない錠があっても無理矢理こじ開けても多くの場合問題にならない。泥棒と違ってコソコソする必要は無いし、捜査に必要と言う事なら多くの人は錠の破壊を許可する。それに本物の鍵を借りれる事が殆どだろう。

 捜査魔法として獲得していると言う事は、それだけ正義の為に、人の為に身を捧げていると言う事だ。


 が、だからと言って僕も手は抜かない。

 鍵を強制的に開けようとする。そんな事は予測済みだ。

 もちろん対策はしてある。


 実際、シュナイゼル先輩の魔術にビクともしない。


 解錠魔法は術者の力量によっては、魔術的な守りも強引に突破出来る。

 しかしシュナイゼル先輩が如何に強力な解錠魔法を使えようとも、この扉は破れない。

 何故ならこの扉は飾りだからだ。


 扉の部分を転移門にして出入りさせたが、これは本当の入り口が造らなければ無いからだ。

 扉に見えるのは壁で、その上に入り口を開いていただけ。入るときに外側に開いていた扉は本物だが、内側には元々扉なんか無い。と言うか内と外は全く別の建物だ。


 そんな訳で、何をしようと開く訳が無い。

 別空間に造られているから、仮に破壊したとしてもそこにあるのは空間の壁。

 出ることは出来ない。


 しかしその仕組みに気が付かない二人は尚も扉をどうにかしようと試みている。

 色々な解錠魔法を試してみたり、工具でこじ開けようとする。


「“爆破”、“斬光”、“熔壊”」

「“細斬り”、“金剛突き”、“双子斬り”」


 魔術や武技で破壊しようとしても無傷。


 異空間系のダンジョンの壁、隅の壁は空間の境界だ。内部空間を維持する柱でもある。

 基本的によく見かける空間属性の力の内、〈アイテムボックス〉スキル以外は同世界内に新たな空間をこじ開ける魔術だ。

 別世界を創れる者や、別世界に空間を創り行き来き出来るような術者は神話に語られる者でも中々いない。


 違う世界を創ったのなら、その世界は新たな世界であり、一つの別の世界として成立している以上、元の世界と干渉する事は無い。

 逆に言えば元の世界と干渉しないからこそ、新たな世界なのだ。

 世界を三次元として捉え元の世界を縦横高さの三軸で構成されているとすると、違う世界とは温度圧力湿度の三軸で構成された世界のようなものだ。

 仮に一軸が一致したとしても大して干渉出来ないしされない。


 例外は“大賢者の加護”によって人として定義されている人種くらいだ。

 彼らは別世界に転移しても人として定義される事により適応出来る。

 深海に適応したり宇宙空間に適応出来たりはしないのに、全く不思議な力だ。


 しかし空間を拡張したり増やしただけなら、絶えず外からの干渉を受ける事になる。

 深海で空間を維持するのと同じようなものだ。


 それを支え続けるダンジョンの境界の壁は堅牢であり、魔法的性質だけでなく物理的性質まで併せ持ち、そこらの魔術と比べ物にならない強固なものだ。

 仮にダンジョンコアの魔力が枯渇しても長期に渡り崩壊を抑え続けるだろう。

 ゆっくりと崩壊するからこそ、崩壊寸前にダンジョン内の魔物が溢れ出すなんて現象も起きる。


 それだけ強固な壁は人力で破壊出来ないと思った方が良い。

 世界の命運を賭けた大戦で切り札の大魔法が使われても、ダンジョンが防空壕として機能するくらいには強固だ。

 結界の中でも上位に位置する空間属性の結界と、アダマンタイト級の盾を持つ盾職の武技が合わさって常に発動されている状態と言えば解り易い。


 特に魔力が潤沢なダンジョンでは一点集中系の大技でも傷が付くかも怪しいだろう。

 一階層だけの小規模なダンジョンでも、外と中が一致しない異空間系のダンジョンと言うだけでA級冒険者並の力が無ければ破壊不可能と言っていい。


 この部屋は小規模だが莫大な魔力によりかなり上位のダンジョン並の境界を持つ。

 入り口を無くすとそれだけで維持するコストが累乗的に上がるのだが、それも魔力の力押しで解決。


 それにもし仮に破壊できる力を持っているとしても、この狭い空間でそんな力を振るえば余波で十中八九自滅する。


 大人しく●●に当てはまる行為をするしか無いのだ。


「“ワープゲート”、これもだめか」


 勿論転移対策も十分だ。

 空間の境界の特性をいじって、空間的に固定隔離しているから結局ダンジョンの境界を破壊できる程の力量が無ければ意味がない。


 が、無意味でも続けてしまうかも知れないから、ここら辺で手を入れよう。


『クフフフフフ、そんなに足掻いても、無駄ですよー。貴方方がここから抜け出す方法はただ一つ、お題をクリアする事です』


 モニターに映し出されたのは、クラウンピエロの仮面を付けたスーツ姿のゴモラ。

 恭しく、それでいてウザったらしくルール説明をする。


 案内役ゴモラだ。

 ある程度なら勝手に話してくれるし、僕達の出した指示通りにも動いてもくれる。


「お前が下手人か。何を考えている?」

『皆様を楽しませるのがピエロの役割。ゲームにお誘いしたまでです』

「我々に遊んでいる暇は無い。今すぐ開放しろ!」

『出たいと言うなら無理矢理出て頂いて結構です。まあ、出来たらの話しですがね! クフフフフフ!!』

「くっ、何をすれば良いんだ?」

『ここは●●しないと出られない部屋、勿論●●をしていただきます』

「●●だと? ●●とは何だ!?」

『クフフフフフ、無粋ですねー。言わなくても分かるでしょう? せいぜい私を愉しませてください。それでは失礼。クフフフフフ!』


 強引に案内役ゴモラがモニター画面を切ると、暫しの沈黙が訪れる。

 内容の理解に努めているようだ。


「……つまり、殺し合いをしろと言う事か」

「そう言う事でしょうね……まさか裸体美術部を追って、殺人鬼に出くわすなんて」


 ……へ?


「「どうしてそうなった!?」」

「管理人的存在がピエロだったからじゃないか? 何にしろデスゲームだと思ったんだろうな」

「もしかして●●を殺し合いって思ったって事?」

「と言うよりも、環境が開かない密室で怪しげな管理人が出てきたからだろうな。部屋の名前から連想した訳では無いだろう」

「と言う事は、失敗したと考えて良いのでしょうか?」

「これも殴り合った後に仲良くなるパターンかもよ?」

「……違う。●●は殺し合いじゃない」


 “あーるじゅうはち魔法”を発動する側のゼンは違うと断言する。

 と言う事は違うのは確か。


「で、答えは?」


 さり気なく聞いてみる。


「絶対に教えん」

「何で」

「アークに教えると、もっと酷い事になりそうだからだ」

「「もっと酷い事…………」」


 ●●を殺し合いと思うよりも酷い事態とは一体?

 でも“あーるじゅうはち魔法”で隠されているものについて皆に聞いても、いつも大体同じ答えが返ってくる。


 あーるじゅうはちとは一体?


 今回の場合、●●は殺し合いでなくとも、案外殴り合いとか危険な事なのかも知れない。

 でも殺し合いやそれに準ずる言葉は“あーるじゅうはち魔法”で隠されない。

 知れる部分を知れば知れる程、解らなくなってくる。


 だがそうこう考えている内にも、事態は進む。

 考えている暇は無い。

 どうにかしなければ本当に殺し合いをしてしまいそうだ。


「通信魔法も使えない。……仕方がない。ユーサス、俺を殺せ」

「そんな! 奴の言いなりになるつもりですか!?」

「残念だが、今の私達にはこの方法しかない」


 しかし、視れば意外といい感じに絆を深められている気もする。

 起きようとしているのは殺し合いでは無く、シュナイゼル先輩は自分の自己犠牲で後輩のユーサス先輩を救おうとしている。


「ですが、無理です! 先輩を殺すなんて!」

「これしかない。やるんだ、ユーサス!」

「だから無理です!」

「奴を野放しにすれば被害者が増えるだけだ! 無理でもやれ、ユーサス!」


 素晴らしい光景だ。

 自分も死ぬかも知れない極限状態で他人を思いやれる。

 それはシュナイゼル先輩だけでは無い。ユーサス先輩にも言える。


 デスゲームだと勘違いしたと言う事は、それだけ知っている、先輩達の立場からすると詳しいと言う事だ。

 簡単に自分を犠牲にしろと言えるのも、本当にどちらかが、もしくは両方が死ぬと理解しているからだ。

 現に二人とも、デスゲームである事は疑っていない。これは大間違いなのだが……。


 つまりユーサス先輩も、シュナイゼル先輩を殺さなければ自分が死ぬと高い段階で理解している。

 デスゲームを熟知していると言う事は、早い段階で追い詰められている状態とも言える。脅しかけられるまでも無く、受け入れられるのだから。


 そんな中でもシュナイゼル先輩を説得しようとするのは、シュナイゼル先輩を本当に想っているからに他ならないと思う。


 それにこの二人は、正義の為なら冷静に人を殺せるタイプの守護者だ。本当に必要なら戸惑わない。

 それでも留まるのは、やはり相手の事を思いやっているからなのだろう。


「素晴らしい光景だね、コアさん?」

「はい、友情や信頼が垣間見えます」

「……止めなくていいのか?」

「勿論、後でさり気なく生き返らせれば良いだけだからね」

「次は起こるか定かで無い素敵な機会、絆を優先させるのが良策でしょう」


 丁度ダンジョン内だし、死んで生き返ってもそう言う仕様だと思って深くは考えないでくれるだろう。

 なら、先の事を考えた方が良い。

 信頼を寄せ合える関係になれば、一人で解決できない困難も乗り越えてくれる筈だ。

 仲間と共に先に進める、それは立派な英雄の素質。是非とも育て語り継がれる英雄となって欲しい。


「――流された血は祖国の為、騎士の血は繁栄の為、貴族の血は忠誠の為、王の血は善政の為、血は祖国を潤す、故に何度でも捧げよう、全ては祖国の為に――“血器”」


 覚悟を決め、色々な意味で決起したユーサスの全身からドロっとした血のようにしか見えない赤黒い魔力が滲み出し滴る。

 そしてソレは、周囲から怨念や呪いを掻き集め増幅してゆく。

 白い部屋が血だらけに見えるようになると一転、魔力は収束しユーサス先輩は赤黒い光を纏うだけになる。全て力に変換されたようだ。


 風紀委員なのにそのイメージから掛け離れた力だが、今は関係ない。


 ユーサス先輩が剣を構えると、剣は激しい赤黒い光を発する。


「“断在”!」


 そして大きく力を込めての一閃。

 ドラゴンを斬り倒すような力のある高威力の一撃だ。

 受けたシュナイゼル先輩の後ろにまで影響のある一撃で、激しい光と轟音を巻き起こした。

 ここが特殊な部屋で無ければ、例え広い外の空間でも大きな被害が、破壊が起きていただろう。


 さて、ユーサス先輩は何を思うか。

 斬るまでの葛藤、斬ってからの葛藤。

 そして後には再会してからの喜び。


 何にしろ、きっとユーサス先輩は大きく成長してくれる事だろ。


 今は大きな悲しみと後悔を感じ……あれ?

 大きなどころか悲しみは皆無だし、後悔の種類も軽微で向いている方向も僕の思っていたものと違う。


 何事?

 と思っていたら、光が晴れた。


 そしてそこには、装備が破れたり吹き飛んでいたりはするものの、ほぼ無傷と言って良いシュナイゼル先輩がいた。


「だから言ったじゃないですか? 無理だって」


 …………。


「「「無理ってそう言う事!?」」」


 一体誰がこの状況での無理と言う言葉を、したくないと言う意味ではなく不可能と言う意味だと思うのだろうか。


「そうか、仕方がない。今度は私が試そう」


 …………。


 この様子からすると、思い遣りの欠片も無かったようだ。

 今一度言葉を思い出してみる。

 先輩達にとって『無理』はしたいしたくないでは無く、不可能と言う意味。


 そしてこうも言っていた。

『奴の言いなりになるつもりですか!?』と。

 どうやらこの言葉の意味は、殺したく無いとかでは無く、『犯罪者の指図には従わない』と言う意味合いだったらしい。


 つまり、元より相手の命を思う事も、自分の命を大切にしようとも思っていなかった。

 有るのは犯罪者を打ち倒す。

 初めからこれだけだったのだ。

 その過程の犠牲については何とも思っていない。

 寧ろ巻き込んでも気にしないタイプの人達だ。


「――動くは人が為、動かぬも人の為、果たそう誓いを、我は人理の守護者――“執行”」


 シュナイゼル先輩がそう唱えると、大河の氾濫の如く魔力が溢れ出し収束、蒼い三対の翼が現れる。

 その姿は天使。飾り気の無い近代的な天使だ。


「“ハルマゲドン”」


 ユーサス先輩に剣を一振りすると黄色い炎が吹き荒れ、更には炎が無数の獣の形を取る。

 そして何度も何度もユーサス先輩に襲いかかる。


 やはり容赦が無い。

 狭い部屋のせいで自分にも余波が来るのにも関わらず、ただ滅しようとする。


 しかし煤け、ダメージも受けるがそれは装備止まり。

 命の危険は全くない。


「やはり私でも無理なようだ。そもそも我々は対多数戦闘型、そして能力値特化型だ。私も君も相性が悪すぎる」


 今思うべきはそう言う問題じゃないと思うのだが……。


「……もう、出しちゃおうか?」

「……そうですね、さっさとリリースしてしまいましょう」

「俺もその意見には賛同だ」


 部屋の扉を繋げた。

 繋ぐだけでなく全開だ。開けた先は大通りと言う徹底具合。

 可及的速やかに立ち去って欲しい。


 さらば。


 帰らなくても僕はもう部屋を視ない。


 しかしこの失敗は先輩達が何が何でも正義を執行しようとする危ない人達だから生じたものだ。

 部屋の方式自体は間違っていないように思う。


 改良点を上げるとすれば、案内役のゴモラが怪しいピエロだった事だろう。

 ゼン曰く、これでデスゲームと勘違いする事もあると言う。


「パパ、モニターのピエロは勘違いし易いって言っていたけど、変えるなら何を映せばいいと思う?」


 詳しくは断固として教えてくれないゼンだが、このくらいなら教えてくれるだろう。


「そうだな、これと言ってフォーマットは無かったと思うが、明るくポップな感じでどうだ? 若者向けって感じだな。だがやり過ぎはいけない。あくまでもそれっぽい雰囲気、軽くだ。どの面にもやり過ぎると、明るくしてもデスゲームらしくなってしまう」

「難しいんだね」

「密室に急に閉じ込められたと言うだけで恐怖だからな。後は文字だけにした方が良いと思うぞ? 人が関与していると明らか過ぎると、何かの目的の為に監視している感が出る。文字だけだと不思議空間と言う説明放棄も可能だ。よく解らないがそんなものだとしか理解出来ないままになる」


 正直なところ、本物が何なのか知らないのでピンとは来ないが、ゼンの言う通りに改良を加える。

 と言ってもモニターをいじるだけ、すぐに終わる。


 実のところ、若者向けやポップと言う部分も今一ピンとこなかったが、軽く明るめと言う事だったのでそのように作成した。


 これで行けるだろ。

 既に部屋に入っているが、モニターでの説明はまだの先輩達の元に、新たに作成した説明文をモニターに流す。


 後は観察するのみだ。



 まず反応を見せたのは、ヴァンリード先輩とアルデバラン先輩。

 二人とも裸体美術部の先輩だ。


 二人は部屋が出られないと知ると、早くも部屋限定のコントロールコアである水晶端末を見つけ出し、色々なものを出して寛いでいた。


 今は二人でテレビゲームをしながらポテトチップスを食べている。順応が早い。


 どこをどう操作したのか、部屋全体もゲーム画面になっており、操作キャラや主要なギミック、敵は立体映像で部屋を駆け巡っている。

 本当にどこをどう操作したのか教えてもらいたい。

 そしてゲームの操作技術まで高等だ。

 二人とも完全にゲームにのめり込んでいる。


 部屋に閉じ込められて危機感と言うものは無いのだろうか?


 因みに余談だが、ヴァンリード先輩はゲームのような世界にキャラメーキングまでして転生した異世界転生者、アルデバラン先輩はやっていたゲームの世界にプレイキャラのステータスを引き継いで転移してきた異世界転移者だ。

 似ているようで随分と違う。


 そしてプレイしていた訳でないヴァンリード先輩は転生した事に気付かず暫くキャラを演じていて厨二病気質の表面化が強いが、馴染みのあるゲームに転移してしまった先輩は状況がある程度呑み込めた事で攻略しようとするゲーマー気質の表面化が強い。

 まあ、経緯が反対なら反対になっていただろう似た者同士の厨二病ゲーマーである。


 外見的にはヴァンリード先輩が銀髪の半吸血鬼、違う色の瞳はそれぞれ魔眼。

 アルデバラン先輩はダークエルフだが魔王の翼や魔王の角、魔王の魔眼と言ったオプションを付き。

 そして顔自体は二人とも地球でのもの。

 痛いコスプレ感が凄い。


 そんな二人が個室でゲーム。

 何かやらかしている訳でも無いのにインパクトがある。

 割と視ているだけで面白いものがある。


 だがゲームはここまで。

 “●●しないと出られない部屋”の効果を視せてもらおう。


 ゲームに夢中なので、古いテレビがが付く時のような音をわざと出して注意をひく。


 あっ、ゲームコントローラーを落とした。

 口からもぽろりとポテトチップスが落ちる。


 気がついたようだ。


 それも衝撃を伴って。

 この様子だと●●とは何か知っているだろう。

 ●●って思わず思考停止してしまうようなものなんだね。

 さて、何だろうか?


「「うぉおおおおおおおっ!!!!」」


 そして速攻で飛び立ち上がり、有らん限りの攻撃を扉に向かって放ちだした。

 余りにも早く連続で繰り出しており、叫んでいる技名も詠唱も聞き取れない。

 どんな攻撃を繰り出しているのかも、発せられる強烈な光で全く見えない。


 視れば足元にはぐしゃぐしゃになった薬缶やバールのような物まで転がってきている。

 相当無我夢中で、自分でも理解出来ていない勢いで、ありとあらゆる思い付く限りの攻撃を繰り出しているらしい。


 あっと言う間に魔力は尽き、幾つものポーションの空き瓶が量産されるも扉は無傷。

 なら他の部分を破壊しようとしても結果は同じ。


 それを見た二人は、冷静さを取り戻し白い着物に着替えた。


 とうとう観念して●●が始まるのだろうか?


 と思ったら足を組み、印を結び詠唱を始めた。

 どうやら最大級の儀式魔法でも使うらしい。


 諦めが悪いようだ。

 でも嫌いじゃ無い。

 全く趣旨が違ってもそう言うのは大好きである。


「桜咲き 桜散りゆく この季節 我がさくらんぼ 散ること知らず」

 とヴァンリード先輩。


「春が来て まだ早すぎる さくらんぼ 夏が来ぬとも 我と共に」

 とアルデバラン先輩。


 詠唱文にさくらんぼが流行っているのかな?


 と思っていたら、唱えた二人は和風の短刀を取り出し鞘から引くと、自分の腹に刺して横に引いた。


「「詠唱じゃ無くて辞世の句!?」」


 句っぽい詠唱だと思ったら辞世の句だったらしい。

 この光景は、間違いなく切腹だ。


 冷静さを取り戻したり、諦めていないように思っていたが、反対に全てを諦めたが故に静かになっただけらしい。


「と言うか仮に●●が切腹だとして、何で二人とも!? それじゃ誰も出られないよね!?」

「それになんですか!? あの切り替えの良さは!? あんなに激しく攻撃して抵抗していたのに、何故破れないと自ら死を選ぶのですか!?」


 全くもって理解が出来ない。

 全面的に謎だ。


「まあ、二人にとっては死ぬより●●が嫌だったのだろうな」

「「●●って一体何!?」」


 一つ解けてまた難問。

 どこまでも謎だ。


 因みに、例の如く二人とも生存している。

 損傷は肌が少し赤くなった程度。血の一滴も出ていない。

 寧ろ傷付いたのは短刀の方で、無理な力を入れてしまったのか曲がっている。


 この二人は取り敢えずこのまま放置しておこう。


 シュナイゼル先輩達とは違って、この二人は●●の答えを知っている。

 逃すわけには行かない


 頭が冷えれば、きっと命を捨てようとした事は馬鹿な事だと気が付く筈だ。

 きっと、おそらく、多分……。

 そう願いたいしそう信じたい。



 まだ残る部屋は二つ。

 筋肉系漢女のバルグオルグ先輩と裸体美術部のノボル先輩の二人がいる部屋と、細身のオネェ系カタストフ先輩と裸体美術部のトム先輩のいる部屋だ。


 この二つの部屋は、何故か裸体美術部の先輩だけが仕切りに扉を叩いて何やら叫んでいる。

 因みにモニター画面はまだ黒のままだ。


 この人達もこの部屋をデスゲームの部屋だと思っていそうだ。

 だが事前にそれが判れば立てられる作戦もある。


「もう勝手に必要そうな道具を準備しちゃおうか?」

「それが出来れば部屋を判断する材料は増えると思いますが、必要そうな材料は判るのですか?」

「判らないよ。でも、同じく伏せ字になっている道具は同系統だと思うんだよね。一つだけだと賭けになるけど、数を撃てば結構揃うと思うよ?」

「なる程、メニューを見たところ、殺し合いの道具等はわたくし達にも判別出来る事から避ける事が出来ますし、隠されているとは言え、勝率は高そうですね。早速送り込みましょう」


 殆どが伏せ字になっていて、何が何だか判らないが召喚ボタンを押しまくる。


 するとこれまた隠されていて外見の判らないものが雨のように降り注いだ。

 それと同時にモニターオン。

 それに気が付いたのはバルグオルグ先輩。


「そんなに出たいのねぇ〜。いいわぁ、手伝ってあ・げ・る」

「イヤャァァァァァァァッ!!」


 遅れてモニターと召喚物に気が付き、女の人でも難しいくらい高い叫び声を上げるノボル先輩。

 そんなノボル先輩をバルグオルグ先輩はガッチリホールド。


「どっちがいいかしらぁ? 凹凸どちらかが好みぃ?」

「ヒィっ! お、おれは、女が好きなんだぁー!!」


 街中で絶対に叫んだら衛兵さんに連れて行かれる事間違いなしな事を叫ぶノボル先輩。


「女側が好きなのねぇ? 分かったわぁ」

「ちぃがぁぁぁぁうっ!!」

「恥ずかしがり屋さんね」

「誰かぁあああ!!」

「まずは脱ぎ脱ぎしましょうね」


 そう言うとバルグオルグ先輩はホールド状態のまま、服を脱がしにかかる。

 ノボル先輩は抵抗するが、そのせいで着ている服はビリビリに破かれる。その革鎧、ワイバーンの革を鞣したものなんだけどね……。

 力の入りにくいホールド状態のまま、よく素手で破けたね……。

 もっと革を使って作られたベルトもブチン。


「助けてぇーー!!」

「あらあら、縮こまってカワイイわぁ。こっちも脱ぎ脱ぎしてあ・げ・る」

「嫌ぁあぁぁぁぁ!!」

「大丈夫よ、ちゃんと出来るようにゆっくりと解してあげるからぁ。いっぱいおもちゃもあるしねぇ」

「誰かぁぁぁーー!? 誰かァァァぁ!!!」


 ……凄い抵抗だ。

 命乞いでもこんな抵抗は中々無いと思う。


「……可哀想になってきたから、もう部屋を開放してあげようか?」

「……そうですね。何が問題だったのでしょうか?」

「さあ?」


 開放したが、二人とも気が付いていないようだ。

 そもそも、ガッチリホールドされているが、ノボル先輩は逃げられるだろうか?


 流石にホールドを外す操作は僕達には出来ない。


 頑張って逃げてね。


 さて、カタストフ先輩とトム先輩はと言うと、似ているようでこれまた様相が違った。


「落ち着け! 早まるんじゃない!」

「放せ! 放してくれぇー!」


 これまた、いつの間にか白の着物に着替え自決しようとするトム先輩と、その腕を必死で食い止めるカタストフ先輩。

 カタストフ先輩が肉体派のガッチリホールドをしない事で、このように変わったらしい。


 カタストフ先輩もバルグオルグ先輩と同じくオネェ口調だったのだが、必死で止めているために普通のきりっとした口調になっている。

 どうやらこっちが本当の口調のようだ。


「安心しろ、好きな方を選ばせてやる! だから早まるな!」

「あんたはそれで良くても、僕は異性が好きなんだぁ!」

「私は確かに同性が好きだ! だが、誰も良い訳じゃない! 君だって異性なら誰でも良いと言う訳では無いだろう!? そうやって視野を狭めるな! 君はただ現実から逃げているだけだ!」

「だからって、出来る訳無いだろう!」

「そうやって簡単な言葉で完結させるなと言っている! 冷静に考えろ! 君は僕が嫌と言う理由より第一に、異性が好きだと言った! 君は異性が好きだから嫌なんだろ!? 異性を愛したいから、異性を裏切りたくないから僕とは嫌なんだろう!? このままでは二度と誰も愛せないんだぞ!」

「それでも、童貞だって女子に――」

「だからそれだって死んでしまえば叶わない! 初めてが何だって言うんだ! 初めてで無いと愛せないと言うのか!? 君の選ぶ女性は初めてでない君を軽蔑する程度の人なのか!? 君の命より君の貞操を大切にする人なのか!? そんなものと命を天秤にかけるな!!」

「…………」

「まずは冷静に、方法を探っていこう」


 トム先輩は落ち着きを取り戻した。

 納得は出来ていないようだが、反論する言葉は見付けられずその言葉を認め始めている。

 だが決心はどうしてもつけられそうにない。

 そんな心境のようだ。


 カタストフ先輩はトム先輩に近づき更に落ち着かせるように擦る。

 何故かその手の位置はお尻に有るが、トム先輩はそんな事に気が付いてもいないようだ。

 トム先輩は時と共に落ち着いてゆく。


 そして、いつの間にかカタストフ先輩に向け、信頼を寄せていた。



「何故かバルグオルグ先輩達と同じ条件なのに仲が深まったね?」

「何故か成功しましたね」


 この結果は正しく僕達の望んだ結果と言っていい。

 初対面からここまでの関係に持っていけたら上出来、女子の先輩となら更に先へ進められたかも知れない。縁結びとしては十分と言える。


 しかし得られたもの的には微妙だ。


 再現方法が判らない。


 条件的には失敗しているバルグオルグ先輩達と変わらない筈なのに、結果はこの変わりよう。

 違いは人の違いだけと言っていいが、人のタイプとその組み合わせはほぼ同じ。

 どの要素がここまで変えたか判らない。


 それに最大の謎が残る。


「結局、●●って何?」

「今のところ、するよりは自決を選ぶ事もあるようなもの、ですかね?」

「トム先輩とカタストフ先輩は信頼関係みたいなものの先駆けを結べたみたいだけど、●●はしたの?」


 反応からしてトム先輩は●●の正体を知っていた。

 だからこそ自決しようとしたのだろう。

 それ程忌避されるものが、あの流れの中にあったとはどうしても思えない。


「成功したのにも関わらず、●●していない可能性が高そうですね……」

「じゃあ、この結果、偶然?」

「……かも知れませんね」


 そう考えると、さっきの結果は入学式前にやったつり橋効果縁結びの魔物版と変わらないかも知れない。

 状況だけ整理すると、先輩達は死を二人で乗り越えた。

 その事が中核にあると思う。


 結果的に、●●は何故かその方向性へ誘う効果があるようだが、多分●●本来の効果は発揮されていないように思える。


 そもそも“●●しないと出られない部屋”はかなり強力な縁結びそのものと捉えられる記述があった。普段使いするような部屋では無い。

 そしてその部屋の事を詳しく知っていそうな先輩達もいたが、何故かそれで自決しようとした。

 つまりその縁結びに繋がる正規の手順を死ぬほど嫌ったと言う他ない。

 ●●を死ぬほど嫌っているのに、実際死の方を選ぼうとしているのに●●をしている人なんかいない筈だ。


「●●って何なんだろう?」

「何なのでしょうね?」


 やはり、どこまでも考えても答えは出ない。





 《用語解説》

 ・ダンジョンの壁

 ダンジョンの壁にも色々な種類がある。共通事項としてはダンジョン自体が高濃度の魔力に満ちている為、他ではあり得ないレベルの魔力が壁にも含まれている。


 元からある地形に魔力などが溜まってダンジョンになった、所謂自然ダンジョンは、高濃度の魔力に溢れ、自然と魔物が発生したりダンジョンギミックが発生したりする以外は、元の土地と変わらない。

 つまり森型の自然ダンジョンの場合は、外との壁となる境界の壁すら無い事が殆どである。

 洞窟の自然ダンジョンの場合は、内側の壁も、ダンジョン境界の壁も、元の地形の元の壁に豊富な魔力が宿ったものであり、通常の壁よりも遥かに物理耐久性も魔法耐久性も有り再生するが、攻撃の余波だけで意図せず壊れる事もある程度には、まだ普通の壁である。

 無限の鉱山として、普通に採掘される事もある。


 しかし異界系のダンジョン、ダンジョンコアが一から作成したタイプのダンジョンは、特に階層毎に別環境が広がるような大異界ダンジョンは、内側の壁こそ自然ダンジョンと変わらないがダンジョン境界の壁の強度はちょっとした世界の壁と言っても間違いではない。

 異界を支える柱としての能力が、物理的にも魔法的にも備わっており、世界が終わるような大魔法でも耐え、下手すれば傷一つ付かない。

 その強度は支える異界の抵抗、つまり異界ダンジョンの広さと、空間的に反発してしまう内環境の種類の多さ、違いによって上がり、一層だけの小規模な異界ダンジョンでも破壊は現実的では無い。小規模な場合は破壊出来ない事も無いが、十中八九周囲の被害が甚大過ぎるものとなる。


 尚、ダンジョンが最終層まで必ず繋がっているのも異界と言う理由が関わっており、仮に封鎖すると半異界では無く完全に独立した異界となってしまう為に、維持に莫大過ぎる力が必要となってしまう。

 つまり入り口と言う力を逃がすものが必要となる。

 ダンジョンの境界を破壊できる程の力量の持ち主なら、入り口を元の世界から切り離す事でダンジョンを大幅に弱らせると言う手も取れる。


 アーク達の創り出した“●●しないと出られない部屋”の場合は、ダンジョンによって創られた空間ですら無く、ソドムによって創られたダンジョン空間と言う微妙な存在だが、アーク達の増やした龍脈によって莫大な魔力を得ており、入り口を塞いでも大規模な異界ダンジョン並の強度を持っている。



最後までお読み頂き、ありがとうございます。

書けるときは割と一月も空けずに書けた今日この頃です。多分一過性なので気長にお待ち頂ければ幸いです。

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